作品タイトル不明
32-14 確認
その2つの呪文を組み合わせるということは、以前、セオドア王子の指揮する本陣でストラウドとユージン子爵が指揮する騎士団との戦いの際にアルがやってみせた事と同じ事だ。それを再現する事ができたのか。
もちろん構いませんとアルが答えると、まずスタンレーは 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文を唱えた。彼の掌の上に透明で丸いこぶし大のものが現れる。通常なら見えないが、 魔法感知(センスマジック) を使っているアルには青白い光として見える。そして彼は続けて 記録再生(レコード&プレイ) 呪文を使い、縦横1メートルほどの窓を開く。そこには掌の上に乗っている 浮遊眼(フローティングアイ) の眼からみえている光景が映し出された。
「わぁ、ぴったりですね」
アルが思わずそう声を上げた。 記録再生(レコード&プレイ) 呪文で作られた窓に呪文の書にある通りに呪文を使うと術者の視界全部がそこに映し出されることとなる。 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文が習得済みだったためにそのオプションが活用できないスタンレーの場合、彼の視界の中にある小さい窓で 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文での視界が映し出されることになるのだ。だが、スタンレーの作った 記録再生(レコード&プレイ) 呪文の窓には 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文で得られる視界のみが映っていた。これは 記録再生(レコード&プレイ) 呪文のオプションを理解して、窓に表示する部分を調整していなければできない事だ。
「なんとか、ここまでは出来ました」
アルの言葉にスタンレーは胸を張る。その横でセオドア王子も頷いた。
「すごいだろ。今回のゴブリン討伐ではこれを実際に使って指揮をするつもりだ。以前、お前さんがやってみせたことは衝撃的だった。今回はうちの魔法使いたちだけでそれを実現するのさ。そしてちゃんとこれを生かすための指揮網も整備した。魔法使いのうち数人には 手紙送信(センドメイルボックス) 呪文の運用を見直し、 念話(テレパシー) 呪文ばかりを訓練して距離を伸ばしたのだぜ。これで実際の手足のように騎士団を動かせるはずだ。本当に楽しみだ」
セオドア王子の話す雰囲気からすると、今回の討伐応援依頼にすぐ対応してくれたのは、もしかしたらこのやり方を実際に試したかったというのもあったのかもしれない。しかし、ちょっとした説明と半年ほどの期間でこれほどまでに使いこなしたのか。具体的な軍事行動でどれぐらいの効果があるものなのかアルにはよくわからないが、スタンレーがかなり努力したというのは想像できた。
「本当にすごいです。僕が初級学校や中級学校の頃は、先生も含めて周囲の人に何度も説明したのにこのオプションについては誰も実現できなかった。他の人に理解してもらえるなんて無理かなっておもっていたんです」
アルはそう言って何度も頷く。
「エリック様やレダ殿にもたくさん助けて頂きました。呪文のオプションについては、私以外にも数人の者が習得できています。まだ手探り状態ではありますが、今回の遠征で成果が得られればもっと理解者が増えるでしょう」
スタンレーもそう答えた。すばらしい。エリックやレダにオプションの話をして本当に良かった。
「エリック様たちはレインに居られるのですか?」
スタンレーを始めとするセオドア王子配下の騎士団に所属する魔法使いたちはかつてレイン辺境伯の領都だった都市レインに居るのではないのだろうか。エリックやレダは今どこに居るのだろう。
「エリック様は助手の方たちと共に辺境都市レスターの自分のお屋敷に戻られています。ただし、レダ殿だけは今回、見習いから正式な魔法使いとして独立されレインに居を構えられました。彼女は今、エリック様と共に魔法使いギルドの評議員でもあります」
そうか。レダならいろいろと活躍していることだろう。二人にはいろいろと押し付けてしまっている気もする。どちらにも一度様子を見に行ってもいいかもしれない。
「それでですね、以前、戦陣でしてくださったような一部の拡大? 望遠?をするにはどうすればよいのかを相談したかったのです」
スタンレーは話題を変えた。そういえば、質問に合わせて敵の一部の拡大表示をしたこともあった。相談したかったのはそれか。
「僕が使っていたのは、 知覚強化(センソリーブースト) 呪文ですね。習得されています? もしされているのなら 拡大視(マグニファイヤ) 呪文というのもあるので、そちらでも可能だと思います」
習得済みの呪文の場合はオプションをうまく活用できないらしい。スタンレーはどうなのだろう? 両方とも習得してしまっているのだろうか。
「どちらも習得していません。ですが、 知覚強化(センソリーブースト) 呪文というのは……」
スタンレーは不安そうな顔をした。 知覚強化(センソリーブースト) 呪文の悪い評判を聞いているのだろう。アルはにっこりと微笑んでスタンレーの言葉を補う。
「そうですね、あまり使えない呪文だといわれています。ですが、視覚や嗅覚、聴覚などの強化したい感覚の選択、そしてどのように感覚を強化するのかはオプションによる指定・配分ができます。逆に何も指定しないとすべてに均等割りされ、強化の効果が分散して薄くなってしまうので結果今の低評価なのです。うまく使えば、遠いものもよく見えますし、少々暗くても明るく見えるようにもなりますよ。調整は 魔力制御(マジックパワーコントロール) 呪文でおこなえます。そして、この効果は 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文を通しても有効です」
アルの説明にスタンレーは目を輝かせた。
「わかりました。ありがとうございます!」
「よかったな。スタンレー」
セオドア王子も嬉しそうだ。
「あと、 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文は単独で眼を飛ばしていると疲労が激しいです。最初の時みたいに、誰か飛行する魔法使いの肩に乗せるなどの工夫をしたほうが良いかもしれません」
アルの言葉に、スタンレーはなるほどと頷いた。
「アルフレッド、この情報の礼は何が欲しい?」
アルは首を振った。ちらとあのゴブリン・シャーマンの上位種が首にかけていたアシスタント・デバイスが頭に浮かんだが、冒険者の依頼仕事ではないのだとそれは自分で即座に否定した。今回の件で王国騎士団とパーカー伯爵家騎士団併せて2千人ほどの部隊が動いているのだ。その費用は莫大なものだろう。それを考えれば呪文の使い方に関する情報などたかが知れていると思う。
「これほど迅速に蛮族討伐に対応してくださったのです。それを考えればもう十分です」
「地方の手に余るような蛮族討伐をするのは王家としては当たり前で、それとこれとは話は別だ。この話でうちの騎士団の能力は確実に上がると確信している。だが、まぁいい、この話は討伐が終わってからにするか。どうせ討伐で活躍したものにも褒賞を考えねえとだしな」
セオドア王子は自分を納得させるようにそう呟いた。ビンセント子爵も横で頷いている。
「最後に確認したいことがある」
セオドア王子が真剣な顔をしてアルをじっと見た。
「何でしょう?」
「お前さんもわかっていると思うが、蛮族討伐、特に今回のような戦いでの脅威は上位種だ。ゴブリンの数は多いが、その分、こちらの人数も用意したのでそれはあまり脅威にはならない。ホブゴブリンも騎士なら簡単に対処できる相手だ。問題はゴブリンメイジ、ゴブリンシャーマン、そしてゴブリンシャーマンの上位種、ゴブリンスローター、オーク、あとは居るかどうかわからないラミアといったあたりだな」
もちろんその通りだ。被害がでるとすれば、そのあたりだろう。よほど数に差がないとゴブリン相手に騎士が怪我をすることは通常ありえない。
「今回、討伐部隊は我々王国騎士団とパーカー伯爵家騎士団の大きく分けて2つだ。ゴブリンの集落は大きいから北側と南側から2手に分かれて戦いたいと思ってる。だが、パーカー伯爵家騎士団は去年の戦いで魔法使い部隊がかなりの被害をだして、まだその補充は十分じゃねぇ。傭兵で少しは補っているが、俺はあまり頼りにはならねぇと思ってる。そこを補えるのはパーカー伯爵家の配下でいうとナレシュのところのゾラ卿の部隊とお前さんぐらいだろう。今回の戦いで損害を出さない為にもシプリー子爵家の3男として参加してやってほしいと思ってる」
アルとしてはもちろんそのつもりだ。蛮族討伐を父や兄だけに任せるつもりなんて毛頭ない。なぜわざわざセオドア王子はそれを確認しようとするのだろう。
“アリュ、たぶん、これは外交的配慮とかいうやつよ。テンペスト王国で ゴーレム(マスターオブ) 頭(ゴーレム) という称号を持つアルをセオドア王子が指揮する作戦に参加させるには、こういった確認が必要と考えたんじゃない?”
そういうことか。ややこしい話だ。これが今日、セオドア王子がチャニング村に来た一番の目的か。アルは笑顔を作る。
「もちろん、そのつもりです。パトリシア陛下も了解されています」
ちゃんと、彼女には今の状況も話はしてある。アルの言葉にセオドア王子は再び笑顔になった。
「そうか、ならよかった。じゃぁまぁ、そういう事だ。軍議は明後日の予定だ。ちゃんと参加しろよ。邪魔したな」
軍議……。討伐に参加するのはいいが、会議に出るのはなぁと少し憂鬱になるアルだった。