軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17-4 エリックの弟子

レビ商会を出て、アルは空を見上げた。日はかなり傾いてきていたものの、まだそれほど遅い時間でもない。アルはエリックの屋敷に立ち寄る事にした。彼はレスター子爵家に仕える筆頭魔法使いである。すこし時間も遅いし約束をしているわけでも無いので、本来会うのは難しい人間なのだが、前回訪問したのも同じように夕方だったのに時間を取ってもらえた。今日も、弟子の誰かなら会えるかもしれない。

エリックの屋敷の門番はアルの事を憶えていてくれた。だが、今日はエリックと助手のフィッツ、レダの三人は出かけたまま帰っておらず、マーカスとルーカスだけが居るらしい。どうするか少し迷ったが、その間に、二人は門の所まで出てきてくれたのだった。

「ひさしぶりだな、アル」

「ひさしぶりだね、アル」

マーカスとルーカスは揃って同じような挨拶をして来た。

「お二人ともおひさしぶりです。わざわざありがとうございます。今日、レスターに着いたので、顔を出しておこうと思って」

アルの言葉に二人は揃って頷いた。二人は従弟同士で、たしかに同じような事を喋って来ていたが、こんなに息がぴったりだっただろうか? そういえば二人そろっている時に話したことはほとんどなかったかもしれない。

「エリック様はしばらくこちらに帰って来られない。伝言があれば伝えるぞ」

「エリック様はしばらくこちらに帰って来られない。伝言があれば伝えるよ」

呪文に関しては色々と聞いてみたい事があったが、それは伝言でいう事柄でもない。アイネスの件だけ尋ねておこう。

「アイネス? どれぐらい前の人だ?」

「アイネス? どれぐらい前の人なの?」

「うーん、30年ぐらい? もっと前かもしれない」

アルの答えに二人はそろって首を傾げた。

「かなり昔だな。少なくとも俺たちは聞いたことがない。魔法使いギルドでも古参の人なら知っているかもしれないな」「しれないね」

「まぁ、何かのついでとかで良いから、わかったら教えて欲しいと伝えて欲しい。たぶん数日はレスターで、いつもの宿屋に泊まっているけど、その後は領都に向かう予定なんだ」

「わかった、伝えておく。だが、すぐには無理だろうな」

「わかった、伝えておく。だが、すぐには無理だろうね」

「よろしくおねがいします」

息の合った二人にお願いだけして、アルは《赤顔の羊》亭に戻ったのだった。

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《赤顔の羊》亭の食堂でラスが作った美味しい食事に舌鼓を打ったアルは用意してくれた自分の部屋に戻った。カバンから買ってきた呪文の書の箱を早速取り出し、机の上に並べてうっとりとした表情でじっと眺める。そして、少し悩んだあと、 武器作成(クリエイトウエポン) の呪文の書を選んで横に避けた。

『 移送(トランスポート) 』 ー収納

アルは呪文を唱えると、残った二つの呪文の書が入った包みと箱に触れる。呪文の書は瞬く間に姿を消した。

『 移送(トランスポート) 』 ー取出

アルは今度は 鎧作成(クリエイトアーマー) の呪文の書が入った箱を思い浮かべながら呪文を唱えた。少し経ってその箱はアルの手許に姿を現した。収納、取出、共に問題は無いようだった。その様子を見てアルはにっこりと微笑んだ。

呪文の書を入手してから2カ月、アルは 移送(トランスポート) 呪文を習得していた。今の所、移送先として使えるのは事前に呪文を使って登録してある2か所、置ける場所はそれぞれ床の一辺が2メートルで天井までも2メートルの空間に限られていた。アルはそれを研究塔の3階で使っていない空間と死の川の下流に作った拠点の一室を割り当ててある。研究塔のほうは荷物の管理用、死の川のほうは転移先の安全確認用だ。今は研究塔にある方の空間に設置した移送先の棚の上に並べたのである。

できれば、もっと容量の大きい 移送(トランスポート) 空間を使いたいところであるし、移送先として登録できる場所も増やしたい。さらに言えば、マジックバッグも作ってみたいのだが、まだどれも上手く行っていなかった。マラキもこの呪文の詳しい話は知らなかったので、すべて手探り状態であった。今はとりあえず熟練度を上げるしかないのだろうという感じであった。

アルは続けて服の襟に目立たないように取り付けていた釦型のマジックバッグから金貨の袋を取り出した。これは、明日レビ商会に持ち込んで交換してもらうつもりである。念のために枚数を確認して今度は研究塔にある 移送(トランスポート) 空間にしまい込む。鞄に移すのは明日で良いだろう。

今回の旅では釦型のマジックバッグと自分の 移送(トランスポート) 呪文による 移送(トランスポート) 空間を併用して使っていた。もちろん貴重品はすべて研究塔の 移送(トランスポート) 空間である。

「早速、新しい呪文の習得……と言いたいところだけど、先にパトリシアに連絡だね」

アルはそう呟くと手首を振ってパトリシアと契りの指輪を使って念話を結んだ。

“パトリシア、いいかい?”

“はい、もちろん”

彼女の返事はすぐに返って来た。アルはパトリシアにルエラの提案の話をする。

“ありがとうございます。ルエラとはお友達ですから、アル様と一緒に逃げ出した時の話など、たくさんお話をしたいです”

パトリシアの声は嬉しそうだ。お友達か。辺境都市レスターでは、パトリシアが叔母であるタラ子爵夫人や召使の者たち以外で親しく話が出来る相手はルエラだけだったのだろう。

“わかった。明後日はもしかしたら領都に向かって出発ってなるかもしれないから、明日の早いうちにでもルエラさんと話をしてみる”

“おねがいします。マラキや、タバサたちには、ルエラがいつ来てもいいように私から話しておきます”

アルはその後、パトリシアに今日一日の出来事などを話しながら、手元に残した 武器作成(クリエイトウエポン) 呪文の習得に努めたのだった。

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翌日、アルは朝から再びレビ商会を訪れた。レビ会頭は朝から出かけていたが、ルエラは居た。アルは彼女に一つの部屋を確保し人払いしてもらえるようにお願いしたのだった。

「昨日の今日で早いわね。もしかして、もうパトリシア姫様とお話をしたの?」

二人だけとなった部屋で、ルエラはアルにそう尋ねた。

「うん、そうなんだ。実はね……」

アルはそこで契りの指輪の件を彼女に伝え、それを経由で昨晩パトリシアと話をしたことを伝えた。ルエラも詳しい内容は知らないものの契りの指輪の伝説は知っており、これがそうだと伝えると、本当にパトリシア姫様は幸せねと呟く。アルは少し照れつつも、パトリシアがルエラを大事な友人として迎えてくれるつもりらしいと話をした。

「それは、光栄ね。テンペスト王国の姫に歓迎していただけるなんて」

だが、アルはそれには首を振る。

「向こうではね、パトリシアも料理をしたり、食材をとったりして生活しているよ。姫というよりは、なんて言うかな。農家の娘って感じ? まぁ、うちの実家とも近い生活かもしれない」

「あら? そうなの?」

ルエラは意外そうに言う。

「まぁ、詳しくは行ってから聞いてみて」

「ふふ、そうね。転移の魔道具の体験をお願いしたつもりが、とんだ事になったと思っていたけど、パトリシア様とお会いできるのも含めていろいろと楽しんでくるわ」

ルエラは嬉しそうに頷いて、転移の魔道具の使い方をアルに聞いた。

「うん、彼女はしばらく外の人と話する機会がないからね。きっと喜ぶはず」

「わかったわ。じゃぁ、転移の魔道具は預かっていても良い? 直ぐに帰ってくる感じにはならないと思うからバーバラと話をして、自分の部屋から飛ぶようにした方が良いと思うの。アルは夕方にまた来てくれる?」

彼女の言うように、この二人きりの部屋からルエラが転移し、アルがじっと部屋で待っている状況はさすがにレビ商会の本店内だと言っても変な噂が立つ可能性がある。アルもルエラの提案に頷いた。それのほうが良いだろう。さすがにルエラがその魔道具を持ち逃げするとは考えづらい。

「じゃぁ、昨日話した古金貨も預けておくよ。こっちは交換をお願い」

アルはそう言って、背負い袋の底から重い金貨の袋を取り出すとテーブルの上に置いた。

「わかったわ。それもバーバラに頼んでおく。いろいろとありがとうね」

アルは頷いて部屋を出た。バーバラが外で待っていた。アルは会釈をして一旦レビ商会を後にしたのだった。