軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28-4 チャニング村にて(前編)

セオドア王子から許可をもらったアルは、その日のうちにチャニング村に向かうことにした。お土産の野生のシカを確保した後、日が暮れる少し前に村の少し手前で降下、前回来た時と同じように、父のネルソンに 念話(テレパシー) を送り様子を確かめてみる。国境都市パーカーでのパレードから1週間は過ぎたが、チャニング村に来ていたアルの賞金目当ての冒険者はどうなっただろう。

“父さん、ただいまーっ”

“ア……アルフレッドか? びっくりさせるな”

父はかなり驚いた様子であった。しかし、そう言われても 念話(テレパシー) 呪文はこういうもので、既に念話を送るのも2回目ということもあるし、慣れてもらうしかない。

“ごめんねー。いろいろと落ち着いて近くまで帰って来たんだけど、村の状況はどうか聞こうと思ってさ”

“そうか。もう大丈夫だぞ。オーソンがうまくやってくれた。それに、3日程前には、ギュスターブが手配したっていう元従士の人たちも来てな。ストラウドとユージン子爵、レスター子爵、マーロー男爵たちが反乱を起こして捕まり、アルフレッドが戦いの功労者としてパレードに参加していたって話をしてくれたもんだから、残っていた賞金稼ぎ連中も退散した”

よかった。ということは、ケルに変装しなくてもいいのか。面倒な事はしなくていいのは助かる。

“じゃぁ、このまま帰るねー。途中でシカを狩ったからお土産に持って帰るって母さんたちに言っといて”

“おお、わかった。パーカーでのパレードで、セオドア王子殿下のすぐ後ろを飛行したって村中に広まっているから、アルが帰って来たとなれば、たぶんお祭り騒ぎになるぞ”

チャニング村のような辺境の村はみんなが助け合わないと生きていけない。そのために結束は強くほとんどが顔見知りである。そして娯楽も少ないので、アルが王国騎士団、それも王子のすぐ後ろで凱旋パレードに参加したという話が広まったのであれば、話をききたい村人が集まって来てそうなってしまう可能性は十分にあった。だが、重要手配の話を打ち消すための行為であるので、評判になるのは当然か。ある程度覚悟していた事ではあったが、アルは照れくさい気持ちになって頭をばりばりと掻いた。

“そうか。仕方ないよね。わかったよ。もうすぐ着くからよろしくね”

“待っているぞ”

お祭り騒ぎか。アルが重要手配となって一度帰って来た時には、村の中はかなりピリピリとした雰囲気になっていたので心配していたが、ひと安心である。それほど人数が多い村ではないので食べる方はシカ一頭である程度は形になるだろう。問題は飲む方だ。エール樽の一つでもあれば良いのだろうが、調達するにはマーローの街まで行く必要がある。往復で1時間ぐらいはかかってしまうだろう。

“どうしたのー? 困った事でもあった?”

グリィが尋ねてくる。 念話(テレパシー) の会話は五感を共有するアシスタント・デバイスも聞くことはできない。アルは素直に父とのやり取りを説明した。

“それなら研究塔で作ってるワインを持っていけば?”

ワイン? ああ、オーソンが昔、テンペストの墓所で出られなくなっていた時に無限に湧く魔道具から呑んでいたものか。たしかテンペストのお気に入りで、研究塔の横にある東棟で醸造していたワインがその魔道具に転送されていたらしいが、まだそのワインの醸造を続けていたのか。

“出来てるの?”

“出来てるというより、出来ておいてあった物かな。去年まではブドウの取れ高が極端に少なかったから細々とだったけど、消費するほうもほとんど無かったからね。100年ものとかがあるみたいよ。研究塔には他にもいろいろあると思うから、必要ならついでに貰って来るわよ。芋や豆、小麦の備蓄もあるし、豚とか羊とかも要る?”

ワインはそうか。それに研究塔では食料自給を目指していたし、アルが帰れない時に備えて様々な備蓄食材もある。研究塔にパトリシアたちは居ないが、マラキ・ゴーレムや上級作業ゴーレムなどは残っているので人形ゴーレムや釦型のマジックバッグを利用すれば貰って来るのは容易だろう。しかし、動物などどこから出したって事になりそうなのでやめておいたほうが良い気もする。食材も家の備蓄を使ってもらって、後で買い出しに行けばいいだろう。

“うーん、とりあえずはワインだけでいいかな。あまりすごいのじゃなく最近出来たのがいいと思う”

“わかった。貰って来るね”

あまり古いものは状態はどうなのか不安だ。そんなやり取りをしたアルはお土産の野生のシカの他、グリィにとってきてもらったワインの樽を 運搬(キャリアー) の円盤に載せ、チャニング村までの道のりを駆けたのだった。

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結局、村の全員が集まった宴会が村の広場で行われ、皆、ワインを飲み、シカ肉やシカのスープをたべて盛り上がった。

アルは宴会で兄のギュスターブの紹介でやって来てくれた従士たちとも話をしたが、彼らにはアルも面識があった。外交使節団に参加していて、プレンティス侯爵家の魔導士が襲撃してきたときに、その魔導士が放った 魔法の竜巻(マジックトルネード) 呪文の被害を受けて大怪我を負い、障害が残った人たちだったのだ。

彼らはもっと早くここに来られるはずだったのだが、上役の騎士隊長から退団の許可がなかなか下りずに来られなかったらしい。彼らが言うにはきっとユージン子爵の嫌がらせだろうという話だった。あとでパーカー子爵あたりにこの顛末は手紙に書いて送っておくことにしよう。

夜が更け、ふらつく足で村人たちが家に帰るのを見送って、チャニング家の家族や従士ネヴィルの家族も広場を片付けて帰ることになった。いつもなら大変な後片づけだが、 運搬(キャリアー) 呪文や家族だけにしか見せれないという制限はあるもののマジックバッグもあるので簡単である。

「いいワインだな。これは幾らでも飲めそうだ。高かったんじゃないのか?」

居間のいつもの席に座った父ネルソンはかなり赤い顔でまだワインの残ったカップを片手にそう尋ねてきた。広場から持ったまま帰って来たらしい。かなり気に入ってくれたようだ。

「ああ、ううん、ワインを作ってる知り合いに分けてもらったからよくわからないよ」

「お父さん、まだ飲んでるんですね。飲み過ぎないでくださいよ」

そう言いながら横に座った母のパメラもめずらしく飲んでいた様子で顔を赤くしている。酒にあまり強くない父はともかく、酔った母を見るのは初めてだ。この様子では洗い物などは明日になりそうだ。今日ぐらいは良いだろう。釦型のマジックバッグからワイン樽や残った食べ物などを出しておく。

「今回の件では本当に助かったよ。オーソンありがとうね」

アルは丁寧にオーソンに頭を下げる。オーソンもアルの家に泊っているらしく一緒に帰って来たのだ。重要手配されていたのが判ったあと、一度村の様子を見に来た時にはいろいろと不安を覚えたものだ。それがこんな雰囲気になっているとは助かった。

「まぁ、あいつらがバカで良かったよ。今は心を入れ替えて頑張ってくれてる」

オーソンがレビ商会の傭兵2人とやってきた頃は、10人ほどだったアルの賞金を狙う冒険者がさらに増えて20人ほどになっていて、それも村はずれで騒いだり村人といざこざを起こしたりしていたらしい。放っておくのはよくないと判断したオーソンは、父ネルソンと相談し、その中でも素行の良くないグループに問題のある行動を説明し村から退去するように交渉をしたのだという。

「20人も居たのによく交渉できたね。こっちはオーソンとレビ商会の傭兵を入れても7人でしょ」

父ネルソン、兄のジャスパー、従士のネヴィルとその父のマイロン、アルは指折り数える。

「20人って言っても、元々いくつかのグループに分かれてたからな。観察してたらその問題のあるグループには仲が悪いグループが居るのがわかってよ。その仲の悪いグループを中心に他の冒険者連中にはいろんな話を吹き込んで対立を煽っておいたのさ。だから相手をするのはその問題のあるグループだけって形にもっていったからな」

オーソンはそう言ってにやりと笑う。いろいろと作戦は練って行動したらしい。

「ほんと、オーソンはすごいよね」

オーソンのすぐ横に座って居た姉のルーシーがにこにこと微笑みながら言う。二人の距離がかなり近い気がする。

「で、そのグループはどうなったの?」

アルの質問にオーソンは苦笑をうかべて兄のジャスパーを見た。ジャスパーは得意そうな顔をして頷く。

「素直に従って村から出ればよかったのに、僕たちが退去しろと言うと、お互い目配せをして剣を抜いて襲ってきたんだ。そのグループは8人居て、丁度レビ商会から来てくれていた傭兵の2人は他の冒険者たちの方に行ってたから僕たちは5人、8対5でなんとかできると思ったのかもしれないね。もちろん、その場で取り押さえた。とはいっても、僕がじゃないよ。オーソンさんとネヴィルががんばったんだ」

レビ商会の2人を別行動させておき、わざとそのグループにそんな行動をとるように持って行ったんじゃないかと思ったがそこは黙っておく。

「で、取り押さえた人たちは?」

土地の領主の命令に従わずに逆に襲い掛かったのだ。取り押さえられたら死罪と言われても仕方ないだろう。こんなことをするなんて本当に愚かとしか言いようがない。他のグループにとっても明確なアピールになったんじゃないだろうか。

「オーソンさんから提案があってね。その8人は持ち物をすべて没収して強制労働3ヶ月って事にした。今は毎日、村の周りの藪を刈らせてる」

「藪を刈る?」

父ネルソンの言葉にアルが不思議そうに尋ねた。オーソンが軽く頷く。

「そっちは俺から説明するよ。処分をどうするかって言う話になってな。その時に思いだしたのさ。蛮族に限らず野生動物でもそうだが、何かを襲おうとするときには身を隠して近づいて来ようとするらしい。俺たち人間にとっても襲われるときに怖いのは急に遭遇する事だ。藪がなければこっそり近づいて来るのはできにくくなる。その結果、襲われる回数が減るらしい。これはな、辺境都市レスターに蛮族の死骸の処理施設が作られた時にも行われたやり方なんだ。付近の藪を綺麗に刈り払ったら、施設に蛮族が近づいて来るのは半分に減ったらしいぜ」

成程、こういう工夫もあるのか。蛮族や魔獣が現れることもある辺境の森の低木や下生えを全部刈り取るなんて大変だとは思うが、それでも死罪になるよりは断然マシだろう。丁度いい労働力だ。もしかしたらオーソンは、ここまで狙っていた?

「僕はずっと周囲を巡回しているけど、藪を刈ってあるあたりでは蛮族の痕跡は実際見つかってないよ。もちろん鉄鉱山や渡し場ができたから全体的に減ってるけど、まだ刈れてないあたりには、まだ痕跡はある。藪を刈るのは効果があると思う」

そう言って妹のメアリーも頷いた。アルより2つ年下だが、斥候としての能力が自分に劣らないのをアルは知っていた。そのメアリーが言うのだから間違いはなさそうだ。蛮族対策もオーソンのお陰で前進している感じのようだ。

「オーソン、本当にありがとうね。いろいろと助かったよ」

アルはゆっくりと頭を下げた。

「何を言ってるんだよ。アルのお陰で動かなくなった足が動くようになったんだ。これぐらいは軽いもんさ」

「ストラウドとユージン子爵による反乱はほとんど終息したし、僕の重要手配もだいたい打ち消せたと思う。えっと、オーソンはどうする? 今の話からすると蛮族対策でもっと居てもらってもいい気がするけど、辺境都市レスターに帰るっていうのなら、そうしてもらっても大丈夫かもしれない」

礼金を渡すつもりではもちろんいるが、今回は報酬の約束は拒否されてしまっているのだ。あまり長い間拘束しておくのも悪いだろう。だが、アルの言葉にオーソンはちょっと考えた様子で、改めて周囲を見回した。

そして、ゆっくりと立ち上がると、ワインの入ったカップを片手に赤い顔をして座っている父ネルソンと母パメラが座っているところに近づいていく。どうしたんだとアルが思っているとオーソンは二人に向かって、深々と頭を下げた。

「実はネルソンさんとパメラさんにお願いしたいことがあります。ルーシーさんと結婚させてください」