軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

49.慰霊祭

ブラントネルに夏が訪れ、国を挙げての慰霊祭を執り行うことが決まった。

これまでの歴史の中、湖に消えて行った多くの犠牲者の魂を弔う。湖に眠る魂を鎮め、その冥福を皆で祈る。

これからは毎年、ブラントネルで続いてゆくことになるだろう。

アルロはこの慰霊祭に、ペンシルニア一家を招待した。その招待を受けてペンシルニア家はアイラも含めた全員が参加した。

慰霊祭当日。

湖畔には早朝から続々と弔いの花が捧げられた。鎮魂の歌が流れ、人々は手を合わせ、それぞれに祈りを捧げる。

ブラントネルの首都の街外からも、更には国外からも多くの人が集まっているようだった。

皆がこの慰霊祭に何かの思いを馳せながら、一人、また一人と祈りは続いた。

夜になると、広い湖畔のあちこちに淡く無数の光が灯った。紙皿に乗せられたろうそくが、そっと水面に放たれる。そうしてたくさんの小さな光はゆらゆらと自然に湖の中心に集まり、やがて吸い込まれるように水の中へと消えていった。

その一つ一つが、まるでかつて消えていった人々の魂のようで、誰もが目を離せずにいた。

それらが一望できる城に、皆が集まった。低い位置のテラスだから灯りもよく見える。

アルロが光を放ち、それに続いてペンシルニアの皆も同じように一人ずつろうそくを流して手を合わせた。

やがて光が少しずつ減っていった。祭りは終盤に差し掛かる。

やがて最後の灯が消えた時、水の底から、青白い柔らかな光がぽつぽつと浮かび上がって来た。

その光はゆらりゆらりと、ゆっくりと水から上がり、空へと上がって行く。まるで犠牲になった人々の魂が、ようやく天に昇っていくかのように。

あまりにも美しく幻想的なその光景に、街の見物人らは皆一言も話さずそれに見入る。涙する者も多かった。

アルロ達も言葉を失って、その様子をずっと黙って見ていた。

光が空高くなってほとんど見えなくなってから、エイダンがそっと口を開いた。

「アイラ、もしかして」

「うん。浄化したの」

それは魂ではなく、ちらほらと残った瘴気の残渣——残りかすのようなものに、聖女の浄化の力が反応しただけだった。それが、祭りのフィナーレに相応しい演出になった。

テラスにはもう一人の国賓としてぺトゥールも参加していた。同じく黒いローブを身につけている。

「……光と闇の魔力がこうして並ぶところを目にする日が来るなんて。感無量だ」

アルロとマリーヴェルが並んでるのを見て、そう言った。

本当に声が震えている。

マリーヴェルは不思議そうにアルロを見た。祭りの前に、魔術王国の王子だというのは伝えてあるが、言葉を交わすのは初めてだ。

「ええと、私はほとんど魔力はないのだけれど」

ちょっと変わった人なのかなとこの一瞬で察知して、マリーヴェルはそう言って肩をすくめ笑って見せた。

ぺトゥールはまだ少し考え込んでいるようだった。

「いや、でも…そうか……闇の魔力もそうなんだけど。やっぱり光と闇は別格だな」

じっと見つめられて、マリーヴェルはまたアルロと顔を見合わせた。

「浄化は聖女の専売特許であって、光はどちらかと言うと闇を滅するものだというのがこれまでの認識だったんだけど……あんたを見てたら、認識が変わったよ。なんて言うのかな。ならす、っていうか。落ち着けるっていうか。」

「……………?」

どういうこと、とマリーヴェルが小声でアルロに尋ねた。アルロも困ってしまう。ひそ、とマリーヴェルに耳打ちした。

「ぺトゥールは魔力探知力が人並み外れてるので……常人には見えないものが見えているのかもしれません」

「ふうん……」

「つまりな、あんた達はこの上なく相性がいいってことだ」

「ありがとう、知ってるわ!」

マリーヴェルは明るく言い放った。

マリーヴェルが知っているのとは意味合いが違うのだが。

よくわからないので、適当に言っている。しかしぺトゥールも肯定されて満足げだ。

「僕がペンシルニアに来たばかりの時から、僕を癒してくれたのは姫様なので。闇の魔力を使いこなせるようになったのも」

「アルロ……」

二人の様子を見てぺトゥールはまた満足げに頷いた。

「この力は、この国にこれ以上ない繁栄をもたらすだろう。——祝福するよ。今回洞窟が開放されたことで、今この辺りの自然に魔力が満ち溢れている。ブラントネルには魔力持ちが増えていくだろう」

魔術王国と共に、新たな道が拓ける。ぺトゥールは湖を見て満足そうに行ってから、テラスを去って行った。

そしてしばらく湖を眺めながら過ごしていた。

明かりはなくなったが、星の明かりがテラスをほのかに照らしている。

アルロは、あの瘴気の残渣こそ、人々の思念や魂の欠片のようなもののように思えた。

「アルロ、大丈夫……?」

じっと動かないアルロを気遣って、マリーヴェルが、そっと手を握った。

「——はい。——いえ、そうですね。僕……今回は、一瞬、だめかもしれないと思ったんです」

「聞いたわ、兄様に。間一髪だったって。すごい魔物がいたって」

「はい。姫様のお陰です。ありがとうございます」

マリーヴェルは小さく首を振った。

アルロは黒い湖を見ると、今でも少し——不思議な感覚に襲われる。

「……無念な思いのまま、消えて行った黒持ちの人々——僕と彼らは、何が違うのだろうって思いました。同じブラントネルで、僕だけが地上にいて。水の中の死者たちが伸ばした手を、取らなければいけないような気がして」

「そう……」

そんなこと言わないで、とは、マリーヴェルは言わなかった。

シンシアらも、聞こえていただろうが何も言わない。

「でも、ここにいる」

マリーヴェルが再びぎゅっとアルロの手を握った。

アルロは生きて、その手を取らないでいてくれた。

もう惑わされることはないだろう。悼む思いが強くて、気持ちは向けることもあるだろうけれど。

何も言わなかったが、マリーヴェルの柔らかな手が、ずっとアルロの手を握ってくれていた。

それに勇気を得て、アルロはライアスの前に立った。