軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4-15 介抱

用意してもらった村外れに近い小さな家でルエラが意識を取り戻したのは、その日の夕刻であった。ケーンは内政官としての仕事に戻っていたので、薬師の女性以外にその家に居たのはアルだけであった。

「よかった!」

薬師の女性に呼ばれたアルはベッドに横たわる彼女に急いで駆け寄った。

「あれ? アルフレッド君? どうしてここに……? って、ここは?」

彼女はまだふんわりとした感じで今自分がどこに居るのかよくわかっていない様子であった。意識もまだぼんやりしているようである。

「ここは開拓村のローランドだよ。大丈夫かい? 痛い所はない?」

「!」

はっとした表情で彼女は身体を起こした。シーツがめくれ上がる。彼女は質素な薄いベージュのリネンの服を身に着けていた。おそらく薬師の女性が着替えさせてくれたのだろうが、自分が知らない服を着ているせいだろう。焦った様子で自分の身体を確かめている。

「大丈夫ですよ。心配されるようなことはありませんでした。これは薬湯です。少しお飲みください」

彼女の不安を察した様子で薬師の女性がそういって声をかけた。ルエラは彼女をじっと見た。

「あなたは誰? アルフレッド君がどうしてここに居るの? ローランド村ってどこ??」

パニックになりかけているルエラをアルと薬師の女性の2人は懸命になだめた。ルエラは次第に落ち着きを取り戻す。アルはその具合を見ながら、彼女を見つけた経緯やどのように救出したかと言った事を説明したのだった。

「そうだったのね……。アルフレッド君、ありがとう。あなたも……ありがとう」

しばらく考え込んでいたルエラは薬師の女性から木の椀を受け取った。ゆっくりと薬湯を飲む。彼女はにっこりと微笑むと立ち上がった。

「ジョナス様とケーン様に声をかけてきます」

薬師の女性はそう言って部屋を出ていく。アルは彼女が出て行ったことを確かめてルエラのベッドの脇の椅子に腰を下ろした。

「一応、出来る限りこの話は知られない様に努力したつもりだから安心してほしい」

ルエラは最初どういうことかわからないという顔をしていたが、すぐに何かに思い至ったようにアルの顔を凝視した。

「えっ? 嘘っ 心配したことは何もなかったって言ったじゃない」

そういって、ルエラは自分で自分の身体を抱くようにした。アルは慌てて首を振る。

「ああ、ごめん、違うんだ。そういう意味じゃない。何もなくても変な噂になると困ると思ってさ。大丈夫かもしれないけど念のために……ね」

そう聞いてルエラは大きく安堵のため息をついた。目を瞑り、ゆっくりと頷く。

「そうね、そういう心配は常にあるわ。本当にありがとう」

アルはにっこりと微笑んだ。そして、ケーンがレビ商会に連絡をしているので、おそらく明後日隊商がこの村を出発するまでには何らかの連絡があるだろうというと大いに安心したような表情を浮かべたのだった。

「いろいろと考えてくれたのね」

ルエラは空になった木の椀をアルに渡すと、疲れたのかぐったりとなってベッドにもたれた。

「もしよかったら、どうして 木箱(チェスト) の中に詰められていたのか、思いだせる範囲でいいから話してくれない?」

「そうね……」

彼女はぽつりぽつりと話を始めた。彼女が襲われたのはアルたちが出発した前日だったらしい。召使の女性を連れて買い物に出た彼女は途中で老婆に道を尋ねられ、請われるままに道案内をして人気の少ない路地に入ってしまったのだという。そこで急に身体がうごかなくなり、焦っていると背後から何か布のようなものをかぶせられ、狭い所に押し込められたのだという。その時点で彼女は犯人の顔は見れていなかったようだった。

それからしばらくの間、狭い所に押し込められて移動したらしい。その後布が解かれたのはおそらく街の外だった。屋外で二人組の男に脅かされ、無理やりどろっとした妙に甘く舌がピリピリする液体を飲まされたらしい。それ以降はすぐにぼんやりとしてしまいどうなったのかはよくわからなくなったということだった。

「襲われたのは騎士や名の通った商店の店主が多く住む住宅街だったわ。昼間だというのもあって、私も油断してたのね」

ルエラは悔しそうにつぶやいた。薬を飲ませた2人組の特徴を聞くとヴァンとヴァーデンであったようだ。念のために老婆の特徴も確認しておく。

「無事でよかったよ。あまり抵抗していたら怪我していたかもしれない」

アルの言葉にルエラは力なく首を振った。

「脅かさないで」

「ん、ごめんなさい。少し休むと良い。この隊商に同行している衛兵隊のジョナス卿が話を聞きたがっていたから、今の話をしておいてもいいかい?」

「うん、お願い。少し眠るわ」

そのままルエラは寝てしまった。少し顔色はよくなったような気がした。しばらくして薬師の女性が帰ってきてジョナス卿は忙しくすぐには来られないと告げられると、彼女にルエラをお願いして部屋を出たのだった。

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翌早朝、ルエラが保護されている小さな家のソファで寝ていたアルは近づいてくる数人の足音で目を覚ました。足音に警戒したアルであったが、窓の鎧戸の隙間から覗いたその集団の中に見知った顔をみつけて安心したのだった。

「おはようございます。バーバラさん」

彼女は以前逃亡した血みどろ盗賊団を一緒に追跡したレビ商会に雇われている女性冒険者であった。他に3人居たがそのうち1人にも見覚えがある。おそらく信用してよさそうだ。

「やぁ、アル、ケーン様から連絡を受けて馬を飛ばしてきたよ」

彼女は、先遣隊として夜を徹して辺境を駆けてきたらしい。よく無事で到着できたものだとアルは感心した。

「それぐらいは大したことじゃないさ。で、ルエラ様の事だけど……」

アルはバーバラたちを家の中に迎え入れた。彼女は奥の部屋で寝ているルエラをそっと覗いて安心した様子であった。お互いの情報を交換する。彼女の話によると、ルエラが買い物に行って帰らないというのでレビ商会の内部では大騒ぎになっていたらしい。だが、レスター子爵の次男であるナレシュとの婚約の話もあることから行方不明の事は公にはできなかったという事だった。

「本当にありがとよ。もちろんルエラ様の命が助かっただけでもありがたい話ではあったけどさ。ルエラ様は年頃だ。いろいろあるじゃないか。今の話を聞けば会頭は大きく安堵するだろう」

バーバラは大きく頷いた。アルも面倒な配慮は役に立ったようだと安堵したのだった。

「僕やケーンはルエラさんとは同じクラスだったからね。よかったよ。これからどうするの?」

「ああ、ルエラ様については、治療もできるのを連れてきたし、警護も交代でするから安心してくれていい。あたしはこれからジョナス卿と話し合うつもりさ。アルたちが捕まえてくれた3人の他にも協力者が居るだろうから。そっちはあたしたちで処理したいって申し出ることになるだろうね」

さすがレビ商会というところだろう。彼女は自分の事を先遣隊と言っていた。おそらく後からかなりの人数が来るに違いない。ルエラの救助まではしなくても大丈夫だったかもしれないが、任せて魔法使いを逃がした可能性もあったと考えると役に立ったはずだ。

「あの2人は⦅赤顔の羊⦆亭の店主を攫って身代金を脅し取ろうとした事もあるからしっかりと追及しておいてほしいんだ。それと、これはジョナス卿には言いそびれてたんだけど、3人の目的地はオークレー村かもしれない。一番最後だなってしゃべっていたのを聞いたんだ」

一応知っている情報をバーバラには伝えておく。少しは役に立つかもしれない。

「情報ありがとうよ。しっかりと確認をさせてもらうよ。アルはエリック様のところで護衛の仕事で今回は隊商に参加していると聞いたけど間違いない?」

アルは頷く。2人組の話からこのような騒動になったが、彼らを捕まえた今となってはおそらく元の仕事に戻ることになるだろう。ヒツジクイオオワシのような魔獣の襲撃がもう無ければ良いのだが……。

「とりあえず、レビ商会からは非常に助かったという評価を上げておくよ。護衛の仕事の報酬にも少しは上乗せされるはずさ。それとレスターに着いたら私を訪ねてくると良い。今回の礼もたっぷり貰えるようにレビ会頭には交渉しておいてあげるからね」

ありがたい話だ。本来であれば見習いとして報酬は銀貨30枚と聞いていたが、もうちょっともらえるかもしれない。金貨1枚ぐらいになればうれしいなとアルは思ったのだった。