軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

こうなったら私も

剣戟の音が鳴り響く。

ギン、ギイン、と。闘志と殺意がぶつかり合う音が互いを消し去らんと響き合う。

力が互角で、速さがほぼ互角。その事実が、イストファには歯痒い。

「くっ……!」

身体能力はこれまでモンスターを倒してきた事で上がっている。

ドーマのライトウェポンで短剣が軽くなる事で、攻撃の速さも上がっている。

なのに、互角。その事実にイストファは背筋が寒くなる。

もしドーマのライトウェポンがなかったら。もし、イストファがもう少し弱ければ。

何か一つでも足りなければ、アッサリと斬り負けていた。

更に、目の前の密林の追跡者にはイストファの短剣を切り裂き鎧をも切るかもしれない手札があるかもしれない。

イストファは現時点で出し惜しみなしの全力なのに、相手にはまだ先があるのだ。その事実が、どうしようもなく恐ろしい。

イストファには何もない。

魔力もない、財産もない、不利を覆すような才能も無ければ技術もロクにない。

だからこそ、常に「今の全て」を賭けるしかない。

格好良さとか手際の良さとか、そういうプライドを全部捨てて挑むしかない。

最初から全賭けだから、それを超えられてしまえば負けるしかない。

負けるとは、死ぬことだ。

この街の路地に居た時は、ダンジョンに初めて潜った時は1人。

でも今は、3人死んでしまう。だからこそ、イストファは焦る。

自分1人じゃない。支えられている事が、イストファを追い詰める。

今戦えるのは自分しか居ない。そう強く思う事がイストファを強くして、同時に弱くするのだ。

「お、おいドーマ! こういう時に何か使える魔法を授かってたりしねえのか!」

「そう言われても……こうなったら私も!」

「待て、やめろ! 死ぬぞ!?」

「ちょ、離してください!」

メイスを構えて駆け寄ろうとするドーマを、カイルが押さえる。

ドーマがそれなり以上に近接戦を出来るのはカイルもすでに知っているが、相手はグレイアーム以上の脅威だ。

少しでも避け損なえばドーマが斬られ、イストファが怪我をした時に癒すことも出来なくなる。

それはダメだ、とカイルは思う。

だがカイルとは違いドーマはこのままではダメだ、と思う。

イストファの戦い方は定石とか技術とかそういうものがほとんどない我流だが、それ故に型に縛られず常に最適化されている。

グレイアーム相手に心臓を一突きにするのもそうだ。そうすれば殺せると分かるからそれを狙う。

言わば、直感任せの全力駆動。だからこそ強く、それよりも「強い」相手に非常に弱い。

イストファという剣士を最大限に活かすには、そこに何かを加えられる仲間が必要なのだ。

それが出来るのは、この場には。

「……カイル! 貴方こそ何かないんですか!?」

「なんとかできる魔法はある! だが魔力が足りねえ……たとえ全快してても全然足りてねえ!」

今撃ってマトモに威力を出せるのは火をぶつけるファイア、相手を弾き飛ばす電撃のボルト、着弾地点を凍らせるフリーズショットの3つ。

ファイアはダメだ、マトモに効くとは思えない。

ボルトは……一瞬の隙を作る役にはたつだろうか。

フリーズショットも同じだ。ならばボルトかフリーズショットの二択になる。

だがカイルが恐ろしいのは、魔法を外してイストファに当てる事だ。

カイルは魔法の知識は持っている。それこそ賢者と呼ばれる連中にだって負けない自信はある。

だが、絶望的なまでに戦闘経験が足りていない。

魔法を当てる為の技術がない。だからこそイストファに当ててしまったらという恐怖が付きまとう。

自分の魔法がイストファを殺す。それがカイルには恐ろしい。

「出来ない事はいいです! 出来る事を……やはり私も行きます!」

「あっ!」

メイスと盾を構えて走っていくドーマを止められず、カイルはぎゅっと杖を握る。

どうすればいい、どうすれば「どうにか」できるのか。

考えれば考える程思考の迷宮に嵌り、カイルは動けなくなってしまう。

無論その間に戦闘が止まるなどということはなく、ドーマがイストファと打ち合う密林の追跡者の背後へと回りメイスを振るう。

「……」

「ぐっ!」

「えっ!?」

イストファを今まで一度も使わなかった蹴りで吹き飛ばすと、密林の追跡者は素早く身体を回転させてドーマへと向き直る。

密林の追跡者の腕がメイスを振るうドーマの腕を握り、その動きを簡単に止めてしまう。

「速っ、う……強……!?」

軋むほどの力で握られた腕が痛み、ドーマは顔を歪める。

せめてもの抵抗にと振り回した盾も、もう片方の手で弾かれる。

ガラン、と地面に落ちた盾が空しく音を響かせて。判別できないはずの密林の追跡者の顔が笑ったようにドーマには見えた。そして、その顔が……ハッキリ分かる程に驚愕に歪んだのも。

ドーマには、その理由が見えた。

聞こえたのは、カイルの声。凍り付いたのは、密林の追跡者の足元。

限界まで魔力を絞り出したのだろうカイルが膝をつき、密林の追跡者は一瞬でその拘束から氷を割り逃れる。

けれど、それで充分。その一瞬を、イストファは見逃さなかった。

跳ね起きるように立ち上がり、短剣を握る。

密林の追跡者が気付きドーマを離し突き飛ばすまでは、ほんの数秒もかからない。

けれど、そこから迎撃態勢に入るその前に……イストファの短剣が、密林の追跡者を斬り裂いた。