軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ゆっくり確実に、だが早めにな

「たぶん、これだよね?」

「そうですね。見たことがあります」

カギ縄を見つけて喜ぶイストファとドーマを見て、カイルはなんとも微妙な表情になる。

まさか本当にあるとは、と……そんな気分だ。

謎解きはいい。得意分野だ。しかし肉体を駆使する系はダメだ。こっそり鍛えてはいるが、自分に才能がないとしか思えなかった。まさかとは思うが、この階層で全てそれを強要されるのではないだろうか?

そう考えると鬱々とした気分になってくるが、ここで雰囲気を悪くするわけにはいかないと無理矢理笑顔を形作る。

「ああ、間違いなくカギ縄だな。使えって事だろうぜ」

「カイル……なんか顔が変だよ」

「そんなに身体を動かすの嫌なんですか……」

だがひきつった笑顔はイストファ達からしてみればバレバレだったようで、カイルはすぐに笑顔を放棄する。

「嫌に決まってんだろ。俺は頭脳労働担当なんだ、体を動かすのは担当外なんだよ」

「正直すぎるのもどうかと思いますが……」

「あはは。その分僕が頑張るから大丈夫だよ」

壁に手をついて「頼むぜ」と言いながら溜息をつくカイルにイストファは笑顔を……ドーマは苦笑を浮かべる。

「……しかしアレだな。こんなどうでも良さげな木箱に必要なもんが入ってるとなると……中々困ったことになるな」

「え、どういうこと?」

「あー、此処にある船が海賊王の遺産を目指した結果の『難破船』であるなら、物資を多数積んでいるのは当然。つまりどの船にも大なり小なり木箱が積まれている……ということですね?」

「そうだ。そんなもんを一々調べてたら日が暮れるどころの話じゃねえ。つまりこの階層では慎重な探索ってやつが制限されるってことだ」

イストファは、カイルとドーマの言葉の意味を考える。

この船1つでもかなりの数が積まれている木箱。この三階層を埋め尽くすような数の船の全てに木箱が積まれているのなら……なるほど、その数は恐ろしいものになるだろう。

たとえ探索に必要なものが入っているかもしれないとはいえ、全ての木箱をひっくり返すわけにもいかない。何しろ時間というものは有限だ、この階層でいつまでも木箱と遊んでいるわけにはいかないだろう。

「……ある程度は勢い任せでいくしかないってこと、だよね」

「おう、そうだ。とにかく先に進んで、困ったら周辺を探す。それが一番だろうな」

「うん、分かった! そういうのは僕は得意だと思う」

「自慢にならねーぞ……」

カイルが呆れたように息を吐くが、方針が決まってしまえばイストファは行動が早い。

手の中のカギ縄を握りしめると、船倉の出口に視線を向ける。

「よし、行こう2人とも!」

「ええ」

「まあ、此処にいてもな」

イストファの光源石の光に照らされた船倉を3人は歩く。

ゴーストもスケルトンも先程ので全てだったのか新たに出ることもなく甲板へと戻り、イストファは隣の大型船を見上げる。カギ縄など使ったことはないが、イメージで何となく分かる。

「上手く引っかかるかな……」

「お前でダメなら全員ダメだろうよ。気楽にいけ」

そんなカイルの応援……かどうかはちょっと審議が必要そうな応援を受けて、イストファはカギ縄をヒュンヒュンと回す。その姿は実に堂に入ったものだが……誰かに聞いたわけでもなく、本能的なものだ。

すでに、イストファには周囲の音は聞こえていない。集中して、ただ上方にある大型船の甲板の縁のみを見つめる。力加減を考え……しかし、良い加減など経験もないのに分かるはずもない。

おおよその予測で決定すると、イストファは「えい!」という気合の声と共にカギ縄を投げる。

カイルもドーマも「一回では成功しないだろう」と予測していたソレはしかし、ガンという音と共に見事に大型船の縁へと引っかかる。

「んなっ!?」

「おお!」

カイルもドーマも種類こそ違えど驚きの声をあげ……カイルが「んなバカな」と引っかかったカギ縄を見つめる。

カギ縄なんて、そう簡単に扱えるものではない。正直に言ってカイルは数回は失敗するだろうと思っていたのだ。それがまさかに一発成功。偶然……というよりはイストファの身体能力によるものだろうことは間違いない。

「やった、これでたぶん大丈夫だよねカイル!」

「あ、ああ。しかし……」

「しかし?」

「……いや、俺はまだお前を侮ってたのかもしれねえと思ってな」

誤魔化すことはせず、カイルは正直に感情を口にする。

イストファならばそれを受け止めてくれるだろうという信頼はあったし、実際イストファはカイルの言葉に照れたように笑うだけだ。

「うん、僕もビックリだよ。こういうの実は得意だったのかな?」

「そういうことじゃねえんだがな……ま、いい」

言いながらカイルはイストファの肩を叩き、大型船の甲板を見上げる。

「ま、これで道は出来たわけだが……俺とイストファで先に登った方がいいだろうな」

「え? 私が先の方が良いのでは? 重さを考えれば、私が行って支えた方がいいでしょうに」

イストファがカイルを背負うとして、カギ縄が外れてしまうかもしれない。それならドーマが先に行って支えるか固定した方が良いと思ったのだが……そこでカイルが何かを言う前に、イストファが「ダメだよ」と答える。

「登った先にモンスターが居たら困るし。僕とカイルの方がいいと思う」

「ま、そういうことだな」

「……なるほど」

それは残された場合でも多少は同じなのだが、登るのと降りるのでは速度も違う。

今のイストファなら多少の高さから飛び降りても大丈夫だろうという信頼もドーマにはあった。

「そういうことでしたら、お先に」

「おう、頼むぜイストファ」

「うん」

イストファの首に腕を回して掴まるカイルをそのままに、イストファは縄を登り始めた。

「船の壁を足場にするんだ。ゆっくり確実に、だが早めにな。意外と掴まってるのも辛い」

「努力はするよ……」

「大丈夫ですかね……」

下から見ていたドーマは思わずそんな言葉を漏らすが……少ししてコツを掴んだイストファは、カイルの力が尽きる前に大型船の甲板へと辿り着く。