軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-1 怪しい影

渡し場の町にまで移動した翌日の昼すぎ、昨日まで雨模様であった空はきれいに晴れ上がって気持ちの良い天気であった。気温はもう夏なのではないかと思えるぐらいで暖かいというより暑いに近かった。

渡し場から辺境都市レスターに向かう道をアルは彼が助けたラスとタリーの親子を1頭のロバが曳く小型の荷馬車に乗せ、その横をのんびりと歩いていた。アルと一緒に調査活動を行なっていたバーバラは朝一番で出立したのでもうとっくに辺境都市レスターに着いているに違いなかった。

彼が向かっている辺境都市レスターは丘陵を利用した小高い場所に築かれた都市で、都市の周囲を囲う城壁は無いものの高低差を利用して作られた土塁が多くあり、要所に設置された見張り台は周囲に近づく蛮族や魔獣などがいないかを常に警戒していた。

レイン辺境伯領にある6つの都市の中では1番小さいといわれているが、それでも人口はおよそ6千人を抱えており辺境開拓のために設置された1大拠点であった。岩だらけであった渡し場からの道も川を渡る前とは打って変わって綺麗に整備されている。

「すまねぇなぁ、アルさんよ。またすっかり世話になっちまった。ほんとありがとよぅ」

先ほどからラスは何度も申し訳なさそうにそう呟いていた。息子のタリーは少し苦笑を浮かべながらもその横でのんびりと景色を眺めている。2人ともまだふらついてしっかり歩くことはできないものの、宿で休養をとったおかげで体調は少しは戻ってきているようだ。

「僕のほうがずっと年下なんですから、何度も言うようにさん付けはやめてください。呼び捨てでいいですってば」

「いや、そういってもよぉ……あんたは命の恩人だからなぁ。それに荷馬車の手配とかいろいろしてもらってよぉ」

「捕まってる間、1週間も腐った水しかもらえなかったんだから動けなくても仕方ないでしょ。それにレスターでは格安で宿に泊めてくれるんでしょう? ならこれぐらい大したことないですって」

そのやり取りを横で聞くラスの息子のタリーはアルの事を気持ちの良い、安心できる相手だと感じていた。

助けてもらって以来、彼の父であるラスはずっとアルに礼を言い続けた。そして、彼が辺境都市レスターに来るのは初めてで、冒険者として活動するつもりだという話を聞くと、ずっと無料でうちの宿に泊まってくれたらいいと言い出したのだ。だが、アルはそれではだめだと自分から言い出し、ちゃんと利益がでる範囲で少し割引するという形ではどうかとラスを逆に説得したのだった。また、体力がそこまで戻っておらず仕方なく荷馬車を借りて移動する羽目になった2人にそれなら一緒に宿屋に行こうとも言ってくれた。

やがて道の先に都市の入り口を守る土塁と門、その横に立つ見張り台が見えてきた。門を越えれば広場があり店がならぶ街区だ。2人が営む宿屋までもそれほど遠くない距離であった。荷馬車が近づいていくにつれ、その門の近くに2人の女性が立っているのが見えた。1人は40代前半、もう1人は10代半ばといった年ごろだろう。その2人は荷馬車が近づいてきて、その上に座っているラスとタリーに気が付くと大急ぎで駆け寄ってきた。

「あなたっ、タリー!」「パパ、兄さん!」

ラスとタリーはアルに手を貸してもらいながらなんとか荷馬車から降りた。そして駆け寄ってきた2人と固く抱き合った。態度と話しぶりからして彼女たちはラスの妻と娘であると思われた。ラスとタリーが無事であるというのは衛兵隊から連絡が行ったのかもしれない。彼女たちもラスやタリー程ではないにしろ心労のせいかひどく痩せていた。妻の方は黒髪、娘は父親と同じ濃いブラウンの髪という差はあったが全体的な雰囲気はよく似たなかなかの美人であった。

「心配かけたな、悪かった」

「無事でよかった。あなたをさらったっていうへんな手紙が入った時にはびっくりしたのよ」

「くそ、盗賊め、そんなことをしてやがったのか。心配かけて悪かったな……」

「衛兵隊に連絡したらパパか兄さんを殺すって書いてあって……」

4人はお互いを労い合い、無事を祝いあった。漏れ聞こえてきた話によるとラスの妻の名前はローレイン、娘でタリーの妹の名前はアイリスというらしい。

数日前に彼女たちの許に身代金を要求する脅迫の手紙が届き、店に残っていた彼女たちは苦悩の日々を過ごしていたようだった。ぼんやりとそのやりとりを聞いていたアルはふと物陰でこちらの様子を見ている2人組の男たちに気が付いた。彼らは2人とも身長は170㎝ぐらいで少し細身、服装はかなり崩れている。その2人組はちらちらと4人の様子を見ながらなにか小声で話し合っているようだった。アルはその様子になんとなく嫌な感じを受けた。

「ラスさん、タリーさん ちょっと急な用事ができた。先に行ってもらって良いかな?」

「え? ん? ちょ、ちょっと待っ―――」

「詳しいことは後で、用事が済んだら宿屋に行く……」

2人組はその場を立ち去ろうと歩き始めた。アルは何か言い始めたタリーを軽く手で制し、背負い袋を半ば無理やり彼に預けると彼らを尾行し始めた。なんとなくではあるが、タイミングを考えるとラスの家族を監視し恐喝の手紙を送っていた連中ではないかと考えたのだ。

血みどろ盗賊団自体は既に壊滅しているのでもう大丈夫かもしれないが、放置しておくのも不安であった。とは言え都市の中で想像だけで手を出すわけにもいかない。住処を見つけて衛兵隊に通報すべきだろう。

そんなことを考えながらしばらく尾行を続けているとそのうち2人組は急に細い角を曲がった。土地鑑のない所での尾行は難しい。これは気付かれたかと焦りながら彼らを追って同じように曲がる。2人組の男はそこでアルを待ち構えるようにして立っていた。

「……」

彼は軽くため息をついて周囲を見回した。追跡に必死になっていて気が付けば彼ら以外には周囲に人気はない。路地裏で壁がところどころ崩れており、周囲にはゴミが散乱していた。

「このあたりじゃ見ない顔だが、ガキが何か用かい?」

2人組のうち、黒いシャツを着ているほうの男がそう聞いてきた。もう1人茶色のシャツを着ている男の方は周囲を警戒している様子であった。2人とも腰の小剣に手をかけている。

「っと、ちょっと道に迷ったんですよ。誰かについていけば大通りに戻れるかなーって思って……黙ってついてきて悪か―――」

その言葉が終わらないうちに黒いシャツの男が斬りつけてきた。

『 閃光(フラッシュ) 』

アルは後ろに飛び退きながら掌を突き出した。まばゆい光が放たれ、男たちはあわてて目を庇った。アルはその隙に壁際に走った。

『 幻覚(イリュージョン) 』 -壁

男たちの視力が戻って周囲を見回した時にはアルの姿は見えなくなっていた。正確には崩れた壁に身体を押し付けてその上に幻覚による壁でカモフラージュすることによって姿を隠していたのだ。それには気づかぬ2人は周囲を見回した。

「どこに行きやがった? そっちはいねえか?」「いや、いねぇ、あっちか?」

物陰にでも隠れたのかと2人は周囲を探し回った。だが彼の姿は見当たらない。2人は首を傾げた。

「くそっ、あいつ、魔法を使いやがった。ということはお頭みたいに呪文で姿を隠したのか?」

「連絡がねぇ上に2人が帰ってきたってことは、ドジ踏みやがったな」

彼らはしばらく何か罵り続けていたが、結局どうしようもないという結論に達したらしい。

「どうしようもねぇな……」

「ああ、そうだな……」

彼らはそう言ってお互い顔を見合わせるとその場を去っていったのだった。