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作品タイトル不明

27-3 パウエル子爵との会話

旧セネット伯爵領に向かって空を飛びつつ、アルはセオドア王子、そしてノラとのやりとりを契りの指輪を経由してパトリシアに伝える。返って来たのは、大きな安堵のため息だった。

“セオドア殿下からの仕官のお誘いは断られたのですね”

“そうだね。だって領地とか言われても困るし……”

当然じゃないかと思いつつアルはそう返事を返す。

“ありがとうございます。パーカー子爵閣下に引き続き、セオドア殿下もテンペスト王国とは友好な関係を保って頂けそうというので安心しました。このまま弱体化しているテンペスト王国併合を考えておられたらどうしようかと不安だったのです。ノラ様については了解いたしました。頼まれてもタガード侯爵領に連れて帰るということはなさらないでください”

“わかったよ”

少し嬉しそうなパトリシアの声に、途中ではあるが、依頼は順調なのだとアルも安心した。

“もうすぐセネット伯爵領都につく。一旦連絡は切るね。また連絡するよ”

“はい。お気をつけて”

遠くに大きな都市が見えて来た。もうすぐ 念話(テレパシー) 呪文が使える距離になるはずだ。アルは一旦パトリシアとの連絡を切り、今度はナレシュと 念話(テレパシー) を繋ぐことにした。だが、試してみた所、彼の反応は返ってこない。まだ時間は昼前であり、普通なら寝ている事は考えられないのだが、一体どうしたのだろう。ビンセント子爵は確かにナレシュが領都に居ると言っていたのだが、もしかしたらまだ戦闘が続いていて領都を離れているのかもしれない。そうだとすると、ジョアンナも同じか。

少し考えてアルは兄のギュスターブと 念話(テレパシー) を繋いでみる事にした。セオドア王子が率いていた騎士団には全くレイン辺境伯騎士団の旗は無かったので、セネット伯爵領都の防御に残されているはずなのだ。

“兄さん、今話せる?”

“アルフレッドか? 大丈夫だ。一体どうしたんだ?”

ギュスターブから 念話(テレパシー) の返事はすぐに返って来た。

“実はね……”

アルはパトリシアの挙兵と、それに伴ってセオドア王子やパウエル子爵に手紙を届けるように頼まれたことを話した。

“すごいじゃないか。いくら距離があって届けるのは難しいとはいえ、本来なら子爵あたりが使節となって行うような事だぞ”

たしかにそう言われればそうなのかもしれない。だが、今時点でパトリシアの下に子爵は2人しかおらず、手が足りないから仕方ない事なのだろう。

“ふむ、事情はよくわからんが、少なくとも信頼されているという事だ。ありがたいと思わねばな”

アルの説明にギュスターブがそう諭す。その通りかもしれない。ナレシュの事を尋ねてみる。

“セネット男爵もそうだが、戦いは昨日には終結していて、それ以降、戦闘は発生しておらず、守備に残った部隊はセネット領都の復興の手助けをしているはずだ。とは言え、ここの領都も広いから 念話(テレパシー) が届く範囲ではないのではないか?”

“そうかもしれないね。とりあえず領都に入って、先にパウエル子爵の所に行く事にするよ。どうやって入ったらいいかな?”

ギュスターブにシルヴェスター王国占領下にある領都への入り方を聞く。さすがに紹介状がないと無理らしい。もちろんパウエル子爵宛の紹介状は持っているが、都市の入り口を守る騎士にみせるものではない気がする。

“わかった。入り口まで迎えに行くから待っていろ。来るのは南門がいい。できれば従士の服とかを着ていれば目立たないんだが……”

残念ながらそれは持っていない。 鎧作成(クリエイトアーマー) 呪文を使えば似たものを着ているようには見せられるだろうが、 魔法発見(ディテクトマジック) 呪文に反応が出ることになるので余計な問題が発生しそうだ。

“仕方あるまい。出来るだけ急ぐ”

“ごめんね。忍び込めない事はないんだけど、普通に入ったほうがいいかなって思うんだ”

アルは人目を避けつつ、街道付近に降下し徒歩で領都に向かう。戦いは昨日終わったらしいが、街道にはほとんど人影はなかった。南門には堀などはなく、巨大な門扉は破壊され、20人程の騎士や従士が出入口を守っていた。

“着いたよ。警備の人がいるから今は少し離れたところに居る”

門と100メートルほど離れたところからアルはギュスターブに再び念話を送った。

“ちょっと待て。こっちは色々と手続きがあるのだ”

落ち着いた反応が返って来た。まだ少しかかるらしい。

“急ぎの使者という話で通そうと思うが、さっき聞いた話はどこまで報告していい? デュラン卿なら問題ないか?”

再びギュスターブが尋ねてきた。門を通る理由を作ろうとしてくれているのだろうか。

“セオドア殿下やパーカー子爵は既にご存じなので絶対に秘密という段階じゃないと思う。プレンティス侯爵家にかかわりがない人物なら大丈夫なんじゃないかな”

“わかった”

しばらく念話は途切れた。とは言え、何かまだあるかもしれないので 念話(テレパシー) 呪文自体は切らずにおく。

“少し聞いていいか? お前の話だと、以前からパトリシア姫を助けて色々と活躍しているようだが、アルフレッドはこのままテンペスト王家に仕えるつもりなのか?”

“えっと……”

急にギュスターブがセオドア王子と同じような事を聞いてきた。単なる興味なのか。それとも何か大事な事なのだろうか。

“とりあえず、そのつもりはないよ。テンペスト王家にもシルヴェスター王家にも僕は仕えたいとは思わない。セオドア殿下にも同じように聞かれて、仕えるつもりはありませんって言ったし”

“そうなのか。パトリシア姫と駆け落ちしてアルフレッドは一緒になるらしいとルーシーからは前に聞かされたような気がするが、それも違ったのか?”

ギュスターブの問いにアルは口を尖らせた。

“うーん、パトリシアは大好きだけど、僕に貴族の仕事とかできると思う? 最近いろんな人と話をする機会があったんだけど、それでだんだんと思えて来たんだ。パトリシアは僕からどんどんと遠い所に行っている。僕の手がとどく人じゃなかったんじゃないか。早く身を引いた方がいいんじゃないかって”

“そうなのか……”

ギュスターブはそこで一旦言葉を止めた。

“珍しいな。お前から身を引くとかそんな話を聞くとは思わなかった。いつもなら周りの意図など気にせず、自分の考える事にまっすぐ行くくせに”

“えっ?”

アルはそう言われて自分の頭をばりばりと掻いた。そうか……そうなのかもしれない。

“特例ということですぐに認可が下りた。デュラン卿にも後で礼を言っておけよ。10分ほどで着く”

ギュスターブがそう言った。戦争が終わったばかりの領都に入ってパウエル子爵の陣にまで行く許可が得られ、その許可が出るのにデュラン卿が特別に配慮をしてくれたという意味なのだろう。だが、アルはなんとなくその前に兄ギュスターブに言われた言葉が頭の中に残り、ぼうっとパトリシアの事を考えてしまうのだった。

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「向こうに見えるのがパウエル子爵のおられる屋敷だ。これはデュラン卿の添え状。俺は一緒に行かないほうがいいだろう」

そういって、アルはギュスターブから羊皮紙の束を受け取り、彼が教えてくれたパウエル子爵が利用しているという貴族の屋敷に向かった。屋敷には広い庭があり、その庭では彼の配下の騎士たちが張ったと思われるテントが並んでいる。入り口でデュラン卿の添え状を見せると、アルはすぐに屋敷内に通された。

「アルフレッドと言ったな。デュラン卿からはパトリシア様からの書状を届けてくれたと書いてあった。早く見せてくれ。姫はご無事なのか?」

屋敷にはパウエル子爵だけでなくクウェンネル男爵も居た。パウエル子爵は30才前後、短めの金髪で身長は185センチぐらいだろう。引き締まった身体つきをしていた。クウェンネル男爵は40才後半ぐらいだろうか。身長はパウエル子爵ほど高くなく、175センチほど。頭は綺麗に禿げあがっていて、目つきは鋭い。パウエル子爵たち2人はアルが鞄から取り出したパトリシアからの書状を押し頂くようにして受け取り、2人で顔を見合わせて封蝋を確認すると徐に開いた。そろって文面を読んでいく。

「おお、なんと、パトリシア様は魔法使いテンペストの御子孫から助力してもらい、タガード侯爵領を攻めていたプレンティス侯爵家騎士団を破られたと。そしてその機に乗じてプレンティス侯爵家の支配下に置かれていたドイルが寝返り、姫の指揮下に入ったと……。姫はついに挙兵されたのか」

2人は感激したように軽く抱き合った。

「ドイル子爵だけでなく他にもパトリシア姫に従う事にした騎士たちも居て、我々がシルヴェスター王国に協力を願ったのと同じくタガード侯爵家に亡命していたペルトン子爵が軍勢をまとめたとありますぞ。そしてその軍勢はテンペスト新生第1騎士団、そして、我々をテンペスト新生第2騎士団とすると書かれてありますな」

クウェンネル男爵もパウエル子爵と顔を何度も合わせながらそう呟く。

「うむ、そしてその第2騎士団の騎士団長は儂だと……。ドイルは第1騎士団第2大隊の隊長らしい。そして、パトリシア様が直卒される第1騎士団はテンペスト王都奪還に向けて西から攻めるので、儂が率いる第2騎士団には東から攻めるようにと……この2年の苦労がこのような形で報われるとは……」

2人はパトリシアからの手紙に非常に感激している様子だった。アルは続いて、パトリシアから託されたテンペスト第2騎士団騎士団長の任命状を渡す。パウエル子爵はそれも押し戴くようにして受け取った。

「このパウエル、全力を持って姫のご期待に沿えるよう努力いたしますぞ」

「パウエル閣下、姫からの書状の最後の方に、王都奪還が叶えば女王として即位したいと考えている。助力を頼みますと書かれておりますぞ。姫ではなく王女殿下とお呼びしなければ……」

2人はそんな事を話し合っている。

「ペルトン子爵、ドイル子爵からもお手紙を預かっておりますので、お納めください」

「うむ、うむ。アルフレッド殿、ご苦労であった」

アルはナレシュの事も聞きたいと少し思ったが、2人は非常に興奮していてそれを話すどころでない様子である。アルはそのまま2人の許を辞し、ナレシュたちを探しに向かったのだった。