軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-9 馬車襲撃後

「エリック様、無事でよかった」

コールとレイチェル、2人が拘束されたのを見届けたアルは一旦緊張を解いてにっこりと微笑む。

「アル君、ありがとう。迷惑をかけた。すまぬが、レビ会頭やフィッツたちはまだ捕まったままだ。手伝ってもらえるか?」

手伝う? エリックは自分が救助をしなければと考えているのだろうか。もちろん助けたいのはレビ商会の傭兵たちやレダではあるのだろうが、アルにとっては迷惑をかけているかもしれない相手でもあり、アルとしては決して他人事だとは思っていないつもりである。どちらかというとエリックの体調のほうが心配だ。レジナルドはどう考えるのだろう。

「もちろんですよ。向こうの状況など詳しく聞かせて下さい」

アルは一旦そう言ってからチラリと拘束したままその場に立たせている二人を見る。2人に話を聞かれながら作戦会議をするわけにはいかないだろう。

「おい、二人を少し離れたところに。アル、周囲の警戒は頼む」

レジナルドはアルが 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文で周囲を監視できるのも理解しているようだ。アルはかすかに頷いた。さすがにここに襲撃をかけてくる者はいないと思うが、せっかく捕まえた捕虜を遠くから狙撃されたりするのは避けたい。レジナルドの部下が捕虜の二人を少し離れたところに連れて行くとお互い大丈夫だろうと頷きあった。

「向こうにはどれぐらいの戦力が残っていますか? 指揮しているのはブルックという人らしいですが……」

アルは声を潜めて尋ねる。ムツアシドラの巣であったところに遺骨回収に行った際、回収部隊の指揮をしていたブルックはかなり腕が立ったが、魔法を使ったところは見たことが無い。

「どれぐらい残っているかははっきりしません。とは言え、私が連れ出された時には別荘からかなりの人が減っていた印象を受けました。元々、あの別荘地には召使や下働きの者を除けば、ユージン子爵家に仕える準騎士、従士は合わせて5人程度でしたが、他に所属不明、おそらくプレンティス侯爵家の魔法使いやその部下たちが20人程、雇っている傭兵が30人、ごろつきのような男たちが50人程とかなりの戦力がいました。傭兵はおそらくですが輝ける盾と黒いナイフ団の二つの傭兵団に所属している者たちです。どちらも団長とは面識がありましたが、ここには来ていないようです」

ユージン子爵家、プレンティス侯爵家、傭兵、ごろつきをあわせて105、それに対し倒したり捕虜にしたのが騎馬20、徒歩50、魔導士10の80である。単純な計算なら残りは25となる。もちろんざっとした数字でしかないし、こちらの人数は上回るのだから油断はできないが、このまま押し切れそうな気もする。

「その所属不明の人たちの中に魔法使いはどれぐらい居そうかわかります? 他にもすごそうな魔法使いとか」

「そうですね。腕の立ちそうな人が1人、その配下に2人居たのは明らかでしたが、他はよくわかりませんね」

エリックの言う3人はアルが倒した魔導士たちだろう。アルはレジナルドをじっと見た。レジナルドも軽く頷く。

「エリック様、今の話だと、別荘に居た戦力の八割、つまり最低限残さざるを得ない戦力を除いた全部を使って俺たちをつぶそうとしてたって事だと思います。それで、その隊は全部倒しました。もう大した戦力は残っていないでしょう。手ごわいのは精々ユージン子爵家のそのブルックとかいうやつぐらいだと思いますよ?」

「たっ!」

レジナルドの言葉にエリックは驚愕して大きな声を出しそうになる。横にいたレダが慌てて止める。

「倒したのですか? 全部? それはすごい」

申し訳なさそうにエリックが小さな声で尋ねる。それにレジナルドは誇らしげに頷いた。

「ああ、アルが大活躍です」

そう言われたアルは照れくさくなってがりがりと頭を掻く。

「ところで、エリック様だけが連行された理由というのはわかりますか?」

「それなんですが、私たちは隔離された後、あそこにいるコールという人がずっと一緒でした。それも彼は私が去年魔法使いギルドに提出したレポートを持っていて、その内容について微に入り細に入り綿密に尋ねられたのです」

魔法使いギルドに提出したレポート……となると、 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文のオプションについてか。視界をひろげることができるという話と、術者が見える 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文の眼の視界のサイズの変更についてだろう。

「魔法使いギルドというのは基本的には国単位に独立しており、特に我々シルヴェスター王国とテンペスト王国の間では国同士が交易を禁じていたこともあり殆ど交流はありませんでした。なので、二国間で戦争になりそうだという話があっても、大して気にしていなかったのです。ですが、あの人はどこから入手したのか去年の初秋に私が発表した 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文のオプションについて魔法使いギルドに提出したレポートの写しを持っていました。今考えればユージン子爵経由で手に入れたのかもしれません」

「そうだったんですね」

アルは申し訳なさそうに答えた。名誉は要らないと考え、特に気にも留めていなかった話だったが、こんな危険が潜んでいたとは。

「エリック様、それは……」

レダも申し訳なさそうだ。アルの説明からオプション付きの発動に成功したのはレダだった。

「いえ、アル君、レダ君どちらも何も悪くありません。それに、確かに口枷手枷にはうんざりしましたが、あのコールという人は乱暴な事はしませんでした。単純に魔法のオプションについて非常に熱心に話を聞きたかった様子です。他に私がアル君の師だと信じていた様子で、アル君が参加していた辺境遠征やタガード侯爵領への外交使節の護衛、他にもアル君個人についても色々と問われました。ですが、私が答えられる質問はほとんどありませんでした。精々、 運搬(キャリアー) 呪文の円盤に人を乗せていたというぐらいでしょうか」

それは……。たしかに、エリックを乗せて走った事が有った。当面、必要な事は聞けただろうか? レジナルドに尋ねてみたが、彼は首を縦に振った。

「なるほどな。呪文について調べるのと、アルについての調査か。さっき、護衛もアルの事を知ってたみたいだし、プレンティス侯爵家はかなりアルに拘ってるみたいだな。たしかにそれだけの活躍はしてるか」

「アル君はおかしいですからね……」

レジナルドの言葉に、レダも横で頷く。いや、どうして? アルとしては不本意でそんなことないですよと言ってみるが、後の言葉は出てこなかった。

「良いだろう。相手の戦力についてもなんとなくわかった。さっさとレビ様を救出しよう。どうする? アル、二人の捕虜は殺すか?」

アルは首をひねった。殺すのは個人的には可哀想だとおもうし、時間があるのなら色々と聞くこともあるだろうが、この状況では生かしておくと邪魔になってしまうのかもしれない。この状況でどう判断すべきなのかは、アルにはわからなかった。そこの判断は申し訳ないけれどレジナルドにして欲しい。

「それについてはお任せします」

「アルは殺す必要性は感じていないということか。うーんじゃぁ、どうするかな。ところで、エリック様、ご自身は戦えそうですか? かなりふらついておられるようでしたが……。レダ様はどう思われますか?」

「いえ、戦います」「すこし厳しいと思います」

エリックとレダの意見は違うようだ。その反応を見て、レジナルドは少し考え込んだ。

「アル、相手の残りは30人を切るぐらいだろう。腕の立つのはそのブルックというやつと、居ても精々あと一人ぐらいだと思う。その一人が最悪魔導士だとして、俺とお前、それにオーソンさんに手伝ってもらったら、正面切って戦っていけると思うか?」

先制攻撃できるかどうか……それ次第ということになりそうな気がする。でも魔導士1人だけなら、なんとかなるのかもしれない。そして、今のふらついているエリックの体調で戦闘に参加してもらうのはアルとしては賛成できない。普段なら自信は無いと言いたいところではあるのだが、返事は難しい。

「レビ商会とエリック様の門下生以外は最悪の場合救えないかもしれません」

不利な状況になればいったん撤退して、 魔法の火花群(マジック スパークス) を空から連発しよう。もちろん、そのやり方をすれば召使や下働きの人に対しても手加減はできないし、誰か証人のために殺さずにいて欲しいと言われても無理になる。ああ、厳密にいえばブルックなら知っているので対象から外す事は出来そうではあるのだが。

「ああ、そこは問わない。いや、モーガン子爵はまずいか」

対象外にするには知らなすぎる。せめて顔を見ないと無理だ。

「そこは最悪ということで……。エリック様に参加頂いたところで変わらないと思います」

肩をすくめるアルにレジナルドは苦笑いを浮かべて頷いた。

「お聞きの通りです。今はエリック様とレダ様は捕虜の2人を馬車に乗せてデズモンドと合流してもらえないでしょうか? 彼に状況を伝えて頂きたいのです。配下は一人、御者として付けるのが精一杯ですが、向こうも別動隊を出しているとは思えないので大丈夫だと思います。エリック様の回復を待てる時間があれば、手伝って頂けてとても心強いのですが、領都に使者が走っているこの状況ではそうも言っていられません。それと、アル 捕虜の尋問は後回しでいいよな? どうせこの状況で捕虜の話は信用できない」

なるほど、レジナルドは今のエリックは戦力にはならないと踏んだらしい。たしかにこの状況でいくら呪文が使えるとはいえ、足のふらつく人間を連れて行っても足手まといになりかねない。そして、おそらくプレンティス侯爵家の研究員は生かしておく方が今後の交渉材料としても有効だと判断したのだろう。アルとオーソンとレジナルドとあとはその配下の一人。レジナルドの腕はあまり知らないが、相手の戦力を考えれば4人で潜入してレビ会頭たちを救出は……できそうだ。注意点はレビ会頭やその商会員を人質にとられないようにすることか。

レダはエリックとレジナルド、アルの顔を交互に見た。そして、ぎゅっと目を瞑る。

「わかりました。それでお願いします」

「レダ君!」

エリックが抗議の声を上げる。だが、その声は弱弱しく震えていた。レダは首を振る。

「今のエリック様の状況であれば、彼らの足手まといになると思います」

おそらく自分自身で門下生を救出に行くつもりだったのだろう。エリックはこぶしを握りしめた。

「レダ君……。わかった。アル君、レジナルド君、決して無理をしてはいけないよ。フィッツ、マーカス、ルーカスのことをよろしく頼む」

アルは頷く。ただし、アルには一つだけ気になる事があった。

「馬車の中にたくさん魔法の反応があったんです。きっと呪文の書……いえ、何か仕掛けがあるかもしれません! 出発前にちょっとだけ中身を確認しておいても良いですか?」