軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7-7 疲労

ムツアシドラとの戦いが終わった頃には、密林の中はかなり暗くなっていた。アル自身はまだ 知覚強化(センソリーブースト) 呪文の効果は切れてはいないので見えているが、他の3人はかなり見えにくくなっているだろう。アルはオーソンに近づくと、受け入れてねと言ってから 知覚強化(センソリーブースト) 呪文を唱えようした。だが、そこで急に眩暈がして思わず膝をついた。

「アル、どうした?」

怪我をしていたのかとオーソンが慌てて支えようとする。

「ん、ちょっと魔法を使おうと思ったらめまいが……」

「魔法を使い過ぎたか?」

アルは首を傾げた。以前、エリックのところで仕事をする際に、 光(ライト) 呪文はいくつぐらい同時に灯せるか試したことがあった。その時には同時に灯す数をある程度越えたところで急に呪文の成功率が下がったが、めまいまでは起きなかった。とはいえ、 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文を連続で使い、珍しく疲労を感じていたというのは確かだ。

「かもしれない……。でも、とりあえず移動しないとイシナゲボンゴが……」

ふらつくのを堪えつつ逃げてきた方向を見る。後ろから追ってくる姿は見えなかった。今は死骸になっているムツアシドラを恐れて近寄っては来ないのか。

「ムツアシドラの毛皮は高く売れるかもしれん。あと牙とかもな。臭いは気になるが、なんとか解体したいけどな」

体長6mを超える巨体だ。皮を剥ぐとなると大仕事となる。恐れて魔獣などが近寄ってこないのなら、交代で仮眠をとりながら作業はできるかもしれない。とはいえ、呪文がつかえないのなら、篝火などをたいて周囲を明るく照らす必要はあるだろう。

「とりあえず、少し休憩をとって、30分ぐらいしてからもっかい試してみるよ」

「そうだな。その間に簡単に腹ごしらえをしておこう。あと、念のため松明を使えるように用意はしておくか」

オーソンは巨大なムツアシドラの死骸から少し離れたところで座る場所を見繕い、木の陰となるところを選んで小さな焚火を熾した。火は遠くからでもよく目立つ。できれば知覚強化の暗視のみにして火を熾すのは避けたいところであったが、魔法が使えない可能性があると考えれば仕方がなかった。

周囲はあっというまに真っ暗になり、4人はその小さな焚火の明かりを頼りに自分の荷物から干しブドウや干し肉、パンといった食料を取り出すと、齧り始めた。

「最悪、このまま夜を明かすか? ここで血の臭いを嗅ぎつけて来るとすればなんだろうな」

マドックが考え込みながら言い、水筒から水を一口すすった。

「そうだな、イシナゲボンゴは明るくなるまでは寄ってこないだろう。もちろん虫とかは集まって来るだろうが、夜の間だけなら大丈夫かもな」

オーソンが考えながら答える。密林の中で腐肉を漁る生き物として彼が思いつくのはクロオオアリやアカオニアリ、シデムシといった昆虫類ぐらいだった。

「じゃぁ、アルが魔法を使えるようになるまでは明るくなるまでここで過ごそっか」

「ごめんね、魔法を使うのにこんなになったのは初めてだ」

ナイジェラの言葉にアルが頭を掻く。彼女は軽く首を振って気にすることはないわと微笑んだ。

「魔法使いの連中はいつももったいぶって呪文を使ってるが、実はこういうのもあるからなのかね。アルはサービスしすぎなんだろ。こんな事にあるなんて、思ってもなかったが、めまいを起こすまでアルに頼り切っちまってたって事だ。悪かった。疲れた時には今度から早めに言ってくれ」

オーソンがそう言って、頭を下げる。アルはあわてて首を振った。

「コントロールできなかったのは僕がまだまだ未熟なせいだよ。以前の護衛の仕事でも、エリック様たちは一日中、馬車の中で 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文を使ってたから大丈夫だと思ったんだ」

こんなに長い間、ずっと浮遊眼をつかって周囲を警戒していたのは初めてだった。ナレシュたちとの行軍の時には止まった時に時折使うという感じだったのだ。もしかしたら、眼をそれほど長い間移動させなければそれほど疲れないのかもしれない。今度、エリックに会うことがあれば聞いてみよう。

「まぁ、少しずつ慣れればいいさ」

オーソンはパンを齧ってゆっくりと噛んだ。その様子をみてマドックが微笑む。

「だいぶ、調子が戻ってきたみたいだな」

「ん?」

「いや、すまん。一時期は拗ねたみたいに1人で居たからよ。心配してたんだ。安心したよ」

マドックは、オーソンが去年大けがをした後、しばらくの間一人で狩りなどをしているのを気にしていたらしい。拗ねたみたいにと言われて、オーソンは苦笑いを浮かべる。

「大人げない話だが、そうだったのかも知れねぇな。怪我から復帰しても足をひきずらないといけないってのは痛かったし、治療中にブレアが別の仲間とつるんでたとか色々あったからな」

「そうそう、どうしてブレアとは別れたんだ? あれだけ一生懸命教えてやってたじゃねぇか」

ブレア、と聞いてアルは首をひねった。そういえば、オオグチトカゲを狩ったときにブレアという男とはすれ違った気がする。かなり挑発的な事を言っていたのに、結局、ほとんど狩れずにかわいそうな事になっていた。

「それはな……」

そこでオーソンはことばを切った。

「無理には言わなくていいよ」

ナイジェラの言葉に軽く首を振った。

「まぁ、アルやお前さんたちにはそのうち喋ろうと思ってたんだ。なんてことない。当時はいろいろ考えたが、後から考えれば、その前から行き違いはあったのさ。その時には思わなかっただけでな。ブレアはもっと仲間を集めて傭兵団みたいにしてぇと言ってた。俺はそういうのは面倒だから嫌だったんだ。人が増えると、要らねぇ規則も増える。窮屈になるからな」

オーソンはそこまで言うと、干し肉を齧った。

「その怪我は教会に行っても無理なの?」

ナイジェラが尋ねた。部位欠損などは教会に行って神聖呪文とよばれる魔法を使えば治るという噂はアルも聞いたことがあった。だが、オーソンが行っていないところを見ると噂だけなのかと思っていた。オーソンはその問いには苦笑いをうかべて首を振る。

「高位貴族の口添えがあれば、領都に居る司教様にお願いして治してもらえるかもって話だったよ。あとは100金貨ぐらい寄付をすれば或いは頼めるかもしれないだってよ。100金貨で“かもしれない”って言われてもなぁ」

神聖呪文でも治療可能かどうかは確実ではないのか。それだとしても治療が可能なら僕なら……。アルはそう思ったが口に出すのはやめた。オーソンが決める事だ。

「そろそろ、呪文が使えないか試してみるね……ごはんを食べて少し休憩出来た気もするんだ。 知覚強化(センソリーブースト) するからちゃんと受け入れてよ?」

「ああ、わかってる。無理するなよ」

アルはオーソンの肩に触れた。

『 知覚強化(センソリーブースト) 』 -視覚強化 暗視 接触付与

幸いめまいは起きなかった。オーソンは軽く目を見開いて周囲をみている。その様子を見ると、効果はちゃんと得られたのだろう。

「大丈夫そうだね。でも申し訳ないけど最低限ってことで、 知覚強化(センソリーブースト) だけにしておくね。次はマドックかな。ちゃんと受け入れるっていう気持ちを忘れないで。それと1時間ぐらいで切れるから注意してね」

アルは念押ししながらマドック、ナイジェラにも続けて 知覚強化(センソリーブースト) をしてゆく。

「ああ、助かる。じゃぁ、とりあえず3人で解体作業をしよう。アルはしばらく休んどけ」

オーソンたちは立ち上がった。マドック、ナイジェラも頷き、手に持っていた水筒などをしまい込むと立ち上がった。