作品タイトル不明
31-4 管理者
「登録します!」
アルは勢いよく答えた。すごい、これでアシスタント・デバイスのおそらく第一人者であったタッカーの後継者であると名乗ることができるだろう。テンペストに比べれば知名度は低いがアシスタント・デバイスの能力はゴーレムに匹敵するだろう。
「冒険者アルをこの研究室及びタッカー様が権利を有しておられた品々の後継者と認定します。タッカー様の遺体を撤去し、分析台に掌を開いた状態で乗せてください。カバーを閉める必要はありません」
マリアの指示に従って、分析台のカバーを開けて、載せてあったタッカーの遺体を 梱包(パッキング) 呪文で改めて保護してマジックバッグに収納した後、自分の掌を分析台に乗せた。よく磨かれた石のような滑らかな感触である。分析台が微かに光った。
「冒険者アル、あなたを新たな所有者として登録しました。自由に命令をどうぞ」
「いろいろ聞きたい。最初の質問は、今から45年前、シルヴェスター王国歴129年にここを訪れた二人組について。何か憶えていることはない?」
祖父について何か残っていないだろうか?だが、マリアの答えは特別な事は何もなかったというものだった。金属の扉を引っ搔いた音などはというのも尋ねてみたが、扉を開けようとする試みはこの260年の間頻繁に行われていたようで区別はつかないという話だった。音の記録なども残ってはいないらしい。扉に書いてあった通り、あきらめて帰ったということか。
“アリュ、悪いけど配布されている 機能(モジュール) の詳細について聞いてみてくれない? アルの質問とは並行して私に直接伝えてもらえたら嬉しいな”
いろいろと細かく尋ねるアルにグリィがしびれを切らしたようにお願いしてきた。それもそうだ。アルはマリアにグリィの要望を伝える。マリアはわかりましたと答え、詳細をグリィとやり取りし始めた。
「ここの設備について聞きたいんだけど、ここにある装置たちは何? どうして魔力が尽きていないの? 外にあった人形ゴーレムについては?」
祖父の事についての聞くことを諦めたアルは、矢継ぎ早に質問をした。マリアはそれに順番に答えていく。
まず、この部屋、マリアは研究室と表現したが、この研究室にある8つの筐体は【魔道回路出力装置】、【物質分析台】、【データストレージ】が2台、【データ分析装置】、【管理用の魔道装置】、【図書保管庫】、【物質出力装置】というものらしい。
魔道装置の殆どはタッカーの先々代の魔法使いが作り上げたもので、魔道回路出力装置は、超小型化した魔道回路を設計図に基づいて作り上げる装置、データストレージはアシスタント・デバイスの基本となる行動記録を蓄積したもの、データ分析装置は先程遺体やアルの掌の解析にも使った装置で、その構成や特徴などの情報の取得もできるが、本来はアシスタント・デバイスの修理のために現在の状態を取得するためのものらしい。管理用の魔道装置は、マリアの本体でこの部屋やこの部屋に繋がっている他の魔道装置の管理をし、図書保管庫にはアシスタント・ゴーレムに関する呪文の書や 百科事典(エンサイクロペディア) の類が保管、物質出力装置はその基盤やアシスタント・デバイスの部品を作る装置らしい。物質出力装置の大きなものは研究塔にもあって、ゴーレムの部品を作るのに使われていたが、ここにあるのはもっと細かいものを作るための装置のようだ。
研究塔に移設できないか聞いてみると知識があれば可能であろうという返事が返ってきた。以前、メヘタベル山脈にあった魔道装置と同じである。マラキ・ゴーレムや上級作業ゴーレムたちをここに連れて来ればいいだろう。
気になったのは図書保管庫の中身である。確認してみると、今まで作られたアシスタント・デバイスの設計図やアシスタント 百科事典(エンサイクロペディア) の他、魔道具 百科事典(エンサイクロペディア) Ⅰ(ⅠのみでⅡはなかった)、 記録再生(レコード&プレイ) 呪文、 記録分析(レコードアナライズ) 呪文、 五感共有(シェアリングセンス) 呪文、 アシスタント生成(メイクアシスタント) 呪文の呪文の書が保管されていた。
呪文の書4巻のうち、最初の、 記録再生(レコード&プレイ) 呪文以外の3巻はアルも知らない呪文であった。 ゴーレム生成(メイクゴーレム) 呪文が第4階層に該当することを考えると、 アシスタント生成(メイクアシスタント) 呪文も第4階層と考えるべきだろうか。とは言っても、この呪文をはじめとして、これらの呪文を単独で使用した場合、どのような効果を持つ呪文なのかよくわからない。試してみるしかない。
次の魔力がどうして尽きていないのかという問いにマリアの映像は首を傾げた。この部屋の真上、地上に近い地中に設置された魔力伝送網の受魔アンテナ装置と魔力生成装置は問題なく稼働しているらしい。他のところでは魔力伝送網から魔力を受けることができなくなっている現状を伝えたが、彼女としては他の所の事はわからないということだった。どう判断したらよいのかわからない。他の魔道装置を移設するのにマラキを呼ぶことになるのでその時にこちらも詳しく見てもらおう。場合によっては移設できるかもしれない。もし動くのであれば、研究塔が再び空に浮かぶ事もあり得るのではないだろうか。
人形ゴーレムについては、これもこの部屋にある魔道装置を作り上げた先々代がゴーレムを作る名人と言われた魔法使いテンペストより譲り受けたもので、この部屋の向かいに応接室として使われていた部屋にアシスタント・デバイスの傑作であるA6M2とその後継であるB2C9の試作品達がそれぞれ首にかけられて待機していたらしい。B2C9-00はグリィの製造番号であり、試作品だから末尾は00なのだろう。
「人形ゴーレムはよく無事だったね。A6M2の試作品はどうなったんだろう」
アルの問いにマリアの映像は数秒停止した後、再び話し始めた。
「タッカー様は先代より遺産を引き継がれた際、人形ゴーレムにかつらをつけたりして何かを試しておられましたが結局あまり興味は湧かなかったようです。その後は人形ゴーレムを動かすことすら稀でどちらかというと私のアバターに関する研究を主にされておりました。特にこの研究室を最後に訪れられる数年前に奥様を病気で亡くされてからは、その傾倒ぶりは顕著だったのです」
人形ゴーレムは仮面をつけたような顔でしかないからだろうか? なくなった妻の面影を求めてアバター製作にのめり込んでいたということか。
「A6M2の試作品についてですが、現在は稼働しているようです」
「えっ?」
アルは急いで研究室を出、向かいの部屋を覗いてみた。人形ゴーレムの足元にはラットマンが持ち込んだがらくたが山積みになっており、祭壇のようなものまで作られていた。アルが最初この人形ゴーレムを女神像だと思ったのはそのせいであった。もしかしたらラットマンはなにかの像として崇拝の対象にしていたのかもしれない。人形ゴーレムの足元のがらくたをかき分けてアシスタント・デバイスが落ちていたりしないか探してみる。だがその期待は叶えられなかった。みつかったのは黒い髪のかつらだけだ。
“もしかして、ラットマンが持ち去った? それともアリュのお爺様とアイネスさんが1つずつ記念に持ちかえったとか?”
どちらも可能性はあるが、祖父はデバイスの価値がわかっていなかったのに記念品として持っていたのだ。2つあった片方はアイネスが持ち帰った可能性が高いのではないだろうか。そんな事を考えながらアルは研究室に戻った。
「マリア、えっと、稼働しているというのはどうやってわかったの? どこにもないよ?」
「アシスタント・デバイスには紛失などの問い合わせに対処するために月に1回ではありますがその時点での位置をこちらに通知するための仕組みがあります。その位置情報が届いていますのですくなくとも稼働中であると判断しました」
失くしてもマリアと話をすればどこにあるか判るようになっているのか。
「えっと、そのA6M2の試作品の位置は?」
「3.238559, 2.094.4416,101.681966 です」
マリアが答えてくれたが、座標ではわからない。
「えっと、グリィ、どのあたり?」
“ここから南南西におよそ4500キロね。研究塔のある島からなら南西に5000キロぐらい。以前飛んだことのある辺境都市レスターから研究塔までの距離の3倍ぐらいね”
あの時は途中の離島で2泊した。それも最後の最後でワイバーンにも遭遇したのだ。それの3倍ともなると簡単な旅ではない。ますますラットマンよりアイネスが持ち去ったという可能性が高くなった気がする。しかし、そんなところまでアイネスはよく行けたものだ。アシスタント・デバイスが動いているという事はアイネスが生きている事を示しているのだろうか? 彼の年齢はよくわからないが、祖父と同じだとすると今年で66才、紫水晶の件を考えるともうすこし上だろうが可能性はあるかもしれない。もし生きているとすればサーリは会いたいだろう。だが、4500キロというと150時間前後を飛ぶ必要があるのだ。簡単ではない。
“そのあたりって、 植物(ボタニカル) 百科事典(エンサイクロペディア) に載ってたゴーレムの素材に使うフィカスっていう木が生えてるところなの。私の人形ゴーレムを作るためにも必要になるのよ。是非行きたいわ”
うーん、グリィまで行きたいのか。安全に行く方法がないか少し考えてみることにしよう。ただし、移設や新しい呪文の習得が優先だ。あとはここに来た目的である。
「グリィ、 機能(モジュール) の詳細についてはわかった?」
“うん、確認できたわ。問題なさそう。画期的な新たな人格の取得っていうのは、まるで私が2人、3人居るみたいに並行して作業ができるってことみたいなの。人格が変わるってことではないんだって。時間がかかるから安全な所に移動してから適用してみようと思うわ”
そうか、そうすれば脆弱点を利用した攻撃については大丈夫になる。一安心だ。
「よーし、じゃあまず、この部屋にある魔道装置を研究塔に移設しよう。マラキにここに来てもらえるように研究塔の 移送(トランスポート) 空間に手紙を書いて収納するね。いや、人形ゴーレムにコーリンをつけて送り込む方が話は早いかな。あとはタッカーさんを含めこの集落の人々の慰霊碑を作ろう」
集落は広すぎて全部の遺骨を拾い集めることまでは残念ながらできないだろう。時間がかかるし、一度戦ったラットマンの動きを考えると広い所では遭遇したくない。あの移動の素早さを考えると下手をすると囲まれてうまく対処できない恐れがあるからだ。そんなリスクは犯せなかった。自分にできるのはこの集落跡の中心に慰霊碑をつくるぐらいである。マラキの作業の間、そうしてまだ埋もれているであろう被害者の魂の平安を祈ることとしよう。アルはそう考えたのだった。