軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15-10 シロケナガボンゴ

以前戦ったことのあるイシナゲボンゴは 魔法の矢(マジックミサイル) 呪文でもダメージを与えることが出来、単体であればそれほど強敵ではなかった。だが、厄介なのは、名前の通り、遠くから石を投げてくるところと、五十体程度の群れをつくるというところであった。

見える範囲に居るシロケナガボンゴ(アルはこの白く長い体毛を持つイシナゲボンゴに似た生物を、仮にシロケナガボンゴと呼ぶことにした)は五体だが、付近にはもっと多くの仲間が居るかもしれない。もしそうだとすれば、安易にここで攻撃するのは危険だと思える。せめて、付近の様子を見てからのほうが良いだろう。

『 浮遊眼(フローティングアイ) 』

アルは階段を少し戻ると、再びこの透明な眼を作り、付近を見回すのに送り出した。シロケナガボンゴがこの透明な眼に反応するかと、わざと目の前付近を動かしてみたが、幸い、シロケナガボンゴはぼんやりとどこかを眺めているだけであった。この様子なら 隠蔽(コンシール) 呪文を使えば見つからずに通り抜けることも出来そうである。魔獣でなく、ただのおおきな猿だというのなら、それも考えられるやり方だった。ただし、シロケナガボンゴの足元には 魔法発見(ディテクトマジック) 呪文で反応する何かが転がっているので、単純に通り抜けて放置しておくのはもったいない。なんとか入手する方法をみつけたいものだ。

アルはそのまま 浮遊眼(フローティングアイ) の眼を浮上させた。部屋の天井の隙間から一気に二十メートルほど上空に移動させる。見えたのは、薄暗闇の中で雪に覆われたおそらく石かなにかで作られた廃墟であった。アルが潜んでいる階段のある部屋の他にも建物の一部らしきものが雪の中にところどころ顔を出している。廃墟の周りは森になっているが、そこに生えているのはアルにとってはあまり見たことのない木ばかりだ。浮遊眼の視界を上に向けると、空にはまるで嵐が来た時のような黒い雲が低く垂れこめていた。

以前にリアナから聞いた話では、テンペスト一族が住む集落には大地震があり、その結果、建物の多くが崩れ、また、それ以降、まるで夜になったかのような暗い曇りの日が続いて雪まで降り始めたという話であった。ここも似たような状況なのだろうか。

“何か禍々しい空ね”

「うん、夜なのか、昼なのか全然わからないね。太陽も、月も、星も、全然見えない」

アルは視界を再び下に戻すと、動くものが居ないか探し始めた。だが、見渡す限り、真っ白に雪の積もったこの周囲に動くものは何も居ないようだった。他に残る建物の残骸の中にも動くものは見えない。ということは階段を登ったところに居る五体を片付ければ何とかなりそうである。

“ 魔法の矢(マジックミサイル) 呪文にする? それとも、 貫通する槍(ピアシングスピア) 呪文? 眠り(スリープ) 呪文がいいのかな? 魔法の竜巻(マジックトルネード) 呪文……はちょっと強力すぎるかな?”

グリィにそう言われて、アルは思わずにやにやとしてしまった。一年前と比べれば習得している呪文の数も増えたものだ。ゾラ卿にはまだまだだと言われたが、数だけで言えば、一人前の魔法使いだと自称できるぐらいにはなったのではないだろうか。

改めて崩れた階段の一部からそっとシロケナガボンゴのグループを見る。足元に転がっている楕円形のものは汚れて、一見、丸い石にしか見えないが、 魔法感知(センスマジック) に反応して青白く光っているので、何かの魔道具なのだろう。光の魔道具かもしれない。他にもいくつか 魔法発見(ディテクトマジック) に反応するものがシロケナガボンゴの足元には転がっている。あそこに 魔法の竜巻(マジックトルネード) 呪文を撃ち込むと、付近の壁だけでなく、付近に転がっている魔道具も壊してしまいそうだ。 眠り(スリープ) 呪文は確実ではない上に、五体一度にはまだかけられない。そうなると、 魔法の矢(マジックミサイル) 呪文か、 貫通する槍(ピアシングスピア) 呪文の二択だろう。

問題はシロケナガボンゴの生命力だった。 魔法の矢(マジックミサイル) 呪文なら十本、 貫通する槍(ピアシングスピア) 呪文なら四本出すことが出来る。狙いをつけられるのは一体だけなので、複数の対象をねらうのであれば自動命中、すなわち体の中心にあたる形にせざるを得ない。

イシナゲボンゴと以前戦った時、その生命力はリザードマンより有りそうで、 魔法の矢(マジックミサイル) 呪文の一本で止めを刺すのは難しいような感じであった。シロケナガボンゴはそれより一回り大きいので二本でも倒せるかどうかわからない。 貫通する槍(ピアシングスピア) 呪文なら一本で倒せる可能性は十分にある。

「より安全を考えて、 貫通する槍(ピアシングスピア) 呪文を一体には二本、あと二体に一本ずつ打ち込むことにするよ。準備する時間は十分にあるから、 盾(シールド) 呪文をあらかじめ自分にかけ、空から 隠蔽(コンシール) 呪文を使って身を隠した状態で攻撃を始めるね。とりあえず 貫通する槍(ピアシングスピア) 呪文を使った時点で 隠蔽(コンシール) 呪文は切れちゃうから、結果を見ずに一目散に距離を取ることにする」

“ 貫通する槍(ピアシングスピア) 呪文だと、金属鎧すら貫通するのに……。そこまでしなくても大丈夫じゃない?”

グリィの呟きにアルは苦笑を浮かべ、首を軽く振った。命がかかっているのだ。未知の相手には慎重に行動すべきだろう。相手を振り切った後、再び、 隠蔽(コンシール) 呪文を使って、どれぐらいのダメージを与えられたか見に来ればいい。

“わかったわ。命大事にいきましょ”

アルは頷いて、 盾(シールド) 呪文と 隠蔽(コンシール) 呪文を使う。 隠蔽(コンシール) 呪文を使った関係で 浮遊眼(フローティングアイ) の眼は消えたが、それは仕方ない事だった。その状態で 隠蔽(コンシール) 呪文の制限をうけつつゆっくりとした速度で天井の割れ目を抜ける。退路を確保した状態で、天井の割れ目からシロケナガボンゴをじっと見た。

シロケナガボンゴは、アルの存在に気付いた様子もなく、のんびりとまだ周囲を眺めていた。

『 貫通する槍(ピアシングスピア) 』

アルの姿が現れるのと、アルの手元に4本の光る槍のようなものが現れるのはほぼ同時であった。シロケナガボンゴはそれに気がついたようで顔を上げる。だが、その次の瞬間、一体の身体には二本の光の槍が、二体の身体には一本ずつの光の槍がそれぞれ突き立った。アルはそこまで見て、一目散に空に向かって飛ぶ。

「ギャウ!」

背後で声が聞こえた。

“三体はうごかないわ。残る二体が追いかけてきたっぽい”

グリィが説明してくれた。二体は叫び声を上げて、身を寄せていたところから動き出す。壊れた壁から一旦部屋の外にでると、驚異的な速度で天井に駆け上る。周囲を見回してアルを見つけると、両手を突き出した。

「ギャウ! 【 氷弾(アイスショット) 】」

二体のシロケナガボンゴの掌から拳大ほどの氷の塊が、全速力で飛行しているアルの背後に襲い掛かる。だが、その氷の塊は六角形の盾の形をした光に弾かれた。弾いた攻撃が二回だったことで、アルは移動しつつも、ちらりと後ろを振り返る。

「ギャウ! 【 氷弾(アイスショット) 】」

シロケナガボンゴは、再び氷の塊を放ったが、その時には、アルはすでに五十メートル以上の距離を取っていて、氷の塊はアルまでは届かず、垂れて下に落ちていった。それを確認して、アルは逃げるのを止めた。後ろを振り返る。

「ふぅ、あんな技があるんだ。あんなのを使うって事は、あいつはきっと魔獣だね。やっぱり安全重視でよかった。この距離だと向こうの攻撃は届かないみたいだ。出てきたのは二体ということは、 貫通する槍(ピアシングスピア) 一本で、すくなくともしばらくは戦闘不能にできたんだろう。ということなら……」

『 魔法の矢(マジックミサイル) 』 -収束 距離伸張

アルの手元から光る矢のようなものが一本飛び出した。シロケナガボンゴに突き刺さる。少しはダメージを与えられたようでギャウと悲鳴が聞こえた。

「ギャウ! 【 氷弾(アイスショット) 】」

また、シロケナガボンゴは、氷の塊を放つ。やはりアルには届かない。氷の塊の射程距離は距離を伸ばさずに撃った 魔法の矢(マジックミサイル) 呪文や 貫通する槍(ピアシングスピア) 呪文と同じぐらいのようであった。アルの場合、 魔法の矢(マジックミサイル) 呪文ならそれの三倍を超える約九十五メートル、それほど熟練度の高くない 貫通する槍(ピアシングスピア) 呪文でも六十メートルは届く。これなら、安全な距離から相手を攻撃できそうだ。

『 魔法の矢(マジックミサイル) 』 -収束 距離伸張

アルの攻撃に、再びシロケナガボンゴは悲鳴を上げた。しかし、まだ倒れない。普通なら倒れていそうなものだが、胸から腹にかけて体毛がより長くふさふさとしていて、鎧のように 魔法の矢(マジックミサイル) のダメージを軽減しているのかもしれない。

さすがにこの一方的な状況に二体のシロケナガボンゴは逃げ出し始めた。

“どうする? 放っておく?”

「うーん、魔獣じゃなければ、その選択肢もあったけど……そういうわけにもね」

『 魔法の矢(マジックミサイル) 』 -収束 距離伸張

累計で四本もの 魔法の矢(マジックミサイル) を受けたシロケナガボンゴは、最後にギャウーと悲鳴のようなものを上げて倒れた。残りの一体については、今度は、 貫通する槍(ピアシングスピア) を距離伸張して片付ける。

「ふぅ……」

アルは一息つくと、改めて周囲を見回した。攻撃してくるものはとりあえずこれで居なさそうである。

「よし、これで障害物となるものは片付いたかな。あとは古代遺跡だね」