軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-17 国境都市パーカー到着

「よく無事だったな。よかった!」

翌日の夕方、アルたちが領都の北側を通る細い道から国境都市パーカーに到着すると、パーカー子爵は馬に乗って都市の入口の門までやって来て嬉しそうに到着を歓迎してくれた。子爵の眼の下には黒い隈が浮いており、疲労の色が濃い。こちらでも何か異変があったのだろうか。

「ありがとうございます。なんとか到着できました。子爵閣下に於かれましては、我が商会を保護してくださり、誠にありがとうございます」

レビ会頭が馬車を降りて駆け寄り、彼の前に跪いて深々と頭を下げる。息子のエドモンド、傭兵団のデズモンドとレジナルドも一緒だ。アルは、馬車を曳いていた馬を撫でてやりながらそのやり取りを横で聞いていた。

「何を言う。一年前、ナレシュ殿と共にそなたらが我が領に支援で来てくれなければ、領内は深刻な内部対立と治安悪化に陥っていただろう。そなたたちのおかげで、領内の平和は保たれ、セネット伯爵領から逃れてきた者たちも無事に我が子爵領や、ナレシュ殿が治める新セネット男爵領に定着しつつあるのだぞ。他の商会にも、これは保護であり優遇ではないときちんと話はしている。彼らもレビ商会と同じように自らの商会が理不尽な迫害を他の貴族から受けたとしても守られるということだと理解し、納得もしてくれている。心配することは何もない」

パーカー子爵はそういって頷き、追いついてきた従士らしい男に乗って来た馬の手綱を渡す。

「ご配慮ありがとうございます。今回の事で、また、領内の他の商会からの妬みを受けるのではないかと心配しておりました。さすがはパーカー子爵閣下にございます」

「ふむ、レスターではだいぶ苦労したようだな」

「はい。御推察の通りです。私もまだ若く、配慮が足らなかったのです」

そのやり取りからすると、レビ商会は辺境都市レスターで新興の商会としてかなり苦労していたらしい。タラ子爵夫人とアグネス夫人との対立がどこまで深刻だったのかわからないが、ナレシュとルエラの婚約によって、サンジェイとナレシュとの後継争い、配下の子爵たちの勢力争いに巻き込まれた部分もあったのだろう。余裕そうに見えたが、内実は大変だったに違いない。

「ユージン子爵家の連中はどうした?」

「はい、いろいろとありましたが、そこにいるアルやオーソンという冒険者たち、エリック様の弟子の魔法使いに助けられて、撃破いたしました。捕虜なども居ます。詳しくは領主館か、衛兵隊の本部で報告させていただくというのはいかがでしょう」

レビ会頭の提案にパーカー子爵は頷いた。

「捕虜がいるのなら、衛兵隊本部にしよう。一足先に行っておくので、捕虜たちを護送する者の他に、会頭と傭兵団の幾人か、あと会頭が必要と思われる者を連れて来てもらいたい」

レビ会頭が頷くと、パーカー子爵は従士から手綱を受け取り、慌ただしく馬で駆けて行った。それを見送って、レビ会頭は立ちあがる。

「エドモンドとレジナルドは一緒に来てくれ。ブレンダは捕虜の護送の責任者を務めよ。デズモンドと相談して必要な人数を決めてくれ。残ったものはデズモンドと一緒に屋敷に。エリック様、エリック様はどうされますか?」

レビ会頭は馬車に残っていたエリックに声をかける。エリック達は少し相談した後、フィッツとレダが衛兵隊の本部まで同行することになった。

「アル君とオーソン君は一緒に来られるか」

「い、いや、俺、あ、私は偉い人は苦手だし、言葉も知らないんで遠慮しておきます」

レビ会頭の言葉にオーソンが慌てて首を振る。レビ会頭は苦笑を浮かべた。アルはそんなオーソンをちらりと見て、自分は行くしかないかなと観念して、僕が行きますと申し出たのだった。

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「たった20人ほどでユージン子爵が雇った100人以上の傭兵団を撃破、プレンティス侯爵家から派遣されていた魔導士を倒したとは……。なんと痛快な事よ!」

衛兵隊本部の会議室に通されたレジナルドの語る話を聞き、パーカー子爵は膝を叩いて大きな快哉の声を上げた。会議室にはニコラス男爵という衛兵隊の長官、あと衛兵隊の小隊長が2人程いる。こちらはレビ会頭、エドモンド、レジナルド、フィッツとアルだ。レダはブレンダと共に捕虜の引き渡しに行っていた。

「さらにユージン子爵配下で別荘の責任者であったブルックとプレンティス侯爵家のコール、レイチェルを捕まえたというわけだな」

「はい。彼らが所持しておりました書簡や軍資金と思われるものも押収しております。物資や食糧もかなり貯め込んでおりましたが、そちらは我々も余裕がなくて回収できず、処分しております」

「そうか、残念だがそれは仕方あるまい。書類は引き渡してもらって我々の方で調べさせてもらおう。押収した軍資金はいかほどか?」

「およそ金貨8千枚です」

すごい金額だ。増えた分はアルが渡した分だろうか。そのあとで、別荘で見つかった分もあるかもしれない。8千枚と聞いて、パーカー子爵も驚いた様子だ。

「それほどの資金がながれているとは驚きだ。そして、モーガン子爵閣下が解放された事も大きい。私にとっても、彼らがずっと何の動きもせずに沈黙している事が非常に謎だったのだ。まさか拘束されているとは思いもよらなかった。そなたらの働きでユージン子爵一派の動きはかなり阻止でき、逆に我々は非常に動きやすくなった。アルを送り出した後、我らは場合によってはセオドア王子の率いる遠征軍が帰還するまでの間、単独で辺境伯騎士団が侵攻してくるのを耐えねばならぬとニコラスと話をしていたのだ」

パーカー子爵の話にレビ会頭やエドモンドは大きく頷いた。他の子爵家が沈黙し、レスター子爵がユージン子爵を支持するとなれば、そうなる恐れもあったということか。よくわからないながらも、そうなったら大変だっただろうなという想像は付く。パーカー子爵は言葉を続けた。

「さらに、書簡や捕らえた捕虜を引き渡してくれた功績もある。これによって、彼らのたくらみが暴かれ、プレンティス侯爵家に通じた明らかな証拠も見つかるかもしれない。そうなれば、王家も動かしやすくなる。いずれもすばらしく褒賞に値する。詳しい経緯、各自の働きなどをまとめてニコラス宛に書面にて提出するように。ただ、この褒賞に関してはセオドア殿下が遠征から戻られてから協議をするので時間がかかると思ってもらいたい。よいな?」

レビ会頭たちやフィッツはその言葉に頭を下げる。アルも特に異論なく、一緒に頭を下げた。

「軍資金やその他、その場で得た物については、目録を提出するだけでよい。本来であれば一旦ニコラスのところで預かって働きに応じて再配分すべきところだろうが、今はその時間が惜しいのだ。レビ会頭の事は信頼しているので、そなたからアルたちに分けてやれ。そして、エリックについてはここに来て心細いだろうから面倒も見てやるのだぞ。それと、あとは相談だが、押収した軍資金についてだが、金額が金額だけに、全額与えたとなると他の貴族たちがうるさいかもしれん。そのうち、何割かでよいので義援物資という形で納入してくれぬか?」

盗賊などの場合は盗まれた物品の所有者が明確な場合を除けば全額が討伐者のものになるのは慣例だ。だが、さすがに金貨8千枚ともなるとやっかみも含めて感情的な事を言う者もでてくるというのだろう。レビ会頭はその言葉に即座に頷いた。

「金貨4千枚分ほどの物資を義援物資として納入させていただくようにいたします。ただし、我々も現在の商会の状況が把握できておりませんので、納入日につきましては猶予を頂きたく存じます」

半分も?! アルは驚いて思わずレビ会頭の顔をちらりと見た。パーカー子爵の口調からすると、1割か精々2割分を納入すればよかったのではないだろうか。だが、会頭は涼しい顔をして微笑んでいる。その顔を見てパーカー子爵は最初ぽかんとしていたが、やがてにやりと笑った。

「そういうことか。さすがレビ会頭。判断が早く頼りになる。今後ともよろしくな。注意点だが、今回の件はまだ他言するな。まだ表立ってユージン子爵の非を唱えられるほどの準備は出来ておらぬ。今も、万が一、辺境伯騎士団が我々のところに攻めてきたらというので、領の各所に見張りを置き、警戒網を構築しようとしている最中なのだ。ここで、辺境伯騎士団を動かす大義名分を向こうに与えたくない。今はあくまで水面下での動きに留めたいのだ。よろしく頼む」

パーカー子爵はそのおかげでほとんど寝れておらんとブツブツ呟いた。目の下の隈はそういうわけだったのか。ユージン子爵は表立ってプレンティス侯爵家側に寝返っているわけでも無いので、辺境伯騎士団が配下の子爵が治める国境都市パーカーに攻めこむには、王家や他の貴族たちが納得できそうな理由が必要なのだろう。際どいところか。

「他に何かあるか」

パーカー子爵の問いにアルがおずおずと手を上げた。

「コールという研究者の扱いについてですが」

「おお、アル。今回もよく頑張ってくれた。コールというのは、プレンティス侯爵家魔法研究室の研究員だったな」

アルは立ち上がると、軽く頷く。

「おそらくですが、彼はあまり諜報活動の経験がなく、軍事機密を守る意識が無いように見受けられます。うまく誘導すれば色々な事を聞き出すことができそうなのです」

そう言って、アルは今までの彼とのやり取りを説明した。もちろん、自分の呪文の熟練度( 魔法の矢(マジックミサイル) 呪文の場合は矢を飛ばせる数)については伏せておく。

「成程、そうすればプレンティス侯爵家の魔法使いたちについて情報が得られるかもしれないというのだな」

「はい。重要な情報になるかと考えます」

アルの説明にパーカー子爵も頷く。プレンティス侯爵家の魔導士がどれぐらいの数居て、どのような能力を持っているか。今後もし戦う事になれば非常に有意義な情報になるだろう。

「わかった。考慮しよう。場合によっては協力を頼むぞ」

報告が終わると、アルたちはレビ商会の屋敷に向かうことにした。だが、捕虜の引き渡しが終わっていないようで、会議室を出た後、別の部屋でブレンダとレダを待たされることになった。

「アル君、やはり呪文の書や魔道具については問題なかっただろう? 気にせず貰っておいてくれ。あとは金貨についてだが、呪文の書や魔道具の件を考慮しても、君には4千枚ぐらいを渡そうと思うのだが?」

茶を用意してくれた召使が部屋を出ていったのを確認して、レビ会頭がアルに囁く。

「えっ? 僕がそれだけ貰う訳には……」

どういうつもりなのだろう? レビ会頭は入手した軍資金のうち8千枚のうち、4千枚分は物資を購入して納入するように頼まれ、快諾していたではないか。残りは4千枚しかない。エリックたちはどうするのかわからないが、少なくともオーソンにも礼金はだすつもりではないのか。アルとしては呪文の書や魔道具をもらっているので十分なのに……。

「義援物資についてだが、君がマジックバッグを貸してくれたことで、実はあの別荘にあった装備品や食料はごっそり全部回収して来ている。私が見たところ、その価値はおよそ金貨4千枚ぐらいであった。どのみち、これについては、元々何らかの名目を作って援助するつもりだったが、閣下が義援物資という話を出してきたのでそれに充てさせてもらっただけなのだ。だから、全く気にする必要はない。それなら4千枚よりもっと欲しいと思うかもしれないが、そこはパーカー子爵閣下への投資だとおもって目を瞑ってくれないか。閣下にはこの一連の動きで勝ち残ってもらわなければならないのだ」

そう言って、レビ会頭は片目をつぶって微笑んで見せた。そうか、処分したとパーカー子爵に報告していたが、マジックバッグに入れて持ってきていたのか。マジックバッグの存在は明らかにするわけにも行かないので、そう言わざるを得なかったのだろう。

しかし、武器や食糧などにこれほどの価値を引き出せるのはレビ会頭だけだ。アルが気が付いて回収していたとしても、売り払うルートなどなく、大半は貯め込んで腐らせるしかなかったに違いない。以前の穀物20樽もマジックバッグに放り込んだままになってしまっているぐらいである。それを考えれば、4千枚は多すぎる話だろう。素直に貰うというのは少し心苦しいところだ。

それに、今のレビ会頭にとっても4千枚は決して少ない金額ではないのではないだろうか。

「わかりました。差し出がましいですが、その金貨4千枚を僕に下さるのはこの戦いが落ち着いて、しばらくしてからということにしませんか? 正直なところそんな大金、渡されてもどう使ったらよいかわかりません。それよりは、今はレビ商会で使ってもらったほうが有意義に使えるんじゃないでしょうか? そうですね、状況次第ではありますが、例えば3年ぐらいお預けしておいて、その後改めて僕にくださるというのはどうでしょうか」

出陣しているナレシュたちにも今後さらに金がかかるだろう。セネット男爵領はレビ商会に財政面では頼り切りのはずだ。だが、この状況ではさすがのレビ商会にも余裕はないのではないだろうか。そんなことを考えてアルはそう申し出てみた。レビ会頭はすこしあっけにとられた様子で軽く首を振り、苦笑する。

「なるほど。たしかに今は我々も少しでも資金があるほうが助かる状況だ。でも、本当にいいのかね」

アルは同じようにプレンティス侯爵家から強奪した軍資金が金貨2千枚使い道もなく持っているのです。心の中でそう思ったものの、そこは単純に頷くにとどめた。

「わかった。では、君の申し出に甘えて金貨4千枚は3年借りておくことにするよ。そして、返す時には、そうだな、少なくとも倍にしてみせよう。それまで楽しみにしておいてくれたまえ」

倍!? さすがレビ会頭というところだ。元々、呪文の書と魔道具だけでも十分だとおもっていたぐらいなので、そこまでは要らないが、気持ちは嬉しく受け取っておこう。

「はい、楽しみにしています」

アルはそう囁き返す。丁度、ブレンダとレダが捕虜の引き渡しを終えたという連絡が来た。

「では、屋敷に帰ろう。ルエラにも会いたい。皆、無事でよかった」

レビ会頭の言葉に、デズモンドを始め、その場の者たちは皆しみじみと頷いたのだった。