軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

当面の問題は他にあるしな

地上へと戻ってきた3人が選んだのは、宿屋のカイルの部屋だった。

最上階の部屋の鍵をカイルが開けると、イストファとドーマは「わあ」と声をあげてしまう。

「広いね……」

「1人でこの部屋使ってるんですか?」

「なんだよ、なんか悪いか」

そう、その部屋は広かった。

3階には2室しかなく、そのうちの1室なのだが……その分、広いのだ。

きっと高いんだろうな、とイストファはそんな感想を抱いてしまう。

「前々から知ってはいましたけどカイル、貴方結構なお金持ちですよね」

「まあな。自慢するわけじゃねえが、金ならある」

「やっぱりカイルってお貴族様なんじゃ……」

「んー」

イストファのそんな言葉にカイルは少し考えるようなそぶりを見せると、背後からイストファの背を押す。

「ま、とりあえず入れよ。いつまでも入り口で突っ立ってるもんじゃねえ」

そうして2人を部屋に入れると、カイルは内鍵をかける。

ドーマはすぐにソファを見つけて座るが、イストファは珍しいものを見るように部屋の中を見回す。

カイルの私物というわけではなく部屋の備品なのだろうが、ステラとイストファの部屋に比べて高そうなものが揃っているように見える。

ちょっと触れていいか迷うものばかりなのだが……まあ、触れてもいいのだろう。

そこまで覚悟を決めてようやくイストファもドーマの隣に座り、2人の座っているソファに空きがない事に気付いたカイルが「むっ」と小さく声をあげてから2人の向かい側のソファに座る。

「さて、と。そんじゃ早速だが3階層の情報を確認するぞ」

3階層、末路の海域。所狭しと浮かぶ船と海で構成された階層で、基本的にその船を渡りながら進む階層であり……スケルトンやゴーストといったアンデッド系のモンスターが多く登場する。

「多く、という事は他のも出るのですね?」

「ああ。確認する限りじゃ水棲系のモンスターが出るな。例によって未確認情報も死ぬほどあるが、危険性の高いものについては幾つかピックアップしておいた」

たとえばゴーストより狂暴なスペクターが出るという話もあるし、アンデッドの統括者リッチが出るという話もある。

有り得ないと切り捨てるには、ここまでの階層でレアモンスターに出会う確率があまりにも高い。

故に「出会うと危険」なモンスターをカイルは幾つかピックアップしたのだが……。

「一番危険なのはキングスクイードだな」

「巨大イカですか。この階層で出るんですか?」

「未確認情報だけどな。だが、出たら一番ヤベえ」

ドーマの疑問は当然だとカイルも思う。キングスクイード……ドーマの言う通り巨大イカだが、そのサイズは船ほど大きいとされている。

出会えば船を沈められかねないとされるキングスクイードは、船乗りに怖れられるモンスターの1つだ。

「やっぱり強い、んだよね」

「強いってか、デカいな。海なんつーフィールドでまともに戦いたい相手でもねえ」

もし出会えば船上の戦いというよりは海上の戦いになってしまうし、そうなれば不利は免れない。

対処法としては遠距離攻撃だが……これにも問題がある。

「……キングスクイードの皮は魔法に対する抵抗性があるって話もあってな。正直言って、マンイーターより相手取るのが面倒くせえ」

「アレは皮というよりも表面の体液って話じゃありませんでした?」

「どっちでも同じだよ。解明されてねえしな」

皮だろうと体液だろうと、魔法に対する抵抗性があるのは変わらない。

海の中を移動してきてソレなのだから、洗い流されているのを期待もできないのだ。

「じゃあ、そのイカに気を付け……どう気を付ければいいんだろ」

言いながらイストファは首を傾げてしまう。

気を付けようにも、相手は海中の存在なのだ。どう気を付ければいいのか全く分からない。

「とりあえず存在だけ覚えときゃいい。当面の問題は他にあるしな」

「ゴースト……ですね?」

ドーマがその「問題」を言い当て、カイルも頷く。

そう、出るか出ないか分からないキングスクイードよりも、そちらの方が余程問題だ。

「いいか、よく聞けイストファ。ゴーストはな……魔力のない攻撃は全く通用しねえんだ」

「えっ」

それを聞いて、イストファもどう問題であるかを嫌でも気付かされる。

「しかもゴーストの攻撃は全部魔力攻撃だ。どう問題か、分かるよな?」

「……僕が問題だって事だよね」

イストファには魔力がない。それ故に魔力を使う手法はとれないし、魔法防御も低い。

今まではそれでも問題なかったが、ここで問題となってしまう。

「勘違いはすんなよ? お前が俺達の主力である事に変わりはねえんだ」

「……うん」

「その主力が無力化されちまうのが問題って事なんだ。俺達の戦法はイストファ、お前を中心に組んでる。それが通用しねえってのは、正直全滅の危機だ。頼りになるお前を頼れねえんだからな」

言葉を選びながら、カイルはそう説明する。

実際、その通りなのだ。今までタフで素早いイストファを壁として、そして主力として戦ってきた。

そのイストファの弱点を突くような3階層にカイルは正直舌打ちしたい気分だったが……こればかりはどうしようもない。

「だから、この3階層で重要になってくるのは……ドーマ、お前だ」