軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11.

騎士らへの補償を済ませると、ライアスは今度は王城へ報告に上がった。

捜索のために王国の騎士団を使った以上は、詳細に報告が必要だ。

「まさか、こんな内部に入り込んでるもんかな。王都のすぐそばでだなんて」

オルティメティは信じられない、という様子だった。

「これじゃあ姉上も可愛い甥っ子たちも、いつまで経っても外に出られないじゃないか」

王族の宿命として、オルティメティもその不自由さは嫌と言うほどわかっている。どこへ行くにも警備が付きまとい、気軽に王城を出ることもできない。

それに関して文句ひとつ言ったことはないが、こうして憤るということは、同じ思いをさせたくないというくらいには煩わしく思っていたのだろう。

「そうはならないよう、私が守ります」

オルティメティは少しの間ライアスを見て、そう、と呟く。

「ライアスがそう言うのなら、大丈夫なんだろうけど」

オルティメティにそう言われると複雑な気分だ。結果的には守れたが、一度は攫われているのだから。

「闇の魔力についての文献はないと思うけど。一応、閲覧許可は出しとくよ。——はい」

「恐れ入ります」

書庫への許可証を受け取ってライアスは頭を下げた。

手掛かりが少しでもあればいいが。

「——それはそうと、エイダンの土の能力が発現したんだって?」

「はい」

オルティメティは手元の報告書を見て眉を上げた。

「6歳で身体強化に土まで操るなんて。末恐ろしいね」

「・・・・・・・」

魔力の量は人によって差が大きい。属性はそれぞれどの人にもある程度あるが、魔力を有していなければ発現自体しない。一生を魔力を使用せずに終える人間の方が多い。

そして、魔力の量と魔術が使えるかどうかはまた別問題だ。

例えるなら、属性は絵の具の色、魔力量は絵の具の量。その色の絵の具を大量に持っていたとしても、それでどんな絵が描けるかはその人それぞれであるように。少ない絵の具でも効率的に使用して素晴らしい絵を描ける者もいれば、大量に絵の具を消費してもまるで絵など描けない者もいるように。

訓練をすれば、ある程度扱えるようになるが向き不向きが大きい。器用さが大いに問われる。

それを、訓練もしていないのに、それぞれの魔術を完璧に使った。魔力量も大人顔負け、しかも6歳という若さで。

オルティメティの指摘にライアスは黙るしかなかった。

「僕は8歳で発現して、使いこなせるようになったのは11の時だったけど。ライアスは?」

「発現は6歳でしたが——」

「血筋なのかな」

「・・・使いこなせるようになったのは、13でした」

「へ、え・・・」

身体強化は比較的すぐにできたが、土を操るのは難しい。今でもあまり使わない魔術だ。

同じ属性だからわかる。土を操るのは、相当難しいのだ。だからこそペンシルニアは代々身体強化に重点を置いて騎士の家系でやってきている。

「——嬉しくなさそうだね。記念すべき、息子の発現なのに」

通常なら家を挙げてのお祝い事になる所だ。

「早熟であるのが良いとは、必ずしも言えませんから」

ライアスには色々と心配することがあるようだった。

オルティメティはそれ以上この話題を掘り下げるのはやめた。

その日の夜——。

「何を読んでいるんですか?」

シンシアの質問に、ライアスははっとして顔を挙げた。

夫婦の寝室にライアスが書類を持ち込むのは珍しい。テーブルで真剣に考え込んでいる姿に声をかけたのだが、驚かせたようだ。

ライアスは立ち上がってシンシアに椅子を引いた。そこへ座ると、目の前に可愛らしい文字の紙が置かれた。

「あら、これは・・・」

「エイダンの反省文です」

「まあ。こんなに綺麗な字が書けるようになっていたんですね」

謹慎中ずっと反省文を書かせているから無理もなかった。特定の文字がここのところ上達している。

ライアスはシンシアの髪にそっと触れ、ゆっくりと梳かし始めた。寝る前のルーティンでもある。

以前はメイアにしてもらっていたが、ライアスにやりたいと言われ、練習を重ねて今ではすっかり上達した。シンシアの髪は絡まりやすいので難しいのに、ものすごい根気である。

美容師になれる、と揶揄うと、シンシア限定だからそれは無理でしょうと真面目に返された。

「——それで、どうしてこの反省文にそんなに難しい顔をしているんですか」

「謹慎中、教師にもタンにも、エイダンにはペンシルニア公爵家の立場を教えてもらいました。そして、どう行動すべきであったかがここに——」

ライアスが示した箇所を読んでみる。

『もっと訓練を重ねて強くなる』

——なるほど。

「もちろん、この前には1人で行動しないという箇所もあるのですが・・・」

全体的には、大人に告げるべきだったという点のほかに、もっとここをこうしていれば、という内容が多い。

「公爵家としての振る舞いについても、まだよく理解できていないようです」

シンシアはライアスを見上げた。

「困っているのですね。謹慎をそろそろ解きたいとお考えで」

「エイダンが寂しそうにしている、と、乳母が」

シンシアは笑いそうになるのを堪えた。

自分もエイダンにはつい甘くなると思っていたが、ライアスも相当なようだ。

シンシアはエイダンの部屋を訪れているが、ライアスは敢えて会いに行ってはいない。

最近では食事のたびにエイダンの席を気にしている。

「すぐには理解できないと思いますよ。十分に反省しているのでしたら、よろしいのでは?」

「では、本日までということにします」

「エイダンもマリーもさぞ喜ぶでしょうね」

髪を梳かし終わり、ライアスがその髪を横に流す。

露わになった首筋を撫でられた。

「ライアス」

「はい」

何でもないような平然とした顔で返事をされると、やめてとも言いづらい。

シンシアは話題を変えながら首筋をさりげなく手で隠した。

「エイダンの能力ですが・・・」

「ええ」

「使いこなせているのですか?」

「そのようです」

タンを通して確認したところ、身体強化どころか土の魔術ですら、すっかり身につけてしまっている。

驚異的な才能である。

「浮かない顔ですね」

シンシアはライアスの表情を下から覗き込んだ。

「何を心配しているのですか?」

シンシアが不思議そうにしているから、ライアスは言葉を選びながらと言ったように口を開いた。

「能力が早くに発現したからと言って、それを過信して危険な行動を取らなければいいのですが」

「エイダンはそんな性格でもないように思いますが」

とはいえ、あの事件の直後である。心配するのも無理はない。

「普通は、発現すると学園に通うんですよね」

学園、というのは魔術の運用を学ぶ場所である。発現をした子供は皆通うよう義務付けられている。

シンシアは特殊だったので、王宮で家庭教師と学んでいるから知らない。

学園では一通りの魔術の正しい使い方を教わり、属性ごとに効率的な魔術の使い方も教えてくれる。そこで魔力の危険性まで教えてもらえないのだろうか。

「学園には6歳の子はいません」

大体は8歳から、遅くとも10歳。座って話を聞ける、集団行動ができる等と親が判断してから、数年間入れる。

貴族はそれぞれの教育には家庭教師がついていることが多いから、魔術だけを学ぶのなら2年程度で修了する。一般科目も同時に学ぶのであれば、市井の学校と同じように通い続けることもできる。

ただ、魔力は貴族に多く必然的に同年代の貴族を中心とした集団になるため、社交の入門のようなところでもある。

「騎士の訓練はライアスが教えているのですよね」

「私と言うか・・・ペンシルニアの騎士らが」

「魔術も、学園に通うまではライアスが教えてやればいいのではないですか。ゆっくりと」

土の魔力の運用については、シンシアが教えられることはほとんどない。

そのうち、光も使えないか試してみようかと、ちょっと思ってはいるけれど。

「そんなに心配しなくても、大丈夫ですよ」

シンシアは立ち上がって、宥めるようにライアスの頬に手を当てた。

「優しい子ですもの。たくさんの事を見て学べば学ぶほど立派になっていくと思います」

シンシアはじっ、とライアスを見た。

そう言えばエイダンは頬の肉が落ちてから、ますますライアスにそっくりになって来た。

真面目なところもそっくりだ。

目の色だけ違う。ライアスの深く濃い茶色に対して、エイダンは優しい薄い茶色で。近頃さらに薄くなってきている。そんな変化も成長も楽しみの内だ。

不思議そうに首を傾げるライアスに対し、シンシアはわざと睨むようにしてみた。

「魅力的だとおっしゃっていたのに」

「は・・・・・」

「妻がこうして目の前で貴方を撫でているのに、口づけしたくなりませんか?」

ぼん、と音でもするんじゃないかと言うくらい、ライアスの顔が一気に赤く染まった。

子供が二人もいると言うのに、未だにこうして純粋な反応をされると、シンシアは何やら嬉しくなるのだった。