軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

禁止……ですか?

「え、禁止……ですか?」

「ああ、とりあえず明日は禁止だ」

思わぬ条件に戸惑うイストファに、フリートはそう繰り返す。

「何故かは分かるか?」

「鎧が無いから、でしょうか?」

「それもそうだが、違ぇ。お前の身体を休める必要があるからだよ」

言いながらフリートは、イストファの腕を叩く。

「まず、腕を斬り飛ばした怪我」

次に、イストファの胸元を叩く。

「そして、今日やられた此処。どっちも一般的な感覚でいやあ、大怪我。致命傷だ」

「うっ……」

確かにどちらの怪我も死に繋がっていてもおかしくはない怪我だった。

しかし、とイストファは思う。

「でも、ドーマが居てくれたし……生きてます」

「フン。その感覚でいるとな、死ぬぞ。『このくらいなら大丈夫』って線を死の手前に置いてる奴はソレが通常になるから、普通にやってるだけで死にかける。そして『ここぞ』という時に踏み込みを間違えて死ぬんだ。お前、そうなりてえのか」

フリートの言葉に黙り込んでしまうイストファの肩を、フリートは少し優しく叩く。

何もフリートはイストファを追い詰めるつもりはない。

「だからな、一度休んで感覚をこっち側に引き戻しとけ。お前が頑張る理由も分かるが、そうして得られるモノっつーのも理解しとけって話だ。そうすりゃ戻ってこられる力になる」

「……ま、大事かもな」

「カイル?」

聞こえてきた言葉にイストファが振り返ると、カイルは何かに納得したかのように頷いている。

「考えてみりゃお前、休日とかって感覚持ってねえだろ」

「え? カイル、それは流石に」

「そうだよカイル。僕だって休日くらい知ってるよ」

ドーマとイストファがカイルにそう言えば、カイルは腕を組みながら疑わしそうな視線をイストファに向ける。

「そぉかあ? じゃあイストファ、休日ってなんだか言ってみろ」

「お店がお休みの日」

「そりゃ店休日だ。『休日』は何か言ってみろ」

「や、休みの日?」

「何がだ?」

「働いてる人、だよね?」

「よし、不合格だ。分かったかドーマ、こういう奴なんだ」

「はぁ、なるほど」

思わず頷いてしまうドーマに、イストファは「え!?」と慌てたような顔になる。

「今ので何が納得できたの!?」

「全部だバカ。休みってのはな、働かない日の事なんだよ。休憩じゃねえ、休暇なんだ」

「……うん」

「分かってねえ顔しやがって、この野郎……だが怒るに怒れねえ……」

イストファの事情を話に聞いているだけに、カイルとしてはイストファの思考も理解できるのだ。

お金が常にない生活をしていれば、休暇がどうのなんて感覚は当然のごとく存在しない。

今は冒険者をして多少稼いでいるが、数日でその感覚が一般的な水準にまで引き上げられるはずもない。

そもそも趣味に散財するという感覚がイストファに実装予定なのかどうかもカイルには怪しく思えてくる。休みだといったところで「じゃあ今日は何をして稼ごうか」と考え始めるのが目に見えている。

「あのな、イストファ」

それを理解したのだろう、フリートもイストファの肩に手を置いて自分の方へ振り向かせる。

「休みっていうのはな、金を稼がない日だ。むしろ金を使う日と言ってもいい」

「怖い日なんですね」

「怖くない。よし俺にも分かったぞ。ケイにはよく言っとくから、明日は起きたら店に来い。分かったな」

「は、はい」

イストファが頷いたのを見ると、フリートはカイルが背負っていたファントムツリーの枝に視線を向ける。

「……で、そりゃ何かの魔木か? そんなもんが2階層に出るたぁ聞いてねえが」

「ファントムツリーの枝だ。こっちで買い取りやってるなら買ってくれ。明日のイストファが使う金くらいにゃなるだろ」

「ふむ」

「ええ!? でもカイル」

皆で分けなきゃ、と言おうとするイストファにカイルは「うるせえ」と黙らせる。

「休みの概念も知らねえ奴が意見すんじゃねえ。お前はちょっとは金を使う感覚を覚えろ」

「使ってるよ」

「お前のは違ぇんだよなあ……」

装備に投資するのは確かに「使ってる」が、休みの日の金の使い方は「そう」じゃない。

カイルが教えてやれればいいのだが、カイルの感覚で教えるのも少々宜しくない。

かといってドーマもその辺はちょっとカイル的には怪しい気がするし、ステラもよく分からない。

となると、カイルの見た限り「一番普通」なケイに任せた方が良い気がするのだ。

「ま、明日は自由時間ってことで集合は明後日だ。おいオッサン、枝は此処に置いとくからイストファに金渡してやってくれ。ほれ、行くぞドーマ」

「押さないでください。あ、イストファ。また明後日会いましょうね」

グイグイとカイルに押されながら店を出て……しばらく歩いたところで、ドーマはカイルに不満そうな視線を向ける。

「……別にあの人の娘さんに任せずとも、私で良かったんじゃないですかカイル」

「なら聞くけどよ。お前が明日イストファを連れ歩くとしたらどうすんだ?」

「そりゃまあ、まずは街を軽く散策して」

「おう」

「冒険者ギルドの修練場を借りて、軽く手合わせってのもいいですね。そういう伸び伸びと体を動かす時間って大切だと思いますし」

「そうだな、お前に任せないでよかったよ」

「何故ですか!?」

「うるせえ馬鹿。一人でパンプアップしてろ」

「しませんよ! 私を何だと思ってるんですか!」

ぎゃあぎゃあと騒ぐカイルとドーマだったが、そこでふとドーマは思い出したように「あっ」と声をあげる。

「そういえば、あの枝」

「ん?」

「よかったんですか? イストファの性格だとこっそり3分割して渡す機会狙いそうですけど」

「大丈夫だろ。たいした金額にゃならねえよ」

「かもしれませんが」

「精々、そうだな……4000イエンってとこだろ。しっかり使い切ってほしいとこだな」

「イストファですよ? 無茶言いますね」

「そこはあのおっさんの娘に期待だな」

そんな事を言いながら、カイルとドーマは並んで歩いていく。

「で、カイルは明日は何を?」

「寝る」

「聞いた私がバカでした」

彼等なりにイストファを心配しながら、けれど自分の事を疎かにしない程度に。

「休み」というものをしっかりと理解している2人は、すでに明日の予定を組み終えていた。

だからこそ、イストファがそれを学ぶ重要性も理解できていたのだ。