軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20-7 報告と提案

プレンティス侯爵家の魔導士を倒した三日後、アルは兄ギュスターブと共に、再び辺境伯の居城に辺境伯第三女セレナを訪ねた。

部屋に通されると、セレナの他に、にこにこと微笑む男性が座っている。服装からすると従士などではなく貴族のようだ。二人が入っていくと、その男性は椅子から立ち上がり、ギュスターブに歩み寄った。

「ご苦労だったね。セレナ様から伺ったよ。討伐を受けてくれるそうじゃないか。それもすでに潜入していた魔導士を倒したとか。セオドア王子が評価されているだけのことはある。誇らしいよ」

その男性はそう言いながら、ギュスターブに握手を求めた。ギュスターブはその男性を知っているらしく、緊張した顔をしてその手を取った。

「そして、君がギュスターブ君の弟のアルフレッド君か。私はオラフだ。すばらしい魔法の使い手だと聞いている。よろしく頼むよ」

「ありがとうございます」

オラフ……。服装からすると男爵か子爵だろう。アルはひざを折り、丁寧にお辞儀をした。

「オラフ子爵閣下、二人が緊張してしまいます。どうぞ、皆さん、こちらに座って」

セレナが軽く微笑んでそう促す。オラフ子爵閣下か……。この席に来ているという事は、鉄鉱山の開発に関わる立場ということなのだろう。ギュスターブとアルは促されるままに席に着いた。

「ギュスターブはもちろん存じ上げていると思うけれど、アルフレッド君は初めてお会いすると思うから紹介しておくわね。こちらはオラフ子爵閣下。父の信任厚く、辺境伯家の財務を担当していらっしゃる方よ。辺境伯家領内に存在する各種鉱山の管理も担当だから、今回の鉄鉱山採掘場設置や採掘量管理などもオラフ子爵閣下に指示を仰ぐことになる。なので今日は来てもらったのよ」

「そういうことだ。よろしく」

オラフ子爵は再びにっこりと微笑む。

「よろしくお願いいたします。チャニング騎士爵である父ネルソンの代理として参っております」

「なるほど、現地の代官としては父上が務められるということだね。私もセレナ様とどうするのかなと気になっていたのだ。その様子からすると、色々と話し合ってきたということかな? 早速だが、何か考えてきた事があるのなら聞かせてもらおうか」

ギュスターブは頷いた。

「はい、では提案させていただきます……」

ギュスターブとネルソン、ジャスパーたちが作った計画は、採掘場から一番近いミュリエル川の川沿いで、チャニング村のある場所からは対岸に拠点を作るというものだった。

採掘場一帯はまだまだ蛮族も多く出没する未開地域であり、そこに拠点は作らずに蛮族対策のための警備の者が周囲を警戒するための見張り台、採掘のための道具や馬をつなぐための小屋といった最低限の施設を置くに留める。鉱夫は毎日朝から川沿いの拠点から護衛と共に採掘場に向かい、夕方、採掘したものを積んだ馬車と共に拠点に戻るというのを繰り返す。川沿いであれば、マーローの街から建築資材を運ぶのも、採掘したものを出荷するのも容易だろうとギュスターブは提案したのだった。

オラフ子爵は厳しい顔をしつつ、軽く頷いた。

「辺境伯家に求めるものは何かな?」

「初期投資として、採掘場から拠点までの街道建設、および拠点、採掘場建設のための費用。採掘のための採掘技師の派遣、採掘場から拠点を繋ぐ馬車、新設する拠点、マーローの街、チャニング村を繋ぐ舟といったものになります。又、建設期間中に付近の蛮族や魔獣を討伐したいと思いますので、騎士団一個小隊の派遣をお願いしたい。施設の規模は採掘量とも関係しますので、採掘量として、当面、どれぐらいが妥当かを採掘技師の方なども含めてご相談させていただいた後に改めて決めた上で提案させて頂くべきだと考えております」

アルはギュスターブが答えるのをすごいなぁと思いながら聞いていた。よくすらすらと答えられるものだ。

「採掘場と拠点の距離はどれぐらいだね」

「はっ、およそ6キロかと考えております」

うん、これは、昨日、ギュスターブたちに依頼されて、実際に道が敷設できそうなルートをグリィと相談しながら測ったので、間違いないだろう。最初に兄弟で切り拓いた山を越えるルートならそれの半分程の距離なのだが、高低差が激しく鉄鉱石を積んだ馬車が通れるような道は作れそうになかったのである。

「鉱山を運営するにあたり必要とする要員はどれほどと考えているのかな?」

「鉱夫やその世話をする者たち、運送に関わる御者や船員、これらについても、施設の規模と同様に採掘技師の方を含めて相談させていただいたあと、見積もらせていただければと思います。他に管理のための準騎士を1名、従士を4名、警備に常雇いの傭兵か冒険者を10名程度といったところでしょうか」

チャニング村から川を渡ったところに警備の者が常駐するのなら、チャニング村を含めて付近の村々での蛮族被害はかなり減るだろう。オラフ子爵はギュスターブの言葉に軽く頷いた。

「良いね。きちんと考えられている。それなら、採掘場の工事は最後で良いし、そこから川沿いの拠点までの運送路の敷設、安全確保は拠点建設と並行しておこなえるだろう。理にかなった方法だと思うよ。だが、一点、拠点とマーローの街を結ぶ舟についてはマーロー男爵に差配を任せたい。後はその方向で進めてくれてかまわないよ。実際の工事を請け負う者に見積もりを上げさせるが良い。採掘技師については、出来るだけ早く調整する」

「はい。かしこまりました」

代官として、鉄鉱石の採掘を管理すれば良いということらしい。元々、鉄鉱石の価格も量もこちらで決めるわけではないのだし、川岸の拠点まで運べば良いのなら気が楽である。工事を請け負う者か……。これは兄に知り合い、場合によってはレビ商会の会頭と相談してみるのもよいかもしれない。

「オラフ子爵閣下、一点お願いがございます」

ギュスターブが少し躊躇した後、顔を上げた。

「何かね」

「私の親しい同僚で、騎士団復帰が難しい状態の者が居ります。声をかけてもよろしいでしょうか?」

オラフはギュスターブの顔をじっと見た後、ゆっくりと微笑みを浮かべた。

「そうか、そなたはこの間の使節団に参加した第二隊第八小隊に所属していたな。彼らを従士にしたいと……。鉱山管理の仕事であれば可能であろうな。もちろんよろしい」

「ありがとうございます。では話を進めます」

ギュスターブは嬉しそうに微笑んだ。たしか、 魔法の竜巻(マジックトルネード) 呪文の攻撃を受け、障害が残りそうな従士が居ると言う話だった。見方次第では現役の従士を引き抜いたと言われかねないと考えたのだろうか。騎士団の従士であれば、中級学校などで騎士となるための教育を受けた者がほとんどだろう。こちらの従士になってくれるのならありがたい話だ。

「頑張ってね。ラミアの討伐はいつするの? もう、プレンティス侯爵家の魔導士は倒したのでしょう?」

エマヌエル卿の話は、デュラン卿を通じてすでに報告済であった。卿の死体と拘束したシリルも騎士団に引き渡し済みである。以前、国境都市パーカー付近で拘束されたプレンティス侯爵家の魔導士、フレッチャーとメルヴィルについて、プレンティス侯爵家に問い合わせをしたものの、関与を認めず、結局出身不明の工作員として王都に護送されたことがあった。今回のエマニエル卿についてもそうなるだろうという話らしい。

「はっ、おそらく一週間以内には」

ギュスターブはそう答えて一礼した。アルもそれに倣う。一番の懸念材料であったプレンティス侯爵家の魔導士はいなくなった。 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文で観察した様子からすると相手はラミアとゴブリン、ホブゴブリンだけだ。断言はできないがラミアにも隙はあり、全く倒せない相手ではなさそうである。工夫をすればギュスターブとアル、あと従士たちで問題ないだろう。

そして、無事倒せれば、正式に父とギュスターブで討伐完了と鉄鉱山発見の報告を上げ、その褒美として代官任命という段取りになるのだろう。

「よろしく頼むぞ。採掘技師もそれに間に合わせるように指示しておく」

アルとギュスターブはオラフ子爵にも再び礼をして城を辞したのだった。