軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29-1 アルの帰還

「ただいまっ」

「おかえりなさいませ。アル様」

東谷関城の一室でアルとパトリシアはぎゅっと抱きしめあった。部屋の中にいるのは護衛用の警備ゴーレムを除けばアルとの関係をよく知るタバサ男爵夫人とドリスだけなのでパトリシアも王女としての立場は一時的に忘れることができる。

「何か困った事がありました? 眉間に皺が寄っていますけど……」

パトリシアがそう言って心配そうにアルに尋ねる。彼女自身も唯一残された王族として、日々重圧に耐えているはずなのに、それをアルには感じさせない。アシスタント・デバイスであるリアナの助けもあるのだろうが、14才とはとても思えない様子にアルはパトリシアをすごいと感じ、自分自身を振り返って頑張って微笑みを作る。

「今回の調査で結構いろんなことがわかってね。大体予想は付いていたんだけど、プレンティス侯爵家の第三魔導士団、ヴェール卿やエマヌエル卿がラミアや他の蛮族たちと色々とつながりがあったのがはっきりしたんだよ」

アルはそう言って、ここ数日に知った事を、ラミアの拠点で手に入れた上位種ラミアが持っていたアシスタント・デバイスから聞いた内容も含めてパトリシアたちに説明した。

“移動中に詳しい事を上級ラミアのアシスタント・デバイスから聞き出せたんだけど、今聞く?”

話している途中でグリィがそう尋ねてきた。きっと関係あることなのだろう。どうしてわざわざ確認してきたのか理由がよくわからない。肯定の意味でアルは自分の太ももを縦に指でなぞった。

“ゴブリンメイジが居た辺境都市レスターの南やシプリー山地の鉄鉱山やその周辺、ミルトン・オーティスの街を結ぶ街道にあったオーク集落、みんなプレンティス侯爵家から依頼を受けてラミアがいろいろと動いてた。日付や場所、運んだ量の情報まで貰ったわ”

……日付や場所? もしかして……

「ねぇ、グリィ、今から13年前、シルヴェスター王国暦でいうと160年の春、チャニング村近辺にあった蛮族の集落ってその情報の中にあるかな?」

アルは思わず声に出した。急に今まで話していた事と違う事をアルが言いだしたのでパトリシアは怪訝そうな顔をする。

“あの近辺だと、その前の年の9月と12月に鉄鉱山に食糧を運び込んでいるみたいね。どっちも量にして樽20個分よ”

ゴブリンは半年ぐらいで成人し子供を産むらしい。そんな量を持ち込めば、周辺に集落の1つや2つ増えても当たり前だ。アルはぎゅっと拳を握った。なんとなく想像はしていたし、頭ではわかっていたつもりだったが、具体的な事を聞くと酷いショックだ。アルは頭を下げ、何かよくわからない叫び声を上げそうになるのを唇を噛みしめてじっと耐えた。

「それ以外はない?」

“それ以外ないわね”

直接あの事件にラミアは関わっていなかったらしい。妹、イングリッドはどのようにして死んだのか。さすがにそこまでは判らないか。

「アル……様?」

パトリシアが心配そうに尋ねる。グリィの言葉はアルにしか聞こえていないので、アルの変化を唐突なものと感じられたのだろう。

「ごめん……」

何度か深呼吸をして、アルは懸命に心を落ち着かせ、今グリィから聞いたばかりの話を説明する。

「そうでしたか……」

パトリシアは悲しそうな顔をした。だが、それ以上は何も言わない。彼女自身、プレンティス侯爵家に父母と伯父一家、親しかった人々のほとんどを殺されている。アルの気持ちが判るのだろう。

「第一騎士団長のペルトン子爵閣下や他の関係者にもこの話は伝えておいてほしいんだ。プレンティス侯爵家が裏でもこんな酷い事をしていたというのをね。以前、念話で話したけどプレンティス侯爵家の第2魔導士団の大魔導士、ケリー男爵は蛮族とつながることを嫌がってたみたいだからそれは利用できるかもしれない。一応、プレンティス侯爵家とつながりのあったラミアの上位種は倒しておいたから、しばらくは大丈夫だとは思うけど、二度と蛮族に協力なんてして欲しくない。そうそう、その時に盗まれていた 魔法の竜巻(マジックトルネード) 呪文が使える杖について、複製されたものが3本プレンティス侯爵家の手にあることも含めて伝えておいてもらった方がいいかな? 量産する試みがあったけど、それは阻止しておいたので大丈夫なはずってのも一緒に……」

とりあえず、情報共有としてはそれぐらいで良いだろうか。ラミアたちが13年前の悲劇にかかわっていた事は知らなかったもののアル自身の手でラミアと上位種のラミアは倒すことはできた。プレンティス侯爵家に対して悲しみときちんとした裁きを受けて欲しいという気持ちはあるけれど、さすがに自分の手で個人的に復讐したいとはまでは思わない。

プレンティス侯爵家との戦いは有利に進んでいるようだが、最終的にプレンティス侯爵家がどうなるかわからないし、ヴェール卿やその配下の魔導士たちに関してはもっとわからない。プレンティス侯爵家を倒した後の体制が、皆、蛮族についてアルと同じような認識を持っていてくれると良いとは思うが、それについてはパトリシアにお願いするしかないだろう。アルとしては、蛮族が人々を襲わない未来の為に古代遺跡を巡るだけだ。

「以前からプレンティス侯爵家が蛮族とのつながりを持っていたという話はしてありますので、今回の話をしても理解はしてくれるでしょう。 動物(アニマル) 変身(トランスフォーメーション) 呪文は警告しますか?」

パトリシアの問いにアルは少し考え込んだ。まず、 動物(アニマル) 変身(トランスフォーメーション) 呪文を使ってラミアが人間に化けて潜入しているという話だが、それだけを警告するのでは、他人に変身できることを悪用する者も出てきてしまうだろう。もしかしたら禁呪に指定すべきなのかもしれないが、このような使い方を知らずに習得してしまっている者もいるに違いない。どうしたらいいだろう。

「うーん、蛮族が入り込んでる件は危険だけど、魔法使いギルドや冒険者ギルドと相談してほしい。シルヴェスター王国は魔法使いギルドのギルドマスターに連絡するよ」

「わかりました。アシスタント・デバイスの存在はどうします? 今回の話はかなりプレンティス侯爵家にとっても衝撃的なものになりそうなので、その非を糾すにしても、根拠について尋ねられるのではとリアナが心配しています」

それも難題だ。

「アシスタント・デバイスの存在はまだ伏せておきたいかな。すくなくともプレンティス侯爵家の問題が解決するまではね。とりあえずラミアは人語を解するから、うまく喋らせた……って感じにしておくしかないかな。一応、ラミア上位種の死体は運んできたから、それを晒そう。こいつが白状したんだと見世物にすればインパクトはあるんじゃないかな?」

パトリシアは少し考え込んだが頷いた。きっと彼女のアシスタント・デバイス、リアナも賛成してくれたのだろう。

「それに少し関わる話なんだけど、他にも蛮族でアシスタント・デバイスを持ってるのがいそうなんだよ」

「そうなのですね。以前、ゴブリンメイジが持っていたというお話は聞かせてもらった事がありました。他に居ても不思議ではないのかもしれませんね」

以前、アシスタント・デバイスの事をマラキに聞いた時、このようなアシスタント・デバイスを作ることのできる魔法使いは彼らが生きていた当時に数人しかおらず、数も百程度だろうと言っていた。アルの知るアシスタント・デバイスはテンペストのマラキ、パトリシアのリアナ、ゴブリンメイジが持っていたテス、そしてグリィの4つだ。マラキはテンペストから手放されることなく一緒に墓所に葬られていたし、リアナはテンペスト王国に伝わっていたものの、所有主が 魔力制御(マジックパワーコントロール) 呪文を使えずに力を失った形であった。テスについてはよくわからない。グリィは祖父がどこかの古代遺跡で発見したものである。

そして、グリィが上位種ラミアが持っていたアシスタント・デバイスから聞き出した話によると、そのアシスタント・デバイスをもっていた蛮族というのはオーガと呼ばれる蛮族だったらしい。オーガというのは人間と同じように二足歩行で身長は3メートル程度。赤や青、緑といった様々な体色をして、頭には角が生えている蛮族である。ラミアの集落を訪れたのはその上位種だったようだ。そいつは、数人のオーガ種の仲間と共に上位種ラミアの集落にふらりと現れ、門番を務めていたラミアを簡単にたたき伏せて力を誇示すると、ラミアの集落から金や宝石を奪ったのだという。

そして、その際に上位種ラミアが単にアクセサリとして身に着けていたこの水晶のようなものが、魔力切れで機能を停止していたアシスタント・デバイスであることに気付き、気まぐれに魔力を分け与えたらしい。

「もしかして、アシスタント・デバイスを得たことで、その上位種ラミアは人間に魔道具を売って食糧を入手するといった知恵を手に入れた可能性があるのですか?」

アルの話を聞いたパトリシアが尋ねた。アルは最初首をひねったが、確かにその可能性もあるのかもしれない。アルはグリィにいろんな事を教えてもらっているし、パトリシアもそうだろう。ラミアという蛮族そのものがそれほど賢いのならそう言った 類(たぐい) の伝承が残っていても不思議ではないはずなのだ。アシスタント・デバイスを得たあの個体が特別だったのかもしれない。

アシスタント・デバイス自体もよくわからない。アルの知るアシスタント・デバイスのうち、継承されたのはリアナだけだ。それでもリアナは途中で魔力をほぼ喪失する形になってしまった。考えてみれば、アル自身もグリィを自分の死後だとしても他人に渡すなんて想像できない。アシスタントとして人格に似たようなものがあり、すべての秘密を共有している相手でもあるのだ。以前、テスがナレシュのことを詳しく話してくれたときも、なんとなく忌避感を感じた。アシスタント・デバイスを他人に見せたり、継承したりするのは難しいような気もする。魔力を切らし完全に人格と記憶を失ってからなら可能なのだろうか……。

「全然わからないね。蛮族がもってるアシスタント・デバイスについては情報を集めるのも難しいから今すぐはどうしようもないかな」

「そうですね。とりあえず、ずる賢い行動をしていたり、首に装飾品をつけた蛮族についての情報がないかぐらいは探しておきましょう」

パトリシアの提案にアルは頷いた。

「うん、お願いするね。僕はしばらく研究塔に居ようと思うんだ」

未習得の呪文の書もいくつか溜まってしまった。アルの答えにパトリシアはにっこりと微笑んだ。

「いいですね。研究塔なら私も時間のある時に行けます。それと、アル様、最近、私たちに改めて忠誠を誓いたいと申し出て来る高位貴族たちがかなり増えて参りました。王都奪還のために出陣する日も近いと考えています。その際には是非、軍勢の先頭にゴーレムたちをお願いしたいのです」

テンペスト王国はプレンティス侯爵家やタガード侯爵家の他に、セネット伯爵やノーマ伯爵などよく似た規模の高位貴族家がたくさんあるらしい。これは元々あった古代の氏族がそのまま高位貴族に変わっていったのだと、パトリシアからは聞いたことがある。それらが一斉にパトリシアに忠誠を誓うとなれば、かなり有利な状況なのだろう。

そういえば、マラキにはゴーレムたちの改修作業をずっとお願いしたままだった。回収したゴーレムの魔道回路も放ったらかしだし、 ゴーレム生成(メイクゴーレム) 呪文や ゴーレム制御(コントロールゴーレム) 呪文の練習もしないといけない。蛮族の死体を処理するために塔の堆肥処理設備の拡張もしないといけないとおもっていた。他にもやることは山積みだ。

アルはもちろんと頷く。

「うん、わかったよ。用意しておくね」

アルはもう一度パトリシアを軽く抱きしめ、転移の魔道具をパトリシアから一旦返してもらうと、研究塔に移動するのだった。