軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18-8 鉄鉱山調査 後編

翌日、アルとジャスパー、オズバート、ネヴィルの四人はネルソンの指示通り、ルート調査に向かった。道なきところにある程度人が通れるルートを確保することを目標としており、途中、何本か木を切り倒したり、ロープを固定したりといった作業もあり、アルが空を飛べるという利点があったものの、それでも四人が汗だくになりながらの行動であった。

「もうすぐ、頂上だよ。そこまで行けば鉄鉱山が見えるはずだ」

「おお、ようやくか。しかし、結構かかったな。ルートがある程度わかっていて、帰りはアルフレッドに連れて帰ってもらえるとわかってないと、こんなところまではとても来られないな」

ジャスパーはしみじみと言った。そろそろ太陽は中天を過ぎていた。朝早く出発したのでここまで6時間ぐらいはかかった計算になる。暗くなる前に確実に帰るためには時間と体力を意識せねばならない。ここにくるまでの作業はかなり大変だったのだ。

「そうですね。飛ぶのは……やはりちょっとアレですが……」

オズバートは空を飛んだ時の事を思いだしたようで少し震えるようにして答える。

「しかし、途中、魔獣や蛮族が出なかったのは幸運でした」

ネヴィルの言葉に皆頷く。もちろん辺境都市レスターから南へ行くルートに比べれば危険性はかなり低いのだが、それでも一体も出会わなかったのは幸運というべきだろう。

「ほら、あれが鉄鉱山だと思われる場所だよ」

ようやく見晴らしの良い所に出て、アルは大きく山肌が削られた山を指さす。

「おお、確かに地面が削れて赤茶けた土が縞になってるのが見えてるな。あの下あたりに蛮族が居るのか?」

ジャスパーたちはじっと目を凝らしてそのあたりを見ている。採掘場らしきところまでは一キロぐらいだろうか。誰かが動いているのは見えるが、細かな識別はアルにもできない。

『 知覚強化(センソリーブースト) 』 -望遠

「ちょっとまってね」

アルはとりあえず自分の視覚を強化して昨日上空からラミアを見かけた小屋を探す。

「あった……でも……あれ?」

昨日と同じように小さな小屋らしきものがこちらからも見えた。そしてその横に昨日は無かった大きい樽が10個並んでいたのだ。

「あんな樽、昨日はなかったよね……」

“うーん、ちょっとまって……ううん、あそこはほら、半分土に埋もれているし布がかぶせられてたから、空からは見えにくかったかも”

布が? そういえばテントの横に切って来たばかりらしい木の枝とかぼろ布とかがあったかもしれない。それで気がつかなかったのか。しかし、樽が10個……たしかオークが居た村にも同じような樽がそれも同じように10個あった。これは偶然だろうか……。

「何か見えたのか?」

「うん、ちょっと遠くが見えるように呪文を使うからそのまま受け入れてね」

『 知覚強化(センソリーブースト) 』 -望遠 接触付与

アルは三人に順番に呪文を付与していく。三人とも周囲をきょろきょろと見回し、どこかを探している様子だ。アルは目印などを説明してようやく小屋の位置がわかったらしい。

「たしかに小屋があるな。周りにはゴブリンも……。こうやって落ち着いた状態で離れて見るのは初めてだが、やっぱり気持ち悪い連中だ。お、アルがラミアだっていう蛮族が小屋から出てきたぞ」

「出てきましたね。青い肌をして上半身が人間で下半身がヘビ、かなりデカいです。こいつは、手ごわそうだ。尻尾で薙ぎ払ってきたりもしそうだな」

ラミアをみて、ネヴィルはすこし首をひねりつつ腕を組む。どうやったら倒せるのかかんがえているのだろうか

「そうですね。アルフレッド様の言う樽はあれですか? 口の所に白い線がある。あれは小麦やオーツ麦をいれたりするのによく使うやつですね」

オズバートがさっきのアルの呟きを聞いていたのかそう教えてくれた。やはり穀物を取り扱うのによく使う樽ということらしい。

「とりあえず、道はここぐらいまでじゃない? あと一キロぐらいはあるだろうけど、これ以上行くと、向こうに気付かれるかもしれない」

アルがそう言うと、ジャスパーたち三人は頷いた。ラミアという未知の蛮族も居るし、村からもある程度離れている。討伐を試みるよりは見つかる危険は避けたほうが良いだろうというのは意見が一致していた。だが、アルは密かに樽の事が気になっていた。あれがオークの居た村と同じように穀物が詰まっているのなら、ここにいるゴブリンはまたすぐ増えるだろう。そして、あの樽は一体だれが運んだのか。誰か蛮族を利用しようとしている者がいるのではないだろうか。

「オズバートさん、地図とかが出来たら、どうするの? ギュスターブ兄さんは仕事で出かけているんだよね」

「そうですね。ギュスターブ様はひと月ほど任務から戻られない予定です。その間、マーロー男爵閣下の配下の方と今回調べた内容を踏まえて事前打ち合わせをしたいとは思っておりますが、その調整は領都に戻ってからする予定です。どちらにせよギュスターブ様がいらっしゃらないので、話は緊急ではありません」

「それなら、二、三日チャニング村に居ても良いかな? ちょっと気になる事があるんだ」

オズバート自身も村でのんびりできるのは良い事ではないだろうか。

「気になる事って……アルフレッド、何をするつもり?」

心配そうなジャスパーにアルは微笑みながら首を振る。

「あの樽がね。誰かがゴブリンに食べ物をあげてるんじゃないかっておもってさ。実はここより東、ミルトンの街の北側あたりでオークが出たんだ。で、そいつが居た蛮族集落にも、ここにあった樽と同じような樽が10個有ったんだよ。そのオークが居た蛮族集落を討伐したのは二週間ほど前、それほど時間が経ってないでしょ? 気になるよねって話」

「蛮族にわざわざ食べ物を? そんな馬鹿な事をするやつが?」

オズバートは首を振った。当然の事だろう。アルとしてもそんなことをしようとする者がいるなんて信じられない。だが、テンペスト王国でクーデターを起こしたプレンティス侯爵家に仕える魔導士、ヴェール卿らしき人物が釦型のマジックバッグをゴブリンメイジに渡して似たような事をしていたという例もある。とは言えヴェール卿の話はアシスタント・デバイスが関わっているので迂闊に言えないし、今の時点で誰が何の目的でこんなことをするのか全く思いつかないが、再びそういう事をしようとする者がいるのかもしれない。

「うん、まぁ、もしかしたらって話だから、ずっとじゃないよ。僕も領都に戻らないといけないからね。でも、遠くからちょっとの間だけ見張ってみようかなって」

「わかった。だが決して危険な事はしないで欲しい。いいかい?」

アルの説明に、ジャスパーはしぶしぶといった様子で了解しつつも、くれぐれも安全にと念を押す。

「うん、わかったよ。今日はとりあえず戻ろう。僕だけまた明日来るよ」

そう言いながら、アルは 運搬(キャリアー) の椅子を三つだす。それを見てオズバートがさっと青白い顔になり、なんども唾を飲み込んでいる。

「ほら、頑張って乗って。騒いじゃだめだよ。蛮族にみつかっちゃう」

「これがアルフレッドの空飛ぶ椅子か。メアリーやネヴィルは平気だったのだろう? しかし、確かにこれが宙に浮くとなると少し怖い気もするな」

そう言いながら、ジャスパーはぷかぷか浮かぶ椅子に座った。

「へぇ、面白い感じじゃないか。馬とはまた違うんだな。こんなに柔らかいのならお尻も痛くならなさそうだ」

ジャスパーは楽しそうだ。オズバートは強張った顔をして、椅子に座り、手すりをぎゅっと握った。二人の様子を見、最後にネヴィルは特に感慨もないといった様子で軽く座る。

アルは 魔力制御(マジックパワーコントロール) 呪文を使って椅子に安全用のバーを付け、 飛行(フライ) 呪文を使うと空に飛びあがる。

「おお、ふわふわと気持ちいい」

ジャスパーは上機嫌に言った。全く平気らしい。だが、オズバートは今にも悲鳴を上げそうになるのを懸命に堪えていた。ネヴィルは変わらずだ。

「よーし、帰るよー」

アルは反応の違う三人を後ろに乗せ、一路チャニング村に向かって飛び始めた。