作品タイトル不明
30-7 抜け穴
「もうみんな集まってるんだ。ずっと思ってたんだけど早くない?」
ゴーレム(マスターオブ) 頭(ゴーレム) のローブは埃で汚れそうなので脱いで釦型のマジックバッグにしまい込み、いつもの服装で待ち合わせの部屋に到着したアルだったが、ターナー卿たちは、既に集まっていた。思わずアルは開口一番、そう声をかけた。皆、さっきまでとは違うアルのその口調に目を白黒させる。
“アリュ、口調! 口調!”
「ごめん、そろそろ丁寧な口調を使うのは限界。この後の調査はどちらかというとおまけみたいなものだし、通気口を抜けた後はこの4人だけになる。それなら、お互い気楽に喋っても良いかなと思って……だめ?」
アルは少し誤魔化すように笑った。周囲の目もあると考えて丁寧な口調を続けてきたが、このプレンティス領に到着してからは食事や休憩のときもずっと彼らと一緒で、息を抜く暇もない。周りの視線がない所でなら元の口調でも許されるのではないだろうかと考えたのだ。アルの言葉にターナー卿は少し考えてから、いたずらっぽく片方の唇を上げて微笑んだ。
「わかりました。そう言って頂けるのでしたら、私も貴族出身ではないので気楽です。ブライドン、フラーもいつも通りの口調でいこうよ」
「「えっ?」」
よかった。そう言ってもらえると助かる。ブライドン、フラーは意外そうに顔を見合わせる。そして半信半疑な様子ではあったものの、とりあえず頷いた。
「調査をしている時の様子から仲は良さそうだなと思ったけど、3人は元から知り合いだったの?」
アルが尋ねると、3人は揃って頷いた。
「元は同じ魔法塾の弟子として切磋琢磨していたのです。ターナーが師匠の推薦を受けて魔導士になるって言う話を聞いて、俺たちも負けていられないなって考えました。そしていろんなところに頼み込んで従士にして頂いたのです」
「入門はほぼ一緒だったんです」
ブライドンとフラー、2人が続けて答える。なるほど、エリックのところのレダとマーカス、ルーカスみたいなものか。躊躇していた感じだった2人もアルの問いに垣根がとれた感じであった。アルを高位貴族と考えていままでかなり遠慮していたのではないだろうか。
「へぇ、その魔法塾って大きい所だったの?」
「そうですね、テンペスト王都にある魔法塾としてはかなり大きい方です。最盛期よりはかなり減ったそうですが、それでも20人ぐらいの弟子がまだ居ます。近衛騎士隊の隊長に就任されたジョアンナ・クウェンネル様も塾の卒業生なのです」
ターナー卿はすこし自慢げに答えた。
「ジョアンナさんはよく知ってるよ。そう言えば彼女は魔法使いとしてはどうだったの? 肉体強化(フィジカルブースト) 呪文しか使ったところを見たことがないけどさ」
「 ゴーレム(マスターオブ) 頭(ゴーレム) 閣下はお知り合いだったんですね。ジョアンナ様は 肉体強化(フィジカルブースト) を習得するために塾で学ばれていましたから、あの呪文以外は 光(ライト) 呪文ぐらいしか使えないかも?」
ターナー卿の言葉にブライドン、フラーもそろって苦笑いを浮かべる。ジョアンナとは年も同じぐらいだし、仲も良かったのかもしれない。
「じゃぁ、まず準備をしよう。とりあえず、暗いだろうからオプションを使って 知覚強化(センソリーブースト) 呪文を使うね」
「 知覚強化(センソリーブースト) 呪文はあまり効果が少ない呪文では? オプションとはなんですか?」
実際はプレンティスに来る際に使った 運搬(キャリアー) 呪文で作った椅子もオプションによる効果だったのだが、3人ともそれには気付いていなかったらしい。元の呪文を知らなければそれも仕方ないかもしれない。
アルは自分が独学で呪文を習得した際に、呪文にはイメージに左右される事や発動の際にあらかじめ効果が条件付けされている事に気付いてそれらをオプションと名付けた事、それを使えば呪文の効果を調整できるのだという話と、それが今ではアルが親交のあった魔法使いによってシルヴェスター王国の魔法使いギルドで論文として発表されている事なども説明した。
「効果を調整して暗いところで見えるようになるのですか?」
「能力を限定すれば、その分、効果が上がるんだ」
アルの答えに3人は感心した様子で何度も頷いた。テンペスト王国の魔導士団でもオプションについて教える事の出来る人が居れば良いのかもしれない。エリックか、ナレシュのところのゾラ卿にお願いするのが良いだろうか。ちらりとコールの顔が頭に浮かんだが慌てて首を振る。彼は色々と問題があるだろう。
アルはいい機会だと3人と話して色々と説明をし、 知覚強化(センソリーブースト) 呪文の他に 盾(シールド) 呪文を彼らに使って実際の探索に向かったのだった。
「落とし穴とか罠があるかもしれないから、余計な所は触らないように気を付けてね」
アルが先頭に立って慎重に進む。通路は1人がやっと通れるぐらいの細さで途中には分岐もあって迷路のようだった。
アルは 浮遊眼(フローティングアイ) の眼だけを先行させて通路の先を探る事にした。ブライドンもこの呪文なら使えたので、2人で羊皮紙に地図を書きながらの作業である。
途中から地図を見ていたフラーが分岐で曲がる角度が緩やかな方に行くと行き止まりになる事が多いという法則性に気がつき、迷路踏破の速度は上がり、1時間程で前後左右とも5メートルほどの正方形の部屋に通じていることがわかった。そこに1枚の鉄の扉があり、そこを越えないと先には進めないようだった。
「きっと通路の行き止まりには罠があるんだと思う。 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文が使えない場合には注意しておいてね」
正方形の部屋に到着した所で、アルは他の3人に念のためにそう忠告しておく。迷路は侵入者を防ぎ、脱出時の追跡者を減らすための仕組みだろう。そうだとすると、行き止まりに至る手前には致死性の罠を仕掛けてある可能性が十分にある。
「はい。ありがとうございます」
改めて見ると、鉄の扉には直径30センチほどの丸い金属の板のようなものが貼りついていた。その板の4方には小さなトゲのようなものがついていて、板には同心円状の丸い立体的な装飾が施されている。そして 魔法感知(センスマジック) 呪文で青白く光っていた。
「魔道装置だね。扉の開閉を管理しているんだと思う。似たようなのは見た事ある」
アルは思わず呟いた。以前、メヘタベル山脈にあったものによく似ている。あの時は、別の階層から強引に 石軟化(ソフテンストーン) 呪文を使って向こう側の部屋に侵入、そこで 管理者(アドミニストレーター) 権限証(ライセンスカード) を入手して扉を開いたのだが、今回はどうしようか。
「とりあえず近づいてみるね。ターナー卿たちは下がってて」
3人がさがったのを確認して小さな声でアルは囁く。
「何か問い合わせが来てない?」
メヘタベル山脈にあった扉の魔道装置からは身分を誰何するような問い合わせがグリィのところに来ていた。同じようなことはないのだろうか。それが何か手がかりになればよいのだが。
“いまのところは無いわ”
「わかった。もしなにか来たら教えてね。とりあえず近づいてみる」
アルは用心しながら数歩前に出た。魔道装置までの距離が2メートル……1メートル……。
“す……”
グリィの声が一瞬聞こえてすぐに途切れた。それとほぼ同時に丸い金属の板にあった4つのトゲのようなものから青白い光がアルに向かって飛んできた。おそらく 魔法の矢(マジックミサイル) だ。 盾(シールド) 呪文の六角形の光が立て続けに4つ浮かんで消えた。
『 素早い(クイック) 力場の壁(フォースウォール) 』
「みんな、通路に戻って」
アルは扉と自分との間に呪文で壁を作る。その壁に、またカツンカツンと甲高い音、連続して 魔法の矢(マジックミサイル) がまだ飛んできているのだろう。だが、その威力はアルの作った白い壁を打ち砕くほどではない。3人は既に迷路のような細い通路に移動して身を隠した。
「グリィ? グリィ?」
アルは途中で途切れた声が気になって、胸元のアシスタント・デバイスをぎゅっと握る。だが、グリィのアシスタント・デバイスからは何の返事も戻ってはこない。どうしたらいいだろう?そうだ!
アルは服の隠しからもう一つのアシスタント・デバイス、コーリンを取り出した。
「コーリン、何が起こったかわかる?」
“ 誰だ(ダレダ) 聞かれた(キカレタ) 、 返事(ヘンジ) しなかった(シナカッタ) 、 すぐに(スグニ) 連続(レンゾク) 問い合わせ(トイアワセ) 来た(キタ) 、 脆弱点(ゼイジャクテン) ぐりぃ(グリィ) 凍結(フリーズ) ”
??脆弱点とはなんだ? フリーズ?