軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

え、いや待ってよ

「じゃあ、次のルートを探さないとね」

「だな」

イストファの提案に応え、三人は周囲を見回す。前後左右に船は多数あるが、どれが正解に繋がるルートであるのかは今となっては分からないし……何より、渡れるか渡れないかという問題もある。

今登ってきた船は除外として他の船を探さなければならないが、少なくとも反対側にある別の大型船は少しばかり距離がある。

前にある中型船……は、かなりの距離だ。後方には小型船があるが、こちらも距離が少し離れている。

どれもカギ縄を投げたとして、渡るにはかなりの難度がある。

「あ、そうだ。回収しとかないとね」

そこでカギ縄の事を思い出したイストファが縄を引っ張り鍵縄を回収、荷物袋に突っ込む。

帰りに必要になるのは当然として、この先も必要になるかもしれない道具だ。放置しておく理由はない。

しかし少なくとも、今この瞬間に役立つようには見えなかった。

「下に降りてみる? 何かあるかも」

「それでもいいが……妙だな」

「妙って、何がですか?」

カイルの言葉にドーマは疑問の声をあげる。それにカイルはすぐには答えず、もう一度周囲を見回す。

少なくともカイルの仕入れた情報では、こんな肉体系アトラクションもどきだという情報は無かった。

そうであれば、当然情報がギルドで買えているはずだ。それが無いという事は……今の状況が普通の状況ではない、ということになる。

一階層のゴブリンヒーロー、二階層の密林の追跡者、そして三階層ではこれだ。どんな確率だと叫びそうになりながらもカイルは必死で考える。

このパーティの頭脳担当は自分だ。そんな自負があるからこそ、必死で視線を巡らせ情報を集めていく。

「イストファ、ドーマ。この甲板、外周をグルっと回るぞ」

「うん」

「ええ」

イストファもドーマも頷き、再びイストファを先頭に歩き出す。

「こうやって歩くって事はルートが隠れてないか探すって事だよね?」

「それもあるんだがな」

言いながらカイルは頭の中の「可能性」について吟味する。

ここまでの二階層にあって、この三階層では存在するもの。それによる影響を考えていたのだ。

まずは、前方の船。ここからガラス張りの船長室が見えるが、中には誰もいないように見える。

「……あれは関係ないな。次行こうぜ」

次は、隣の大型船。甲板の縁に手をかけて身を乗り出したイストファは「あっ!」声をあげる。

その大型船の中程には破壊痕のような穴が開いており、見下ろせばこの船の同じ位置にも穴が開いている。

「もしかして、あれが……」

「くそっ、やっぱりだ! 船の位置が変わってやがる!」

「え!? でも此処、ダンジョンですよね!?」

「ダンジョンだが海だ! 錨で固定もしてねえ船が動かねえはずもなかったんだ!」

勿論ダンジョンである以上、船が動かないという可能性だって充分にあった。

今までも扉に鍵がかかっていたりということくらいはあっただろう。

だが、こんな船が動いて道が使えなくなるという現象はなかったはずだ。

しかし可能性としては有り得た。有り得たが……想定など出来るはずもない。

「となると……やっぱりカギ縄の出番かな?」

カギ縄を引っ張り出そうとするイストファにカイルは待て、と制止する。

確かにそれしかないかもしれない。だがリスクがあまりにも高すぎる。船壁を登るのとはわけが違う。

船が動くのを前提とするなら途中で海に落ちる可能性だってあるのだ。

「くそっ、どうしたら……」

悩むカイルをそのままに、イストファは周囲を再度見回す。

カギ縄が使えないなら別の何かがあるのではないか。そんな単純な考えだったのだが……見回した先に、布のカバーをかけられた何かがある事に気付く。

「カイル、ドーマ。あれ……」

「あ?」

「何かありますね」

「ちょっと行ってみる」

イストファは念の為短剣を引き抜いて近づき……一気にカバーを捲り驚きの声をあげる。

いや、それはカイルもドーマもだ。何故なら、そこにあったのは……恐らくは上陸用のものと思われる小舟だったからだ。

「そうか、大型船なら当然上陸用の小舟は積んでる……! 俺としたことが盲点だったぜ!」

「確かに、あって当然ですものね」

これが大型船である以上、どうしても海の深さの関係で接舷できない場所というものは存在する。

その為に用意されるのが上陸用の小舟であり……当然小舟を上げ下ろしする為の器具があるはずだったが、何処にもない。

「これ、どうやって下ろせばいいのかな……投げてみる?」

「バカ、ひっくり返っちまったら手に負えねえぞ」

「ですよね……」

一縷の希望に見えた小舟だが、此処から下に投げ落とすというのはかなりの冒険だ。

回転して船底を見せて浮かぶような事になれば、もう使えやしない。

「いっそマストを折って橋にするか……? イストファ、お前ならヘビーウェポン込みでいけねえか?」

「えっ、流石にどうかな……」

「それ以前に、そんな事したら隣の船が壊れて沈むのでは?」

「だよね……」

イストファ達は顔を突き合わせ悩む。

一体どうしたらいいのか。悩む三人は突然の揺れと、動き出した船体に驚き足元をふらつかせる。

「カイル! ドーマ!」

まずカイルを、そしてドーマの腕を捕まえ引き寄せると、イストファは気合で踏ん張り転倒を堪える。

やがて船と船がぶつかり合う音が響き、船体が大きく揺れ……イストファは何とか耐えてふう、と小さく安堵の息を吐く。

「……悪ぃ、助かったイストファ」

「ええ、感謝します……」

イストファに抱き寄せられる格好となったカイルとドーマだが、互いの顔が近くにある為何とも微妙な顔をしている。

特にカイルはもう安心とみてイストファの腕の中から逃れると、隣の大型船を見る。

ぴったりと隣り合った船を見れば、今が「渡れる状態」なのは確かだ。

「……やっぱりだ。今のでたぶん、さっきの穴が繋がったぞ」

「なら、急いで降りますか?」

「え、いや待ってよ」

下に降りる階段を探すカイルとドーマを制止すると、イストファは二人に隣の大型船を指し示す。

「……そんなことしなくても、普通に乗り移れるよね?」

何言ってるんだろう、と素直な疑問の目を向けてくるイストファに……カイルとドーマは自分達が冷静さを失っていたことに気付き「うっ」と呻き顔を赤くした。