軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22-5 騎士団宿舎 後編

ヒースの話にアルはうなずける所も多かったが、同時に何故それほど自分が目の敵にされているのかという疑念も湧いた。そしてもうひとつ、わからない点もある。

“ヒース様、エリック様の件はどうなのでしょう?”

エリックはなぜ拘束されているのか。彼はセレナ様からの魔法部隊の指導を頼まれて領都に居ただけではないのか。

“儂が考えるにそなたと同じ理由じゃと思う。そなたの祖父、かの魔法使いどのはグラディス平原で大きな功績を挙げた。そなたが彼の人の孫であることはおそらくもうプレンティス侯爵家は掴んで居ることじゃろう。そして、エリック殿はそなたの師匠じゃ。おそらくプレンティス侯爵家の工作を裏で邪魔して来た大元はエリック殿とその一門と考え、そなたの祖父と重ね合わせて脅威に感じておるのではないかな?”

“エリック様と僕とは師弟関係じゃないですよ?”

アルはそう言ったが、それはヒースに言っても仕方ない。エリックに呪文のオプションを発見に伴う面倒な事を押し付けてしまった結果、関係者以外からはそういう風に見えているのかもしれない。だが、もしそうだとするとエリックには大きな迷惑をかけてしまっていることになる。

“でも、じいちゃんが大きな功績? ゾラ卿が何か言ってた気もするけど……?”

アルは祖父が活躍して功績を挙げたという話は聞いたことがなかった。チャニング村が与えられ、チャニング家が騎士爵に叙爵されたのは曾祖父が従士として勤め、騎士団を退く際に長年の功績に報いられたからだと聞いていた。だが、以前、ゾラ卿から祖父が参加していたであろうグラディス平原の戦いでの魔法使いの活躍は見直されるべきだと聞いた事もある。実際はどうだったのだろう。

“んー、そうか。事、ここに至っては話してもよいじゃろう。よく聞けよ。グラディス平原での戦い。あれで空を飛ぶドラゴンの幻覚を出してテンペスト騎士団を惑わし、混乱に陥らせたのはそなたの祖父を小隊長とする魔法使い部隊の決死の行動が挙げた功績じゃった。少なくとも儂はそう思って居る。じゃが、その時、魔法使い部隊全体の指揮をしていたヒュー・ユージン子爵、今のユージン子爵の父はその功績をほとんど認めなかった。そなたの祖父ではなく、その混乱の隙を突いて、騎士団を突撃させたチャールズ・レイン、継承前で当時は騎士団長を務めておられた嫡男、今のレイン辺境伯の功績を極めて大きいとしたのじゃ”

エリックが戦勝記念のパレードで見たというのはそれの再現なのか。祖父は幻覚呪文が得意だったし、その戦いに参加していたとしても不思議ではない。

“当時の辺境伯は嫡男が活躍したと聞かされて大いに喜び、碌に調べもせずにヒュー・ユージンの言葉を信じ込んだのじゃ。代々、レイン辺境伯家は身内に甘い。レイン辺境伯領を拝領する前、王国騎士団の騎士団長を務めていた頃ならそれでも良かったのかもしれぬが、大領の領主となればそれではいかぬと儂は思う。ストラウド殿も甘やかされて育ち、その結果がこれじゃ”

ヒースのいう事が全部正しいのかどうかはわからないが、ある程度の真実味を帯びているのは確かかもしれない。そして、パトリシアの件や国境都市パーカーでナレシュに協力した件、使節団の護衛など、様々な事が積み重なったということだろうか。

“レビ会頭やエリック様が拘束されている事は御存じですよね? どこに監禁されているかお心当たりはありませんか?”

“一旦、衛兵隊が管理する牢獄に運ばれたのまでは確実なのじゃが、その後、騎士団長だけでなく、衛兵隊長官の地位についたユージン子爵の命令で別の所に護送されたらしい。運び先は明確にはわからぬが、少なくとも騎士団や衛兵隊の管理する施設ではない。ストラウド殿やユージン子爵は自らの領地を持たぬ故、それほどの人数を収容できそうなのはユージン子爵が個人的に持つ別荘ぐらいではないかと思う。たしか、領都から東北東に20キロほど行った湖のほとりにあると聞いたことがある”

“ありがとうございます。場所を詳しく教えてください”

アルはヒースからユージン子爵が持つ別荘の位置を詳しく聞いた。街道沿いに行けば半日ぐらいあれば着けるだろう。しかし、セオドア王子率いる遠征軍に危機が迫っているという話もある。そちらにはナレシュだけでなく、おそらくギュスターブ兄も参陣しているのだ。そちらも気になる。

“辺境伯閣下のご容態は? 辺境伯夫人さま方や同じタイミングで倒れられた御嫡男、セレナ様はどうされているのでしょうか?”

“わからぬ。御三方は倒れられたまま、城の奥で療養中、そのストラウド様のご生母も含めて奥に住む皆様方も御三方の看病されているという話なのだが、全く様子がつかめぬ。どなたももう生きておられぬかもしれぬ”

辺境伯になるために、自分の父母や兄弟姉妹を殺害するなど、全く信じられない。ユージン子爵が主導権を握っているのではないだろうか? そちらのほうがまだ救いがある気がする。

“わかりました。どうすべきなのか相談してきます。ヒース様自身に手助けは御入用ですか? そこから逃げ出すというのであればお手伝いしましょうか?”

“いや、儂は怪しまれて監視されてはおるが拘束まではされておらぬ。まだ逃げ出すつもりはない。それよりそなたは誰と相談……いや、それは聞かぬ方が良いな。もし、パーカー子爵閣下と連絡が取れるのなら、手紙を出来るだけ早く渡したいのだが、頼めるか?”

パーカー子爵、国境都市パーカーの領主か。この状況では彼が一番信頼できるということなのだろう。以前国境都市パーカーの衛兵隊本部には行ったことがある。そこで良いだろうか。

“二時間程でパーカー子爵家衛兵隊本部まで届けましょう。それで良いですか? あと、シルヴェスター王家に状況は伝えなくても良いのですか?”

“パーカーの衛兵隊本部。それで十分じゃ。プレンティス侯爵家が関わっているのではというのは、まだ憶測にしかすぎぬから、王家にこの段階で憶測の話ができる相手が儂にはおらぬ。パーカー子爵閣下に任せるしかあるまいよ。閣下ならセオドア王子とも連絡がとれようし、シルヴェスター王家や他の貴族たちとも話せる相手がおるじゃろう。そうじゃな。あとは機会があればまたこのように念話をくれ。そうすればその時点で得られた情報をまた流すことができるゆえな”

アルとしても騎士団内部の情報が貰えるのはありがたい。

“わかりました。赤毛の若い男に騎士団宿舎の出入口の辺りに行かせます。名前はケルと名乗らせますので手紙はその者にお渡し願えますか?”

“すぐに用意して従者に行かせよう。服装は?”

アルは今着ている服の特徴を伝えた。今はケーンと同じ赤毛である。残念ながら特徴となる眼鏡は持っていなかったので服装と名前だけで特定してもらうしかない。だが、 動物(アニマル) 変身(トランスフォーメーション) 呪文に 探知回避(ステルス) 呪文を使えば、出入口近くまで行けるので問題ないだろう。

状況はなんとなくわかった。手紙が出来上がるのを待つ間に、自分もチャニング村にいる父たちにも手紙を書いておく。こちらはレビ商会のお屋敷経由で頼む方が良いだろう。契りの指輪経由でパトリシアにも状況は伝えておく。彼女は最初驚いていたが、大丈夫だと何度か言い聞かせて安心してもらった。今、自分だけが逃げ出すわけにも行かないと言うと彼女もそれには理解を示してくれた。彼女も同じように感じたらしい。ただ、くれぐれも安全には気を付けてと念を押されたのだった。

ヒースが送りたいという手紙を受け取れば、あとは野営地に戻ってみんなと相談だ。ルエラはどうしたいというだろうか。

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「……で、どうする?」

ヒースから聞いた状況を伝えると、ルエラは顔を顰め、唇を噛んだ。父親が居る可能性が高い場所が判ったのはいいが、ナレシュたち遠征軍が危険な状況にあることも同時に判明したのだ。彼女は俯いてしばらくの間考え込んだが、何か心に決めた様子で顔を上げる。

「わかりました。マイケルは傭兵団の一人と一緒に自分の村に行ってくれる? そこにいる商い担当の人たちに今の状況を伝えてしばらく待機しておいてほしいの。状況次第では国境都市パーカーに向かって欲しいけれど、十分に護衛が用意できないから、そこで潜んでいるのが安全だと思う」

なるほど、レビ商会の本店の人たちはマイケルの村に潜伏しているのか。たしかにあそこならごく最近つながりが出来たばかりだし、村長は恩義も感じてくれていた。比較的安全だろう。

「私はバーバラと一足先に国境都市パーカーに移動して、パーカー子爵とどうすべきなのか相談したいと思います。アル君とオーソンさん、そしてレダ様はデズモンド、レジナルド、他の傭兵団のみんなと一緒にエリック様たちとお父様や商会のみんなの救出に向かってほしい」

ルエラはそこまで言って、その場に居る皆の顔を順番に見た。質問はないのかという様子だ。ここに来た時の様子とちがって、かなり意志の力を感じられる表情だ。ナレシュ、すなわちセネット男爵の婚約者として、そして会頭が居ないレビ商会の代表としての自覚が彼女をそうさせたのだろうか。

レジナルドが手を上げる。

「その別荘に行ってもレビ会頭やエリック様が見つからなかった場合はどうしますか」

「アル君経由で状況を手紙に書いてパーカーのお屋敷に送って頂戴。そして捜索を継続してもらいたいわ」

おそらくヒースがパーカー子爵に送った手紙にも今の状況は書かれているのだろう。アルはプレンティス侯爵家との戦争を想像した。アルに何かの手伝いができるだろうか。ナレシュやギュスターブ兄の傍に居たい気もある。だが、数万同士の兵力がぶつかり合う戦いに何が出来るのだろうか? もちろん、空から 魔法の竜巻(マジックトルネード) を放ったりすることは出来るだろうが、それが戦況を変えれるとは思えない。

それよりはまずレビ会頭や商会の人たち、そしてエリックたちの救出が先だろう。もちろん救出対象も10人を超えるのでアルだけでは無理だが、状況の調査などやることはいっぱいありそうだ。

だが、その前に......。

「あの……救出隊はきっと今すぐ移動を始めても別荘に到着するのは明日の朝ぐらいになるでしょう? その間に僕はルエラさんとバーバラさんを 飛行(フライ) 呪文で国境都市パーカーまで送り届けるというのはどうかな? それでも救出隊には問題なく合流できるとおもうんだ。救出隊は10人以上居るから、僕が 飛行(フライ) 呪文で送り届けるにしても何往復もしないといけないからあまり時間の短縮にはならないだろうし……」

到着するのはかなり遅い時間になるのでパーカー子爵は状況を知らずに寝てしまっているかもしれない。だが、さすがにこの緊急事態だ。ナレシュの婚約者であるルエラなら無理を言えるのではないだろうか。この状況ではルエラをパーカーに送り込むのも出来るだけ早い方が良いだろう。

「それはいいわね。それならパーカー子爵と話ができるのも早くなるでしょう」

皆、ルエラとアルの提案に頷いた。アルとデズモンドは合流地点を決め、それぞれに別れて行動を始めたのだった。