軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15-12 遺跡探索 中編

翌日、朝からアルは釦型のマジックバッグの倉庫に収納してもらう形で転移した。このやり方は、一人で転移はできないという欠点はあるが、事前に 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文を使って転移先の安全を確認できるので、転移の魔道具をつかう場合より安心できるのだ。

「さて、昨日の続きをしようか。きっと、何かあると思うんだ。だって、あの釦型のマジックバックを作った人の建物でしょ?」

“そうね。絶対何かあるよ!”

グリィの励ましにアルはにっこりと微笑む。そして、元気に階段を駆け上がる。そして、雪に埋もれた建物跡を見落としのないように探索を始めるのだった。

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探索を初めてから三十分ほど経過し、精度を四倍に上げたアルの 魔法発見(ディテクトマジック) 呪文に早速反応があった。崩れた壁とおもわれる瓦礫の下である。アルは 肉体強化(フィジカルブースト) 呪文と 運搬(キャリアー) 呪文を利用して、てきぱきと瓦礫を避けて行く。

「わっ、ぼろぼろになってるけど、これって?」

魔法発見(ディテクトマジック) 呪文の反応を頼りにアルが瓦礫の下で見つけたのは、おそらく人間の二人の遺体だった。死後かなり経過しているのか、ほぼ土に還ってしまっていて、服らしきものの残骸が人の形に残っていなければとても判らなかっただろう。その遺体からは、釦型の魔道具を二つ、他に、ちいさなこれも革袋であったと思われる残骸に包まれて、錆びてボロボロになった硬貨の塊らしいものが見つかった。

“釦型の魔道具だけは綺麗な状態なのね”

「 保持(リテント) 呪文がかかっているんだろうね。他はどれぐらいの年数が経っているんだろう……かなり昔なのは確かだけど……」

不思議そうな声をあげるグリィにアルが答える。以前聞いたリアナの話からすると、テンペストの一族が暮らしていた土地を捨てることになった時、最初に大きな地震が起ったという。この倉庫を含む古代遺跡の建物が崩れたのも、同じその地震が原因だったという可能性もあるのだろうか。もし、そうだとすると、この遺体は二百五十年前のものということになる。しかし、この腐敗具合からすると、このあたりがずっと雪に埋もれていたわけではないということか。

“うーん、夏になれば少しは暖かくなるのかもしれない?”

「そうなのかもね……」

グリィもはっきりとは言えないらしい。わからないことだらけでアルはため息をついた。だが、軽く頭を振って気持ちを入れ替える。

「これは、同じ釦のマジックバッグかな……。この状態だし、罠って可能性は低いだろう。同じようにして動くかどうか試してみるね」

“うん”

アルはマジックバッグの釦の一つを手に取り、ここに転移してきたものと同じようにトントンと二回たたいて、縁に三本指を置いて左に回してみる。魔道具は素直に動いて、中に入っているものの情報をアルに伝えてくれた。それによると金貨が三百枚、そして呪文の書が十巻であった。

「! えっ? ちょっと ちょっと……すごいよ」

アルは眼を丸くした。金貨が三百枚だけでもすごいのに、呪文の書が十巻もある……。アルはすこし震えながらそのうちの一巻を取り出してみる。

『 魔法の矢(マジックミサイル) 』

「……」

アルは思わず無言になった。魔法使いのコレクションだとすれば、アルが持っているものも重複していても当たり前かもしれない。一つでも、初めて見るものがあれば良いな……。そう考え直して、順番に入っている呪文の書のタイトルを確認していく。

『 光(ライト) 』

『 魔法発見(ディテクトマジック) 』

『 透明発見(ディテクトインヴィジブル) 』

『 幻覚発見(ディテクトイリュージョン) 』

『 保持(リテント) 』

『 盾(シールド) 』

『 移送(トランスポート) 』 new!

『 探知回避(ステルス) 』 new!

『 拡大視(マグニファイヤ) 』 new!

アルは息をのんだ。未習得の呪文が三つもある。それも 移送(トランスポート) 呪文はおそらく第四階層に相当するだろう。 探知回避(ステルス) 呪文があるということは、この呪文の書コレクションは、この釦のマジックバッグを作ることのできる魔法使いのものだったのだろうか。 拡大視(マグニファイヤ) 呪文は、その名前からして、マジックバッグをつくるための魔道回路を書くのにつかったに違いない。以前、マラキ・ゴーレムに借りた魔道回路を調べるための魔道具も、この呪文をベースにしているのかもしれない。

“魔法使いギルドに報告?”

グリィが尋ねてきた。アルは急いで首を振る。そんな事をすれば、 移送(トランスポート) 呪文の呪文の書は習得すらできずに取り上げられてしまうだろう。そんなことはできない。まずは習得してしまおう。それからどうするか考えても良いが、秘密にしておいたほうが良いだろう。 探知回避(ステルス) 呪文についても、魔道具を秘密裏に持ち歩けるようになるということからすると禁呪に該当しそうである。こちらも公けにはできないだろう。

そこまで考えて、アルは周囲を見回した。この呪文の書が入っていたマジックバッグが割り当てられている倉庫はどこだろうか? 自分でこのマジックバッグの釦を作ったとすれば、この近くに収納先の倉庫があるのではないだろうか。だが、地下の倉庫にはあと一つしか魔法の反応はなかった。

『 浮遊眼(フローティングアイ) 』

アルは眼を作って、マジックバッグに送り込む。このマジックバッグに割り当てられた倉庫のサイズは一辺が一メートル四方で、高さも一メートルしかない小さなものであった。そして、この眼を動かそうとすると見る方向など動かすことが出来る。その時の疲労具合からして、それほど遠くないところにあるはずであった。

“どうせ、建物があったらしいところは全部回るんでしょ。そのうち見つかるんじゃない?”

グリィの言う通りかもしれない。アルはその小さなマジックバッグの倉庫を探すのは後回しにして、もう一つの釦のマジックバッグを開けてみる事にする。すると、その中に入っていたのは、空飛ぶ馬車が一台となっていた。

「空飛ぶ馬車!」

アルは、思わず飛び上がって、何度も握りこぶしを作って振り回す。先程のマジックバッグと言い、このマジックバッグと言い、すごいものばかりだ。しかし、入っていたのは馬車が一台だけのようだった。他に何もないというのは残念な話だが、宝物入れは一つで十分で、大きな倉庫にそれほど入れるものはなかったということだろうか。

“何を考えてるの? いいから、早く出してみてよ”

「うん、出してみる」

アルは近くの少し広くなっている場所に移動すると、空飛ぶ馬車を取り出した。それは、大きな車輪が四つついた、八人乗りほどの大きな馬車であった。濃い紺色に塗られた車体には銀色の装飾がついていて、王族が乗っているといっても不思議ではない程の立派なものである。馬で曳くとしたら四頭立て、もしかしたら六頭立てかもしれない。不思議な事に御者席はなく、馬車の前方には大きな窓が付いている。そして、窓部分にはほぼ透明な板のようなものが貼られていた。

「立派だね。このサイズで本当に空を飛べるんだろうか」

“すごいよね。ねぇ、この透明な板って、 運搬(キャリアー) 呪文でつくったもの?”

アルは外から、馬車の前方に貼られた透明な板に触れた。冷たく硬い。だが、 魔法感知(センスマジック) 呪文には反応していないので、以前、アルが研究塔を探して高い空を飛ぶ際に防寒用に 運搬(キャリアー) 呪文で作った透明な球体とは違い、なにかの物質なのだろう。 分析(アナライズ) 呪文を使い、 物質(サブスタンス) 索引(インデックス) で調べると、ソーダ石灰ガラスと出た。アルにとっては初めて聞くもので、よくわからないが何かの鉱物らしい。

「窓にこれがあると寒くなくて良いかも?」

アルは慎重に馬車の扉のノブを回してみた。鍵は掛かっていない。そのまま開けて中に入ってみる。馬車の車体の床には弾力があるようで、中を歩くたびに少し揺れ、まるで浮いているような感じがする。前方の透明な窓の前に、前を向いている椅子が二つ、その前には杖のような形の棒がそれぞれ一本ずつ取り付けられており、席の側面には小さな棒がいくつも突き出ていた。それとは別に馬車と同じように対面式になっている長椅子があった。

「内側のこの前を向いている席が御者席の代わりかな? 動かし方は全然わかんないね。適当に触るのは怖いから、マラキかリアナに使い方を知らないか聞いてみよう」

“そうね”

アルは空飛ぶ馬車を、入っていた釦型のマジックバッグに収納し直した。 浮遊眼(フローティングアイ) 呪文を使い、こちらのマジックバッグに割り当てられた倉庫も確認する。こちらのほうは一辺がおよそ二十メートル、天井までは五メートル、ここに来た時に利用したものとサイズ的にはほぼ同じである。

“地下の倉庫の中で一つ反応があったでしょ? あれが空飛ぶ馬車だったんじゃない?”

グリィの言葉にアルも頷いた。そうかもしれない。ということは、地下の倉庫の中にはもう魔道具や呪文の書はないということか。それにしても既に十分に貴重な呪文の書が手に入ったし、これらの呪文を習得すれば、マジックバッグを作る事すらできるかもしれない。地味に金貨三百枚もありがたい話だ。

“地上の残りと、あとは地下の倉庫ね。もうひと踏ん張り!”

グリィの励ましにアルは大きく頷く。まだ、他にも何か発見があるかもしれない。そんな事を考えてアルは探索を再開したのだった。