作品タイトル不明
28-9 ラミア討伐
この拠点で一番手ごわそうなのはもちろんラミアの上位種だろう。だが、地上の集落にいたラミアやゴブリンメイジの数も侮れない。以前鉄鉱山で遭遇したラミアは 長距離(ロングレンジ) 魔法の矢(マジックミサイル) 呪文を使ってきたが、あのラミアはこの集落からやって来た可能性もあるのだ。そうだとすると、地上の集落を攻撃しようとしたら 長距離(ロングレンジ) 魔法の矢(マジックミサイル) 呪文を使われる恐れもある。
ラミアたちがいる拠点の一番上と一番下にいるものには注意が必要というわけだ。逆にゴブリンが2体しかいなかった呪文を学習していた部屋、あの部屋なら制圧するのは簡単だろう。階段通路でつながっている部屋と部屋の間は10メートルほど開いていて緩やかに弧を描いており、部屋から出た時点では上下(左右か?)の部屋の出入り口は見えない。密かに移動すれば真ん中から襲撃することも可能だろう。
「 石軟化(ソフテンストーン) 呪文で石を切り出して通路を塞ぐのがいいかな……」
アルはそう呟いた。幸いにして石は周囲から取り放題だ。もし時間があるのなら新たな通路を縦横に掘ることもできるだろうがさすがにそこまでは無理だろう。
“上位種ラミアはどうするの? 食糧とかも……”
食糧というのは2体のラミアが見張っていた倉庫の中身か……放置しておくとラミアの中にまた上位種が生まれるかもしれない。だが、アルは首を振った。
「どちらももちろん対処しておきたい気持ちはあるけど、1人だときつそう。呪文の書のあった部屋と 魔法の竜巻(マジックトルネード) 呪文が使える杖を複製していた部屋を潰して魔道具たちは回収すればいいんじゃない?」
隠蔽(コンシール) 呪文を使って忍び込んだ後、前後の通路を塞ぎ、2部屋だけ潰して逃げ出すのならギリギリ勝算が立つだろう。上位種ならともかく、進化していないラミアなら 貫通する槍(ピアシングスピア) 呪文が有効だろうと思う。
だが、それ以上はアルの手には余りそうだ。どれぐらいの数の 魔法の竜巻(マジックトルネード) 呪文が使える杖を作ったのか、その提供先など相手が盗賊だというのなら聞き出すこともできそうだが、蛮族相手となればそれも難しい。回収するだけで満足するしかないだろうし、 動物(アニマル) 変身(トランスフォーメーション) 呪文で人間に変身できる蛮族の存在については、今更この個体を倒したところで防げるものでもない。
ということであれば、こんな未開地域で一つの集落を潰すことにこだわっても仕方ない。命は一つしかないのだ。
“そうね。上位種のラミアは危険すぎると思うわ。脱出するのに 石軟化(ソフテンストーン) 呪文を使うとしたらどっち方向が一番外に近いかは計算しておくわね”
「うん、頼むよ」
-----
アルは 隠蔽(コンシール) 呪文を使って忍び込みゴブリンを予定通り 眠り(スリープ) 呪文で眠らせると、静かに止めを刺した。上下の部屋からは10メートルしか離れていないので少しの声もあげさせないための用心である。
ゴブリンの死体を回収、しばらく周囲の反応がないかじっと確認する。特に反応はないようだ。特に食糧庫の前に立っていたラミアが 魔法感知(センスマジック) 呪文ではなく、 魔法発見(ディテクトマジック) 呪文を使っていた場合に気付かれるのではないかと気にしていたのだが大丈夫らしい。
ふぅと一息ついたアルは部屋にあった呪文の書は破損しているものも含めてすべて回収しておくことにした。蛮族の生態はよくわかっていないが、ゴブリンメイジが生まれる条件として呪文の書が要素としてあるかもしれないと考えたからだ。全体からすれば微々たる影響だろうが、死体を残さないという事より大事かもしれない。すこしでも蛮族が増えたり強化してしまう要素はなくしておきたい。
改めて、 飛行(フライ) 呪文、 盾(シールド) 呪文をかけ直し、 魔法抵抗(マジックレジスト) 呪文も追加する。念のために 遅延(ディレイ) 呪文で 貫通する槍(ピアシングスピア) 呪文を用意、改めて警備ゴーレムに背後を守ってもらうようにお願いしておく。
準備を終えたアルは足を忍ばせて部屋から階段通路に出、左右を確認して下り側の階段通路を釦型のマジックバッグから石塊を出して塞ぐ。
だが、置いた時にガコッと大きな音がして、アルはおもわず首をすくめた。耳を澄ませる。特に何者かが反応した様子はなかった。胸をなでおろし、足音をできるだけ忍ばせて階段通路を登っていく。すぐ上の部屋の松明の灯りが階段通路には漏れていた。
こちらにも石塊を置こうとして、アルは躊躇した。手のひらで支えられないようなものはどうしても出した時に音がしてしまう。不意を突くなら静かにしたほうが良いかもしれない。それならば 力場の壁(フォースウォール) 呪文を使おう。
そう考えて呪文を唱えようとしたとき、階段通路の先でズザザと音がした。石畳を何かが擦るような音……。まさかと思い、 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文の眼をその先に進ませる。魔道具を複製していた部屋よりさらにその上の部屋、宴会をしていたはずのラミアの上位種が部屋から顔を出し、階段通路の下方を眺めていた。
見つかった!? 大丈夫だと思ったがさっきの石塊を置いた音が原因かもしれない。今の所、ラミア上位種に 魔法感知(センスマジック) 呪文の反応はない。ということは 盾(シールド) 呪文などは使っていないということだ。
迷っている暇はない。ラミア上位種は呪文を唱えている。アルは魔道具を複製している部屋の前を突っ切って階段通路を半分ほど駆け上がった。 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文の眼ではなく、肉眼で上位種ラミアを捉える。上位種ラミアは驚きに眼を見開き、口を大きく開けている。通り過ぎた魔道具を複製していた部屋では蛮族がギャギャギャと声を上げているのが聞こえるが、そちらは後回しだ。
『 貫通する槍(ピアシングスピア) 』 - 収束
相手まで数メートルしかない近距離だ。アルは上位種の眼を狙うことにした。ラミア上位種の鱗は堅そうで、身体の中心、胴体では 貫通する槍(ピアシングスピア) を使ったとしても貫通させられるかわからない。だが、眼を外したとしても顔ならいくら上位種だと言っても鱗は薄いだろう。
手槍サイズの青白く光る長細いものがアルの掌から伸びた。ラミア上位種は咄嗟に身体をのけぞらせ避けようとする。だが、その動きは間に合わない。青白く光る手槍サイズのものは、ラミアの口に入り、そのまま血しぶきと共に後頭部に抜けた。やった……。
「ギャギャギャ!」
宴会をしていた他のラミアやゴブリンたちの怒号に近い声が部屋から聞こえる。不意打ちで片付けるつもりがそういうわけにもいかなくなった。だが、呪文を使う相手にいろいろと準備をさせるわけにはいかない。アルはさらに進んで宴会をしていた部屋の中を上位種ラミアの死体越しに覗き込んだ。
いきなり 魔法の矢(マジックミサイル) が複数飛んできた。 盾(シールド) 呪文に防がれたものの、効果は8枚分なくなって残り1枚分になってしまった。アルは反撃にと 遅延(ディレイ) 呪文で用意しておいた 貫通する槍(ピアシングスピア) 呪文を放つ。飛んだのは6本。三体のラミアにそれぞれ2本ずつだ。ラミアに通じるか少し不安は有ったが、手槍サイズの 貫通する槍(ピアシングスピア) はラミアの胴体に深々と刺さり、ラミアはその場に倒れた。
「ギギギッ」
部屋の中にラミアに給仕をしていたゴブリンは居たが、混乱している様子でお互いに顔を見合わせて震えている。アルはちらりと下にむかう階段通路を見た。その下には魔道具の複写をしていたラミアが2体、ゴブリンメイジが1体居るはずだ。
『 素早い(クイック) 盾(シールド) 』
「警備ゴーレム、ゴブリンを倒してから下りてきて」
アルは警備ゴーレムにそう指示をすると、自分自身はラミアとゴブリンメイジを迎え撃つために階段通路を下り始めた。
「ギャギャギャギャ!」
3体の蛮族は既に階段通路まで姿を現していた。どの蛮族も呪文はかかっていない。だが、3体とも 魔法の竜巻(マジックトルネード) 呪文が使える杖を手にしていた。一体のラミアがアルを指さした。3体はそろって魔法の杖を振る。青白い球体が杖から飛び出した。
『 素早い(クイック) 力場の壁(フォースウォール) 』
アルは呪文で目の前に白い壁を作った。カツンと音がしたのは飛んできた魔法の 竜巻(マジックトルネード) の青白いこぶし大の球体が壁にぶつかった音だろう。即座に壁の向こう側で風の唸る音が聞こえ始め、続いて連続してドンドンドンとなにかがぶつかるような激しい音がする。音が止むのを待ってアルはすぐに壁を解除した。ラミア3体はいずれも竜巻の範囲には入らなかったようだが、両手で自分の顔や体を庇った姿勢のままだ。
『 貫通する槍(ピアシングスピア) 』
アルが唱えた声を聞き、蛮族たちは防御姿勢を解いて顔を上げたが、その時にはもう手遅れであった。手槍サイズの青白いものがラミア2体とゴブリンメイジを貫いた。ウギ……とは声を上げてその場に倒れ込む。
“やった?”
アルは近づいて倒れた蛮族の様子を確認する。どれも息絶えているようだ。手に持っていた魔道具は回収し、死骸は先程のゴブリンと同様に釦型のマジックバッグにしまいこむ。警備用のゴーレムがゴブリンを倒したらしく追いついてきた。ゴブリン6体は無事倒したようだ。
アルはラミアたちが魔道具の複製をしていた部屋に入っていく。見本となっていた魔道具はもちろん、複製されていた杖、杖を作るための魔道具の部品、魔道インク、魔石などをつぎつぎに回収していく。
部屋の隅には魔道具を作った際にでた余り部品や羊皮紙などが山のように積まれていた。ここに 魔法の竜巻(マジックトルネード) 呪文が使える杖の残り1本の手がかりは残っていないだろうか。ゴミの山をひっくり返し、アルは丹念に調べた。すると、完全に分解されてしまっていたが、それらしい部品の一部が出てきた。複製をするために一つは解体して調べたようだ。アルは胸をなでおろす。
他にテーブルに積まれていた魔道インクと同じ形状の空の瓶が5個、他におなじく魔道インクが底にこびりついた蛮族の手製らしい歪な空瓶があった。誤差はありそうだが、これらの数からプレンティスの魔導士が依頼した数をある程度予想できないものか。
そして隣の部屋と同様にこちらの部屋の中にも汚損してつかいものにならなくなった呪文の書が複数あった。 魔法の矢(マジックミサイル) 呪文、 盾(シールド) 呪文、 魔法感知(センスマジック) 呪文といったものばかりではあるが、その中に 動物(アニマル) 変身(トランスフォーメーション) 呪文があった。もしかしたらこの部屋では、魔道具の複写だけでなく、呪文の書の改修などもしていたのかもしれない。
その時、カキンカキンと下の方で何か硬いものを金づちかなにかで叩くような音がした。警備をしていたラミアが異変に気がついたのか。障害物として置いた石塊を確認しているのかもしれない。
後、確認していないのはラミア上位種の居た部屋だ。あそこには鍵のかかった部屋もあった。石塊が壊される前に早く調査をしてしまわないと……。アルは急いで階段通路を駆け上がった。