軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20-1 一人前

「よう、アル。なかなかの活躍だったようじゃな。今日はギュスターブと一緒か」

セレナ - レイン辺境伯の居城を辞した後、アルとギュスターブはその日のうちにレイン辺境伯騎士団第四隊の詰め所を訪れた。アルは一人で良いと言ったのだが、ギュスターブが一緒に行くといって聞かなかったのだ。今回の礼でも言うつもりなのだろうか。

「お邪魔します。これはタガード侯爵領のお土産です。向こうではこういった製品が特産らしいです。良かったら使ってください」

アルはそう言って、鞄から金属製のゴブレットを二つ取り出した。タガード侯爵領で呪文の書が売っていないかと都市の中を歩き回った時にたまたま見つけたものだ。銀製で表面に勇壮なドラゴンが描かれている。露店主に聞くと秘密の方法で表面を柔らかくしたあと、針のような先のとがった道具で掻くようにしてつくったものだと言っていた。もしかしたら 金属軟化(ソフテンメタル) 呪文を使っているのかもしれない。

「おう、これはなかなか良いものじゃな。是非使わせてもらおう」

デュラン卿はそのゴブレットをじっくりと見て堪能した後、アルとギュスターブに今回の使節団での話をいろいろと聞き始めた。二人はそれぞれの立場で見たものや感じた事を説明したが、襲撃を受けた後、怪我人たちを最寄りの村に預けて選抜された使節団が出発する際にメルヴィンに睨まれていた話をアルがすると、デュラン卿はウームと唸って腕を組み椅子の背もたれに身体を預けたのだった。

「そうか……。そのような感じになっておったか」

「あれは僕にはどうすることもできません」

そう言ってアルは肩をすくめる。デュラン卿もしばらくしかめ面をして考え込んでいたが、答えは思いつかなかった様子で首を振った。

「すまんな。とりあえず、心には留めておく。続きを聞かせてくれんか」

「はい」

襲撃を退けた後は、ギュスターブは特段報告することもなかったが、アルは王国騎士団の魔法使いやゾラ卿、魔法部隊でも一部の魔法使いたちと魔法をつかった戦い方や警備の仕方などの話し合いで、気付いたことや初めて知った事なども多くあり、それを夢中になってデュラン卿に説明をした。デュラン卿も興味深げにその話を聞きいったのだった。

「なるほどのう。魔法使いを含めた戦いでは、距離の取り方、相手にいかに自分の意図を読ませないかといった事が重要なのじゃな」

「そうですね。特に30メートルという距離はぱっと見て意識できるようになるのは重要かもしれません。例外はありますが、基本的にはその距離が多くの呪文の射程範囲なのです」

横でギュスターブも魔法使いの戦い方に感心した様子で、アルの話を聞いていた。

「ふむ。いろいろ勉強になったわい。今回はごくろうじゃった。鉄鉱山の話はもう聞いたか?」

「はい。ですが、返事は保留にさせていただきました。ラミアが僕の手に負えるのかわからないので」

デュラン卿はアルの返事に頷く。

「まぁ、当然じゃな。安請け合いはするものじゃない。ただ、出来ればアルのほうで片付けてもらったほうが被害が出ずに済むので助かるというのが儂の本音じゃ。騎士団の魔法使いはあの状態なのでな。ん……共同作戦という手もあるか? プレンティス侯爵家との戦いが決まった今、実戦は何事にも代えがたい経験じゃからのう」

デュラン卿の問いにアルは慌てて首を振る。彼が言いたいのは、おそらくラミア退治にアルと魔法部隊を組ませて、魔法部隊の実戦経験を積ませられないかという話に違いない。さすがに実力が判らない相手との魔法戦闘に誰かを連れて行くのは気が進まない。

「30金貨位払えばどうだ?」

「僕が人に教えるのは無理ですよ。実戦というのならば、騎士と組ませてレスターの南あたりで蛮族討伐などしたらどうですか?」

アルは少し砕けた口調で提案してみた。30金貨は魅力的だが、実戦を一緒にとなると、 隠蔽(コンシール) 呪文や 移送(トランスポート) 呪文といった秘密にしている呪文が使えない。ただでさえ呪文の机上演習をするのにある程度の手札は晒しているのだ。家族やナレシュ、オーソンといった信頼できる相手ならともかく良く知らない騎士団の魔法使い相手にもうこれ以上手札を晒すのは避けたい。

「仕方ないのう……」

デュラン卿は金額を上げたり、魔法部隊に経験を蓄積させる必要性を説明したりと色々と粘ったが、アルはそれを拒否した。魔法部隊の育成については、自分に頼らないで欲しい。彼は最後はしぶしぶといった様子で共同作戦を断念したのだった。

「そういえば、今回の手当については、悪いがまだ計算中じゃ。計算ができたらギュスターブのところに連絡をすればよいかの?」

「それでおね……「デュラン卿、それについてですが!」」

お願いしますとアルが言おうとするのをギュスターブが遮る。

「アルフレッドは私の弟です。評価していただくのはありがたいのですが、手当は私の方から……」

ギュスターブの言葉に、デュラン卿が首を傾げた。

「今回の遠征については、そなたの従士は一人となっており、その分しか支給はされぬ。それに今回のアルの仕事は魔法使いとしてじゃ。従士の手当と正規の魔法使いを臨時雇いした場合の手当は全然違う。そのあたりはそなたも知っておるだろう?」

「え……っと、それは……」

ギュスターブは少し焦ったように返答に詰まった。アルもデュラン卿を信頼していたし、兄の為にもなると思って特に条件は詰めなかったが正規の魔法使いとしての報酬が貰えるのか。それなら金額的にも期待できそうだ。一ヶ月の仕事である。10金貨、いや15金貨は貰えるかもしれない。エリックなどは幾らぐらい貰っているのだろう。

「ギュスターブ、そなたはアルを自分の弟だからと思ってそう言ったのじゃろうが、儂から見れば、アルは十分に一人前の独立した魔法使いじゃぞ。今回もちゃんと儂に土産を買ってきたりして、次の仕事にもつなげようと考えておるしな。そなたのような騎士団に所属して働いている者とはまた違うのだ」

そう言って、デュラン卿はアルにニヤリと微笑んで見せた。うーん、次の仕事を貰おうと思って土産を買ってきたつもりではないのだが、敢えて否定する必要はないだろう。もちろん、冒険者として働いている以上、対価は貰いたい。しかし、このベテランの騎士に一人前の独立した魔法使いと評価してもらえたのはすごい事ではないだろうか。

「なるほど……」

嬉しさを噛みしめているアルの横でギュスターブは何かブツブツ考え込んでいたが、急にそうかと言って顔を上げた。

「私が考え違いをしておりました。デュラン卿、ありがとうございます。アルフレッド、俺の知らないうちに、お前はもう一人前になっていたのだな」

「えっー? もう冒険者として働いているんだから、とっくに一人前のつもりだよ? もちろん、魔法使いとしてはまだまだ……あ、あれ? それも一人前?」

「クククッ、その”魔法使いとしてはまだまだ”というのは口癖になっておるようじゃな。まだ若いのじゃからもちろん向上心という意味では良いと思うがの、その口癖は改めたほうが良いのではないかな」

デュラン卿が笑う。アルは思わず頭を掻いた。

「では、手当の計算が出来たらギュスターブに連絡をすることにする。ああ、帰りにこちらでラミアについて調べた資料があるからヒースに貰って帰るがいい。とは言っても、碌な資料はなかったがな。それと、タバードについては綺麗にして返すように」

「はい」

アルは頷いた。辺境伯騎士団の従士が着るタバードについては、タバサ男爵夫人に預けたままだ。領都に帰って来た日に、パトリシアに会いたくてギュスターブの家の一室を借りて施錠し、少しの間だけ研究塔に顔を出したのだが、その時に補修して綺麗にしますから出してくださいと言われたのである。

アルはほぼ毎日、寝る前にはパトリシアと契りの指輪でその日の出来事を話しているが、胸の所を矢で射られてタバードに穴が開いたということまでタバサ男爵夫人にも筒抜けであったということらしかった。

そういえば、タガード侯爵家のジリアンについてパトリシアに説明した時、彼女の反応はかなり薄かった。そのうち、パトリシアがどう思っていると思うか、彼女に確かめてみても良いかもしれない。

「では、失礼します。色々とありがとうございました」

報告を済ませたアルとギュスターブは一礼してデュラン卿の元を辞したのだった。