軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19-8 応急手当

“わぁ、 魔法無効化(アンチマジックフィールド) 呪文ってすごいね。敵の魔法使いが撃った呪文が全部消されてた”

グリィが興奮した様子でそう話した。アルが浮遊眼の視界を表示する窓に意識を移すと、丁度セオドア王子を先頭に騎士たちが70メートルほど離れた小さな岩山の上にいた男たちのところに到達したところだった。アルはそちらの様子を見ていなかったが、グリィの話では接近してくるセオドア王子に対して敵の魔法使いは何度も呪文を放ったものの、それが次々とかき消されたということだろう。

岩山の上には4人居たが、そのうちアル達を遠くから狙った男以外の三人は剣を抜き、魔法を撃っていた男を庇いつつセオドア王子たちに切りかかろうとしていた。こちらの三人は魔法使いではなく、その護衛ということなのだろうか。だが、セオドア王子はそれをものともせず、剣を左右に振り払いながら魔法使いのところにまで乗り入れ、その勢いのまま魔法使いの首を刎ねた。セオドア王子に続いて突撃してきた騎士たちが残りの三人を討ち取っていく。

「うわぁ……やばい」

その光景にアルは思わず呟いて、自分の首を撫でる。もし、あんな状況に自分が遭遇しても何もできないだろう。 魔法無効化(アンチマジックフィールド) 呪文を使った騎士による突撃というのは圧倒的だった。距離を取って罠を仕掛けるとかそういった方法しか対応策は思いつかない。

これで、襲撃は終わりだろうか。アルは 浮遊眼(フローティングアイ) の眼の高度をさらに上げる。起伏に富んだ地形でまだ隠れている者が居る可能性もあるが、とりあえず動いているものは居なさそうだった。

「うぅううう」「痛いっ、痛いっ、痛いっ」

戦いの興奮が収まると、周囲に苦痛のうめき声が満ちているのに気付く。

「大丈夫? 気をしっかり……」

アルは慌てて目に入る者の応急手当を始めたのだった。

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「アルフレッド、セオドア王子がお呼びだ。そこはもう他の連中に任せて馬車の辺りに戻って来いだとさ。それと、お前が倒した敵魔法使いはどこだ?」

血と砂まみれになりながら、手当を続けていると、しばらくしてギュスターブが呼びに来た。もちろん 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文や 発見(ディテクト) 系呪文は維持しているので警戒はしているのだが、護衛を放り出して他の事をしていると思われたのだろうか。

「王子が? でもごめん、ちょっとだけ待って」

アルはそう言って、途中であった第二隊の従士の止血を済ませる。そして後の手当は横にいた仲間の従士に任せると立ち上がった。

「アルフレッド、ありがとうな。応急手当をしてくれて」

そうか、第二隊にギュスターブは所属していた。当然ほとんどが知り合いだろう。仲良くしていた者も居たに違いない。今もすぐに駆け寄りたい筈だ。自分自身がセレナの護衛という立場で自由に動けないのを悔しく思っているのかもしれない。

「ううん、目の前で血を流して呻いている人が居たら助けないとね。護衛をさぼってたわけじゃないよ。ちゃんと魔法で周囲の警戒はしてたさ。あと、ギュスターブ兄さんがセレナ様を護衛しているのを知ってて僕にセレナ様は無事かと聞いてくれる人がたくさんいたよ。第二隊も大きく言えばセレナ様の護衛だからね。あと、知ってる範囲で言うと、第二隊の従士で黒髪で身体のごつい男の人と赤髪で背が僕と同じぐらいの女の人が亡くなった。他は後遺症は残るだろうけどなんとか命はとりとめた感じだと思う。輜重隊のほうまでは回れてない」

「そうか……」

色々とアルが話をして、暗い表情だったギュスターブは少し微笑んだ。

「運べばいい?」

呪文で倒した魔法使いの死体のところにまで行く。身体の中心には大きな穴が開き、周囲は血の海だ。

「ああ、そうだ……なかなか凄惨だな。こいつが 魔法の竜巻(マジックトルネード) を撃ってきたのか」

「うん、そうだね」

『 運搬(キャリアー) 』

アルは白く光る円盤を出して、その死体を載せる。

「とりあえず、兄さん。戻るよ」

アルはまだ足取りの重いギュスターブを促しつつ、前方の王子たちが居る馬車の所まで戻るのだった。

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「ギュスターブ・チャニング 戻りました」

「アルフレッド・チャニング 戻りました」

「ご苦労。ギュスターブ、そなたはセレナ様の護衛に戻れ。所属していた部隊の状況は気になるだろうが、この状況では職務を果たしてもらうしかないのだ」

セオドア王子の横でそう指示したのはビンセントという王国騎士団でセオドア王子の補佐をしている年配の男だった。セオドア王子の天幕で行われた会議に参加していたのをアルは何度か見かけた事がある。たしかシルヴェスター王国騎士団軍務局副長官という肩書の結構偉い立場の子爵だったはずだ。

「はっ」

ギュスターブはそう返事をしてセレナの馬車の近くに戻っていく。アルは敵魔法使いの死体を載せた 運搬(キャリアー) の円盤を背後に置いたまま、膝をついて言葉を待つ。

「アルフレッド、ご苦労だった。そなたはレイン辺境伯騎士団第二隊所属、騎士ギュスターブの従士で間違いないか? 魔法は誰に師事したのか」

ビンセント子爵が尋ねてくる。

「はい。間違いございません。魔法は幼い頃祖父に教わり、死んでからは独学で研鑽しました。最近は辺境都市レスターを治めるレスター子爵のお抱えであるエリック様やセネット男爵家のゾラ卿と親交があります」

「そうか……。そなたの見た状況を話せ」

見た状況……アルはこれが良いチャンスではないかと思った。アルが見る限り、セオドア王子が使う 魔法無効化(アンチマジックフィールド) 呪文のような例外はあるものの、基本的に呪文を使った戦いでは、プレンティス侯爵家の好きなようにされてしまう可能性が高い。このままではアルも又いつ巻き込まれるかわからない。アルとしては早く安心して古代遺跡探索に行きたいのだ。

少々手の内をさらす事にはなるが、今回の駆け引きをある程度説明することによってシルヴェスター王国の魔法使いの意識が少しは変わるかもしれない。

「はい。では今回の発見のところからお話させていただきます。今回、セレナ様の警備ということで、私は 魔法発見(ディテクトマジック) 呪文にオプションを使用して効果範囲を65メートルに拡張して使っておりました。そのおかげでいち早く、後方からの何者かの接近に気付いたのです。私は彼の接近の警告をすると共に、何らかの罠である可能性も考え、こちらもオプションを使って視界を広げた 浮遊眼(フローティングアイ) の眼を高く飛ばしました。後方からの魔法使いが 魔法の竜巻(マジックトルネード) を放ったのと、西側の岩山の頂上付近からこちらを窺う四人ほどの集団に気付いたのはほぼ同時だったかと思います……」

セオドア王子とビンセント子爵はお互いに目配せをしたり頷いたりしながらアルの報告を聞いていた。どこまで信用して危機感を持ってくれるのだろうか。アルはすこし不安を感じながら、最後に相手の魔法使いが 素早い魔法の矢(クイックマジックミサイル) を撃ってきて、それを 素早い盾(クイックシールド) を使って凌ぎ、その魔法使いと、さらに遠くに別の魔法使いを対象に 貫通する槍(ピアシングスピア) 呪文を放ったこと、その魔法使いは倒せたものの、別の魔法使いは 盾(シールド) 呪文を使っていて、飛行して逃げられたところまでを話した。この別の魔法使いがヴェール卿と呼ばれる魔導士であることは説明が難しいので言わずにおく。

「わかった。そのオプションというのは?」

ビンセント子爵は色々とメモをとりながら冷静な様子でアルに尋ねた。

「はい、これはおそらく去年、エリック様が魔法使いギルドに報告されていると聞いていますので、詳しくはそちらを確認していただければと思いますが、呪文の効果を拡張したり制限したりして利用する方法の事です」

「ふむ……」

ビンセント子爵は考え込んだ。いろいろと頭の中で整理しているのだろう。急に後ろで静かに聞いていたセオドア王子が口を開いた。

「なるほどな。魔法の細かい話はよくわからねぇが、相手の動きを早く知ることが大事なのは俺でもわかる。そして、今の話だとメルヴィンの馬鹿が何も考えずに突っ込んで、その尻拭いをしたって事だろう? 俺の方は何人も魔法使いが飛んでいったから大丈夫だろうと踏んで、岩山の方に突っ込んじまってたが、これは下手したらもっかい 魔法の竜巻(マジックトルネード) をかまされて、街道に残ってた連中が全滅してたかもしれねぇ。ビンセント、このあたりはメルヴィンの話とだいぶ食い違ってる。だが、状況を見てたのはいっぱいいるはずだ。怪我人の手当が落ち着いたらちゃんと裏をとっとけよ」

意外と言っては悪いが、セオドア王子には話が通じたのかもしれない。会議の時よりかなり乱暴な話し方だが、これが本当の姿なのだろうか。

「もし、お前さんの話が本当だったら、褒美に何が欲しい?」

「お、王子?」

ストレートなセオドア王子の言葉にビンセント子爵は慌てた様子で彼の顔を見るが、セオドア王子はそれを気にした様子もない。

試されているのだろうか? だが、後ろめたい事は何もない。素直に兄の叙爵を願ってみるべきだろう。兄が新たに騎士爵となれば、父の跡、チャニング村はジャスパー兄上が継げばいい。

もう一つ賭けてみるのも良いかもしれない。

魔法発見(ディテクトマジック) 呪文に反応しないアレの価値が判るのであれば、貰うのはもちろん無理だろうが、そういうものを敵が持っているのだと知ることはきっと有意義な事に違いない。蛮族に食糧を与えているという許しがたい動きの裏付けにもなる。

そして、価値が判らないのなら貰えるかもしれない。実際には大小いれると3つも持っているので切実に欲しいわけでもないが、大っぴらに使えるのは有難い話だ。どちらに転んでも悪い話ではない。

色々と考えて、アルは口を開く。

「兄、ギュスターブがレスター辺境伯から騎士爵の名誉を賜りますことを御口添えいただければ有難く存じます。さらに許されるのであれば、私が倒した魔法使いが持っていた釦……。おそらくマジックバッグだと思われるのですが、それを拝領できませんでしょうか?」