軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14-1 人形ゴーレム

「ただいま」

「おかえりなさーい」

アルが研究塔へ 転移(テレポート) すると、転移先の研究塔の前の広場では、パトリシアとタバサ男爵夫人、マラキゴーレムがいつものように出迎えてくれた。

先日、パトリシアたちと一緒にナレシュと話し合った後、ジョアンナは一旦辺境都市レスターに移動したものの、アル自身は褒賞待ちで国境都市パーカーを離れられず、タバサ男爵夫人もまだ与えられた部屋に籠ったままという状態になった。

だが、それは表向きの話で、実際のところはアル自身はタバサ夫人に行儀作法を習うという名目で午後の大半を、タバサ男爵夫人に至ってはドリスがずっと対応してくれているのを良いことに、一日の大半を研究塔で過ごしていたのだ。

「あれ? 今日はグリィのペンダントをつけていないの?」

「うん。ちょっと色々あってね。でも、心配しなくても大丈夫よ」

アルはいつも身につけていたグリィのペンダントを塔に居るパトリシアに預けていた。というのもマラキゴーレムがパトリシアの元々持っていたテンペスト王国に伝わるペンダント、魔法使いテンペストの配偶者が持っていたリアナと名を持つアシスタント・デバイスの研究をするのに、グリィの手を貸して欲しいという申し入れがあったからだ。昨日アルが来た時まではそれを身に付けていたのだが、今日はペンダント型のそれをぶら下げてはいなかった。

「それでね、見てもらいたいものがあるの」

ついにリアナが無事に起動したのだろうか? それとも、あのゴブリンが持っていたアシスタント・デバイスと正常にコミュニケーションが取れるようになったのだろうか?

アルは案内されるままに、昇降する小部屋の扉から出て研究塔の八階、生活用のフロアに足を踏み入れた。

「アリューーーッ!」

いきなり抱き着いてくる少女。アルと同じ金の髪。身長もアルと同じぐらいだ。パトリシアが着ているのとよく似たエプロンドレス。

「えっ? えっ?」

アルは混乱してその少女を見る。その少女の顔はすっと鼻線とまゆの隆起だけがあるマラキ・ゴーレムとおなじような仮面をつけていた。そして、その首元には、グリィのペンダントがぶらさがっている。

「もしかして、グリィ?」

「うんっ」

マラキ・ゴーレムが以前、自分が作られたときの試作品が塔には残っているかもと言っていたが、それを見つけてきたということか。それも、髪のウィッグをつけ、パトリシアに服を借りたのだろう。

「アリューぅ?」

グリィ・ゴーレムは両方の掌でアルの頬をおさえ、ぐりぐりとうごかす。

「ちょ、ちょっと グリィ?」

「わぁ、アリュってこんな感じだったのね」

おかしい、パトリシアに装着してもらったときも、彼女の眼を通してアルの事は見ていたはずではなかったのか。

「触った感じとか、いろいろとね。パティもこうやって触ったりもしたいくせに、照れちゃってできないし……」

アルがちらりとパトリシアの方を見ると、彼女は真っ赤になっている。パティというのはパトリシアを略した言い方らしい。すこし預けている間に、ずいぶん仲良くなったようだ。

「へぇ、以前に言ってた試作の人形ゴーレムかぁ……。自分で歩くのってどんな感じ?」

「ちょっと不思議な感じだけど、慣れてみたら面白いわ。でも、やっぱりアリュの首に下がっている方がいいかも?」

「そうなんだ。まぁ、どちらでもいいんじゃない? その試作ゴーレムはパトリシアやマラキがグリィに使ってよいって出してくれたんだろうし」

横でパトリシアとマラキ・ゴーレムも頷いている。そのマラキ・ゴーレムがアルに一歩踏み出して軽くお辞儀をした。

「アル様、イングリッドをお貸しいただき、ありがとうございました。2つのアシスタント・デバイスの件なのですが、まずリアナのほうは、なんとか目覚めさせることに成功しました。長年、魔力が不足していたため、一部の記録には欠落がありますが、大まかには大丈夫です」

おお、それはよかった。彼女には聞きたいことが山ほどある。

「マラキは話をした?」

「はい。人形ゴーレムの試作品は段階を重ねて複数ありまして、今、イングリッドが使っている全身を持つもののほかに、頭部、すなわち、視覚、嗅覚、聴覚と発声機能だけをもつものがありましたので、そちらに装着し、様々な話をしました」

「テンペスト様が生きておられた頃の話など、色々と聞かせていただきました」

「面白い話がたくさんあったのよ」

パトリシアとグリィも一緒に話を聞いたらしい。今はどこに居る、いや、置いてある?のだろう。

「今は私が身に付けています」

そう言って、パトリシアは彼女が初めて見せてくれた時と同じように懐から枠の付いた青白い水晶を取り出した。そうか、こちらは首にぶら下げるような形にはなっていなかった。今はアルがグリィのペンダント、アシスタント・デバイスを身に付けていた時と同じように、パトリシアと彼女だけが聞こえる声で会話をしているのだろう。

「是非、僕も話してみたいよ。マラキがテンペスト様と一緒に墓に入った後、古代文明がどうなってしまったのかとか、古代文明は蛮族たちに対してどのように対処してたのかとかさ。いっぱい教えて欲しい事があるんだ」

パトリシアが、なにかうんうんと頷いている。何かリアナのアシスタント・デバイスと会話をしているのだろうか。

「リアナは、どちらも詳しくは知らないと言ってます。えっと……うーん、マラキ、あの胸像みたいな試作人形ゴーレム、また出してもらって良いですか? たぶん直接、アル様にリアナと会話をしていただいた方が良いとおもうのです」

「そうですね。すぐに運んでまいりましょう」

マラキ・ゴーレムはお辞儀をして、再び昇降する小部屋に戻っていった。

「その間に、お茶でもいかがですか?」

タバサ男爵夫人がトレイにカップを載せて運んできた。彼女もしっかりここでの生活に馴染み始めているようだった。