軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14-8 訪問者

村の入口から広場まではそれほど距離は無い。馬車から誰かが降りてきたのが見えた。女性らしいシルエットが二人である。そして御者台からも護衛らしい二人の男が降りてきた。

「ノラ様、お待ちください。ノラ様!」

ラドヤード卿が懸命に制止しようとしているようだが、四人はどんどんと近づいてきた。先頭はすこし赤みを帯びた金色の髪を長く伸ばし、濃いブラウンの大きな瞳で目尻がすっと伸びた綺麗な顔立ちの女性であった。年はアルやナレシュより少し上に見える。二十才前後といったところだろうか。身長は百七十センチほどだ。

男性のようなパンツスタイルではあるが、歩き方は優雅で粗雑な感じはなく、黒地に金糸の刺繍があしらわれた服は非常に豪華な印象であった。背中にはマントを羽織っておりこちらも表面は黒地に金糸の刺繍が施され、裏は臙脂色になっていた。その後ろを歩いている女性も同じような黒のパンツスタイルではあるが、こちらは刺繍などが控えめで、ブラウンの髪は後ろで束ねていた。おそらく先頭を歩いているほうがタガード侯爵家の嫡男ジリアンの妹ノラなのだろう。

「ようやく、お会いできましたわ。ナレシュ様」

先頭に立つ女性にナレシュは丁寧にお辞儀をした。その近くに居たサンフォード卿とゾラ卿、もちろんアルもそれに合わせて深く礼をした。

「ノラ様、このようなところまで足をお運び頂きありがとうございます。そして、なかなか時間が作れず申し訳ありません」

ナレシュの言葉にノラは軽く微笑み首を振った。

「こちらが無理を申しているのは存じ上げておりますわ。そして今日もこのようなところに押しかけ、お騒がせして申し訳ありません」

ナレシュがすこし微笑むようにしてそんなことは無いと首を振っていると、ノラは言葉を続けた。

「セネット家をナレシュ様が継がれるというお話を耳にいたしまして、贈り物だけではなく、是非直接お会いしてお祝いを申し上げねばと考えたのです。セネット家は我がタガード家と同じくテンペスト王国建国以前より続く歴史を持つ名家です。簡単に絶えてしまってよい家ではありません。是非とも、手を携えてプレンティス侯爵家に対抗したいと思っております」

ナレシュは頷く。

「わざわざ、足を運んでいただき、お言葉までありがとうございます。私はシルヴェスター王国に仕える身、私の一存では動くことはできませんが、プレンティス侯爵家に追われてセネット領から避難して来た者たちの支援などにつきましてはご協力いただければ有難いと考えております」

協力してプレンティス侯爵家に対抗……と素直には言えないのか。アルはナレシュの言葉に、すこし物足りなさを感じたがきっと仕方ないのだろう。アル自身は蛮族に食料を与えたりしているプレンティス侯爵家のやり方について、すこし腹に据えかねるところはあった。だが、タガード家に協力できない事については、きっとアルにはよくわからない複雑な事情があるのだろう。ノラもナレシュの返答についてはある程度予想をしていたのか、軽く頷いた。

「実はナレシュ様のお母様、タラ様の御父上、先代のセネット伯爵は、我がタガード侯爵家からセネット家に嫁いだ方がご生母なのですよ。つまり、ナレシュ様と私とは、少し遠いですが血のつながりのある親戚となるのです。できれば仲良くさせていただきたいと考えています。では、ナレシュ様はお忙しいでしょうからあまりお邪魔をするわけにも行きません。直接お話が出来たことで安心いたしました。すぐに、失礼しますね」

それだけ言って、ノラはお辞儀をして帰るようなそぶりを見せた。本当にお祝いを言いに来ただけなのだろうか。だが、そこで彼女は軽く視線を巡らせ、先程アルの呪文で損傷した状態の金属鎧に気がついた様子を見せた。

「こちらは……」

そういって、周囲を見回した。そして、ゾラ卿に気付き、何かに思いついたような顔をした。

「ああ、なるほど。ここで呪文を試されていたのですね。そちらの魔法使いの方は以前、テンペストの王都でお見かけしたことがあったような気がします。セネット家の魔導士ですか」

ノラはナレシュがゾラ卿に命じて 貫通する槍(ピアシングスピア) 呪文を撃たせ、その威力を調べていたと勘違いをした様子だった。特に目立ちたいわけではないアルとしては胸をなでおろす。

「なかなか恐ろしい呪文です」

ナレシュがそういって頷く。ノラも納得するように頷いた。

「その通りですね。強力すぎて、あまり練習できないのが一番の問題です。木などの標的では簡単に貫通してしまいますし……おや? ああ、そんなに分厚い鉄の板を用意したのですか。成程、厚みを変えて威力を確認されたのですね。ナレシュ様は用意が良い」

彼女はアルが用意した厚みの違う複数の鋼鉄製の丸い板に感心した様子だった。確かに盾にしてもそれほどの厚みのあるものはないかもしれない。

「1.5センチの厚みだと、すこし穴が開き、2センチだとへこむ程度でした」

「情報ありがとうございます。研究熱心なのですね。我がタガード侯爵家の魔導士たちにも見習わせないといけませんわ。そういえば、ナレシュ様のご出身のレスター子爵領では、なにやら呪文について大発見もあったそうですね。さぞ、優秀な魔導士が多く居られるのでしょう」

大発見……エリックが発表した魔法のオプションの話のような気がする。

「そうなのですね。残念ながら私はしばらくパーカーに来ているので最近のレスターでの出来事は存じ上げないのです。きっと、皆真面目にやってくれているのだと思います」

ナレシュは知らなかっただろうか、いや、伝えたような気もするのだが……。アルは少し考えて、もしかして言わないようにしているのかもしれないという事に思い至った。そうか、この人は他の国の人だった。戦争相手になるかもしれない相手ということか。ゾラ卿には大丈夫だったのだろうか? いや、それはさすがにナレシュに仕える予定の人なので大丈夫なのだろう。しかし、何か色々と考え始めると面倒だ。

「そういえば、そうですね」

そこまで言ったところで、ノラは何かに気付いた様子でアルをじっと見た。そして、アルの胸に下がっているグリィのペンダントをみて不思議そうな顔をした。

「ごめんなさい。あなたは?」

「えっ?」

ノラの問いにアルはナレシュをちらりと見た。彼が頷いたので直接答えても良いのだろう。

「ナレシュ様の友人で冒険者のアルと申します」

「冒険者……成程、友人が護衛ということですか。その胸のペンダントは何の魔道具ですか?」

“アシスタント・デバイスだって気付いたのかな?”

グリィが不思議そうにアルにしか聞こえない声で呟く。高位貴族である彼女であれば、テンペスト王家に代々伝わっていたというリアナのアシスタント・デバイスを知っていた可能性はある。そして、このペンダントがそれより一回り小さいものの形は似ていると思うかもしれない。だが、それだと断定はできないはずだ。契りの指輪は隠しに入れたままで身に付けてはいない。身につけていなくてよかった。

「魔道具ですが、何の魔道具なのかは、生活の糧でもありますのでお許しください」

アルは、極力顔には何も出ないようにしながらそう答える。彼女の領民ではないので、これ以上は無理には聞かないだろう。しかし、何の方法で彼女はこのペンダントを魔道具だと判ったのだろう。魔道具だろうか。それとも、彼女自身魔法使いなのかもしれない。今日は油断していたが、 魔法感知(センスマジック) 呪文か 魔法発見(ディテクトマジック) 呪文のどちらかは常に使っておくべきなのかもしれない。

「それはそうね。聞いたのが悪かったわ。知り合いが持っていたのに似ていたのでね」

アルの答えにノラはあっさりと聞くのをあきらめ、にっこりと微笑む。やはり、リアナのアシスタント・デバイスと似ていると思ったのだろう。色々と油断できないなとアルは改めて思った。

「では、ナレシュ様、今度こそ失礼します」

「何のおもてなしも出来ずに申し訳ありません。では、また」

ノラとナレシュはお互いに丁寧にお辞儀をした。そして、彼女は再び馬車に乗り、来た時と同様、慌ただしく帰っていったのだった。