軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8-8 墓所探索 後編

ゾンビを倒した後、闇の中で気配を消すようにしゃがんでいたアルはしばらくして立ち上がった。ゴーストに触れられて痺れたようになっていた左腕をゆっくりと動かす。感覚がなくなったのは一時的なもので済んだようで、アルは安堵のため息を漏らした。あれが、噂に聞いたことのある“チルタッチ”と呼ばれるゴーストの技なのだろう。心の中に浮かんだ寂しいという思い、あの思いに支配されてしまえばどのようになってしまったのだろう。アルはその恐怖を振り払うように頭を軽く振って大きく背伸びをした。深呼吸をして気持ちを切り替えた。

念のために背負い袋の中の聖水の瓶の減り具合を確認する。それほど減ってはいないようだ。インクで描くときと同じように1度の 噴射(スプレー) ではそれほど使うものではないらしい。警戒しながらゾンビの死骸に向かって歩き始めた。

“アリュ、帰らないの?”

耳元でグリィの声がする。

「うーん、倒し方も分かったからね。古代遺跡を作った人たちの話を聞いてから見て回る機会なんて2度とない。可能なら今後の為にも探索しておかないとさ」

“そうなんだ……”

グリィの声は少し不安そうであった。だが、アルは自らが倒したゾンビの死骸を道の脇に寄せ、胸に手をやって彼らの平安を祈ると、探索に戻ったのだった。

広間から先は山全体を使った立体迷宮となっていた。飛び出してくる槍や落とし穴などの罠も多い。あらかじめ正しい道を聞いていなければどれほど時間がかかったのかわからない程の広さであった。

盗掘者の死骸らしきものもところどころにある。それらの死骸を見つける度にそれの額に二重丸に縦棒という運命の女神ルウドの紋を 噴射(スプレー) 呪文を使って聖水で描いて平安を祈る。ゾンビやゴーストに遭遇したこともあったが、対処方法がわかったのでそれほど苦戦はせず処理することが出来たのだった。

立体迷宮を1時間ほど進んだだろうか。ずっと闇の中を進んでいたアルの行く先に揺らめくランプの明かりらしきものが見えた。事前に聞いた情報からするとまだ野外に出るような場所ではない。ランプの明かり、それはすなわち盗掘者ということだろう。

アルはあわてて身をかがめると、 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文を使った。久しぶりの使用で、すこし不安ではあったが、前回の時のような眩暈が起こることは無かった。やはりあの時は長い間使用し続けたせいだろう。いつでも逃げられるように態勢を整え、盗掘者たちの中に魔法使いが居ない事を祈りつつ、 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文の透明な眼をランプの明かりにゆっくりと近づけていく。

近づいていくとランプの明かりの数はかなり多いようであった。通路の先は一辺が30メートルほどもある広い部屋で、最初にゾンビやゴーストと遭遇したのと同じような部屋であった。そこに大きいテントが5つ張られている。まるで野営地のようであった。テントの中は見えないが、外に居るだけでもなんと50人近い人間が居た。それも盗賊団などではなく、きちんとした身なりの騎士団か衛兵隊といった様子である。

それらのテントのすぐ横には紋章の描かれた旗まで掲げられていた。いくつか旗があり、描かれた紋章のほとんどはアルが知らないものであったが、中に2つ、アルも知っている旗があった。一番上に掲げられた四色旗、四角を対角線で区切り、上から右回りに水色、白、赤、白と描かれた旗、テンペスト王国の旗、そして緑の四角の中に黄色の丸が描かれた太陽神ピロスの旗である。

つまり、この事は、この集団がテンペスト王国に所属する騎士団か衛兵隊であり、太陽神ピロスの神殿も関わっているということらしい。盗掘とはレベルの違う話なのだろう。だが、国と神殿が一つの墓に関わるというのはどういうことなのか。ここがテンペスト王国の先祖である魔法使いテンペストの墓だという事を知らないのだろうか。もしかしたらこの墓所から 不死者(アンデッド) たちが出没して、それを退治しに来たというのかもしれない。それとも別の理由があるのだろうか。

もう少し情報を集めたかったが、 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文では会話などを聞くことはできないし、騎士団だとすれば魔法使いが帯同している可能性も十分にあるので、あまり近寄らせると発見されるリスクが高くなる。アルはこれ以上調べるのは危険と考えた。それよりはマラキと相談するほうが先だろう。 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文の眼を消すと、アルは来た道を急いで戻り始めた。

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「……という感じなんだよ」

アルは息せききって墓室に入ると、急いでマラキのアシスタントデバイスに触れ、今まで見てきたことを話した。マラキは驚き、強く落胆した。

“テンペスト王国の末裔がテンペスト様の墓を穢そうとするとは……”

「どうする? 迷宮部分で諦めてくれるといいんだけど」

立体迷宮の中にはダミーの墓室も設置されていた。それをみつけて探索を打ち切りにする可能性もある。最終防衛ラインとして守護ゴーレムもあるので、そこで撃退できる可能性もあるかもしれない。

マラキはどうするかしばらく考えていた。だが、最後にはこういった。

“相手がテンペスト王国の者であるというのなら、争うのは本意ではない。それに、たとえ抗ったとしても、時間稼ぎにしかならぬだろう。アル、せっかくテンペスト様が作った墓所であるが、私は移動したいと思う。以前、友人の身体を運んでいた呪文があったな。あれでテンペスト様の遺体を運んでくれぬか? それと、どこか人目を避けることのできる場所に心当たりはないか?”