軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7-5 ジベチヌス

2日後、目印となる岩から支流に入って1時間ほど経った頃だろうか。細い支流はコケのようなものに覆われ、周囲は鬱蒼とした密林である。強かった日差しはアルたちのいるところまでは届いておらず、昼前ぐらいの時間であるにも関わらずすこし薄暗い。だが、周囲はむっとした熱気に満ちていた。先頭を歩くアルのすぐ後ろで、例によって 運搬(キャリアー) 呪文で作られた椅子に座って周囲を見回していたオーソンが斜め右上の方角を指さした。

「あった、あの実。間違いない」

オーソンの指がさす先には、10センチほどの楕円形の塊が1本の木から20個ほどぶら下がっていた。色は全体的に灰緑色でトゲが全面を覆っている。

「あれが目的地?」

「まぁ、そうだな。あれはジベチヌスっていう木だ。ジベチヌスっていうのは領都の東の森にしか生えていないはずなんだが、何故かこのあたりにも生えてる。それを探してたのさ」

オーソンの答えにアルは首を傾げた。レインドロップを探しに来たのではなかったのか? どうして、ジベチヌスとかいう木を探しているのだろう。

「そんな顔で見るなよ。そのジベチヌスの木の周りの土の中でだけレインドロップが採れるんだ。それも人間が植えたのじゃなく、自然に生えてるジベチヌスの周りだけって話だ。レインドロップが発見されてから、いろんな連中がジベチヌスの木を自分の畑に植えたりして試したが、レインドロップは採れねぇらしい」

「自然というと、ここのジベチヌスでも採れる?」

オーソンはにっこりと微笑んで勿論と頷く。

「よくそんなの知ってたな」

マドックが感心したように呟いた。

「昔、領都でジベチヌスの実を売ってる屋台があってな。そこのばあさんに聞いたんだよ。まぁ、詳しい話はまた後だ。行こうぜ」

オーソンが焦れたように促した。4人は足早にジベチヌスの木に近づいていく。

「ちょっと待って……」

木まで30メートルぐらいまで近づいたところで、アルは横に手をだして皆を制止した。すぐ近くの枝の上に茶色い毛皮に覆われた何かが居たのだ。イシナゲボンゴかもしれないが、緑が濃くてよく見えない。もし群れが居るとすると厄介だ。昨日も一度森の中でみつけて慌てて隠れやり過ごしたが、50体を超える群れが一斉に移動するのはかなり迫力があった。小声で何か見つけたと他の3人に告げると身近な木の陰に移動する。

「ちょっと待ってね」

『 知覚強化(センソリーブースト) 』

『 浮遊眼(フローティングアイ) 』

アルは 浮遊眼(フローティングアイ) を移動させとりあえず茶色い毛皮の正体を確認することにした。透明な眼は見つかることなく近づいてゆく。相手はやはり人間の大人程のサイズの猿の魔獣、イシナゲボンゴであった。すでにアルたちに気が付いているようで、姿を隠している木の陰をじっと見つめていた。だが、そのイシナゲボンゴは1体だけで、群れの他のイシナゲボンゴの姿は見当たらない。

「1体だけだね。とりあえず、周囲を確認してみる」

浮遊眼(フローティングアイ) の高度を上げて一度木々の上に出る。高さは30mほどだ。そこには鳥と小さい猿かネズミらしきものが居ただけだった。身体が大きいものは樹冠までは登らないのかもしれない。高さを徐々に下げて探してみるが、周囲にはやはり他のイシナゲボンゴの姿はなかった。

「群れからはぐれたやつかもしれないな。1体なら問題ないんだが」

「大丈夫か? 仲間を呼んだりとかしないのか?」

オーソンが周囲を見回しながら呟く。その横でマドックは不安そうだ。

「近くに群れが居ないなら、さっさと倒せば大丈夫じゃない? 大声を上げたら逃げ出せばいいし、あまり難しく考えなくてもいいと思うよ」

ナイジェラの言葉にオーソンが頷いた。そうだなとマドックも呟く。

「じゃぁ、近づくぞ。1体の強さはリザードマンぐらいだと聞いたことがある。いけそうならナイジェラとアルは攻撃してくれ。マドックは盾で2人をガード。俺は一番後ろで周囲の警戒をする」

オーソンはアルの椅子から飛び降りると剣を抜いた。ナイジェラは剣から背負っていた弓に持ち替えて矢をつがえる。マドックが大きな盾を構えて先頭を歩く。距離を伸ばせば撃てないことは無いが、一撃で仕留めるのならもう少し近づきたいところだ。

徐々に近づいていく。距離で30メートルは確実に切っただろう。アルとナイジェラはお互い頷き合った。ナイジェラが姿勢を正して弓を引く。それと同時にアルは 魔法の矢(マジックミサイル) 呪文を唱える。

ナイジェラの放った矢とアルの手から放たれた青白く光る 魔法の矢(マジックミサイル) が続けざまにイシナゲボンゴの身体に突き立った。悲鳴を上げる事なく、イシナゲボンゴはどさりと地面に落ちた。

「やった」「やったね」

周囲を見回し特になにも起こらないことを確認して、アルたちは落下したイシナゲボンゴに近づく。猿の魔獣は完全に死んでいるようでピクリとも動かない。

「この死骸はどうする? 魔獣だとしても猿はあまり食う気にはなれないな。埋めるで良いか?」

なんでも食べそうなマドックではあるが、猿には食欲が湧かないらしい。

「ああ、イシナゲボンゴは討伐依頼も出てないからな。このあたりは蛮族も見かけないし、軽く土をかぶせればいいだろう。それよりレインドロップだ」

人間に害をなす蛮族や魔獣は統治者から報奨金が出るが、イシナゲボンゴはそういうのもないらしい。オーソンは地面を探し始めた。その横でアルはナイフを抜いてイシナゲボンゴの毛を切り取り始めた。

「どうしたんだ。毛を何かに使うのか?」

マドックが不思議そうに問う。

「うん、まだ使うことはできないんだけど、 動物(アニマル) 変身(トランスフォーメーション) って呪文を手に入れてね。それを使って変身できるのは、実際に見たことがあり、かつその見たことがある個体の体組織の一部を使って登録儀式を行ったもののみらしいんだよ。イシナゲボンゴって魔獣だと言われてるけど、どうみても動物じゃない? だから、呪文が使えるようになったら、登録儀式を試してみたいなって思って……」

「へぇ、なるほどな」

「お、あったぞ」

大きな石をひっくり返したオーソンがその下を指さした。そこには鳥の卵ほどの大きさの青白いものが20個ほど、1列にきれいに並んでいた。

「おー、これがレインドロップか」

「ああ、必ず見つかるわけでもないんだが、幸先良いな。20個か、出発する前に冒険者ギルドで聞いたら買取価格は1つ30銀貨だった。これで6金貨になる計算だ。このあたりにはまだまだジベチヌスの木があるはずだ。頑張って探すぜ」

オーソンの言葉にアルたち3人は大きく頷いたのだった。