軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24-9 タガード侯爵家領都到着

アルたち一行はその後、追撃されることなく日が沈む前に無事にタガード侯爵家の領都に到着した。領都そのものは慌ただしく喧噪に満ちており、その居城も人の出入りがかなり多い。大量の荷物を抱えて出ていく人が多く、出入りする人々の表情には余裕が無いように見えた。

領都の大門でビンセント子爵が身分を明かすと、門を守る衛兵は明らかに喜色を浮かべて、大声で伝令を呼び、丁重に城の貴賓室に案内されたのだった。

「アルフレッド、ご苦労だった。そなたはここでしばらく仮眠をとっているといい。外交交渉の場にまで呪文による護衛は必要ないはずだ。話し合いはそれほど長くはかからず、2時間ほどで終わるだろう。夜中にはここを立ち、セネット領都を包囲中の我が国の陣に向かいたいと考えている」

ビンセント子爵はアルを労い、そう話した。確かに少しでも仮眠が採れるのは有難い。徹夜は日常茶飯事で、飛行中はそれほど緊張することはないとは言え、それでも疲れるものだ。だが本当に大丈夫だろうか。

“アル様、 浮遊眼(フローティングアイ) の 眼(・) に 探知回避(ステルス) 呪文をかけて、彼の肩の上に乗せておいていただけませんか? ジリアン殿の姿を近くで見ておきたいのです。さらに、できればその様子をパトリシア様やタバサ様に見て頂けるように 記録再生(レコード&プレイ) 呪文で記録もしていただけないでしょうか”

記録再生(レコード&プレイ) 呪文自体は、アル自身の見聞きしたことを記録するだけなので大丈夫かもしれないが、問題は 浮遊眼(フローティングアイ) の 眼(・) だ。当然のことながら、ビンセント子爵が会議の場に向かう途中で 魔法発見(ディテクトマジック) 呪文や 透明発見(ディテクトインヴィジブル) 呪文によるチェックはあるだろう。 探知回避(ステルス) 呪文で本当に大丈夫だろうか? 万が一、見つかれば大問題になってしまう。

しかし、タガード侯爵家がそれほど信用できるのだろうか。 眼(・) をつけておけば、子爵が襲われれば、その時点で気付くことができる。タガード侯爵家に問題は無くても、ここにプレンティス侯爵家の間諜が入り込んでいる可能性もある。ここはアルたちにとって完全に安心できる場所ではないのだ。リアナの申し出の通り、 浮遊眼(フローティングアイ) の 眼(・) をビンセント子爵の肩に付ける事にしよう。アルはそう決めた。

「どうした? アルフレッド」

考え込んでいる様子のアルにビンセント子爵が尋ねてきた。

「いえ、ありがとうございます。ご厚意に甘えて仮眠をとっておきます。ついでに手足を拭うためのお湯などを作りたいので、この部屋での呪文の使用許可を頂ければありがたいです。ビンセント子爵閣下もいかがですか?」

昨日の夜に出発してもう丸一日近くになる。ビンセント子爵も汗を拭うぐらいはしたいだろう。ビンセント子爵の配下の騎士が部屋の外に詰めていたタガード家の従士に尋ねると、ここでの呪文使用は問題ないとの返事だった。アルは手早く 武器作成(クリエイトウエポン) 呪文で桶を作り、 水生成(クリエイトウォーター) 呪文でその中に水を、 温度調節(サーモス) 呪文でその水を適温に変える。

「なんと呪文をこのような事に……」

ビンセント子爵はアルの手慣れた様子に少し絶句しつつ、アルの背中のおおきな鞄から取り出された布を受け取った。

「布は、呪文で作らないのか?」

「できなくはないのですけど、呪文で作ったものは、作りがちょっと粗いので、実物のほうが気持ちいいと思います」

アルは二人の騎士たちにも湯の入った桶と布を手渡した。部屋の中の会話は聞かれているようなので、ビンセント子爵と相談はせず、それらの呪文に紛れて、色々と試してみる。まずは自分の肩の上に乗っている 浮遊眼(フローティングアイ) の 眼(・) に 探知回避(ステルス) 呪文を使う。その後、 透明発見(ディテクトインヴィジブル) 呪文で効果範囲を半分、発見精度を2割増しにして使ってみた。 眼(・) はそれに反応する。次は効果範囲をいつもの55メートル、発見精度をいつものに変えてみた。 眼(・) の存在は反応しなくなった。これなら大丈夫か。

「どうした?」

「あ、いえ、ちょっと習得したばかりだったので呪文に失敗しただけです」

ビンセント子爵はやはり鋭く、何かを感じ取った様子で尋ねて来たが、とりあえずそう言ってごまかした。

アルは改めて自分の分の湯も出して、布で拭う。茶色く染めた髪の染料は拭うだけで、かなり薄くなってしまい、元の金髪とかわらなくなってしまったが、それは仕方ないだろう。もうここまでくれば問題ないはずだ。

皆が使った後の湯は回収して、 水生成(クリエイトウォーター) 呪文で水は霧散させ、桶に残った汚れは布で拭っておく。 武器作成(クリエイトウエポン) 呪文を解除すれば桶は消えた。布は汚れたままだが、これは後で洗うしかない。それらの呪文に紛れて、 記録再生(レコード&プレイ) 呪文を行使しておいた。

「では、行ってくる」

「はい。がんばってください」

浮遊眼(フローティングアイ) の 眼(・) をビンセント子爵の肩にそっと乗せる。音は聞こえないが、これでビンセント子爵が出席する場の様子は全部記録することが可能のはずだ。

-----

外交交渉は最初、タガード侯爵らしき年配の男性とビンセント子爵の握手から始まった。会議には、偉そうな人が15人参加しており、他にも会場の警備に騎士が10人程いる。

誰が誰かはよくわからないし、会議の内容は音が聞こえないのでよくわからないが、その中に、以前遠くからみた侯爵の嫡男であるジリアンと彼の妹のノラが含まれていた。以前遠くから見た時のジリアンは優し気な微笑みを浮かべていたのだが、今回は会議の間中、ずっと苛ついている様子で、その発言はヒステリックに何か叫んでばかりいる印象であった。

周囲の警戒はグリィに委ねて、アルはうとうとしながら会議の終了を待つ。少しでも仮眠をとっておかないと帰りの安全に影響してしまうだろう。予定を1時間ほど超過し、真夜中近くになって会議は終了した。

グリィに起こされたアルは、廊下を歩く疲れた様子のビンセント子爵を見ていた。彼もアルと同じく昨晩から寝ていないのに大変だ。

彼と配下の2人の他に、ノラと侍女の1人が一緒に歩いてきている。部屋にたどり着く前にアルは 浮遊眼(フローティングアイ) の 眼(・) を解除しておいた。これはもし 眼(・) が見つかっていたとしても、部屋までついてこなければ証拠とはならないだろうという判断からだ。

「お疲れさまでございました」

扉がノックされると、アルは立ち上がって皆を出迎えた。5人はぞろぞろと部屋に入ってくる。

「待たせたな。アルフレッド。話はおおよそ尽くされたよ。ノラ様は存じ上げているな」

ノラがビンセント卿の影から顔を出し、アルをちらりと見た。アルははいと答えて頭を下げる。

「ノラ様と侍女の方が、我々と一緒に来られることになった。連れてきた護衛のうち、1人は彼女の代りにここに残り、単独で帰国することになる」

なるほど。男性1人を下して代わりに女性2人を乗せるのか。重量は大丈夫だろう。しかし、この段階で外交使節か。もしくはタガード家の血筋を残すための配慮なのかもしれない。しかし、二人は高い空は大丈夫だろうか。

「わかりました。重さ的にはそれで大丈夫でしょう。空を飛んで問題ないか、確認を……」

「それはいらないわ。問題があっても私たちは行かないといけないの。最悪の場合、口枷をつけて、縛り上げてもらっても構わない。お父様やお兄様には何も言わせないから安心して」

ノラがそう言う。それは、とても安心できない気がするが、とりあえずそれだけの覚悟ということか。

「畏まりました。最悪、椅子から落ちないようにガードをつけた上で、眠りの呪文でも使わせて頂きます」

アルの答えに、ノラは頷く。そして、にやりと微笑むと、アルに一歩近づき、顔を覗き込んで来た。

「アルフレッド、会うのはこれで三回目ね。帰国してからいろいろと調べたわ。金髪の小僧、あれってあなたの事よね?」

「た、多分……」

ノラの雰囲気にアルは一歩下がりつつ答える。

「ここに来る途中にも、1人魔導士を倒したと聞いたわ。その魔導士は徽章をつけていた。1-2-1、第一魔導士団、第二隊、第一魔導士のことね。第一魔導士ってことは隊長よ。その実力は、おそらくプレンティス魔導士団の中でも指折りのはず。それに呪文で強化された小剣をもっていたことから、身分のある魔導士だった事でしょう。それを、簡単に倒したそうね。あなたは一体何者なの?」

アルは頭をバリバリと掻く。そう言われても、相手が油断していたのだろうとしか言いようがない。

「以前、外交使節団を襲撃してきた魔導士を1人倒していたわね。あれは非正規任務だったから徽章は付けていなかったけれど。その時も……」

そこまで言って、彼女はさらに一歩前に出て、じっとアルの顔を覗き込む。顔が近い。

「シルヴェスター王国の隠し玉……ってところかしら。ナレシュ様のところで会った時には呪文をつかっていなかったけれど、今はちゃんと使っている。あれは偽装だったの? 油断できないわね」

いや、あの時はそんなに常時、色々な魔法を使っているなんて知らなかったんです……。心の中でそう呟くが、ノラの迫力に押され、アルは口に出せなかった。

「わかりました。とりあえず出発しましょう。出発の用意は……」

そうして、一番身体の大きい騎士を残してアルたちは一路、旧セネット伯爵の領都を囲むシルヴェスター王国の遠征軍と旧テンペスト王国騎士団連合軍の陣に向かうことになった。ちなみにタガード家の領都に残された身体の大きな騎士は、一般人に偽装し、馬を借りて別途帰郷を目指すらしい。

ビンセント卿たちも殆ど寝ていないので、後ろに乗る4人は全員、椅子から滑り落ちないようにガードをつけておく。ばたばたと30分ほどかかって最低限の着替えや食料なども受け取ると、アルたちはそのまま、タガード家の居城の窓から飛び立った。

ノラと侍女は夜に空を飛ぶのに関して特に騒いだりすることなく、感慨深そうに居城の様子をじっとみていた。

そのまま、アルは安全を考えて高度1000メートルぐらいに上げた。これぐらいになると、地上を目視しての飛行は少し難しくなるが、地上からもほとんどみられることはない。アルたちは特に妨害をうけることなく、翌日の昼前にはセオドア王子のテントに無事到着することができたのだった。