軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25-7 商業都市アディー解放

テンペスト新生第1騎士団は、翌朝、早い時間から進軍を始め、夕刻にはタガード侯爵領の商業都市アディー近郊に到着した。昨夜、タガード侯爵が言っていたように、プレンティス侯爵家騎士団がそこを拠点に反撃を試みるだろうと予想しての行動である。

だが、そこにあったのは、無残に壊されたままの城壁とテントなど残ったままの空っぽの野営陣だけで、プレンティス侯爵家騎士団の姿はなかった。

罠を疑ってまず斥候を出して調査をした結果、プレンティス侯爵家騎士団は既に昼過ぎに撤退していったことが判明した。都市内はプレンティス侯爵家騎士団が略奪を行った痕跡が至る所に残っており、市民の中には死傷者も多数出ているようだった。

「タガード侯爵家の騎士団はまだ到着しないのですか?」

「まだのようです。共に進みましょうと何度も使者を立て、殿下からの親書もお渡ししたのですが、返事はきておりません。領都から騎士団は動いていない様子です」

パトリシアの問いにペルトン子爵が答えた。ドイル子爵とクレバーン男爵は顔を見合わせ、少し呆れた様子で首を振った。ラドクリフ男爵がパトリシアの前に進み出る。

「商業都市アディーはタガード侯爵領で、本来これらの救援はタガード侯爵閣下が責任を持たれるものでございますが、目の前で倒れている民を放置するわけにはまいりません。市民はテンペスト王国の民です。救護について協力いたしたく存じます」

彼はそう言って膝をつく。その言葉にパトリシアは頷いた。

「もちろんです。ラドクリフ男爵、到着したばかりで疲れていると思いますが、第一大隊の一部を率いて救援に向かいなさい。アディーはラドクリフ男爵に任せて、それ以外の者は野営の準備です。斥候の報告から最終判断になりますが、おそらく東谷関城に向かう事になるでしょう。また朝から進軍です。良いですか?」

「はっ」

テンペスト新生第1騎士団の騎士団長は変わらずペルトン子爵であった。ドイル子爵の率いていた大隊はそのまま新生第1騎士団第2大隊となり、それ以外の者たちは第1大隊という形でエドシック男爵が率いていた。ラドクリフ男爵はペルトン子爵の補佐である。ペルトン子爵は全体の指揮をドイル子爵に任せたいと言ったのだが、彼女は降ったばかりの身でそれは良くないと辞退し、この形に落ち着いたのだった。

完全に日が沈み、野営の準備も整った頃、救援作業を行っていたラドクリフ男爵が戻って来た。商業都市アディーから使者を連れてである。商業都市アディーを治めるラザフォード子爵の嫡男だとその使者は名乗った。

「パトリシア王女殿下に一言お礼を申し上げたく参上いたしました」

そう言って、深々と頭を下げたのは濃い茶色の髪を短く刈り込んだまだ若い男性であった。服は、上質で貴族が着るようなものだが、かなり汚れており肩のあたりにはまだ血が付いたままだ。ラドクリフ男爵の話によると、彼と彼の父はプレンティス侯爵家の騎士団に最後まで抵抗し、彼の父ラザフォード子爵は殺され、彼自身は商業都市アディーの領主館の地下に監禁されたままになっていたということだった。

「それは大変でしたね。御父上はお気の毒でした。かなりの者がプレンティス侯爵家に寝返る中、懸命に抵抗を続けられたとはすばらしい忠誠心であったと思います。幸い、プレンティス侯爵家騎士団は昨日、タガード侯爵家の領都での戦いに敗れ、こちらも今日の昼過ぎには撤退した模様です。戦時ということで長い期間というわけにはまいりませんが、ラドクリフ男爵を残しますので、彼と共に都市の復興に尽力をしてください」

「ありがたきお言葉……王女殿下にそう言って頂き、父も浮かばれる事でしょう」

ラザフォード子爵の嫡男は涙をこぼしつつ、感謝の言葉を言い深々と頭を下げたのだった。

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「パトリシア、いいかい?」

夜中になって、アル(ディーン・テンペスト)は、パトリシアが働いているテントに顔を出した。テントにはタバサ男爵夫人とドリス、そして警備ゴーレムが2体控えていた。彼女の座っている机には羊皮紙が山積みになっており、おそらく手紙を書いていたようだった。

「ディーン様……。丁度お会いしたいと思っていた所です」

パトリシアは椅子から立ち上がり、アル(ディーン・テンペスト)に駆け寄った。

「今日もお疲れ様だね。ちゃんと寝てる?」

タバサ男爵夫人とドリスしかこの場に居ないというのでアルの口調は演技ではなく普段のものに戻っていた。

「昼間、馬車の中で少し寝ましたので大丈夫です」

そういうパトリシアの眼の下にはクマが浮かんでいた。馬車の中ではペルトン子爵たちとずっと話をしていたはずなのでこれは明らかに強がりだろう。だが、戦争や政治についてよく知らないアルにも、今は大事な時であるのはさすがにわかっていたので、それ以上強い事は何も言えなかった。

アルが言い難そうに少し詰まりながら話始める。

「えっとさ、パトリシア……、ペルトン子爵は信頼できそうだし、守護ゴーレムと警備ゴーレムはリアナでも……制御できるだろう。何かあったら契りの指輪で呼んでくれたらいいんだし……だから……僕は一旦研究塔に行って、ゴーレムの修理をしているマラキの手伝いを……。」

タバサ男爵夫人は目を剥いて何か言おうとしているが、ドリスはそれを懸命に止めている。パトリシアは少し寂しそうな顔をしたものの、微笑みを浮かべる。

「そうですね。会議をしている間もずっと暇そうに呪文の練習をしていらっしゃるのは気付いておりました。もちろん、いいで……えっ? だめ。ううん、それは危険……」

パトリシアは途中で話すのを止め考え込んでいるようだ。何があったのだろう。

“リアナがね、パトリシアに言ってるの。アリュにテンペストの地下宝物庫に忍び込んでもらったらどうかって。パトリシアは拒否してる。きっと、アリュに今回、危険な事をお願いしたし、またお願いするのは良くないって思ってるんじゃないかな。でも、リアナはアリュなら逆に行きたがるんじゃないかって考えて私に伝えてくれって言って来たわ。どう?”

そういうことか。地下宝物庫というのは、テンペストの王城の地下にあって、王家の者として登録されていないと入れないところだったはずだ。宝物庫の存在について聞いた時に、行ってみたいとは思っていた。だが、さすがに興味本位で忍び込むようなところではないし、あそこに入るにはパトリシアと一緒に行かないといけないので無理かと諦めていたのだ。

でも、パトリシアからの依頼というのなら話は別だ。今ならアルだけで入口まで忍び込んだ後、パトリシアは 移送(トランスポート) 呪文を使って呼び出せばいい。その方法ならパトリシアに危険はあまりないだろう。中に眠っているゴーレムたちをマジックバッグに入れて運び出せばいいのだろうか。

もちろん王城そのものの警戒はかなり厳しいだろうが、行けるかもしれない。それに宝物庫というからには他にも何かすごいものがありそうだし、そのうち一つぐらいは貰えるかもしれない。

「いいんじゃない? 僕、行ってくるよ」

「え?」

アルが急に言い出したのできょとんとした表情をしたパトリシアだったが、王城の地下宝物庫に行くという意味だと悟ると、彼女は慌てて首を振った。

「私は行った記憶はありませんが、おそらくプレンティス侯爵家は厳重に警備をしている事でしょう。危険です」

「とりあえず行ってみるだけだよ。危険だったら途中でやめるって約束する。リアナは地下宝物庫の場所や王城の造りも知ってるでしょ? その情報があれば行ける可能性は十分にあると思うんだ」

パトリシアは眉根を寄せ考え込む。

「でも、建造後かなりの年数が経っています。リアナが知っているものからさらに改築がなされているかもしれません」

不安を言い募るパトリシアにアル(ディーン・テンペスト)は大丈夫と微笑んで見せた。その様子にパトリシアは何かに気付いた様子でため息をついた。

「わかりました。アル様は地下宝物庫を古代遺跡と同じようなものとお考えなのですね。ならば、何を言っても無駄でしょう。くれぐれも無理をせずにお願いします」

その通りだ。わかった。アルは思わず微笑んで頷いたのだった。

「で、忍び込んで何をしたらいいのかな?」

「地下宝物庫の前にある王城の管理装置のところまで忍び込み、そこで私を 移送(トランスポート) 呪文を使って呼んでください。地下宝物庫の地図やタイミングなどの情報は今、リアナからグリィさんに伝えられている事でしょう。そこからは私とリアナでなんとかなります」