軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8-12 おかしくても、それが良い

翌朝、マラキ・ゴーレムの作業がとりあえず一通り終わったのを見て、アルはレスターに戻る事にした。

「アル、今回は本当に世話になった。私としては出来れば早く 飛行(フライ) 呪文を手に入れて、我々を研究塔に運んでくれるよう努力してほしいと思っている。とはいえ、もしそれが間に合わず、私たちが誰かに見つかり戦利品として扱われたりして二度と会えなくなったとしても、その事にアルが罪悪感を覚える必要は全くない。それはそれで運命、これだけ長い時間テンペスト様と一緒に居れただけでも私は幸せであった」

マラキ・ゴーレムはアルと握手をしながらそう呟く。アルはマラキ・ゴーレムの言葉に頷く事しかできなかった。もちろん努力はするが、そのためにもここでテンペストの遺体をずっと守っているという訳にも行かない。

「あともう一つ、頼まれていたゴブリンメイジが持っていたアシスタントデバイスについてだが、まず、このアシスタントデバイスの素性だが、やはり私と同じ魔法使いの作品であったよ……」

マラキ・ゴーレムの説明によると、このアシスタントデバイスは元々テンペストと同世代のモードという名の魔法使いの持ち物であったのだという。当時、魔法使いというのは自分の拠点を持って家族や弟子と共に暮らしており、テンペストとモードとは面識はあるもののあまり親しくはなかったのだそうだ。

「それが、どうしてゴブリンメイジの手に?」

「わからぬ。話していなかったかもしれぬが、私やこのアシスタントデバイスは完全に魔力を途切れさせてしまった時、記憶を保持する手段はない。そういった時に備えて魔力をほとんど使わずに記憶だけを保持する冬眠のような状態というのもあるのだが、このアシスタントデバイスは十年程前に完全に魔力が途切れ、最初に用意された人格の状態にもどってしまったようだ」

アルは首をひねった。最初に用意された人格……赤ん坊のようなものだろうか。アルがそう尋ねるとマラキ・ゴーレムは少し間が空いてからとりあえずそう考えて良いと返事をした。彼が言うには、能力的には最初に魔力を与えてくれた相手を助けるだけの力を備えているものの、その相手が求めるようなことをきちんとアシストできるだけの情報は持っていないため、アシスタントとしてはまだ赤ん坊のようなものだということらしい。

「つい先ほど、ある程度の調査と意思疎通に関する 調整作業(インストール) も済ませたので、軽く話をしてみようとしたのだが、その結果は正直なところ、とても普通の状態ではなかった」

そして、このアシスタントデバイスにとって、最初に魔力を与えてくれた相手はゴブリンメイジであり、ゴブリンメイジを助けるために元からあったはずの人間と意思疎通するための能力を自ら書き換えてしまったのだろうということだった。そして、このアシスタントデバイスにとっての主人であるゴブリンメイジを殺したアルを非常に憎んでいるようで、その恨みの言葉ばかりということだった。

「どうしてそんな事に……」

アルは頭を激しく掻いた。アシスタントデバイスというのは人間を助けるためにつくられたとマラキは説明してくれていた。ゴブリンたちは、彼の双子の妹 イングリッドを奪った相手、人間を食料とする憎き蛮族である。

「どうやってゴブリンメイジがこのアシスタントデバイスを手に入れ、 魔力制御(マジックパワーコントロール) で魔力を与えるようになったのか。そのきっかけは判らない。言葉は通じるようになったのだが、このアシスタントデバイスが言うのはアルへの憎悪の言葉ばかりなのだ。もう少し説得のようなものを試みてみようと思うが時間が掛かりそうだ。しばらく預からせておいて欲しい」

アルは頷いた。彼の胸にぶらさがるペンダント、グリィのアシスタントデバイスに 魔力制御(マジックパワーコントロール) で魔力を与えたのはふとした思い付きであった。ゴブリンメイジが居たあたりに古代遺跡があり、そこでこれを見つけて同じような事をゴブリンメイジがしたのだろうか?

「確かにその可能性はあるかもしれぬ。テンペスト様の時代、このあたりはかなり暑い地域で、所々に別荘のようなものや、研究施設があった。偶然ゴブリンメイジがアシスタントデバイスを入手した可能性もないとは言えない」

アルは首を傾げる。アルが所属するシルヴェスター王国の王都はここよりもかなり北であり、隣国テンペスト王国の王都も同じようなものだったはずだ。他の国はよく知らないが、シルヴェスター王国で言うと辺境都市レスターが人々の住む最南端であり、そこから南は蛮族や魔獣が多く住む未開地域である。だが、マラキが言うにはその未開地域にも人が住んでいたという。テンペストが生きていた時代とそれほど違うのだろうか。

「どうしてこうなったのか。世界の歴史について習わなかったのか?」

「ううん、そんな事は習わなかったな」

中級学校で習った歴史というのはシルヴェスター王国を建国したシルヴェスター初代国王の英雄譚から始まっており、それ以前の話は教わった記憶がなかった。そして魔法以外にはほとんど興味のなかったアルはそれについて何の疑問も抱いたことも無かった。

「やはり、テンペスト王国に伝わるテンペスト様の配偶者のアシスタントデバイスについて調べさせてくれぬか? 今回の件で、かなりアシスタントデバイスそのものについても知識を得た。リアナ……、テンペスト様の配偶者のアシスタントデバイスの名をリアナというのだが、彼女がまだ冬眠のような状態を保持できていれば、その当時の話が聞くことができるだろう。彼女はテンペスト王国の成立に関わったのだろう?」

マラキの口ぶりはある程度の自信があるようだった。たしかにそのリアナが冬眠状態から目醒めれば、テンペストが死んでからテンペスト王国が成立するまでの間にどれぐらいの年月が経ち、どのような事があったのかわかる。そして、そのリアナというアシスタントデバイスがまた助言ができるようになれば、生き残った王族であるパトリシアにとって非常に力になるに違いない。

今まではテンペストの墓を秘密にするためにパトリシアにすらマラキの事を話せてはいなかった。だが、状況は変わった。彼女が崇拝しているテンペストの墓や遺体、そしてその生前を知るアシスタントデバイスと話ができる事がわかったら彼女はどのような反応を示すのだろう。また、これもテンペストの導きと言って涙を流すのだろうか。

「パトリシアに説明してみるよ」

「よろしく頼む。あとはこれをアルに」

マラキ・ゴーレムはそう言って杖を一本取り出した。

「 石軟化(ソフテンストーン) と 金属軟化(ソフテンメタル) という2つの呪文を使うことのできる杖だ。そなたに何か礼をしたかったのだが、売れそうなものはこれぐらいだ。ここの拠点の強化をさらにする必要があったとしても、まだ予備があるので、安心して受け取ってくれ」

アルは嬉しそうにその杖を受け取った。この2つの呪文はいろいろ試してみたいことがあったし、いろいろと使い道もあるだろう。

「この魔道具は墓の造成に合わせてパラメータを固定しているので、使い勝手はあまり良くないかもしれぬ。もしそうなら、売って 飛行(フライ) 呪文の呪文の書の費用の足しにしてくれてもいいだろう」

「パラメータ?」

アルは怪訝な顔をしたのを見て、マラキ・ゴーレムも首を傾げる。

「パラメータはパラメータだ。呪文を行使する際に必要だろう?」

マラキ・ゴーレムの説明にアルはじっと仮面のようなのっぺりとしたマラキ・ゴーレムの顔を見つめて固まってしまった。

「もしかして……オプションの事……?」

「今ではオプションというのか? 例えば魔法の矢では対象の中心を狙うのか、それとも照準をつけて狙うのか、威力や射程をどうするのかといった事だ」

説明を聞いてアルは思わず笑いだした。マラキ・ゴーレムは一体どうしたのかと尋ねる。だが、アルは長い間笑い続けた。

「そうなんだ。僕が気付いたこと、僕の魔法はおかしい事じゃなかったんだね。昔は逆に僕のやり方が普通だったんだ」

やがて、すこし落ち着いたアルは苦笑いを浮かべつつ、今の魔法使いは皆、パラメータを知らず、呪文の書に書かれている通りのパラメータでのみ使用しているのだと説明した。

「なんと、確かに呪文の書というものは、それぞれの呪文があらかじめこれが一番多い使い方で書かれているのだったな、だが、それを丸憶えして使っているというのか。それでは全く応用が利かず、不便な事もあるだろう。だれも不思議に思わなかったのか」

最初、マラキ・ゴーレムは信じられないとばかりに何度もアルに尋ねる。

「僕には師匠は居なくて、我流で習得したからね、他のみんなはそれが当たり前だと思っているみたいだ」

「なるほど、奇妙な事になっているのだな」

マラキ・ゴーレムは思わずそう呟いた。彼にとってはかなり意外だったらしい。

「うん、でもね、問題があって、パラメータを意識せずに呪文を憶えてしまうと、後からはパラメータを変更してつかうことができないんだ。だからその相手になかなか理解してもらえない」

「なるほどな。しかし、そんなにアルの魔法はおかしいと言われていたのか?」

「ふふ、まぁね。でもいいよ。これから確信をもって、僕の魔法はおかしくてもそれのほうが良いと言えるんだ」

アルは嬉しそうに何度も頷く。きっとエリックやレダが試している事もうまく行く。マラキがそう言ってくれているのだ。そう確信できた。

「杖をありがとう。僕は一旦帰るよ。時間を見つけてできるだけ覗きに来る。ここは、僕が拠点にしている都市からそれほど遠くないからね」

「ああ、わかった。気を付けてな」

アルは手を振ってマラキ・ゴーレムと別れ、辺境都市レスターに向かったのだった。