軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

なら、やるしかないよね

「……!」

密林の追跡者の顔が、見て分かるほどの驚愕に彩られる。

自分が斬られた。その事実に驚いたのか。

それとも、イストファの刃が自分に届いた事自体を驚いたのか。

それは分からない。だが、密林の追跡者の行動は早かった。

「う……っ!」

「……」

イストファの短剣持つ腕を正面から掴み、強く握る。

それでもとイストファが小盾を振るおうとするより早く、密林の追跡者の拳がイストファの顔面を殴り飛ばす。

頭の中で星が散ったような感覚がイストファを襲い、やろうとしていた行動全てがリセットされる。

崩れ落ちるイストファの腕を離すと、密林の追跡者はそのまま幾度となく踏みつける。

上質な硬革鎧に守られたイストファではあるが、それごと踏み潰そうとでもいうかのように密林の襲撃者は幾度となく足を振り下ろす。

だが、その瞳は油断なくカイルを見つめ……それ故に、忘れたのかもしれない。

「ヘビーウェポン……!」

「!」

気付き振り返った時には、もう遅い。

ドーマが態勢を低くスイングした事も、一瞬のタイムラグを作ったのだろう。

たっぷりのスピードと重量を載せたメイスによるスイングが密林の追跡者の脇腹を殴りつけ、大きく吹き飛ばす。

地面を転がっていく密林の追跡者を追う事はせず、ドーマは地面に倒れたイストファに「大丈夫ですか!?」と叫ぶ。

「う、ぐ……大丈夫! いける!」

「どうします、このままやりますか!? 正直、分が悪いなんてものじゃ」

「……うん。でも、逃がしてくれるかな」

短剣を持って立ち上がるイストファの下へ、カイルも今の内にと走ってくる。

「無理だろうな! 下手すると階段上ってる所を背後からやられるぞ!」

3人の視線の向こうで、密林の追跡者がゆらりと立ち上がる。

見た目からでは、相手のダメージは分からない。

少なくともイストファが1回斬り、ドーマが殴った。

けれど血の一滴すらも出ていないその姿からはダメージを測ることは出来ない。

「なら、やるしかないよね」

「ああ……だが正直お手上げではあるぜ。あとどんだけやったら倒せるんだアレ」

ゆらりと短剣を構える密林の追跡者の姿には、一切の隙が無い。

まるで遊びは終わりだとでもいうかのように態勢を低くし……地を這うように走り出す。

「来る!」

迎撃するべくイストファは短剣を構え走る。

あの姿勢から来るなら、自分の足か脇腹を狙ってくるかもしれない。

そう考え短剣を下段に構え、真正面から断ち切るべく……だが、そうはならない。

イストファと接敵する直前に速度を上げ接近した密林の追跡者の身体が一気に持ち上がり、イストファの懐にアッサリと潜り込んでの斬り上げの一撃がイストファを襲う。

「うわっ……」

革鎧はその一撃を防ぎつつも、切り傷をその表面に残す。

懐に入り込まれてしまったイストファはバックステップで距離を取ろうとしつつも、密林の追跡者は逃がさない。

短剣とナイフ。長さでいえばナイフの方が圧倒的に短いが故に、こうして完全に懐に入り込まれるとイストファの攻撃は十全とはならない。

それでも何とか自分の距離に持って行こうとイストファは短剣で防ぎつつも小盾を振るい、密林の追跡者へと叩き付ける。

ミシッ、と。確かに響く打撃に密林の追跡者はよろめき、その瞬間を好機とイストファは素早く短剣を振るい畳みかけるように連撃を仕掛けていく。

響く剣戟の音は、今度はイストファが僅かに有利。

適切な距離さえとってしまえば、刀身の長い武器が有利なのは当然だ。

だからこそ、イストファの連撃は止まらず……やがて、密林の追跡者のナイフを弾き飛ばす。

「よし!」

そんなカイルの声が響く。

勝った、イストファ含め誰もがそう確信し、イストファはそれでも油断せずに短剣を振るう。

そして……素早く自分の腰の後ろへと回った密林の追跡者の手が、先程のものとは違う真っ黒な刀身のナイフを引きずり出す。

だが、間に合わないだろうとイストファは判断する。たとえあのナイフがゴブリンヒーローの剣のような能力を秘めていたとしても、もう間に合わない。

その考え通りに、イストファの短剣は密林の追跡者を切り裂くべく振り下ろされて。

しかし、何も切り裂かずに空ぶるように空を割く。

「え……」

「なっ」

「あ……」

その理由は、イストファの背後に居たカイルとドーマにはこれ以上ないくらいによく見えた。

信じられない程の速度で振り上げられた密林の追跡者のあの黒いナイフが、イストファの短剣を斬り飛ばしたのだ。

ヒュンヒュン、と宙を舞う短剣の刀身が地面に突き刺さり、炎のような何かを纏うナイフがイストファの革鎧の防御を破り深々と切り裂いた。

「イスト……うお!?」

更なる一撃を加えようとした密林の追跡者の顔面に、ブーメランの如く飛来した鋼鉄の盾がぶち当たる。

「!?」

ライトウェポンによって軽くなった鋼鉄の盾はまるで紙でできているかのように速く飛び、しかしその軽さ故に然程のダメージを与えない。

だがそれは、視界を塞ぐには充分すぎた。

ミシリ、と。あまりにも重たい一撃が密林の追跡者のナイフ持つ腕を襲う。

黒いナイフがその腕から弾き飛ばされ、膝をついたイストファを守るようにドーマが密林の追跡者に襲い掛かる。

「はあああああああっ!」

重く、けれど遅く。それでも充分な破壊力をのせた……通常であれば密林の追跡者にはマトモに当たらないであろう一撃。

けれど、態勢を崩し武器を失った今ならば当たる。

防ごうとした腕はヘビーウェポンによって重さを増加させたメイスの一撃を支えきれず、防御ごと弾かれて密林の追跡者は無様に地面に叩き付けられる。

「ふう、ふううぅぅー……」

重さに、そして衝撃に耐えかねジンジンと限界を訴えてくる腕からメイスを離すまいと握りながら、ドーマは起き上がろうとする密林の追跡者の顔面にメイスをスイングして叩き付ける。

鈍い音をたてて頭から地面に倒れた密林の追跡者を見下ろしながら、ドーマは荒い息を吐く。

倒しただろうか、動かない。ならば倒したのだろう。

そう油断した隙を狙ったか、偶然か。跳ね起きた密林の追跡者がドーマへと襲い掛かり……ドーマの背後から立ち上がりタックルを仕掛けたイストファによって再び地面に叩き付けられる。

「うわああああああああああ!!」

マウントポジションからイストファは密林の追跡者を殴りつける。

だが、密林の追跡者も殴られたままではいない。

イストファを渾身の力で弾き飛ばし、今度こそ殺すべくナイフを探して。

「!?」

自分の黒いナイフを今の騒動の間に拾いイストファに手渡していたカイルに気付く。

「やべっ!」

逃げようとしたカイルへ襲い掛かろうとした密林の追跡者だが、その手は届かない。

守ろうとするドーマの手からメイスを弾き飛ばして、素早くそのメイスを奪って。

その瞬間を狙ったかのようにイストファが抉り込むように黒いナイフを密林の追跡者の胸へと刺し……殴り飛ばされ、地面に転がる。

そして、それで終わりだった。

密林の追跡者はよろめきながら数歩下がり、そのまま崩れるようにして地面に倒れる。

そして……二度と、立ち上がる事は無かった。