軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27-10 ナレシュとの合流

「ナレシュ君、あっ……申し訳ありません。ナレシュ様、よかった」

ナレシュは進軍を停止したレイン辺境伯騎士団のすぐ近くに身を潜めていた。シグムンドの姿は見えずナレシュ一人である。馬は2頭、すぐ近くで草を食べていた。アルは周囲に気付かれないように注意を払いつつ彼に近づくとしっかりと握手をした。

「アル君、本当に来てくれたのだね。気にせずナレシュ君でいいのに。セオドア王子殿下とは連絡がとれた?」

「念話だったから直接話せてはいないけど、ビンセント子爵閣下には報告したよ。今のこの様子もビンセント子爵閣下配下の魔法使いが 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文の眼を通じて……あっ」

アルは目を見開いた。しまった。今も 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文の眼はアルの肩に乗ったままだ。ナレシュの姿がはっきりと向こうにも見えてしまっているだろう。念話だけならバレなかっただろうが、あまり考えずに合流してしまった。

「ナレシュ様の事を報告の時に話してなかった」

ナレシュの顔が一瞬強張った気がしたが、彼は軽く首を振って微笑んだ。

「大丈夫だろう。理解してくださるさ。何とか父上か、せめて兄上と話をしたい。シグムンドが顔見知りを見つけてな。幸いシグムンドはあまり知られていなかったし、レイン辺境伯騎士団には傭兵や男爵家の騎士団なども混じっていたからうまく紛れ込んで話をし、状況を聞くことが出来た。驚くべきことが判ったぞ」

そう言って、ナレシュは騎士や従士たちは本当の事を知らされておらず、これから戦おうとしているのもパウエル子爵率いるテンペスト王国騎士団だと説明されているらしいと話した。メルヴィン男爵が話した内容と一致している。アルも頷いた。

「僕も同じ内容を捕らえたメルヴィン男爵から聞いた。彼によるとストラウド様とユージン子爵の他、ナレシュ様のお父上であるレスター子爵、他に街の代官であるグラディス男爵、マーロー男爵、オーティス男爵は少なくとも知っているはずらしい」

アルは命惜しさにでたらめを言っている可能性もあると前置きしたうえでメルヴィン男爵から聞いた内容を説明した。あの時は必死だったし、プレンティス侯爵家の魔導士が3人、そして今までの部下が3人眼の前で死んだショックもあって素直に降伏して話したと考えていたが、後から外交使節団で一緒であった際、彼はアルをかなり敵視していたのを思い出し、素直に改心していたかどうかは怪しいものだったのかもしれないと不安に思うようになったのだ。とは言え、縛り上げて枷をつけて放置してきたのだから、彼の話した内容を信用しすぎなければ問題はないだろう。

「相変わらずアル君はすごいな。しかし、そうだとすると父上が今回の件の裏側を知っている可能性は高いということか。父を含めて他の男爵たちもユージン子爵に騙されているだけならと少しだけ期待していたのだけど……」

ナレシュはじっと考え込む。どうなのだろう。ユージン子爵は状況を正しく伝えず、プレンティス侯爵側がかなり有利だと説明しているのかもしれない。そういう意味では騙されているのかも?

「ねぇ、タガード侯爵家の領都付近での戦いではパトリシアはプレンティス侯爵の指揮下に居た貴族や騎士たちに手紙を送って新生テンペスト騎士団に加わって欲しいって説得した。同じような事をできないかな? たとえばセオドア殿下の幻影を出して、本当の事を説明したら戦いは収まらない?」

アルの提案にナレシュは少し驚いた様子で真剣な顔をし、すこし考えたがやがて首を振った。

「それは主に指揮官である貴族や騎士たちに呼びかけたのだろう? たぶんだけど、プレンティス侯爵の指揮下に居たとはいえ、隊長たちはパトリシア殿下に対して忠誠心を持っていたんじゃないかな? だから成功したんだと思う。騎士は基本的に指揮官に忠実だ。そうじゃないと戦うなんてできないからね。今回でいうと、いくらセオドア王子殿下が話したとしても、騎士団長であるユージン子爵や大隊長の男爵クラスがそれを否定すれば騎士たちが単独で戦いを止めるとは思えないな。可能性があるとすればデュラン卿ぐらいだろう。あの人はレイン辺境伯騎士団の中でも一番の古株だ。彼の話なら多くの騎士が耳を傾けるだろう。そういう意味では君の兄上、ギュスターブ卿も可能性はあるかもしれないよ。彼も騎士団の中ではかなり人望があるからね」

どちらも旧セネット伯領都に守備隊として残っていて、セオドア王子殿下率いる今の遠征隊には居ない。それを説明するとナレシュは驚愕した。

「え? そうなのか。どうして?」

「ああ、それも説明しないといけなかった。そうなんだ。どういう意図があったのかはわからないけど、レイン辺境伯家から遠征軍に参加していた騎士たち、デュラン卿や兄のギュスターブは皆守備隊に組み込まれたらしい。そして、ナレシュ様の部下たちもね。ゾラ卿からはそう聞いたよ」

ナレシュは頭を抱えた。そうか、たしか、ナレシュは自らの騎士団もセオドア王子の支配下として一緒に参加していて、こっそり戻るつもりではないかという話だった。

「そうだったのか。まいったな。だからアル君はさっき、 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文の眼の話を申し訳なさそうに言っていたのだな。今更仕方ない。単独行は後で詫びることにしよう。とりあえずは今の事だ。シグムンドはさっきの話を私に報告したあと、改めてレスター子爵騎士団の陣に私と父上或いは兄上との話を仲介してくれる人間がいないか探してもらっている。彼の弟がどこかに居るだろうという話なのだ」

たしかラドヤード卿がナレシュに自分はレスター子爵家の騎士としては引退し、改めてセネット男爵家に仕えるという話をしていた際、自分が持っていたレスター子爵家に仕える騎士爵位と領地である村についてはシグムンドの弟に継がせると説明していた。騎士であれば従軍してきても不思議ではないのか。改めて考えるとアルも騎士たちの中に顔見知りはいる。なんとか戦いにはならないようにしたいものだ。

その時、アルは野営陣の中で 魔法発見(ディテクトマジック) の反応がある者が5人、こちらに近づいてくるのに気がついた。レイン辺境伯家騎士団に魔法使いはかなり少なくなっているはずだ。 浮遊眼(フローティングアイ) の眼を3メートルぐらいまで上げてそちらの方向を見る。10人ほどの集団がこちらに向かってい歩いていた。

先頭は20代前半の若い騎士だ。身体はがっしりしていて金髪。シグムンドに似ている気がするので彼の弟かもしれない。その後ろを壮年の身分の高そうな男性が2人歩いている。こちらはアルには全く見覚えが無かった。その後ろにレスター子爵家の魔法使いであるウォルドとエマーソン、そしてなぜかカーミラが居る。さらにその後ろに騎士が4人。こちらもレスター子爵家に仕える騎士だ。アルは見た事はあったが、話したことはなく名前も知らない。そのうち、身分の高そうな男性とウォルド、エマーソン、カーミラの身体は 魔法感知(センスマジック) 呪文の効果でほんのりと青白く光って見えた。

「こっちに向かってレスター子爵家に仕える魔法使いを2人連れた立派な鎧を着た40前後の男性が2人、護衛らしい騎士たちと一緒に歩いてきてる。どうする? 考えすぎかもしれないけど一応……」

そういって、アルはナレシュに 盾(シールド) 呪文と 魔法抵抗(マジックレジスト) 呪文を順番に唱えた。相手も 魔法発見(ディテクトマジック) 呪文は使っているかもしれないが、すでにアル自身には呪文がかかっているし、一人だけ逃げるというのも出来ないと思ったのだ。カーミラの存在がよくわからない。魔道具屋のララによると情報屋という話だったが……。

「父上だろう。アル君、君を巻き添えにしたくない。隠れてくれ」

「えっ?」

ナレシュはどういうつもりなのか。どちらにせよ姿を見せないほうが有利かもしれない。辺りは暗く身を隠すところはふんだんにある。

「わかった」

時間はない。アルは身を隠すほうが良いと判断して、あわてて近づいてくる人たちとは反対側の茂みに身を隠した。警備ゴーレムを釦型のマジックバッグから取り出し、いつ戦いが起こっても参加させられるようにしておく。

騎士たちが枝を薙ぎ払い、10人の集団はまっすぐナレシュが居る茂みにむかって歩いてきた。ナレシュは身を隠すことなく待ち構えた。

「父上、お待ちしていました」