軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4

「陛……」

エメリアが声をかける前に、ギルフォードの顔に小さな何かがぶつかった。

「ひっ」

「おかあさま、そのぼうかんからはなれてください!」

思わず悲鳴を上げるのと、フレンが叫ぶのが同時だった。

腕の中でフレンが片手をギルフォードに向けて突き出している。

そしてエメリアたちの周りにはヒュンヒュンと高速の光の玉が――妖精が、回っていた。

どうやらこの子は皇帝陛下に妖精をぶつけたらしい。

「ふふふフレン、この方はあのね」

「てきはせんめつします」

「どうしてそんな物騒な言葉を覚えてしまったの!?」

暴漢だの殲滅だの。

ギルフォードは特に動じた様子もなく、己と全く同じ髪色と目の子を見た。

「俺と、エメリアの子か?」

「え、ええ……」

さすがに隠しても仕方がないだろう。月の光のような銀は王族の者を示す髪の色だ。

それにいつものふにゃふにゃ可愛い笑顔ではなく、きりっとギルフォードを睨むフレンは彼によく似ている。

エメリアは覚悟を決めて口を開いた。

「フレン、あなたのお父さまよ」

「は? しりませんそんなこうてい。さんざんおかあさまをほうっておいて今さら」

「フレン!?」

全く事情は話してないはずなのだがなぜ知っている。

「村長からききました」

村長! と叫びたかったが、恩人だし今は人を攻撃したフレンを叱る方が先だ。

「……だめよ、人に妖精をぶつけては」

あまり聞いたことのない叱り文句である。

真剣な顔でめっと言うと、フレンはすぐに大きな目をじわりと涙でにじませた。

「……う、ごめんなさいおかあさま……」

「よしよし。今度は気をつけましょうね」

泣き出したフレンをなぐさめる。

妖精の愛し子とはいえ、三歳。まだまだわからないことはいっぱいあるだろう。

「……聖母……」

「え?」

ぼそりと聞こえた声に顔をあげると、何故か少し頬を赤らめたギルフォードが咳払いをした。

「いや、なんでもない。俺たちの子は妖精の力が使えるのか」

「え、ええ……」

やけに俺たちの、を強調して夫が言う。

戸惑うと同時に警戒する。

(まさか、フレンを政治の道具にしようとするのでは)

大地の魔力から生まれる妖精は、強い力を持つ。

お願いすれば色々な手伝いをしてくれるし、捕まえて魔力増幅のために利用する魔術師も多い。

未だにエメリアの周りには妖精がヒュンヒュンと回っていた。

ギルフォードはそんなエメリアたちを見て――頬をゆるめた。

「……君を守っているんだな」

「っ」

(笑ったところ、初めてみたかも……)

読んでいた小説でもそんな記述は一切なかった。

一切笑わない氷の皇帝。それが彼のはずなのに。

「エメリア」

ギルフォードがそっと近づく。

「この子はしかるべきところで育てたほうがいい。村の者に害意はないようだが、妖精の力が使える者を悪用しようとする輩は多い」

「……」

確かにその通りだ。

小説でも、フレンはこの力を狙うものに何度も狙われて攫われた。――そこをヒーローである隣国王太子が助けに来るのがまたいいのだけどそれは置いておく。

「あなたも利用する気では……」

「俺がそんなものに頼ると思うか」

ギルフォードははっきりと断言した。

「……それに、君も護衛もつけずに無防備すぎる」

「護衛って……」

そんなものをつけて農作業をする人はいない。

なにかにつけて堅物なギルフォードに笑うと、彼がエメリアに手を伸ばした。

そっと、手が額にかかっていた髪を払う。

そして彼は少し屈んで、エメリアにささやいた。

「……逃げるなら、閉鎖した上で村を焼く」

「っ」

「帰るぞ」

そう言ってエメリアの腕を掴む彼の目には冷酷な光が宿っていた。すぐに豪奢な馬車が運ばれてきて、その中に押し込められる。

「皇都に戻る」

「はっ」

「へ、陛下、ですが私は」

お世話になった村に挨拶をする間もなく馬車が動き出した。

「安心しろ、荷物は全て持ち帰らせるしなんなら宮殿に同じ小屋を建てても構わない」

「そういう問題ではなく!」

(は、話が、違う……いえ元に戻ろうとしてる? わからない!)

帰りの馬車で、ギルフォードにフレンごと抱きしめられながらエメリアは青ざめた。

こうしてエメリアは冷酷な皇帝の唯一の女性であり、妖精の愛し子の母として王宮に戻ることになった。

エメリアの、原作での死亡時期まであと二年。

――どうやらこの話は、可愛い妻子にメロメロな皇帝が、逃げようとする妻エメリアを囲い込む話に変化したようだ。