軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20-6 自白

「降伏勧告してみるか?」

ギュスターブは、アルが地下洞窟の亀裂を広げているのをしばらく面白そうに眺めた後、アルや従士たちにそう提案した。だが、アルはそれに首を傾げる。もし降伏してくれれば、楽だが、こんなところで活動しているということは、それなりの覚悟を持っているはずで、時間の無駄ではないかと思ったのだ。

「その時はその時さ。アルフレッドの話からすると魔道具から水は飲めるだろうが、それだけじゃ一週間は持たねぇだろう。こっちは交代で見に来ればいいだけだから時間はかかるが安全だ。それで十分じゃないか? 第一、今も寝たふりしているのかもしれない。入っていくのは危険だろう。自殺しても、俺たちは困らない」

確かにギュスターブの言うとおりかもしれない。とりあえず人が一人、這って入れるぐらいの穴が開くと、アルはギュスターブと交代した。アルは 浮遊眼(フローティングアイ) の眼は中に入れたままで男の様子の観察を続けておく。

「おーい、起きろっ!」

ギュスターブが窮屈そうに穴に上半身を入れて叫ぶ。寝ていた男はびくっとしてあわてて起き上がり、きょろきょろと周囲を見回した。

「起きろっ、早く!」

その男はようやく声が出入り口の穴のほうから聞こえてくることがわかったらしい。あわてて剣を掴む。

「抵抗はあきらめろ。魔導士は倒した。こっちはレイン辺境伯騎士団の者だ。武器を捨てて出てこい。さもなければいつまでもそこに居る事になるぞ」

「嘘をつくなっ! エマヌエル卿が騎士風情に後れを取るわけがない」

「嘘はつかない。その証拠をみせてやる」

魔導士の名前はエマヌエル卿というらしい。ギュスターブの言葉にアルは横に居るネヴィル、オービルと顔を見合わせた。あわててマジックバッグからその死体を取り出し、血で汚れた上着を剥いで、それをギュスターブに渡す。

「これを見ろっ」

ギュスターブが投げ入れた上着にその男は慌てて駆け寄ると、大事そうに拾った。丹念にそれを確かめる。そして、がっくりと肩を落とした。

「わかった。抵抗しない。出ていく」

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「じゃぁ、色々と聞かせてもらおうか」

念のためにと用意していた魔法使い用の手枷と口枷を装着させられた男は力ない様子で頷く。魔法使い用の口枷というのは呪文として成立するほどの速度での会話はできないが、ゆっくりとなら発音はできるので、なんとか意思疎通が可能になるというものだ。どうしても会話速度はかなり遅くなる。

「まずは、お前自身からだ。お前は何者だ?」

「わ……た……し……は……シ……リ……ル……」

5分程かけて話した内容は、名はシリル、エマヌエル卿に仕える従士だということだった。護衛役で、呪文はまだ光呪文しか使えないのだという。さらに5分ほどの時間をかけ、シリルは抵抗しないから、もうこの口枷は外してくれないかと懇願した。

ギュスターブは、アルの顔を見た。たしかに時間がかかりすぎる気がする。簡単な話を聞くだけなら良いが、詳しく話を聞こうとするのなら日が暮れてしまいそうだ。

「いいんじゃない? 一応、呪文を唱えたら邪魔できるようには身構えておくよ」

アルがそう答えると、ギュスターブはネヴィルに指示をして口枷を外すことにした。

「ありがとうございます」

シリルはそういって丁寧にお辞儀をした。

「そのエマヌエル卿というのは何者で、ここで何をしていたのだ?」

「エマヌエル卿は、プレンティス侯爵家第三魔導士団の大魔導士でした。ですが、任務に失敗して大魔導士から普通の魔導士に降格されました。そして、その失敗の原因をさぐれとの命を受けてここに来たのです。そして、この付近でエマヌエル卿は、人が最近通り道を切り拓いた痕跡を発見し、自分の失敗に何か関わりがあるのではないかと推測されました。そのため、一週間ほど前から交代で見張っていたのです」

ギュスターブは首を傾げる。彼が知っている話とすれば、このあたりでプレンティス侯爵家に仕える魔導士が暗躍しているようだという話だけだ。

「他に仲間は?」

「居ません。失敗の原因を探るのなら、部下も駆け出しの私だけで十分だろうと言われたそうです」

そう話すシリルの口調はすこし投げやりな雰囲気が感じ取れた。本当だろうか。しかし、それならシリルがあまり任務に熱心にみえないのも理解できる。

「失敗したその任務とは?」

「任務は……」

シリルは言い難そうに言葉に詰まる。

「失敗したその任務とは何だ?」

ギュスターブが再び問うと、シリルはぽつりぽつりと話し始めた。

「私自身が命令されたわけではなく、実際にその様子を見てもおりませんので、おそらくとしか言えませんが、蛮族の集落を訪問し、食糧を与えていたのだと思います。目的は蛮族を増やすことによって間接的にこの付近の情勢を不安定にすること」

ギュスターブがぎゅっと拳を握る。アルやネヴィル、オービルも唇を噛みしめた。

「やはりか……。で、その失敗とは?」

「それについては私も知らないのです。なにか作戦が続けられないような事態に陥ったらしいのですが、エマヌエル卿は話してくださいませんでした」

その失敗というのは、金貨二千枚以上を失ったということかもしれない……。アルは心の中でこっそりと思った。この状況からすれば、蛮族に食糧を与えるというのは中止されたにちがいない。その結果として襲撃は受けたものの、金貨を奪ったのは正解だったのではないだろうか。ギュスターブは腑に落ちないと言った様子で首を振りながらアルを見る。

「アルフレッド、何か聞きたいことがあるか?」

シリルはアルをちらりと見て、はっとした顔をし、小さな声で何か呟いたような気がする。

“アルを見て、金髪の小僧かって言ったよ。この人に何かした?”

グリィが囁く。いや、会ったのは今が初めてだ。自意識過剰かもしれないが、ここは確かめるべきだろうか。

「そのエマヌエル卿は、問答無用で僕に魔法を撃ってきたけど、どうしてだと思います?」

「……それは、あなたが今回の失敗の原因だと思ったからでしょう」

「えっ?」

アルは思わず聞き返す。その推測は間違ってはいないが……。

「第三魔導士団の中で、ひそかに囁かれている金髪の小僧と呼ばれる人物の話があります。大魔導士ヴェール卿の作戦を邪魔した凄腕の魔法使いなのだそうです。別の作戦が失敗したのもその金髪の小僧のせいだという噂があります。まだ若く金髪を後ろで束ねた……そう、まるでアルフレッドさん? あなたのような……。エマヌエル卿はあなたを金髪の小僧だと考えたのではないでしょうか」

ギュスターブはアルをじっと見た。ネヴィルやオービルだけでなく、シリルもアルの顔をじっと見ている。斥候としか見えないような服装をしているのにどうして魔法使いだと判断したのだろう? 口枷を外すかどうかのやり取りで察したのだろうか。

「僕が? うーん、心当たりはないけど……」

シリルも居るのだ。ここは惚けるしかない。しかし、そんな話があるのか。パトリシアと共にヴェール卿たちの追跡を振り切ろうとしていた時、できるだけ顔は隠していたつもりだったが、それでも後ろ姿ぐらいは見られていたのかもしれない。

「それなら、私にはわかりません。そう推測したのではないかとしか言えません」

とりあえず、質問は一旦そこで終わりとなった。もし疑問があれば、屋敷に帰ってからでよいだろう。シリルは再び拘束される。ネヴィルが裂け目の中に入り、シリルの荷物を取って来た。カバンの中には着替えや食糧などが入っている。それらと一緒に入っていた魔道具は、アヒルの卵ほどの楕円形の小さなものが二つであった。一つはアルも見たことのある落下制御の魔道具だったが、もう一つは判らない。離れて置いてあったものはアルの見立て通り水の魔道具であった。

「これは何?」

アルは判らない魔道具をシリルに問う。

「ほ……う……が……く……が……わ……か……る」

方角が判る魔道具か。

「使い方は?」

「ま……ん……な……か……でっ……ぱ……り……お……す」

真ん中の出っ張りを押すのか。言ってる事が本当かどうかわからないので試すのは危険だ。魔道回路を確認してからにしよう。どちらにしても、シリルを引き渡す際に、持ち物として一緒に提出しないといけないだろう。

「よし帰るか」

ギュスターブの声に皆が頷く。彼の前でマジックバッグを使うわけにも行かないし、ギュスターブ、エマヌエル卿の死体、拘束したシリル、ネヴィル、オービルの五人を一度には運べない。 運搬(キャリアー) 呪文で2回に分けてチャニング村にまで運ぶことにしたのだった。

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その夜、屋敷の居間には家族全員が集まっていた。シリルと名乗った捕虜は地下室を急遽牢屋代わりにして枷をつけたまま入れてある。窮屈だろうが明日の朝一番に領都まで連行する予定なので我慢してもらうことにした。

「で、何をしたのか、ちゃんと聞かせて欲しい」

ギュスターブは自家製エールのカップを片手に持ち、アルに問いかける。プレンティス侯爵家の魔導士たちがアルの事をどうして知っているのか、きちんと知っておきたいらしい。事情を知っている父ネルソンはちらちらとアルを見ているが、何も言わないところを見ると、どちらが良いのかは判断しきれないという感じだろうか。

「うーん、じゃぁ、話すけど、聞いたからと言って、ここに居る家族以外にはこの話をしないで欲しい。多くの人の命にかかわるかもしれない話なんだ」

アルはそう前置きをして、去年の夏ごろにパトリシアを保護し、彼女の叔母で、辺境都市レスターの領主、レスター子爵の第一夫人であるタラ子爵夫人の許に届けた事、その後、プレンティス侯爵家の間諜(後で、それが魔導士団の大魔導士ヴェールであることがわかった)に命を狙われた彼女を救うために一緒に辺境都市レスターを出た事、その際に追っ手を魔法で撃退した事などを話した。

「たぶん、それが、シリルが言った大魔導士ヴェール卿の作戦を邪魔したって話だよ。ヴェール卿とレイン辺境伯家に属する貴族の誰かがつながっているという話もあって、僕としてはパトリシア様に一番為になると思う事を選んだ。一応、こっちに迷惑がかからないように、顔は隠したし、表向きこのチャニング村に来てたように偽装工作もしたんだけどね。どこからか気付かれるようなことがあったのかもしれない。そして、別の作戦というのは、きっとナレシュ様から依頼を受けて、国境都市パーカーでプレンティス侯爵家の第二魔導士団と第三魔導士団が共同で密かに諜報用や軍事用の拠点を作ろうとしてたのを阻止するのを手伝った事だと思う。こっちは僕の存在は隠したりしてなかったけど、逆に僕だけが目の敵にされるような事はなかったんだけどなぁ」

アルの話を聞いて、ギュスターブとジャスパー、二人の兄はぽかんと口を開けたまま固まった。逆にルーシーとメアリーの姉妹は、大きく見開いた目を輝かせている。

「そのパトリシア様っていうのはおいくつだったの?」

「僕の二つ下だよ」

「もしかして、アルフレッド……。パトリシア様の一番為になると思う事が二人で一緒に辺境都市レスターを出ることだったって、つまり……かけお……」

ルーシーはそこまで言ってキャーと声を上げ、口を手で覆った。

「いや、一応、二人じゃなくて、パトリシア様には護衛の騎士さんが一緒に居たんだよ」

「えっ? どういう事?」

メアリーは話についていけない様子で懸命にルーシーに尋ねている。ルーシーは彼女の耳元で何かを囁く。メアリーも顔を赤くしてキャーと言い。アルをじっと見る。

「で、今、そのパトリシア様は?」

「一応安全なところに隠れてもらってる。悪いけど、そこがどこかは言えない」

「えぇー……、会ってお話したいわ。そのパトリシア様ってどんな人なの? 身長はどれぐらい?」

「えっと、身長は僕より少し低いかな……」

ルーシーの質問が止まらない。アルはたじたじとなりながらも、なんとか答える。

「アルフレッド、パトリシア姫の話は騎士団でも噂になっていた。姫の事は誰かに話してあるのか?」

ずっと考え込んでいたギュスターブが割り込むようにして聞いてきた。

「一応、ナレシュ様にね。ナレシュ様はパトリシア様とは従兄弟同士の間柄になるんだ。彼は秘密を守ってくれているよ。一度パトリシア様とナレシュ様は実際に会って話もしてる。プレンティス侯爵家との争いが収まれば良いんだけど、今の状況だと隠れ家から姿を現すことは彼女にとって危険なんだよ」

「ナレシュ様と……そうか。わかった。確かに外でする話ではなさそうだ。プレンティス侯爵家の魔導士が金髪の小僧のせいだと言って恨んでいるのも納得だ。なんだ、凄いじゃないか。ヴェール卿とつながりのある貴族というのが気になるが、残念ながら俺が調べるのも難しい所だな。精々、噂話に耳を澄ませておこう」

ギュスターブはにっこりと微笑む。よかった、納得してくれたようだ。

「で、パトリシア様の髪の色は?」

ギュスターブとの話が終わったと感じたのか、ルーシーは再び質問し始めた。彼女の方はまだまだ質問は終わりそうにない。アルはすこし困った顔をしつつその質問に答えるのだった。