軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2話 「故障品再生」

カイのスキルで道具を見ると、どうやって直したらいいのかまでわかる。

ただし、3Dできちんと該当箇所を見ないとわからないので、調査は必要だ。

「直せるのですが、材料が必要です。今回は、木材とニスですね。とりあえず欠けた弁を取り換えるだけなら、これくらいの大きさの板と、ニスがあれば間に合います」

カイは、両手である程度の大きさを示した。

「薪でもいいか?」

「はい、乾燥させたものなら構いません」

「じゃあ、ちょっと待っててくれ」

デニスは、いそいそと薪を取りに行った。

戻ってきたデニスから薪とニスを受け取り、カイは再びスキルを発動した。

カイのスキルは、ただ壊れた場所を確認するだけではない。

「故障品再生」

それが、カイが授かったスキルだ。

3Dで見ながら、映像をぐるぐる回して故障した部分に照準を合わせる。

前世の3DCADの映像をほうふつとさせる映像は、カイの脳内でだけ展開されている。

この映像を動かせると知ったのは、実は最近だ。

動かせると気づいたときには、四苦八苦して設計を把握していた過去を思って涙した。

スキルの能力を発動し、材料の薪とニスを使って新しい部品を作り上げる。

さらにスキルによって壊れた部品と新しい部品を取り換えて、軽く動きを確認したら完了だ。

目を開けると、カイの手の中にはいくつか欠けてコケの付いた丸い板があった。

「これで、壊れた弁を取り替えました。動かしてみてください」

「わかったわ」

奥方が、取っ手を持ってくるくると回す。

「あら、前より重くなったわ。それに、出てくる水の量も多くなったみたい!」

「元通りの量になっただけですよ」

「すごいわ、ありがとう!ねぇあなた、いいじゃない。こんなふうに直してもらえるならすごく助かるわ」

奥方はカイの味方になった。

「しかしだな、そう簡単に決められるものでもないだろう?この村に住んでいるのはおれたちだけじゃないんだ」

「またそんなこと言って」

「せめて何日か滞在して、村の連中もある程度の人数が『良い』と言ってくれないと」

確かに、突然やってきた知らない人が『仲間にしてほしい』と言ってきても困るだろう。

カイだったら困る。

一見いい人に見えても実は違う、などざらにあることなのだ。

それなら、物事の判断できる大人が相手を確認してから許可を出すなり拒否するなり決めた方がいい。

小さな村なら近所づきあいだって多くなるだろうから、相性だって重要だ。

もっとも、カイが買い取りたいといった家は集落から外れた場所にあるので、わざわざ会いに行かないと会えないだろう。

遠すぎず近すぎずというつきあいになるならちょうど良い。

「もう、そんな風に閉鎖的なところがあるから、若い子が町に出てしまうんじゃないの」

「だがなぁ、村に住むっていうのはそういうことじゃないだろう。それに、こちらが良いと思ってもカイが『やっぱり違う』と思うかもしれないだろう?」

「心配性ねぇ。住みたいって言ってるんだから住まわせてあげて、あとから考えればいいのよ」

奥方は、カイでなくとも誰かが新しく住むことに肯定的なようだ。

「とにかく、数日はうちに滞在して考えてみてくれるか?」

デニスは、カイに向かって言った。

カイとしては異論はない。

住んでみました、気の合わない人が多かったです、だから立ち去ります、というのは正直しんどい。

それなら、しばらくここで過ごさせてもらい、お互いに考える時間が合ってもいいだろう。

村長として、村を守るために考えているデニスの考えもわかるし、これはカイのためにもなる方法である。

しかも、村長宅に滞在させてくれるというのだ。

「ありがとうございます。そうさせていただけると助かります。滞在させてもらうだけでも十分ご迷惑だと思いますし、ほかにも何か直したいものがあれば対応しますよ」

「あら、それなら――」

目を輝かせた奥方の言葉を、デニスがぶった切った。

「いやいや、この井戸を直してくれただけで十分だよ。カイは、今後はその修理できるスキルで生活するんだろう?だったら、あまり安売りしない方がいい」

「そうですか?」

「もちろんだ。ほかに直してほしいところがあるなら、きちんと支払うさ」

うーん、と考えたカイは、一つうなずいた。

「元々、修理の金額はある程度考えていたんです。先ほどの、井戸の歯車のように一つの部品を新しく作ったものに取り換えるなら、銀貨一枚かなと。それくらいで、だいたいの宿なら一泊できます。ですから、あの井戸の修理で今日の一泊分の宿泊代とさせてください」

ふむふむ、と相槌を打っていたデニスは、大きくうなずきかけてからイヤイヤと首を横に振った。

「いや、待て待て。今日の宿泊は、そもそも荷馬車を直してもらったお礼だったんだ。だから、井戸は明日の分だ。それ以降は、また追々でいい」

頬に手を当てた奥方は、一応納得したようだ。

「そうだったわねぇ。それなら、明後日からの分を考えて……あら大変、あと五日は泊まってもらわないと!」

随分と、修理したい場所があるようだ。

この様子だと、修理を専門に請け負っている人が村にいないのかもしれない。

それなら、村の人たちの役に立ちながら生活できる気がする。

「ん?そんなに壊れたところがあったか?」

デニスに意外そうに聞かれた奥方は、片眉を上げて夫をじろりと見た。

「あなたは家事をしないものねぇ。知らないのも当然だわ。玄関の横の窓は鎧戸が壊れてしまったから毎回外から閉めないといけないし、シャワーの頭の部分は無理やりくっつけたままだし、毎日使うから竈の欠けたところを直すに直せないままだし、リビングの長いすは真ん中あたりの板が折れてしまったのを上からカバーで誤魔化しているし、子どもらが使っていた部屋のカーテンレールは折れたままでカーテンを無理やりはりつけてあるんだからね!」

立て板に水のごとく並べたてた奥方に圧倒されたデニスは、一切口を挟めずにいた。

これは、下手に男性の味方をしてはいけないやつだ。

かといって、女性の味方もダメ。

夫婦喧嘩は犬も食わないのだ。

だがしかし、搾取を良しとしない誠実なデニスのフォローはしてもいいように思う。

「いやぁ、そうだったかな、ははは」

笑ってごまかそうとしたデニスの言葉を継ぐように、カイは口を開いた。

「デニス村長が家の故障に気づかないくらい、奥方はきちんと家を整えていらっしゃるということですね。家の故障には気付いていなくても、奥方があれこれしてくださっているのは当然デニス村長がご存じですよ」

ですよねぇ?そうだって言いますよねぇ?

という無言の笑顔付きである。

そして、デニスはきちんとそれを受け取った。

「あ、ああ!もちろん!お前が健康を考えながらうまい飯を作ってくれてるのも、家のあちこちを手入れしながら掃除してくれているのも、快適に過ごせるように片付けてくれているのも知ってるさ」

「あら、そうかしら?」

「当然だ、いつも感謝してる。……だが、実際に家のどこが壊れているかまで気にしていなかった。それは本当にすまん」

まずまずの答えだろう。

目をつり上げていた奥方は、呆れたような視線を夫に向けてから苦笑した。

「はいはい、そういうことにしておいてあげるわね。まぁそういうわけだから、あちこち修理してほしいのよ。お願いできるかしら?」

カイの方を向いたときには、人当たりの良い笑顔になっていた。

すごい早わざである。

「もちろんです。それに、部品を交換するほどではない修理でしたら、二か所で銀貨一枚くらいの予定です。今伺った感じだと、滞在費で二日分か三日分くらいになるんじゃないでしょうか」

カイの言葉に、奥方は目を丸くした。