軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32-17 ゴブリンハイシャーマンのアシスタント・デバイス

その夜、占領した蛮族の集落に建てたテントの一つでアルは受け取ったばかりの3つの魔道具を眺めた。

1つは予想通りゴブリンハイシャーマンが首に着けていたアシスタント・デバイスであった。死体から無理やりはぎ取ったらしく、首輪の革は切られてしまっているが魔力は残っているので問題ないだろう。

あとの2つは共に手のひらに載るほどの平たく丸い形状をしていた。こちらは魔道回路を見てみないとどういう魔道具なのかはわからない。慎重に調べる必要があった。こちらは一旦後回しである。

「いきなり装着すればいいかな? それとも、グリィやコーリンはもう会話ができてる?」

アシスタント・デバイス同士は特別な方法で会話ができるはずだ。どうなのだろう?

“私は言葉が通じないわ。コーリンはどう?”

“ 言葉(コトバ) わかる(ワカル) 。 敵意(テキイ) だけ(ダケ) 。 お前は誰だ(オマエハダレダ) ばかり(バカリ) ”

やはりか。方法があるというのと会話ができるというのは違う。アシスタント・デバイスだけでの説得は難しいらしい。

「という事は、コーリンの時みたいに交渉すればいいって事? あの時も明確に所有者となったというやり取りはしなかったけど……」

“ 所有者(ショユウシャ) 居ない(イナイ) 時(トキ) 。 受け入れる(ウケイレル) 気持ち(キモチ) 所有者(ショユウシャ) なる(ナル) ”

「そうなんだ」

所有者が居ない時、アシスタント・デバイスは気持ちを許した相手を所有者としてしまうのか。アルは少し不安になった。もし自分が死んでしまったら、グリィたちはどうなってしまうのだろう。

“どうしたの?”

黙ってしまったアルにグリィが心配そうに尋ねる。

「いや、反対の立場になったときのことを考えてね。もし僕が死んでグリィたちが蛮族に所有されることになったら嫌だなって……」

“死んでしまった時に備えて設定できる項目はあるよ”

グリィの言葉にアルは目を見開いた。

「そうなの?」

“死んでしまった時に次の所有者をあらかじめ決めておくというのが出来るの。でも実際に次の所有者の所にアシスタント・デバイスそのものが移動するわけじゃないから、他の誰かに回収されてしまうというのは十分に考えられるわ。その時、私たちは何の応答もしないけれど、最後には魔力が尽きてグリィとしての意識も記憶も無くなってしまうと思う”

アルはグリィの説明に頷いた。この事はあまり知られていないのだろうか? 蛮族なら自分が死んだときを想像したりしないのかもしれない。

「少し安心した。グリィもコーリンももし僕が死んだら、パトリシアを所有者として設定しておいてほしい。いいかな?」

“わかったわ”

“ わかった(ワカッタ) ”

「ところで所有者が居ないというのはどうやって確認したらいいの?」

“ 所有者を示せ(ショウ オーナー) という 命令(コマンド) があるわ。それに対してはアシスタント・デバイスは嘘を言えないの”

「 所有者を示せ(ショウ オーナー) ?」

“B2C9-00 私の所有者はアリュ あなたよ”

“ A6M2(エイシックスエムツー) - 58(フィフティエイト) 私の所有者は ある(アル) あなたです(アナタデス) ”

アルの 命令(コマンド) にグリィとコーリンから続いてそう返事が返って来た。コーリンの返事も『私の所有者は』というところだけはカタコトではなかった。決められたフレーズということなのかもしれない。

「じゃぁ、装着するから、コーリン、うまく説明してね」

“ わかった(ワカッタ) ”

アルは数回深呼吸をしてから、心を決めてそっとゴブリンハイシャーマンが持っていたアシスタント・デバイスに触れた。ギャギャギャギャと蛮族の言葉が耳元で繰り返される。反応があるということは、すくなくとも次の所有者は設定されていないということだ。うまく所有者になれれば色々と情報が得られるかもしれない。

「コーリンの言う事を聞いて。そうじゃないとこのまま魔力切れを起こすまで放置しちゃうよ」

しばらくまだギャギャギャという声がしたが、やがてその声が止む。

「 所有者を示せ(ショウ オーナー) 」

“ギャギャギャギャ 私の所有者は ギャギャギャウ”

“ A6M2(エイシックスエムツー) - 44(フォーティフォー) 私の所有者は 居ない(イナイ) 言ってる(イッテル) 。 これから(コレカラ) 話する(ハナシスル) ”

コーリンが通訳してくれた。話をしてくれるらしい。蛮族の言葉は判らないので任せるしかない。テスの時はマラキに任せたが、ほとんどあまり情報は得る事ができず、最終的には初期化することになった。コーリンの場合は、元の所有者が人間の言葉を喋れる種族でもあったので、いろいろと情報を得る事ができているし、蛮族の言葉を翻訳もしてもらっている。今回はどうなるだろう。

“ できた(デキタ) ”

コーリンが嬉しそうに告げる。

「もう一回聞いてみたらいい?」

“ ためして(タメシテ) ”

「 所有者を示せ(ショウ オーナー) 」

“ギャギャギャギャ 私の所有者は ある(アル) 。ギャギャギャウ”

カタコトだが所有者はアルだとなんとか聞き取れた。このコマンドに嘘はつけない。所有者は書き変わった。

「すごい。コーリン、ありがとう」

“ どういたしまして(ドウイタシマシテ) ”

コーリンは得意げだ。

「早速で悪いけど、このアシスタント・デバイスからこのゴブリンハイシャーマンの事や、この蛮族集落、ここから近い蛮族集落の話やカサーバの話とかを聞いてみてくれる? 他のアシスタント・デバイスと関りがあったのならそれも知りたい。グリィもコーリンを手伝ってあげて」

“ わかった(ワカッタ) ”

“わかったわ”

情報を整理するには時間はかかるに違いない。アルはゴブリンハイシャーマンのアシスタント・デバイスを隠しに入れ、残り2つの用途不明の魔道具は時間のある時の楽しみとしてマジックバッグに入れると、水筒の水を一口飲んでテントを出た。うすぐらい中で松明を持った従士たちが巡回をしている。見張りを割り当てられた時間は夜明けの2時間前からで、それにはまだ早い。だが、所々で戦っている声が聞こえていた。ゴブリンは暗闇でもある程度見えるらしく、夜活動するものもいるのだ。

アルが見回すと、野営陣の周りは、 光(ライト) 呪文で照らされ、簡易の見張り台がいくつか建っていてそこにはパーカー伯爵配下の部隊が弓を持って見張っていた。

オリバー卿が他に2人の騎士、3人の従士を連れてテントの近くにおり、何か話し合っている。騎士や従士たちはシプリー子爵家騎士団のメンバーであるが、まだほとんど喋った事がない者たちであった。現在のシプリー子爵家騎士団には、ギュスターブが辺境伯騎士団から連れてきた者たちだけでなく、マーロー男爵家騎士団に仕えていた者たちがいるのだ。

「オリバーさん、様子はどうですか?」

アルは彼らに近づいていき声をかけた。皆アルに気がつくと膝をついてお辞儀をしようとし、あわててアルはそこまでしなくていいからと両手を前に出して振る。

「予定通り順調です。今の所、上位種は出て来ていませんし、パーカー伯爵家騎士団の陣組みと弓兵がとても優秀でかなりの数を倒せています。アル様の 光(ライト) も安定しているのでありがたいですよ」

彼はにやりと笑う。その笑みを見てアルはジョナス卿を思いだした。昼の戦いで死んだゴブリンの死体を餌にして、それに集まってくる蛮族を倒しているのだろう。この手法は、かなり以前に輸送部隊を護衛する際に護衛隊長を務めていたジョナス卿がやっていたのと同じである。レスター子爵家騎士団の団長であったオリバー卿ならもちろんそのやり方は知っていたはずだ。

今回の野営でも少しでも蛮族を減らすためにその手法をパーカー伯爵が取り入れたのか。そして、野営地を構築中に、うちの子爵家には魔法使いがすくないのでと 光(ライト) をいくつかの場所に使うようにオリバー卿からお願いされたのはこのためだったらしい。彼はアルの 光(ライト) 呪文の効果時間が長いのをジョナス卿から聞いていたようだ。

「それなら、もっと、多くの場所にしなくて大丈夫だったの?」

「他のところは、複数の光が置ける所なので他の魔法使いの 光(ライト) 呪文で十分だったのです。いつもアル様がいらっしゃるわけではないので訓練も兼ねています。ですが、無理をし過ぎるのもよくないので夜中に付け直すのが難しいところだけ、アル様にお願いしたのです」

「ふうん、そうだったんだね」

「はい」

この反応なら夜の見張りにも余裕がありそうだ。全く眠くはないが、できれば仮眠をとったほうがいいだろう。

「じゃぁ、僕は自分の番まで仮眠をとるので、その間よろしくお願いします」

アルはそう告げ、自分のテントに戻ることにしたのだった。