軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18-6 鉄鉱山調査 前編

「アル様、もう少し……もう少しゆっくりでお願いします……おおっ、危ないっ、揺れる」

空を飛ぶアルの後ろで 運搬(キャリアー) 呪文で作られた椅子に座ったオズバートはアルが空を飛んでいる間、ずっと震える声で悲鳴を上げ続けた。バランスを崩しても大丈夫なように、彼の太もものところには落下防止の手すりのようなものも取り付けてあるのだが、それを強く握った指はぎゅっと握りしめているせいか白くなっていた。

「大丈夫、大丈夫だから。下じゃなく空を見たらちょっと気分が紛れるんじゃない? ほら、あとは歌とか歌ってみるとか……」

アルはそう言って彼を宥めすかしつつ、なんとかチャニング村を目指す。パトリシアを守る騎士、ジョアンナも空を飛ぶのは苦手だったが、オズバートも同じらしい。彼の方がいろいろと騒ぐ分大変であった。彼の息子のオービルとは同じ年で、何度も彼の家に遊びに行かせてもらったことがあるし、いつもは頼れる従士なのだが、空を飛ぶのがこれ程苦手だとは意外な側面であった。これから長距離を一緒に移動する時には絶対に一度確かめて乗せることにしようとアルは心に誓うのだった。

そうやって騒ぐ彼に配慮をしながら飛行したりした結果、アルたちのチャニング村への到着時刻は予定を大幅に過ぎて昼をかなり過ぎた時刻になってしまったのだった。

「ほら、チャニング村が見えてきたよ」

アルの言葉にオズバートは薄目を開けた。途端にうひゃぁと悲鳴が上がる。

「ちゃ、着地してから教えてください」

彼の声はかなりか細い。まだ駄目だったらしい。アルはゆっくりと旋回しながら父であり村の領主の家の前にゆっくりと降下した。領主の家といっても、他の村の村長の家とあまり変わらない石造りの家だ。アルの接近に気付いた妹のメアリーが家から走り出した。

「ただいまー。到着!」

「アーーーールーーーーー。おかえりーーー」

『 魔力制御(マジックパワーコントロール) 』

アルは呪文を唱えて、オズバートの椅子につけていた安全用の手すりを解除する。これで普通に降りれるはずだ。

「お帰り、アル。オズバートさんもお帰りなさい」

メアリーの声を聞いて、オズバートは恐る恐るといった様子で眼を開けた。

「ふぅうう、生きてた……」

オズバートは呟くと、よろよろとした足取りで 運搬(キャリアー) 呪文で作られた椅子から立ち上がった。だが、足には力が入らない様子ですぐによろめく。あわててアルとメアリーが彼を支えた。

「領都から飛んできたんだ。オズバートさんはずっとこの調子でさ。ちょっと苦手みたい」

「へぇー。気持ちいいのに」

メアリーは不思議そうに首を傾げる。

「とりあえず、中に入ろう。父さんとジャスパー兄さんは居る?」

「二人ともまだ、畑から帰ってきてないわね」

アルとメアリーの二人はまだふらつくオズバートに肩を貸して家の中に連れて入る。何か料理をしていたらしく、おいしそうな匂いを漂わせた母パメラと姉ルーシーもアルたちの帰宅に気がついたようで奥から二人を出迎えてくれた。

居間の椅子にオズバートを座らせると、彼は大きなため息をついた。余程大変だったらしい。

「今日は急にどうしたの?」

「ギュスターブ兄さんに会ったんだけど、その時に例の鉄鉱山の話を聞かれてね……」

メアリーの問いにアルは軽く頭を掻いた。その時の話をかるく説明する。

「そうなのね。それでオズバートさんと一緒に調査に来たんだ」

「うん、そう言う事。でも、どうしようかな。この様子からするとオズバートさんを載せて鉄鉱山まで飛んで行くのは厳しそうだし……」

アルの言葉にオズバートは青白い顔して首を振る。

「私はもう大丈夫です。頑張ります」

「オズバートさんは休んでたほうがいいよ。私が一緒に行こっか?」

アルは少し考え込んだ。オズバートはメアリーに出してもらった水を飲み、少し落ち着いた様子である。だが、彼を載せて空を飛んで鉱山に行くのは少し難しいだろう。

「うーん、川を越えるとなると危険が伴うからね。少なくともオズバートさんを連れて行くのは危険かな。僕が一人でさっと行ってくるよ」

「えっ? いや、私はちゃんとこの眼で見て、ギュスターブ様に報告しないと……」

オズバートは拳を握りしめる。だが、今までの様子から見て、空から鉱山の様子をきちんと確認するのは無理だろう。

「最近、こんな呪文を手に入れたんだ。ちょっと待ってね」

『 記録再生(レコード&プレイ) 記録』

アルは呪文を唱えると、周りをぐるっと見回す。そして、一旦扉の外に出ると、軽く飛んで上空からチャニング村を見回した後、部屋に戻って来た。

「見聞きしたものを、そのまま体験してもらうことも出来るんだけど、オズバートさんの様子をみたら、これのほうが良いかなって思うんだ」

『 記録再生(レコード&プレイ) 再生 50センチ窓』

アルが呪文を唱えると、居間のテーブルに50センチ角の黒い半透明の板が現れた。厚みは3センチ程だ。一部、テーブルの上の花瓶や花にかぶさっているが、花瓶や花はそのままである。アルはその板に手を重ねるようにして全員が見えるように少し上にあげた。数秒して、黒い半透明の板は先ほどのアルの視界と聞いていた音に切り替わった。

「おお!」「わぁ!」「きゃー!」「私ってあんな顔?」「えっ? こんな声高かった?」「やだっ、髪の毛乱れてる」

女性たちからはいろんな声が漏れた。画面は、アルが扉の外に出て、空に上がっているところまで進んでいく。

「おおお、空からの村の風景ね」

「家があんなに小さく」

「あそこはマイロンの家ね」

アルが見ていた光景が映し出された窓にみんなくぎ付けだ。オズバートもこの光景なら問題ないらしく、窓に見入っている。

「忙しいですね。もっとゆっくり見たい」

「うん、じゃぁ、窓の時間を止めるね」

オズバートの提案に、アルは村の風景が映っている状態で、再生を一時停止した。

「おお、これを利用すれば鉱山の地図とか描けますね」

「そうだね。あとはどれぐらいの距離とかの情報は調べて来るよ。今の熟練度だとまだ合計で1時間分ぐらいしか記録できないから、分割して撮らないとだけどね。これで見ることが出来るならオズバートさんが一緒に飛ばなくても大丈夫じゃない?」

オズバートは頷く。すこしほっとした様子なのも見て取れた。

「足りない情報があれば、追加で見に行けばいいかなって思うんだ。まずは僕だけで飛んで来ようと思うんだ。オズバートさんはギュスターブ兄さんの状況とかを父さんに説明してあげてほしい。そして、これからどうするか相談しておいてほしいんだ」

「わかりました。そうします。あと、もう一つお願いがあるのです。もし有望な鉄鉱山ということになれば、誰かが道案内をする必要があると思うのです。もちろん、その場合空を飛んでという訳にはいきません。なので鉄鉱山まで実際に歩いてゆけるルートを見つけておかねばならなくなります。事前にある程度は空から見ておいていただけないでしょうか」

なるほど、そうかもしれない。目的地は、村から一キロほど離れたところで川を渡った後、南に見える山を越えたあたりである。もちろん空を飛べばすぐだが、直線でも三キロ程の距離がある。道のない標高600m級の尾根を越えるルートだ。方向さえ気を付ければ迷うことはないだろうが、それを徒歩で道を切り拓きながら進むとなると、途中崖とかにひっかかったりして最悪の場合丸一日ぐらいかかるかもしれない。

道案内するとなると、目印なども必要か。となれば、今日、事前に空から見てあたりをつけておいた後、実際に歩いてルートを確認するという事になりそうだ。

「でも、それだと、明日は徒歩でルート確認かなぁ。戻れるのは明後日になっちゃう。僕は大丈夫だけど、オズバートさんはそれでいいの?」

「はい。問題ありません」

オーソンの治療は一週間後だ。アルの予定としては問題ない。

「わかった。じゃぁ、その予定にしよう。オズバートさんは父さんと相談よろしくね。僕はとりあえず空から見て来るよ。できれば標本も採ってくる」

「はい。申し訳ありません。よろしくお願いします」

オズバートは深々と頭を下げた。

「くれぐれも気を付けて行くのよ」

「危なかったらすぐ帰っておいでね」

「いってらっしゃーい」

皆に見送られ、アルは鉄鉱山のあるあたりに向かったのだった。