軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

え、いや。それは

「……ライトエルフ……!」

「ええ、そうね。それで?」

ステラには、腰の短剣を抜く様子すらない。

というより、魔法士の男に背中すら向けている。

「ヒール」

屈んだステラのヒールの一発でイストファの怪我は治っていき……その背中は綺麗なものに戻る。

「あり、がとうございます」

「いいから。ちょっと休んでなさい?」

そんな会話を交わしている間、魔法士の男は完全に放置。

警戒すら必要ないと言っているかのようなその態度に、魔法士の男は歯ぎしりする。

今なら逃げられるかもしれない。けれど、ここまでコケにされて一矢報いずにはいられない。

「俺の魔法を消したのがどういう理屈かは知らない。だが……!」

何らかの防御魔法であればそう簡単に発動できるはずもないと、魔法士の男は瞬間的に別の攻撃魔法を構築する。

たとえ防御魔法でないとしても、様子見にはなるはず。たとえエルフ相手であろうと、今の自分の魔力が劣るはずもないと、そう確信する。

「フレイム……アロオオオオオオ!!」

現れた、およそ20本以上の炎の矢がステラへと殺到し……その眼前で、空気に溶けるかのように消えてしまう。

まるで最初から無かったのように、その全てがだ。

「また俺の魔法が……! くそ、一体どうなってやがる!?」

「どうなって、って。どうもこうもないわよね」

言いながら、ステラはゆっくりと歩きだす。

まるで散歩するかのようなその歩みに魔法士の男は「ヒッ」と声を上げ……慌てて次の魔法を解き放つ。

「そ、そうか! 火の護符だな!? なら、フリーズレイン!」

放たれた無数の氷の礫もまた、ステラにたどり着く直前で消失する。

何故、どうして。その疑問だけが魔法士の男を覆って。

ついに魔法士の男は身を翻して走る。

勝てない。理屈は分からないが勝てない。逃げるしかない。逃げれば……と、そう考える魔法士の男の頬を、何かが撫ぜる。

人のモノでは有り得ない、物理的ではなく感覚的なモノ。

魔法士の男も常々触れている、魔力の感触。

魔法士の男も常々触れているはずの、その濃密過ぎる魔力の感触の……その正体に気付き、魔法士の男は絶叫をあげて転ぶ。

そのまま路地裏から転がり出ようとした男をしかし、ステラが路地裏へと引き戻す。

「な、な、ななななな……なんなんだお前! こんな、こんな魔力! 有り得ない! 一体何をすればこんな!」

「決まってるじゃない。修行よ、修行」

男を踏みつけながら、ステラはゴミを見るような目で見下ろす。

「今何歳? 20? 30? まあ、20くらいかしらね。ヒューマンの寿命を100年として、まだその程度。実際鍛えたのは5年か6年か……その程度で勝とうってのは、傲慢な話だと思わない?」

「俺は! 俺は、銀級なんだぞ! 俺程魔法の才能のある奴はそう居ねえ! なのに!」

「才能ねえ……ハッ、つまんない男」

「がふっ!」

ステラが壁に向かって軽く蹴り飛ばすと、魔法士の男はあっさりと気絶する。

「それしか誇るものがないなんて。鍛錬こそが人を輝かせる唯一でしょうに」

言いながら、ステラはカイルを思い出す。常日頃から大天才を自称しているあの少年も、見えないところでの鍛錬を欠かしていない形跡がある。

……まあ、身体能力関連の訓練に関しては多少疎かなようだが、ともかく自身の信じる「才能」に溺れてはいない。

人はそうあるべきなのだ。そうでなければ、何の意味もない。

限界なんてものがない事は、ステラ自身が知っている。

鍛えれば鍛えただけ、誰もが強くなれる。そこへ向かう美しさを、ステラは愛しているのだ。

だからこそ、ステラはイストファが好ましい。

何もかもを諦めていない、見えない「先」へ進むその姿を初めて会ったその時に見たから。

「さて、と」

フラフラしながらも立っているイストファの前に立つと、ステラはイストファを優しく抱き寄せる。

「よく頑張ったわね、イストファ」

「……でも、僕は……」

「この現場見れば分かるわ。私は、君を評価するわよイストファ。よく頑張ったわね」

そう、誰の目にも一目瞭然だ。

銀級冒険者というのは飾りの称号ではない。

他人を蹴落とした成果が混ざっていたとしても本人の力が不要というわけではなく、たとえ底辺に近いといえど銀級の称号に相応しいだけの実力は持っていた。

そんな二人相手に立ち回り、少なくとも一人は倒した。その時点でイストファの健闘は明らかだ。

イストファの頭を撫で……気絶した二人を見回しながら、ステラは面倒くさそうな顔になる。

「……この二人、衛兵に引き渡すまでは私がどうにかする必要があるでしょうね」

「あの……」

「えっと、ケイちゃん……だったかしら?」

「は、はい!」

ステラに笑顔を向けられて、ケイは思わず背筋をピンとさせながらも答える。

「君のお父さんの家まで、イストファを連れてってあげてくれる? たぶん、それが一番安全だから」

「分かりました! イストファ君は私が守ります!」

「え、いや。それは……」

傷が治った事で意識もハッキリしてきたイストファが戸惑ったような声をあげるが、そんなイストファにクスクスと笑いながら壊れかかった短剣を拾い上げ渡す。

「あ、僕の短剣……」

「じゃあ、気を付けて行きなさい。まあ……もう似たような馬鹿は出ないだろうけど」