軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-7 離脱者?

“オーソン、いるー?”

“おう、いるぞ”

ほぼ砦と化しているらしいユージン子爵の別荘に近づいて、アルが 念話(テレパシー) を送ると、オーソンからはすぐに返事が返って来た。返事の雰囲気からすると、彼の身に危険が迫っているということはなさそうだ。

“こっちは全部倒したよ。僕とレジナルドさんたちとレダ様が、別荘に向かってる。オーソンは?”

“すげぇな……と話をしたいところだが、その前に連絡だ。10分ほど前、あたりが白んでくるのと同時に馬車が1台と騎馬2騎が出て行った”

馬車と騎馬?

“どんな馬車? プレンティスの? 騎士?”

“いや、黒塗りのじゃない。6人乗りぐらいの立派そうな馬車だ。騎馬に乗ってたのは革鎧だったから騎士じゃないだろう”

10分前? それならばまだそれほど遠くには行っていないだろう。間に合うか。

“どっちに?”

“北だ”

“ありがと。そっちに向うよ。悪いけど、もうしばらく”

“ああ、こっちは大丈夫だ”

そこでオーソンとの 念話(テレパシー) を切る。北に向かった馬車があることを後ろの椅子に座るレジナルドたちに伝える。レジナルドもアルと同じく北に向かった馬車を押さえようとの判断だった。別荘のほうはその後でも間に合うだろうし、オーソンに任せておけば問題があってもなんとかしてくれそうな気がする。

逆に馬車をここで逃がして、レビ会頭やエリックが乗せられていた方が探すのが大変になってしまう。騎馬の方はその護衛だろうか。馬車が去った方向に向かって空を飛びながら、エリックか、レビ会頭と 念話(テレパシー) で連絡がとれないか試しておく。まずはエリックが良いだろうか。だが、エリックに送った 念話(テレパシー) には反応がない。まさか寝ている? とりあえず次はレビ会頭だ。

“レビ会頭?”

“おお、アル君か。もしかして助けに来てくれたのか?”

すぐに反応が返って来た。

“レジナルドさんやエリック様の弟子のレダ様、オーソンも一緒です。レビ会頭はどちらに? 建物の中ですか?”

“そうだ。エドモンドや店の者たちも一緒に居る。傭兵団のメンバーも別部屋だが怪我などないはずだ”

レビ商会の領都で働いていた者たちは護衛も含めて皆ここにいるのか。とりあえず行方はつかめたということで安心だ。

“ルエラ様はレスターから無事脱出しパーカーにいます。パーカー子爵はレビ商会を保護して下さっているんです。デズモンドさんは一緒にきていますが別動隊です”

“そうか、よかった……”

レビ会頭の返事には大きな安堵が含まれていたように感じられた。

“そちらにエリック様は?”

“隣の部屋だった。エリック様たちはずっと口枷や手枷をつけられていてかなり疲労されておられる様子だ。1時間ほど前にエリック様だけが連れ出されたが、他の弟子の方たちは残されている。それと、他にも何人かここに拘束された方が居られるようだ”

他に誰が? レビ会頭の丁寧な言葉遣いから察するに貴族だろうか?

“辺境伯様やセレナ様とか?”

“いや、辺境伯家の方々ではない。だが、モーガン子爵閣下がおられたように思う”

モーガン子爵? 交易都市モーガンというのは聞いたことがある。レイン辺境伯領の一番北側、シルヴェスター王家直轄領に入るところに位置する都市だ。子爵ということはそこを治める領主か。もちろんアルに直接面識はない。そのあたりの顔を知っているというのはさすがレビ会頭というところだ。

しかし、その子爵がここに拘束されているということは人質ということだろうか? 交易都市モーガンはシルヴェスター王国の辺境伯領から他領に向かう陸路の交易窓口となる都市である。そこを押さえて辺境伯領内の情報を王国に対して遮断しているということか。逆にその子爵を救い出せば一気に情勢が変わるのでは?

“かならず救出しますから、待っていてください。先に馬車に居ると思われるエリック様を救出してからそちらに向かいます”

“わかった。無理せず、焦らずに”

レビ会頭の言葉は落ち着いていた。とりあえず今のやり取りをレジナルドたちやレダに伝える。

「よかった。会頭はひとまず無事なのだな」

「エリック様はおそらく馬車なのですね。それもずっと枷を……」

レジナルドは大きく胸をなでおろしていた。レビ会頭の居場所が確定したが、先に馬車を押さえるということで良いようだ。逆にレダは不安そうである。口枷や手枷というのは、呪文を使う事を阻止するためのものだろうが、ずっと使われているとは食事などはどうしているのだろう。5分程飛び続けたところで、森の木々の隙間から馬車がちらりと見えた。騎馬の姿は見えない。相手からみつからないように高度を下げつつ再度エリックに 念話(テレパシー) を試す。

“エリック様?”

“! これは、アル君ですか?”

非常に驚いた声だ。それはそうか。ここで念話がつながるということは、やはり馬車の中に居るのだ。

“馬車の中ですか?”

“よくわかりましたね。そうです。魔法使い用の口枷手枷をつけられ、さらに拘束されてしまっています。同じ馬車の中にはプレンティス侯爵家に仕える魔法使い、コールという人とその護衛の人3人が一緒です”

魔法使い? 魔導士ではないのだろうか。戦力がわかればと念話を続ける。

“40才位の男性です。どちらかというと魔法使いギルドで呪文の研究をされている方と同じような雰囲気を受けました。もっと狂気じみていますが……。護衛のうち1人の女性は明らかに魔法使い。他の2人は男性で、腰から剣を下げています”

他に馬車を走らせている御者も居るのだろう。

“騎馬も一緒でしたよね? 近くにいますか?”

“いえ、2騎は先に行ったと思います。ブルック殿―と、コールという人は呼んでいました―という別荘で指揮をしている人は、「できるだけ早く連絡をして戻ってくるのだぞ」とその人たちに言っていました”

ブルック……?

“ユージン子爵に 飛行(フライ) 呪文をもらったとき、居た人じゃない?”

グリィがそう問うてきた。ああ……たしかユージン子爵の配下で、ヘンリーの遺骨回収で回収部隊の指揮を執っていた人でそんな名前の人が居た。アルもその時一週間ぐらい一緒に行動をしたので憶えている。

“ブルックって、短めの銀髪で身長180ぐらいのがっしりした男の人ですか?”

“ああ、そうです”

最初はとっつきにくい人かと思ったのだが、話をしてみると威張ったり、若いからとアルを軽く扱ったりしない、付き合いやすい人だった。あの人が別荘警護の指揮をしているのか。

騎馬は先に行った? ということは領都にいるユージン子爵に状況を知らせたに違いない。ここから領都までは20キロ程だ。道も辺境都市レスター近辺などとは違って整備されているので1時間もあれば着くだろう。

まだ、ブルックたちはアルたちが追っ手である魔導士や傭兵たちを倒したところまでは把握してはいまい。レビ商会の傭兵が来たという情報を持って行ったのだろう。場合によってはユージン子爵の命令を受けた衛兵隊や騎士団を連れて帰ってくるかもしれない。馬を飛ばせば1時間。最速2時間で戻って来るか。いや、さすがに従士などの徒歩の者を連れずに来るとは思えないので、普通に考えれば6時間後、昼過ぎには到着してくる可能性がある。しかし、こっちは昨夜徹夜だった事もあって傭兵団の者たちは疲労困憊だ。アルもいつ魔法を使い過ぎたことによる頭痛が襲ってくるか不安なところである。

とりあえずレジナルドたちやレダに今聞いた情報を伝える。だが、すぐには結論は出ない。結局のところ、まずはエリックの救出をしてから考えるしかないということになったのだった。