軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16-9 山の魂

“ねぇ、サーリ、もう一つ相談があるんだけど……。僕にも精霊魔法って使えるかな?”

アルの問いに、サーリは少し申し訳なさそうに首を振った。

“アル、ごめんね。ボクはパパを待っているから……”

“そっか……そうだよね”

サーリの様子から察するに精霊魔法を使うためには、精霊との契約が必要なのだろう。そして、サーリはまだ一度契約を結んだアイネスを忘れられないらしい。アルはがっかりしつつも、納得して返事を返す。

“あー、でも、そんなにがっかりしないで。アルに素養が無いわけじゃない。もっと、自然環境で暮らすようにするほうが良いけど、それより問題は精霊との縁だね。自然の力が強いところには精霊が宿ってる場合があるんだ”

軽く首をふりながら、サーリは励ましてくれた。ということは、精霊と遭遇しさえすれば契約を結ぶことが出来るということなのだろうか。今後、可能性がないわけではない。そう知って、アルは少し元気になった。

“そっか……。ねぇ、サーリはアイネスさんとどうやって巡り合ったの?”

アイネスがどのようにして、この炎の精霊、サラマンダーのサーリと出会ったのだろう。似たような事をすれば、精霊と巡り合えるかもしれない。そうすれば、精霊魔法を使えるようになるのではないだろうか。アルはそんなことを考えた。

“うーん。えっとね、さっき言った通り、この下には山の魂があるんだよ。灼熱で真っ赤に光ってるの。そこでボクはパパと出会ったんだよ。ボクたちはいろいろと話し合って、契約をすることにしたんだ”

山の魂というのは、なんだろう? 灼熱で真っ赤に光っている……?

“山の魂というのは、どこの山にもあるの?”

アルの問いに、サーリは首を傾げた。

“魂がない山もいっぱいあるし、持っていてもとても地中深いところにある山もある。ここみたいにいっぱい煙がでている山はまだ浅いところにある可能性が高いかな”

煙がでている山……アルはそのような山がなかったか考えてみたが、ここ以外にぱっとは思いつけない。

“ねぇ、サーリとアイネスさんが会った山の魂のところって、見ることはできる?”

“良いよ。あ、でも、特別な道具が必要なんだ”

サーリは、そういって、建物の片隅に置かれた木箱のところに行くと、中を確かめ始めた。その中には食器や着替えらしいものなどが雑多に入っている。サーリはしばらく木箱を探して、底の方からようやく金属製らしい仮面のようなものを取り出した。これも、魔道具らしく 魔法感知(センスマジック) 呪文に反応して光っている。顔全体を覆うようになっており、口に当たる部分は大きく膨らみ、眼に当たる部分はガラスのようなもので覆われていた。

“それは?”

“地の底に潜る時に付ける仮面だよ。パパは呼吸の仮面っていう特別な魔道具だって言ってた。地の底は悪い空気に満ちているから、人間はそれを着けていないとダメなんだって。扱いには気を付けて。空気の毒を取り出して溜めておくところがあるはずだからね。あとは、えっと……他に二つの呪文を使わないといけないって言ってたよ。たしか、 梱包(パッキング) 呪文と 温度調節(サーモス) 呪文の二つ。使える?”

よかった。それなら使える。アルはにっこりと微笑んで頷いた。しかし、 梱包(パッキング) 呪文というのは何に使うのだろう?

“服ごと身体全体を覆うんだって。そうしないと、悪い空気に肌が触れるとアブナイ時があるって言ってた。それ以外に人間は熱い蒸気とかには注意しないといけないんだって。そのあたりは前兆があるから教えるね”

サーリの説明にアルはなるほどと思い再び頷いた。直接吸わなくても身体に悪影響を与える悪い空気もあるのか。たしかに触ってもダメな毒はある。それと同じような事なのだろう。

“わかったよ。じゃぁ、その仮面借りてもいい?”

アルは、念のために 魔力制御(マジックパワーコントロール) 呪文で魔力を補充してから、呼吸の仮面をつけた。顔にあてがうと、仮面はしゅっと顔に貼り付くような感じがする。それと同時に空気が急に綺麗に感じられ、山に入って以来ずっとしていた変な臭いがなくなった。息苦しさのようなものはないようだ。普通に声も出せる。問題なさそうだと確認した後、剥がそうとすると、仮面は顔に貼りついたまま外れない。

“あれ? 外れないんだけど?”

“えっ? パパは簡単に外してたよ?”

サーリがちょっと慌てた様子で首を振った。魔道具なので 魔力制御(マジックパワーコントロール) 呪文を使って魔力を抜くという手も使えるだろうが、やはりアルとしても少し焦る。

“どこか触るか、何か言うかしてなかった?”

深呼吸をして心を落ち着かせ、アルはサーリに尋ねた。何か特別な動作か、合言葉のようなものがあるのではないだろうか。アルに問われてサーリが考え込む。

“何も言ってなかったと思う。鼻の下とか、顎の下を触っていたかも?”

順番にサーリの言う事を試してみる。そして、顎の下を触れたところで仮面は外れた。サーリとアルはおもわず安堵のため息をつく。

“びっくりしたよ”

“ごめんね。アル”

その後仮面について一通りの確認をした後、アルは再び仮面を装着した。念のためつけたり外したりを繰り返すが問題はないようだ。先ほどのはおそらく毒になる空気のあるところで簡単に外れないような仕組みなのだろう。

『 梱包(パッキング) 』

『 温度調節(サーモス) 』

アルはサーリの言うように自分の身体を覆うように 梱包(パッキング) して、その内側を 温度調節(サーモス) する。小鳥の入った籠はその場に置く。

“よし、たぶん準備完了”

“うん、じゃぁ行こう”

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サーリが出てきた亀裂から、アルたちは地下におり始めた。中はかなりの熱気で、視界もあまり良くない。洞窟というより連続した亀裂のようなもので、足場もほとんどなかった。サーリは四本の足で壁を伝って先に進んでいく。その後ろをアルは 飛行(フライ) 呪文を使い、地面から少し浮かんだ状態でついて行く。

そのまま、深さ4キロほど潜ってきたところで、おおきな空間に出た。グリィからの情報によると、深くて座標位置はつかめないということだった。煙が充満していてよく見えないが、下方には赤くキラキラしているものが見え、時折炎が噴き上がっていた。物語で山が噴火したときにあふれ出て来る溶岩のようなものだろうか。

“あれが、山の魂だよ。ボクはあそこで生まれたんだ”

“すごいね。あれが山の魂……”

アルはおもわず大きく息を吐いた。大いなる自然の力……。まさしくその通りだ。

“あと一つ、すごい所見せてあげる。パパとボクとの秘密の場所”

アルがあまりのスケールに呆然としていると、サーリがそういって、壁を伝って移動し始めた。

“秘密の場所なのにいいの?”

アルは慌ててその後ろを進む。

“あ……うん、いいの。アルに見せたい。久しぶりに話した人間だから”

サーリが案内したのは、別の亀裂を通っていった先の三メートル四方ほどの空間だった。そこは一抱えほどもある細長い球体の石がいくつもあった。いずれも割れており、床にもその割れたものがゴロゴロとしている。何かガラスのような透明な感じのものが多い。部屋の隅には一つ綺麗な装飾が施された木箱が置いてある。

“明かり、つけてくれる?”

何のためのの部屋だろうとアルが首を傾げていると、サーリがそうお願いしてきた。アル自身は 知覚強化(センソリーブースト) 呪文を使って暗闇でも見ることが出来るし、サーリも迷いなく壁を伝って移動していたので、何も問題ないはずなのだが、何か意図があるのだろう。言われるがままに呪文を唱えた。

『 光(ライト) 』

とたんに周囲がきらきらと紫色に輝いた。

アルは思わず息をのむ。

“すごーーーい”

グリィも思わず声を上げた。

“アメジスト?”

光がないために輝かず、アルはガラスのような透明な感じとしかわかっていなかったのだが、そこはまるで紫色をした水晶にあふれた部屋であった。床には大小の水晶の塊が散らばり、割れた細長い球体の内側も紫色の結晶化したものが並んでいて、呪文の光でキラキラと輝いていた。

“綺麗でしょ? パパと一緒に集めたの。秘密の部屋”

これらを持ち出したら、一体どれぐらいの値段が付くのだろう。そんな思いがアルの脳裏をかすめる。

“山を調べようとして見つけたんだって。山の中にはまだ、いっぱい同じようなのは埋もれてるらしいよ。これは、色の濃いのは高く売れるからって、パパが調べた残りなんだよ”

アイネスという魔法使いがこの山深くを探索したのは精霊を見つけるためだったのだろうか。それとも、こういった宝石の原石を見つけるためだったのだろうか。サーリの言葉を信じるなら、この部屋に転がっている紫水晶はそれほど価値は高くないということになるが、本当のところはどうなのだろう。とは言え、この山で紫水晶が採れるということは間違いなさそうだ。

“そっちの木箱はアイネスさんのもの?”

アルは部屋の隅の木箱を指して尋ねた。

“うん、パパの宝物入れ。でも、宝物は何もなかった。契約の印がなくなったときにね、パパがどこに行ったのか調べられないかなって開けてみたんだ。だけど、そこにあったのは、呪文の書だけだった。昔、弟子が出来たらあげるんだって言ってたやつ……”

サーリは寂しそうにそう呟いた。だが、アルは呪文の書と聞いて、おもわずドキドキした。アルはサーリの承諾を得て、木箱を開ける。そこにサーリの言う通り、呪文の書が大量に入っていた。だが、その大半はアルが既に習得しているものばかりで、アルが習得していない呪文は一つだけだった。

“ね、ねぇ、この呪文の書って、借りてもいい?”

アルはその呪文の書をサーリに見せる。 魔法の火花群(マジック スパークス) という呪文である。名前からはいまいち効果が良くわからない呪文だ。

“ちゃんと返してくれるならいいよ”

“もちろん”

サーリは簡単に了承してくれた。あまり疑うことはないらしい。アルは大事そうに、その呪文の書を自分の釦型のマジックバッグにしまい込む。

“すごいところだねぇ”

アルとサーリはアメジストの輝きをじっくりと堪能した後、地上に帰る事にした。

”サーリ、今更だけど、これって見覚えある?”

地上の建物にまで戻って来たアルは、ここに来る途中で見つけた短剣と壊れた眼鏡の一部をサーリにみせた。だが、サーリは首を振る。反応からするとアイネスのものではないのだろう。アルは胸をなでおろした。

“そうなんだ。熱湯が噴き出してくるところに転がってたんだよ”

”あの噴き出してくるのを人間が浴びると危険だってパパは言ってたよ。それにここのお湯は、パパの話だと強い酸性?とかいうのらしいから、それだけしか残ってなかったんじゃないかな。ああ、ちゃんと最後は水浴びすれば普通は大丈夫らしいから、心配しないで”

そうなのか。とりあえずこの死の川の源流の状況だが、酸性というのが何かは気になるが、アルの見る限り住めない場所ではなさそうだし、アイネスが楽しんでいたという話からすると、温泉としても問題ないのだろう。アメジストの事を考えると信じられない程の価値があるかもしれないが、単純に公表してしまうとサーリの大事にしている山の魂を荒らす結果になりかねない。

“とりあえず、問題はなさそうだし、何も言わずに貰っておけば? 水の調査はもうちょっとしてみても良いと思うけど、草木が枯れる理由とか今は判らないことが多いわ。それにここって国境近くだから、あまり価値があるって事になると、ナレシュさんも大変そうよ”

グリィの言葉にアルは頷いた。確かに言う通りだ。それに、買ったばかりでまだ習得できてない呪文の書も多いし、 移送(トランスポート) 呪文も詳しく理解するには、マジックバッグの解析もしないといけない。ケーンの依頼仕事も終えたし、ノラン村に立ち寄って、彼にここで良いって返事をしたら、研究塔に一旦帰って良いだろう。

“よーし、帰ろう。塔へ”