軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

無理を言うんじゃねえ

カイルの言葉に、イストファは船倉を見回す。

今はイストファの光源石である程度の範囲が照らされてはいるが、それでも大型船の船倉を隅から隅まで照らすようなものではない。

積まれた荷箱の陰も此処からでは確認できないので、それこそ隅から隅まで歩くことになるだろう。

「じゃあ、まずは……」

「待ってください」

手近な荷箱の山の方へ歩いて行こうとしたイストファの肩を、ドーマの手が掴む。

「闇雲に歩いても時間の無駄です。まずは『何を探すか』を明確にしましょう」

「え、何って。ドアとか穴とかじゃないの?」

たとえば、上へとつながる扉、あるいはこの船に移るときに渡ってきたような穴。そういうものではないかと考えイストファは答えるが、ドーマは首を横に振る。

「確かにそうである可能性は高いですが、それに固執してはいけないと思います。通れるはずの場所が通れなくなっているような階層なんです。どんなルートがあるか分かったものじゃありません」

「……確かにな。だが、そうなると……」

カイルも頷き考え始め、イストファはこの船に乗り移るまでの事を思い返し……ふと、気付いたように声をあげる。

「船の外壁を登る、とか……?」

「うげっ!?」

「充分有り得る話だと思います」

カイルが短く悲鳴をあげ、ドーマはイストファに同意する。そう、有り得ない話ではない。

難しいだけで、出来ないわけではないのだ。何らかの理由で登れないというわけでもなければ、充分に可能性の範疇だろう。

「待て待て、船の外壁を素手で登るとか言わねえよな? 本職の船乗りだってそんな事しねえぞ」

「そんな事私だって無理です。イストファにだってどうだか」

「……やってみた事は無いけど……」

「いいから待て。ちょっと考えさせろ」

やる気を見せるイストファを止めると、カイルは頭脳をフル回転させる。

このままでは本気で船の外壁を登る羽目になりかねないと様々な可能性を考えて……やがて、げんなりした表情で溜息をつく。

「……くそっ、否定する理由があまり無ぇな。だが素手は無理だと思うぞ。何かのとっかかりは絶対に必要だ」

たとえば縄梯子が吊るしてあるなら別だが、そんなものはカイルの記憶の限りでは存在しなかった。

しかし、たとえば……此処にその道具があれば、それを実行するのが最適解ということになる。

カイルとしては非常に嫌だが、それを言わないわけにもいかない。

だがやはり嫌だ。そんな事を考えていると、イストファが「箱も開けてみるべきだよね」と口にしてしまう。

「ひょっとしたら、登る為の道具が入ってるかも」

「もし入ってるとすれば、カギ縄でしょうかね。難しそうですが、投げて引っかければ何とかなりそうではあります」

「よし、じゃあ探して……カイル、どうしたの?」

「……なんでもねえ」

顔に嫌だ、と書いてあるカイルにドーマは何か言いたげな顔をするが何も言わず、イストファに「じゃあ早速探しましょう」と微笑みかける。

「よし、じゃあ早速……!」

イストファは手近な荷箱の山に近づくと、そのうちの1つの箱に手をかけて……一瞬固まり、見守っていたドーマ達へと振り返る。

「……なんか開かないんだけど、これって壊さなきゃなのかな」

イストファの触れている荷箱は蓋が釘で打ちつけられ、簡単に開かないようになっていた。

コレを開けるには道具を使うか、あるいは無理矢理壊してしまうしかないが……。

「どうでしょう。隙間から短剣を差し込めば蓋を剥がせそうな気もしますけど」

「隙間って……ガッチリ締めてあるよ?」

「多少は壊していいんじゃないでしょうか。どうせダンジョンのものですし」

「そうかも、ね」

言いながらイストファはドーマの助言通りに箱の隙間に短剣を無理矢理差し込み、メキメキと音をたてながら蓋をはがしていく。

そうして蓋をはがした箱の中に詰まっていたのは……無数の古びた瓶だった。

「……何だろコレ」

「お酒みたいですね。グラシェーア、27……あとは読めませんね」

「高級酒だ。歴史的資料にだけ出てくるようなやつだけどな」

言いながら、カイルは諦めたように小さく息を吐く。

「それはほっとけ。持ち運ぶにゃ、ちと面倒だ」

ダンジョンの生成した偽物とはいえ、幻の酒発見ともなればそれなりの値段にはなるかもしれない。

だが瓶を抱えて戦闘など出来るはずもないし、2階層の果物のように妙な呪いのような効果でもあればたまらない。イストファもカイルと同じことを想像し、瓶をそのまま放置する。

「こういうのがあるって事は、探せばカギ縄くらいは見つかるかもしれないね」

「かもな。だがイストファ、その時は俺を背負ってくれよ。どう考えても俺には無理だ」

「あ、うん。分かった」

「もうちょっと鍛えましょうよカイル……」

「無理を言うんじゃねえ」

素直に頷くイストファとは逆にドーマは呆れたように肩を竦めるが、無理なものは無理だとカイルはゆっくりと首を横に振る。

とにかく、イストファ達は手近な箱から探していき……やがて狙い通りに、そしてカイルにとっては憂鬱な事に、朽ちずに残っていたカギ縄を発見したのである。