軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17-10 宴会

「おー、魔法使い様がいらっしゃったぞ」

「ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

アルが近づいていくと、広場に居た村の者たちがすぐに気付いて歓声を上げ始めた。ありがとう、ありがとうの言葉が降り注ぐ中、アルは照れながらレビ会頭たちの近くまでたどり着いた。

「戻りました。薬師の人に二人は預けてきました。大丈夫そうです」

アルの報告を聞いて、レビ会頭はすこし安堵した様子で微笑む。横で聞いていた人々もそれを聞いて嬉しそうに周りにそれを伝えていく。所々で歓声が上がった。

「それはよかった。君に行って貰った甲斐があったというものだ。私の勝手な心配も考えすぎだったようだ。村の連中から軽くは聞いたのだが、どのような顛末だったのかいまいちわからないところも多い。君の口から詳しく聞いても良いかね?」

「もちろんです」

アルはレビ会頭にマイケルとともに痕跡をみつけたところから話し始めた。痕跡を追跡して見つけた蛮族たちについて、報告に行っていては二人を助けることは難しいと考えたと説明する。

「それで、直接二人だけで助けようと考えたのだね。だが、オークは強敵だ。ゴブリンの数も多い。きちんと倒せる見込みはあったのか?」

レビ会頭がアルの眼をじっと見て尋ねる。その視線にすこしたじろぎながらも、アルは拳を握ってゆっくりと頷いた。

「マイケルさんに頼まれたのは確かですけど、それに流されたわけじゃありません。冷静に考えて十分倒せると判断しました」

アルの答えに、レビ会頭はオーソンやレダの顔を見る。オーソンは苦笑を浮かべていたがしぶしぶといった様子で首を縦に振った。レダは首を横に振ってわからないといった様子のジェスチャーを返す。

レビ会頭は二人の様子を見てから、少し考えてゆっくりと頷いた。

「私は専門家ではないのであまりとやかくは言えぬ。ただ、少なくとも結果から見る限りその判断は正しかったといえるだろう。レダ殿の話では普通の 魔法の矢(マジックミサイル) 呪文ではオークを倒すのは難しいそうだが、ナレシュ様より別の呪文の話も聞いている。それを含めての判断ということかね」

そうか、レビ会頭は 貫通する槍(ピアシングスピア) 呪文の事をナレシュから聞いていたのか。

「はい。いくつかの呪文を使えば、オークを倒すのには問題ないと考えていました。一番の懸念はマイケルさんが勇気をもって戦ってくれるかどうかでしたが、十分以上の結果でした。おかげで二人も無事助け出すことが出来ました」

アルの答えに、レビ会頭は満足そうに頷いた。

「さすがアル君だ。そうだ、そのマイケル君と自警団の隊長殿は君が帰ってくる前に揃ってやってきて、アル君に半ば無理やり救出をお願いしたとしきりに申し訳なさそうに言っていたよ。そしてそのおかげで攫われた二人は助かったのだとかなり強調していた」

アルは頭をバリバリと掻いた。そんなことを言ってくれていたのか。

「もしかしたら、アル君は日程の遅れを気にしていたのかも知れぬが、レジナルド君があの子供二人に泣きつかれた時点でもうこの村に一泊することになるのはほぼ決まっていたようなものだ。何も気にすることはない。考え得る限り一番良い結果をアル君は出してくれたし、レビ商会としては新しい取引先を得られそうだ。逆に今回の護衛の仕事におそらく衛兵隊から出るオーク退治の褒賞を含めて色々と手当を上乗せする事を考えよう」

やった。おとがめなしだ。オーソンも苦笑は浮かべているが、何も言う様子はない。アルは心の中でガッツポーズをした。それらを上乗せしてくれるなら、旅の直前にやっぱり買ってしまった 魔法の衝撃波(マジックショックウェーブ) の呪文の書の費用もある程度補えるのではないだろうか。ただ、レダだけが少し不満そうにじっとアルを見ている。何か聞きたいことがありそうだ。聞けずにいるのだろう。

「そういえば、蛮族の集落には何かなかったかね?」

レビ会頭の問いにアルは首を振った。

「犠牲者のものらしい遺品ぐらいです。それは自警団の隊長さんに渡しておきました。オークがどうしてこんなところにまでやって来たのか、その手がかりは何もみつかりませんでした。敢えて言えば、人族がつくったものと思われる穀物の入った樽が10並んでいました。もちろんどこかから略奪してきたものかもしれませんが、量が多かったので少し気になります」

「そうか……。とりあえずこれで街道に蛮族が出没している問題が解決すればよいのだが……」

レビ会頭もすっきりしない様子で答える。そんなことをアルたちが話し込んでいると、自警団のメンバーらしい若い男がトレイに載せた肉やスープを運んできてくれた。良い匂いだ。

「魔法使いさんの分の食事です。ありがとうございました! 握手してもらっていいですか」

「わぁ、ありがとう。もちろん」

アルはレビ会頭のすぐ横の席に座り、その若い男と握手をする。レビ会頭がもう話は終わろうといった様子でアルに杯を渡し、ワインを注いでくれた。

「とりあえず、無事オークを倒せたことを祝おうじゃないか」

「はい!」

レビ会頭やオーソンたちと乾杯すると、他の自警団の連中もアルと話をしたい様子で飲み物を片手にぞろぞろと集まって来た。マイケルもその中に居たが既にかなり飲まされている様子で楽し気に声を上げている。アルに何度も礼を言うがまるっきり呂律が回っていなかった。

宴がひと段落したところでレダがアルの所にやって来た。真剣な顔をして有無を言わせぬ様子でアルの耳元に顔を寄せる。かなり飲まされて酔っているアルは何も抵抗もできなかった。

「何の呪文をつかったのですか?」

彼女は小さな声で尋ねた。周囲からすると急に彼女が抱き着いてきたように見えるだろう。アルは一体どうしたのかと驚いたが、呪文の話をしたかっただけらしい。彼女の顔も赤かったのでかなり酔っているようだった。普段ならこんな話のしかたは絶対にしないだろう。アルは少しため息をついてレダの身体を引き離した。

貫通する槍(ピアシングスピア) 呪文についてはテンペスト王国で秘密扱いになっているものだが喋っていいものだろうか? いや、ララのところでも出回っていたし、口止めさえすれば問題ないだろう。逆に 魔法の火花群(マジック スパークス) 呪文については、一般的に知られている呪文か聞いてみたいとおもっていた。アルは指をうねるように動かして 念話(テレパシー) 呪文を起動した。レダはすぐに受け入れる

“エリック様以外の人には内緒にしてくださいね。 貫通する槍(ピアシングスピア) 呪文と 魔法の火花群(マジック スパークス) 呪文の二つです。聞いたことありますか?”

レダはこてんと首をひねった。その仕草からするとかなり酔っぱらっている。とりあえずどちらの呪文も知らない様子だ。 貫通する槍(ピアシングスピア) 呪文はわかるが、 魔法の火花群(マジック スパークス) 呪文について、自分ならともかくレダも知らないとなるとこれもどこかで秘密にされている特別な呪文なのかもしれない。

“ 貫通する槍(ピアシングスピア) 呪文は、テンペスト王国の魔法使いが国外流出を禁じていた魔法らしいですが、裏のルートでは流れてきているようです。オークでも一撃で倒せます。 魔法の火花群(マジック スパークス) 呪文は集団に攻撃できる呪文です。ダメージは 魔法の矢(マジックミサイル) 呪文に劣るぐらいですが、オプションで対象外を選べるという呪文です”

“そんな呪文があるのですか。それを使って人質が居たにもかかわらずオークと多くのゴブリンを倒せた。だめ、君はおかしすぎる……”

アルの説明にレダは呆れた様子で首を振り、そして天を仰いだ。そして、ふらふらとした足取りで自分の馬車が置いてある方向に戻っていった。彼女の馬車には明かりがついている。吞みすぎているのではないかと少し心配になったが、見習いのミーナが居るはずなのできっと大丈夫だろう。

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翌日、隊商は少し早めに出発した。アルはレダに昨日は大丈夫だったのかと尋ねたが、彼女はすこし顔を赤くしてぶっきらぼうに大丈夫だと答えただけだった。

その後、オークのいた集落を壊滅させたおかげか蛮族と遭遇することは格段に減り、アルたちはそのまま無事に領都につくことが出来たのだった。また、今回の隊商にはマイケルが傭兵見習いとして同行することになった。将来的に父の立場を継いで自警団の隊長となることを望んでいた彼は、経験を積みたいと父を説得して一年間レビ商会の傭兵団で見習いとして働くことを申し出たのである。レビ商会としても人が足りない状況であり、アルの話を聞いて素質があると判断した会頭は、彼の願いを喜んで受け入れたのだった。

領都に到着したところでレビ会頭はアルに小さな革袋を手渡した。

「アル君、君が一緒に来てくれて助かった。とりあえずこれは護衛してくれた礼だ。30金貨ある。オーク退治を含めて色々と色を付けておいた」

護衛とオーク、ゴブリンメイジやゴブリン退治の相場、商売上のメリットがでたことによる褒賞などを考えても30金貨というのはかなり多いのではないだろうか。不思議そうな顔をしているとそれに気づいたのかレビ会頭が微笑んだ。

「蛮族討伐の褒賞は私の方で勝手に10金貨と見積もらせてもらった。衛兵隊から受け取る討伐報酬を考えても十分な金額だと思う。我々があらたな得意先を得た分でさらに10金貨、護衛報酬が10金貨ということで合わせて30金貨だ」

「護衛報酬に10金貨も……ですか?」

1週間の旅程の護衛である。もちろん多い分には嬉しいのだがさすがに多いのではないだろうか。不思議そうな顔をして問い返したアルにレビ会頭は微笑んだ。

「きちんとした魔法使いに護衛をお願いすると一週間で金貨10枚ぐらいが相場だろう。君は十分にそれぐらいの力があると私は思う。エリック殿ならもっと支払う必要があるのだぞ。もし誰かに尋ねられたら、レビ商会ではこれぐらい出してくれたと言うと良いのではないかな。今回の護衛の仕事は冒険者ギルドを通してはいないが、情報はそれとなく流しておこう」

そこまでレビ会頭は評価してくれるのか。アルは嬉しくなった。

「さて、領都で知り合いでも居るのかね。よかったら私の所に泊まっていくと良い。オーソン殿はその予定だよ」

オーソンの脚の治療まであと二週間ほどある。アルは去年まではここにある中級学校に在学し、学生寮で暮らしながら冒険者として働いていた。まったく何も伝手が無いわけでもないし、アルの一番上の兄、ギュスターブもレイン辺境伯の騎士団に勤めているので、領都に居るはずだ。だが、もう夕方でどこに訪れていくにも予告なしには遅い時間だろう。この申し出は助かる。

「ありがとうございます。とりあえず一晩お願いします」