軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29話

月が雲に隠れ、辺りが静けさに包まれた晩。

ゴードン公爵は、教会の一室にて包みをベーレン司教へと手渡していた。

「献身的な行いは、きっと神も見守って下さっております」

包みを恭しく受け取ったベーレン司教に、ゴードンは告げた。

「次の、教会の王国の平和を祝う祈りの乙女に、ぜひ、我が娘のミーナをお願いいたします」

ベーレン司教は、にっこりとした笑顔でうなずく。

「もちろんです。お嬢様は祝福の能力の持ち主。きっと神も貴方様の娘様をと思ってらっしゃいます」

「そうですか。ありがとうございます」

その言葉にゴードンの表情は晴れる。

だがベーレン司教の瞳がゆっくりと開き、そして弧を描いていた口の口角が、下がるとまるで室温も下がったかのように、空気が重くなったのを感じた。

「さて、では……もう一人のお嬢様についてです」

「……はい」

「呪い子とか。ですが困った……王家に気に入られたようですなぁ」

「気に……どうでしょうか」

「……公爵様。私にお任せいただけますかな?」

有無を言わせぬ圧に、ゴードンは額の汗をぬぐい、うなずいた。

「もちろんです」

ベーレン司教はまた微笑みを浮かべた。

「神のご加護を」

ゴードンはベーレン司教から差し出された手を慌てて取ると、唇を落とし、それから立ち上がるといそいそと部屋を後にした。

ベーレン司教は、指でトントンと膝を叩くと、口を開く。

「……呪い子と鑑定した神父は、そなたでしたね」

「は、はい」

ベーレン司教の前に、暗がりに控えていたロード神父は、顔色を悪くしながらうなずいた。

それからベーレン司教の手の甲に唇を落とし、その前に跪いた。

「神の御心の為に何をすればいいか、わかりますね。呪い子を救うのも貴方の役目です」

「救う……教会で、教会で保護するのはどうでしょうか。まだ、幼い子ですし」

「ロード神父」

「は、はい」

ベーレン司教の言葉に言い返してしまったことに、ロード神父は更に顔色を悪くしてうつむく。

そんなロード神父の肩にベーレン司教はそっと手を置き、静かに伝えた。

「ロード神父は、お優しいのですね。ですが、これも試練です」

「試練……」

「えぇ。そうです。呪い子を、天へ返してやることが、最も救いになるでしょう」

「天へ? ……そ、それは」

「ロード神父。わかりましたね?」

「……はい」

震える手で、ロード神父がベーレン司教の手の甲へと唇を落とす。

「神のご加護を」

「神の……ご加護を……」

◆◇◆

「ふんっ。あなた、調子に乗らないことよ。貴方は呪い子なんですからね」

私は現在、馬車に揺られていた。

そして私の正面の席には、美しく着飾ったミーナがいる。

突然私をこの馬車に押し込み、そして正面に座ったミーナは先程からチクチクと私に嫌味を言ってくる。

なんだこの状況は。

リヤンは姿を消してついてきており、楽しそうに笑みを浮かべている。

「こいつ、面白いよな。なんだ、一体どこへ連れていくつもりなんだ?」

突然のことに私は困惑していたのだけれど、ミーナのことを知るいい機会だとも思った。

私はまだこの子の、一面しか知らない。

今の所、嫌な一面しか見ていないけれど、もしかしたら優しい所も可愛い所もあるかもしれない。

「ちょっと、なにニヤニヤ見てるのよ。気持ち悪い」

そう思っていたのだけれど、今の所、好きになれそうなところはない。

私はげんなりしてしまう。

「そのうち、貴方は幽閉されるか修道院に送られるのよ」

「……そうなんれしゅか」

すでにほぼ幽閉中なのだが……。

「えぇ。だって呪い子だもの。というか、貴方、本当に気に喰わない」

「そうなんれしゅか」

「そうよ。なんで貴方が王子に気に入られるの? きっと間違いよ。王子様と結ばれるのは私だから、貴方は、きっと私と王子様の仲を引き裂く呪い子ね」

なんだそれは。

頭の中、お花畑で出来ているのだろうか。

「あの……調べても分からなかったのでしゅが、呪い子ってなんれしゅか」

「……知らないわよ。そんなの知る必要もないし」

びっくりした。

知らんのかーい。私は、心の中で一人突っ込みしてしまう。

「あの、じゃあこれはどこへ向かってるんれしゅか」

「ふふふ。無知な貴方に教えてあげるわ。一年に一度、教会で王国の平和を祝う祈りの乙女を選出するの! そして今年は私が選ばれたのよ! おほほ! 貴方に私のすごさを見せてあげるわ」

祈りの乙女……そう言えばリヤンから授業で教えてもらったなと、記憶を呼び覚ます。

王城の北東の方向に位置する教会に祭られているものに、祈りを捧げるというものだ。

北東とは鬼門と呼ばれ、鬼が出入りする場所。

この世界に鬼門の概念があるのかどうかはわからないが、一体何が祭られているのであろうか。

「もちかして、その祈りを捧げる場所に、向かってるんでしゅか?」

「そうよ。今日は練習だから、私の素晴らしい姿を拝ませてあげるわ」

「なるほど……ありがとうございましゅ」

一度見てみたいと思っていたので、ありがたい。

「あら、素直ね。いいのよ。ふふ。見て、私との格の違いを思い知りなさい! あんたなんて、王子様に今は気に入られてても、婚約者になんてなれないんだから!」

その言葉に、私は目を見開き、驚きつつ答えた。

「ふぇ? あたりまえれしゅ。あたちなんて、婚約者なんて、なれましぇん」

「え? あら、弁えてたの?」

「あい。もちろんれしゅ」

そんな面倒くさい物になるつもりはさらさらないし、なりたくもない。

エトワール殿下には素敵なご令嬢と婚約していただきたい。

ミーナとは……婚約しない方が幸せになれる気がするので、どうか、他のご令嬢と上手くいきますように。

「ふふふ。なぁんだ。ならいいのよ。ふん。さぁ、ついたわ。ついていらっしゃ

い」

ミーナはおそらく何度も足を運んでいる場所なのだろう。

神父様達がミーナ様を見ても驚かないし、一礼して過ぎていく。

神殿の中は侍女も伴えない決まりであり、私と二人きりで歩いていく。

「ミーナは、しっかりしてましゅね」

三歳なのに、素直にすごいと思う。

「あら、当たり前でしょう。私は公爵家のお姫様だもの。天才なの。ぐずでのろまで、出来損ないの貴方とは違うのよ」

「……てんしゃい……」

ミーナも天才だったのか。

それにしても、私に対してのミーナの評価低すぎやしないか?

「さぁ、ついたわ。あれが、祈りの乙女が祈る、御神体よ」

「ごし……」

ミーナの指さす方向を見て、私は背筋が凍る。

あれは……一体、なんだ。

御神体と呼ばれたものの前には櫓が組まれており、それに乗り、ミーナは祈りを捧げるらしい。

「祈りを捧げるとともに、私の能力、祝福を発動させるのよ」

「……祝福を……」

ぞっとした。

あんなものに、祝福を授けると言うのか?

あれは……祝福を捧げていいようなものではない。