軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第6話 「修理屋。へぇ、それは助かるかもしれないね」

肉屋と八百屋は並んでおり、いずれもデニスと同年代の男性が店番をしていた。

「若いやつが越してくるっていうのは歓迎だ。できるだけ長く住んでくれよ!」

はっはっは、と豪快に笑ったのは肉屋の主人だ。

あの細腕だが、猪くらいひょいひょいと簡単に捌くそうだ。

そして頭には兎と思しき黒くて長い耳が生えていた。

「まだ決めたわけじゃないんだろう?住んでくれたら助かるが、まぁ、期待はしないでおくよ」

懐疑的だったのは八百屋の主人である。

こちらは縦にも横にも大きく、困ったような下がり眉が特徴だ。

彼はヒト族である。

客を見る限り、この村の住民はヒト族と獣人が半々のようだ。

魔人はわりと魔法に特化した人種なので、都会か魔獣がとても多い場所に住んでいることが多いと聞いたことがある。

その後連れてこられたのは、少し役場の方へ進んだところにある食堂だ。

お昼時だったので、座席はほとんど埋まっている。

「あら、デニスじゃない。あ、その子が噂の移住希望者ね?こっちが空いてるわよ。はいどうぞ!」

カイは挨拶をする暇も与えられず、食堂を取り仕切っているらしいエプロンを着けた女性に席を案内された。

「相変わらず慌ただしいな」

席について苦笑したデニスに、一つ向こうの席から男性が声をかけた。

「いつものことだろうが。ほら、前にあっただろ?届け物をしに来ただけの奴が、女将にうっかり客席に案内されたやつ」

「日替わり定食まで出されてから、やっと『届けに来ただけだ』って伝えられたんだったよな」

「あったあった。ほかにもあったよな、確かあれは――」

昼休憩らしい別の男性たちも話に加わり、わいわいと賑やかだ。

くるりと見渡して、ふとカイは気づいた。

「冒険者の方もいらっしゃるんですね」

席についている人の半分は村人のようだ。

あと半分の人は、防具を着けたまま食事をしている。

明らかに騎士とは違うので、冒険者だと判断した。

「ああ、そうだ。この村の西側に大きな丘があるんだが、そこから海の方へ向かうと森がある。そこに、魔物が出るんだ」

デニスが、テーブルの上で大体の位置関係を指さしてくれた。

町と村、森で、正三角形に近い形になっている。

「あちら側に魔獣の出る森があるんですね。それで、この村にも冒険者の方が滞在を?」

「そういう奴らもいないことはない。一応、空き家を宿泊所代わりに貸し出しているんだ」

「だから、看板の出ている家があったんですね」

道中、いくつか一日いくらという看板の出ている家があったのだ。

「ああ。だが、ほとんどはツーレツト町に戻る。狩場は村の方が少し近いが、町に冒険者ギルドの支店が来てるんだ」

「そういえば、この村には支店がありませんね」

冒険者ギルドは割とどこにでもあるが、集落ごとではなく一定の区域に一つ開設されるのだ。

「港もあるからな。上陸する冒険者の管理も兼ねているんだろう。だから、今のところこの村に滞在している冒険者はいないんだ」

「え、ゼロですか?」

「ゼロだ」

うむ、とデニスは腕を組んでうなずいた。

なるほど、大きな町との距離が近いとこういう弊害も発生するらしい。

そこへ、両手にお盆を乗せた女将がやってきた。

「お待たせ!お昼は日替わり一択だからね。今日は鹿肉のハンバーグだよ!」

テーブルにどん、と置かれたのは見覚えのあるパン、そしてスープ、ハンバーグと付け合わせのニンジンのソテーだ。

「お、今日は当たりだぞ」

「美味しそうです」

ハンバーグにかかっているソースは、ワインを入れて煮込んでいるのだろう、とても香り高い。

「あら嬉しいことを言ってくれるねぇ。美味しそう、じゃなくて美味しいから食べてちょうだい」

「いただきます」

カイがフォークを手に取ると、女将はすぐに空の皿を下げに行った。

見た目通り、食事はとても美味しかった。

ジビエは独特の臭みがあると聞くのに、処理の仕方かソースの効果か、さっぱりと食べられる。

ニンジンの味も濃くて美味しい。

パンは堅めで、スープに浸すとしっかりとうま味を吸い取って柔らかくなる。

夢中になって食べていると、別の村人が話しかけてきた。

「お前さん、本当にこの村に住むつもりなのか?」

話しかけられたカイは、こくこくとうなずきながら咀嚼した。

うまみを堪能してから飲みこみ、口を開いた。

「そうしたいと思っています。賑やかなところよりも、こういうところで穏やかに暮らすのが理想だったんですよ」

そこに、デニスも参加してきた。

「カイは、今はおれのところに泊まってるんだ。家の修理の対価ってことであと数日は泊まるから、その間に村を見てほしいと思ってな」

「ついでに、オレたちもそっちの、カイだったか?を見れるってわけか」

「それもある」

「お見合いかよ!」

あははは!と笑いが広がった。

しかし、むしろ正確に言い当てているだろう。

村とカイが、お互いの相性を見る期間なのだ。

「そういや、村役場が昔貴族の屋敷だったって聞いたか?」

「はい、デニスさんに聞きました」

カイがうなずくと、訳知り顔でうなずいた男性が言った。

「実は、この領地は一回領主が変わってるんだ。あの屋敷は前の領主が作った別荘だったらしい」

「五十年くらい前に、領主が捕まったんだったか?」

「税金を使いこんで爵位を取り上げられたって婆ちゃんに聞いたな」

何やら、以前は良くない領主だったようだ。

「領主が変わって、ここが村になったんだよな」

「果樹園を作ったからな。最初はツーレツト町から通ってたんだが、さすがにちょっと遠いっていうんで家が建った」

確かに、村に来る途中に見えた丘には、果樹園らしい整えられた場所が見えていた。

「むしろ果樹園しかねえだろ」

「果樹園関係のやつらがほとんどだよな。ジュースやらワインやらを作ったり、ジャムに加工したり」

そういえば、八百屋の隣にあった大きめの建物からは、果物のいい香りがしていた。

きっとジュースかワインの工房なのだろう。

「一応、うちのワインは『ヴィーグ』って村の名前の付いたやつで、お貴族様に献上されてるらしいぜ」

「そうなんですね」

ぺろりと食べ終わったカイが言う頃には、冒険者たちはもう席を立っていた。

あちこちで楽しそうな会話が続いており、よそ者のカイを受け入れてくれているような気がする。

「ほらほら、もう仕事に戻る時間じゃないの?」

ランチタイムの波が一区切りついたらしい女将が、男性たちに言った。

「お、もうそんな時間か」

「戻るかねぇ」

男性たちは、席を立って女将に銅貨を手渡した。

「はい、まいどあり」

銅貨十枚で銀貨一枚だ。

この食事で銅貨一枚ならかなり安い。

「それで、そっちの若いのは村に住むのかい?」

残った皿を下げながら、女将が聞いた。

「僕としてはそうしたいです。仕事をしながらゆっくり暮らせそうですし、ここの食事がとても美味しいですし」

ぱぱぱっと食器を積み上げた女将は、重そうなそぶりもなく運びながら言った。

「ありがとね!美味しいって言ってくれるのが一番だ。仕事って、果樹園かい?小麦畑もあるし、うちの旦那みたいな狩人もいるけど」

「僕は、色んなものの修理ができるんです。だから、修理屋をしようと思って」

「修理屋。へぇ、それは助かるかもしれないね。うちもあちこちガタがきてるから、住むんならぜひお願いしたいとこだよ」

「はい、お引き受けしますよ」

「頼もしいねぇ」

冒険者は、この店を目当てに村に来ているのではないだろうか。

自給自足のような生活を目標にしていたが、定期的に食べに来たいくらいに美味しかった。

お店にしろ食堂にしろ、村の人たちの距離はかなり近いものの、嫌な感じはまったくなかった。

賑やかなのに、うるさくない。

居心地の良さすら感じ始めていて、カイはこの村の住民になった自分を簡単に想像できた。

「じゃああとは、果樹園と小麦畑あたりを見るか」

「はい」

満腹になったデニスとカイは、道中で村人とさらに交流しながら、村を大きく一周して村長の家へと帰った。