軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21-5 探索 後編

アルは二階の天井部分に穴を開け始めた。ここにも部屋の壁と同じように木が挟んであったが、時間がかかるのと音を立てるのを厭わなければ鑿と木槌をつかえばなんとかなる。

「知恵比べというより、我慢比べかな?」

20センチ四方ぐらいの穴が開いたのは、もう太陽が中天に懸かるぐらいの頃だった。明るくなりはじめた頃に探索を始めているのでもう六時間ぐらい経っているのではないだろうか。その半分ぐらいは壁や天井に穴を開ける作業に時間を取られている。このペースだと今日中に探索を終えるのは難しそうであった。今夜は野営になるかもしれないと気持ちを切り替えておくことにする。焦るのはよくない。幸い天気は良いし、食糧はいつものように余裕をもってマジックバッグに入っているので特に問題はないだろう。

ようやく開いた穴に 浮遊眼(フローティングアイ) の眼を忍び込ませる。天井裏には厚く埃が積もっており、かなり昔の物と思われるネズミかなにかの干からびた死骸がいくつか転がっていた。 魔法発見(ディテクトマジック) 呪文に反応があった場所には、直径15センチ、長さ30センチほどの筒型をしたものに床に固定する脚がついたものが設置されていた。アルの位置からすると、右前方と左前方の二か所である。筒の側面には赤い小さな光が灯っているのが見えた。

「あの魔道具はなんだろう。位置からすると警備装置っぽい気がする。試してみていいよね?」

“そうね。そうしないと前に進めない気がする”

『 念動(テレキネシス) 』

手前の部屋に転がっていた崩れた壁のかけらを呪文で持ち上げ、穴の中に侵入させてみる。すると二つの円筒がその壁のかけらのほうに筒の端、丸い面を向けたかと思うと、ピシュンと音を立てて矢の形をした青白い光がそこから放たれた。それは壁のかけらに命中し、石の粉がパシッと音を立てて散った。それとほぼ同時に二つの魔道具からは“ビーーッ!”という音がした。

「やっぱり警備装置か……。撃ってきてるのは 魔法の矢(マジックミサイル) かな。動くものに反応してる?」

浮遊眼(フローティングアイ) の眼の視界を頼りに、さらに壁のかけらを 念動(テレキネシス) 呪文で前に進ませる。再び青白い光が両方の円筒型の魔道具の円形をした面から放たれた。石の粉が再び舞い、“ビーーッ!”という音が鳴った。

アルはそこで壁のかけらを動かすのを止めて、天井裏にゴトリと置いた。しばらく待つ。その状態では矢の形をした青白い光も音も発せられることは無かった。

「うーん、外壁や1階の天井から穴を開けるのは……」

“似た配置で 魔法発見(ディテクトマジック) 呪文の反応があるわ。同じようになってるんじゃないかしら”

グリィはアルの相談を先読みしていたようで、質問を最後まで聞かずに答える。

「先に三階の部屋……」

“ 魔法発見(ディテクトマジック) 呪文の反応位置からすると、そちらもここと同じっぽいわね”

グリィの先読みは優秀だった。ということは、この警備装置か、扉の認証装置、どちらかをなんとかしないとダメってことのようだ。

「鎧は狭い天井で動くのが大変そうだから、壁を作って試してみよっかな……」

アルはそう呟き、手前の部屋に戻る。崩れた壁の石材部分を集める。

『 石軟化(ソフテンストーン) 』

出来上がったのは天井裏の高さに合わせた縦50センチ横50センチ厚みが3センチの石板であった。そこそこ重量があり、倒れないように足がついている。そして、天井の穴を広げると、それを天井裏に 念動(テレキネシス) 呪文を使いながら押し上げた。

再び“ビーーッ!”と音がなって、壁に衝撃がくる。だが、その衝撃で石板が倒れたり押されて動いたりは無かった。衝撃は2度繰り返されたが、そこで止まる。

“いいんじゃない? 同じのを作って魔道具を囲う?”

「そうだね。魔道具は天井裏に固定されてるみたいだから、このまま石板を動かして囲んでしまおう」

うまく行きそうな事を確認し、アルは再び呪文を使い、同じような石板をあと5つ作る。そして 念動(テレキネシス) 呪文でずるずると動かし警備装置を囲んでしまった。

「よーし、完了!」

出来具合を実際の目で見てみようとアルはそーっと天井裏に頭を出す。石板に囲われた警備装置はその位置からは見えず、何の反応も無いようだった。安堵で胸をなでおろし、そのままアルは天井裏に身体を潜り込ませる。

認証装置を備えた扉のあるあたりを越え、さらに警備用のゴーレムらしきものがあった部屋も越える。そこまで行ったところで、今度はそこで天井板に穴を開け、二階の部屋に通じる穴を開ける作業である。

石材、木の板、石材。三層構造の天井板に穴をあけ、中を覗き込む。そこは一つの大きい部屋となっていた。壁際には鉄製の棚がずらりとならび、その横に机が4台。あとはソファとテーブルが部屋の真ん中あたりに置かれている。埃は積もっており、物は多く残っているが、綺麗に整理整頓されている印象だ。ここの持ち主はどこに行ったのか。

棚には大量の羊皮紙を束ねたものが積まれ、他に呪文の書らしき巻物が五巻、三十センチ四方で厚みが5センチほどの平たい魔道具が3つおかれていた。呪文の書や魔道具だけでなく大量に積まれた羊皮紙にも何らかの呪文がかかっている。おそらく 保持(リテント) あたりだろう。

それぞれの机には引き出しがあり、その中にあるものにも、 魔法発見(ディテクトマジック) 呪文に反応がいくつかあった。

「やった! これは……」

“中にも警備装置があるかもしれないわよ。油断しちゃダメ”

グリィが興奮しているアルを戒める。最近、グリィが厳しい。

「わ、わかったよ」

アルは 浮遊眼(フローティングアイ) の眼を部屋の中に入り込ませて様子を探る。部屋の扉は警備用ゴーレムがある部屋に繋がるものだけであった。石を投げ入れてみたがそちらにも反応が無い。警備装置はなさそうな感じがする。

アルは天井に空けた穴をさらに一時間ほどかけて広げる。おそるおそる部屋の中に頭を出した。大丈夫らしい。

「ゆっくりいくよ」

“うんっ”

アルはゆっくりと 飛行(フライ) で浮かび、部屋の中のものに目を配りながら降下していく。動くものは何もなかった。足が床につく。

「よしっ、やった」

大丈夫そうだ。アルは小さくこぶしを握った。

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安全を確認できたアルは部屋の中を物色し始めた。まず見たのは呪文の書である。呪文の書は5つだったが、残念な事にそのうち4つは 梱包(パッキング) 、 保持(リテント) 、 精製(リファイン) 、 抽出(エクストラクト) で、すでにアルが習得している呪文であった。習得していないものは一つだけ、 識別(アイデンティファイ) という呪文であった。

棚の上に乗っている羊皮紙の束は大きく分けて2つあり、それぞれ、呪文の書に使われている文字と同じ文字で、 植物(ボタニカル) 索引(インデックス) と 植物(ボタニカル) 百科事典(エンサイクロペディア) という表紙が付いていた。ぺらぺらとめくって中身を見てみると、 植物(ボタニカル) 索引(インデックス) は数字の羅列と植物の名前だけだが、 植物(ボタニカル) 百科事典(エンサイクロペディア) には植物の名前だけでなく、花や葉、根の特徴や育て方、さらには食品としての利用方法、薬草としての効能なども事細かに図解付きで説明されている。

「へぇー、すごい詳しく書いてあるな。ということは、やっぱりここは薬草園って感じなのか」

“これだけの資料があるってことは、そうかもね”

しかし、この資料は量が多く、調べたりするには時間が掛かりそうだ。少なくとも森で薬草を採取するときなどにいちいちこの資料を広げるわけにはいかないだろう。鉱物などの場合、 分析(アナライズ) 呪文と 物質(サブスタンス) 索引(インデックス) ですぐにおおよその事が判った。同じような事が 植物(ボタニカル) 索引(インデックス) を利用すれば可能なのだろうか。

“マラキの話では 分析(アナライズ) 呪文は物質の構成要素を調べる呪文なの。 植物(ボタニカル) 索引(インデックス) が加わったことによって、野菜のスープを分析してどの野菜が使われているか調べることができるかも? 識別(アイデンティファイ) 呪文と 植物(ボタニカル) 百科事典(エンサイクロペディア) に期待ね。研究塔に帰って使い方をマラキに聞いてみましょ”

識別(アイデンティファイ) 呪文がその名前の通りなら、 百科事典(エンサイクロペディア) の情報をもとに何の植物か識別できるということなのだろうか。そんなことが簡単にできればすごい事だが、キノコなど本当に見極めが難しいものがある。可能なのだろうか? 逆に 識別(アイデンティファイ) 呪文は 百科事典(エンサイクロペディア) がなければ何もできない呪文なのだろうか。色々と想像は膨らむがどちらにせよ呪文の書を読み解けば何かわかるだろう。習得するのが楽しみである。

他に棚にあったのは用途不明の魔道具であった。アルは恐る恐る手に持ってみる。三十センチ四方で厚みが5センチほどの平たいものだ。しかし、これだけでは何の魔道具なのかは全く想像がつかない。3つあるが全く同じに見えた。魔道回路を調べてみるしかあるまい。

とりあえず全てマジックバッグに収納し、次は机である。四台ある机の引き出しを順番に開けていく。そこに入っていたのは、納品控えと表紙に書かれた保存状態のあまりよくない大量の羊皮紙の束と、 保持(リテント) 呪文が付与されているのであろう保存状態のよい納付先一覧、筆記用の魔道具が10本、そして 管理者(アドミニストレーター) 権限証(ライセンスカード) と書かれたカードが2枚であった。

「 管理者(アドミニストレーター) 権限証(ライセンスカード) ?」