作品タイトル不明
14-4 もう一つのアシスタント・デバイス
「リアナ、ありがとう。今聞きたいことはとりあえず教えてもらったと思う。またパトリシアと一緒に居て、いろいろと助言をしてあげて欲しい」
一通り、やりとりを終えて、アルはお辞儀をした。
「もちろん、アシスタント・デバイスとして助力は惜しみません。再びテンペスト様の後継者の姫に助言が出来る立場となり光栄です」
リアナ・ゴーレムの声にも張りがあるように感じられた。彼女にとってもやりがいのある立場なのだろう。
「しかし、どうしてリアナのようなアシスタント・デバイスが魔力切れになるような事に……」
「それは……」
アルの問いに、リアナは言い難そうに答える。彼女が言うには、アシスタント・デバイスというのは助言をする事しかできないので、時代を経て国王ともなると、リアナに代わって助言をしたがる者、或いはリアナを役に立たないと言うものが大勢出て来てリアナはだんだんと軽んじられるようになってしまった。また、アシスタント・デバイスは魔道具として小型化するために魔力の補充が魔石では行えず、専用の補充装置は逃避行で失われてしまったので、 魔力制御(マジックパワーコントロール) 呪文でしか行えないようになっていた。明確にはわからないが、王族の中で 魔力制御(マジックパワーコントロール) 呪文が使える者が途切れたところで魔力が補充されなくなってしまったようだった。
「十分に有用だと思うんだけどなぁ……。僕はグリィに命を助けられたことも有るし……」
あの辺境への遠征でゴブリンメイジを相手にした時に、グリィが先に気付いてくれなければ、命はなかったかもしれない。それだけではない。他にもいろいろと助かった事は多い。そう思って、アルはグリィ・ゴーレムににこりと微笑みかけた。
「えへへ」
グリィ・ゴーレムは嬉しそうに軽く胸を張る。
「では、次に、こちらのアシスタント・デバイスの話です」
そう言って、マラキ・ゴーレムはもう一つのアシスタント・デバイスを取り出した。今、丁度話題になったゴブリンメイジが身に付けていたアシスタント・デバイスだ。
「残念ながら、こちらは、長い間説得を試みたのですが、結局、蛮族を支援するという信念を崩すことはありませんでした。色々と誘導尋問などを試みたりして、このアシスタント・デバイスから引き出した情報を整理すると、ゴブリンメイジがこのアシスタント・デバイスを偶然入手したということはなく、蛮族に味方したいと称する人間がこのアシスタント・デバイスをゴブリンメイジに与えたようです。その人間というのはローブを着、白髪で皺の多い年配の男性だったようです。特徴からすると、ヴェール卿と似ております」
ヴェール卿……こんなところまで手を伸ばしていたのか。
「それは一体……どういう意図で?」
「そのヴェール卿に似た人物の意図はよくわかりませんが、アシスタント・デバイスにはゴブリンメイジに知恵を貸し、どうすれば蛮族が増えるのか、人間が新たな拠点を築こうとしているのを阻止するように命令されていたようです。そして、蛮族が十分に増えればレスターへの侵攻をも……。アシスタント・デバイスがゴブリンメイジに与えられたのは十年程前。ゴブリンメイジ自体の寿命がどれぐらいなのかわかりませんが、おそらくゴブリンとしては数世代にわたって行われていた計画だったようです」
「……」
十年前から既にレイン辺境伯領の辺境地域に蛮族を大発生させることを企んでいたというのか。蛮族の大発生をさせるメリットは一体何なのだ。まさか、テンペスト王国での王位簒奪をすでにその頃から計画し、国境に面した勢力の一つであるレイン辺境伯の力を削ごうとしていたとでもいうのだろうか。でも、テンペスト王国とシルヴェスター王国とは何度も戦争をしていて、それほど仲の良い関係ではなかったはずなのに、いや、でも……アルはそこまで考えて、心の中にふつふつと怒りの気持ちが湧いてきた。詳しい事はわからないが、戦争で有利になるために蛮族を増やしたりするとは……。
「色々と背景はあるでしょうが、その男がヴェール卿であったとすれば、プレンティス侯爵家は何らかの意図があったのでしょう。とりあえず、アシスタント・デバイスの助言に従い、所有者であるゴブリンメイジは、その蛮族に味方したいという人間から定期的に貢物という名目で大量の食糧を得ていたようです。ゴブリンメイジはアシスタント・デバイスと共にマジックバッグと思われる魔道具も与えられており、その食料を貯め込み、その食料を与える事で蛮族に影響力を得、ある程度意のままに操っていた模様です」
あのゴブリンメイジは、アルが調べようとしていた釦型の魔道具しか持っていなかったはずだ。ということは、あれはマジックバッグなのか。以前、レビ会頭から借りていたマジックバッグは確かに便利だった。魔法使いテンペストもいくつかは持っていたという話だったが、プレンティス侯爵家にも放浪した一族の一つであったとすれば、そのような魔道具もいくつかあったのだろう。しかし、その限られた数の魔道具を費やすほど重要な作戦だったということか。マジックバッグはパトリシアとの逃避行だけに利用させてもらうには少し後ろめたい気もあり、転移の魔道具が手に入ったこともあって、ナレシュの手助けに使うべきだとレビ会頭に半ば強引に返却したが、もう一つ手に入るというのなら有難い話だ。
「アイテムを出し入れするためのコマンドワードとかは?」
「いえ、そこまでは……。そういえば、あの調べたいと仰っていた釦型の魔道具はゴブリンメイジから入手されたものでしたか。もし、それがマジックバッグだとすれば、調べる方法は有ります。すこし時間はかかりますが……」
「もし、そうだとすれば、その方法を教えてもらえない? 魔道具のコマンドワードってどうやって調べるの?」
「それはですね、魔道具の中にコマンドワードを管理している……」
「アリュ、マラキさま、それは二人でゆっくりとしてもらっていい?」
アルの問いに、マラキ・ゴーレムの講義が始まりそうになり、グリィが慌てて止めた。
「どうしたの? 他に何か?」
「うん、パティとも話をしていたんだけど、島の海岸に下りる道をつくったらどうかなって思うの」
塔の立つ五百メートルを超える巨岩は島のほぼ真ん中にある急角度にそそり立つ山の頂上に乗っている。山の標高は百五十メートルを超えているぐらいだ。飛行をせずに下りる道など作れるのだろうか。アルはパトリシア、グリィ・ゴーレム、マラキ・ゴーレムの顔を順番に見る。マラキ・ゴーレムが軽く頷いた。
「事前に塔を守る石壁の外側は確認しました。巨岩の外側はそのほとんどが急角度の山肌です。どの方角にしても 石軟化(ソフテンストーン) を使って階段を設けたりして道を作り出す必要があるでしょう。逆を申せば、そのようにして守りやすい階段と門を作るのであれば、侵入者対策は今とあまり変わらないと思われます」
島の形は東北方向から南西に三キロほど伸びた楕円形で、島の東北部分からまっすぐ南に岩礁が延びている。岩礁のほぼ南端部分が以前ワイバーンを倒した場所であった。
「島に魔獣や蛮族とかは?」
「上級作業ゴーレムに実際にロープを使ってこの巨岩から降りさせ、島を海岸線に沿って何度か巡回をしてもらいましたが、今の所、魔獣、蛮族はおろか大型哺乳類の類を発見出来てはいません。島に生息しているのは鳥か蛇、昆虫だけではないかと思われます。ただし、毒を持つ生物および植物は存在する可能性があります」
マラキの言葉からすると、ほぼほぼ安心そうだ。
「わかったよ。じゃぁ、探検をしに行こう。あー、こういう時はジョアンナが居てくれたら安心だったのだけどなぁ……さすがに守護ゴーレムは 運搬(キャリアー) 呪文では運べないしね」
アルは思わずそう呟いた。
「上級作業ゴーレムが居れば大丈夫じゃない? いつも塔の窓から下を見ると、白い砂浜が見えて海もキラキラしててね。夕日がとっても綺麗なの」
グリィの言葉に、パトリシアもうんうんと嬉しそうに頷いている。
「マラキ、ゴーレムたちは海水には?」
「後できちんと塩分などを流せば大丈夫です」
「よーし。とりあえず上級作業ゴーレムに護衛をしてもらえるように 魔法の矢(マジックミサイル) の杖を持ってもらって、探検に行こう!」
アルが元気よく声を上げると、パトリシアとグリィ・ゴーレムは嬉しそうに勢いよく両手を上げたのだった。